「そういえば、明日は飯田くんの誕生日なんだよ」
明日の授業に備えて飯田くんが部屋に戻った後、緑谷くんが唐突にそんなことを言い出した。
飯田くんはいつも寝るのが早いからこのタイミングで切り出したようだった。
何か企画みたいなことを色々考えているなと思っていたら、そういうことだったのか。
緑谷くんはどうやらサプライズパーティー的なのをやりたいようだった。
それにしても、パーティー的なことをしたいならもうちょっと早く提案して欲しかったけど。
「え、マジ?飯田のやつなんも言ってなかったけど」
「飯田くん……多分誕生日のことなんて……忘れてるよ……思考が一切誕生日のことに触れないから……」
「自分の誕生日忘れるって、流石にそれもどうなの……」
「あはは……僕も入学したばっかりの頃に聞いたから知ってるだけなんだよね」
私が飯田くんの思考から覚えていなさそうなことを伝えると、透ちゃんがなんとも言えない感じになって緑谷くんは苦笑した。
「それで提案なんだけど……サプライズパーティーみたいなの、出来ないかな……?いつもお世話になってるから、何かしてあげたくて」
「いいじゃん!皆世話になってるしな!」
「ん……寮に入ってから……お母さんみたいに……色々気にかけてくれてる……」
「お母さんって……まあ実際そんな感じだけど」
皆も結構乗り気になっているようで、どんな感じにするかワイワイ盛り上がり始めた。
パーティーはどんな感じにするのか、食べ物は、飾り付けは、どう呼び出すかなんてことまで事細かに話し合いは進んでいく。
爆豪くんだけは話し合いに参加しないで部屋に戻っていったけど、特に反対はしていなかった。
飯田くん、爆豪くん以外は全員この話し合いに参加していた感じだ。
話し合いの結果、食べ物は私、梅雨ちゃん、お茶子ちゃん、砂藤くんにほぼ丸投げになった感じだ。
普段から料理をしていた私と梅雨ちゃん、自炊していたからある程度は出来るお茶子ちゃん、甘いものから料理までなんでもござれの砂藤くんという当たり障りのないメンバーだ。
飾り付け担当になったメンバーは早々に部屋に戻って飾り作りに着手し始めている。
企画担当みたいな感じになったメンバーは部屋の隅で話し合いを続けていた。
透ちゃんはこの企画班に参加していて、飯田くんをびっくりさせるって意気込んでいた。
残った私たち料理班も話し合いだ。
「料理か……飯田の好きなもんって何か分かるか?」
「飯田くんの好きなものかー、オレンジジュースが好きなのは分かるけど……」
「他のものは正直さっぱりね。なんでも好き嫌いなく食べてる印象しかないわ」
「ん……私も分からないから……好き嫌いは本当にないんだと思う……けど、やるからには……少しでも好きなもの……作ってあげたいよね……」
「そうだよねー」
皆で頭を抱えながら悩む。
だけど飯田くんは正直情報が無さすぎて、これ以上の進展が望めない。
「とりあえずの方針としては、明日の夕食はランチラッシュ先生の食事は遠慮させてもらうってことでいいわよね?」
「ん……どうにか調査して……ちゃんと、好きなものを作りたい……」
「私は梅雨ちゃんと瑠璃ちゃんほど料理出来るわけじゃないから、2人の意見に合わせるよ」
「じゃあ、料理も作るってことでいこう。それでこの話の直後で悪いんだけどよ、俺はケーキに集中させてもらってもいいか?」
砂藤くんが私たちに確認してくる。
私も特に異論はない。というかむしろお願いしたいくらいである。
きっと極上のケーキを作ってくれるに違いない。
「ん……異論ない……おいしいケーキ……期待してる……」
「お願いするわね」
「おまかせしちゃうね!」
「おう!任せとけ!オレンジジュース好きなのは分かってるし、オレンジケーキでも作ってみるよ!」
そんな感じでケーキは当然のように砂藤くんに任せることになった。
砂藤くんはこっちの話を聞きつつケーキの構想をすぐに練り始めていた。
私たちも料理をどうするかを考えるけど、やっぱり好きなものが分からないと決めようがない。
明日、私がそれとなく聞くことにしようかな。
「私が……明日それとなく……確認しようか……?」
「うーん、それしかないかなぁ……」
「……そうね、悪いけどお願いできるかしら」
「ん……まかせて……」
2人にも反対されることなくそういうことになった。
そこまで話してもう結構遅い時間だし、今日は話を終わりにして明日に備えようとしたら慌てた感じで砂藤くんが付け足してきた。
「ああ、そうだ!すまん波動!その時にアレルギーがないかの確認もしといてくれるか?普段から同じ食事食べてるから大丈夫だとは思うんだけど、一応な」
「ん……大事……確認しとくね……ありがと……」
飯田くんが寝てから相談していたこともあって、もうだいぶ遅い時間になってしまっていた。
明日眠そうにして飯田くんに怪しまれる人がいないと良いけど……
朝になって透ちゃんと朝食を食べに1階の共有スペースに向かった。
寮での食事はランチラッシュ先生が作ってくれたものが届くようになっている。
自炊する場合は予め申請して届けなくていい日時を申請するようになっている感じだ。
朝食は和食と洋食を選べるようにしてくれている。
今日は和食の気分だったから和食の方よそいに行くと、飯田くんも和食をよそっているところだった。
「おはよう、波動くん、葉隠くん」
「おはよ……飯田くん……」
「おはよー!」
私よりも寝るのが遅かった透ちゃんは若干眠そうにしているけど、誤魔化すためなのか元気そうな声を出している。
透ちゃんは私以外が相手なら声と動きだけ誤魔化しておけばいいから、有効な手段ではあるだろう。
そんな感じで挨拶をしていると、障子くん、口田くん、常闇くん、響香ちゃん、百ちゃんもやって来た。
挨拶を済ませて皆で食事を選んで席に着く。
「ふあああ~……ねむ……」
「ええ……あふ……」
響香ちゃんと百ちゃんが揃ってあくびをする。
眠いのは分かるけど流石に飯田くんの前では隠す努力をしてほしい。
「どうしたんだ、寝不足か?」
「んー……昨日ちょっとさ」
「昨日?何かあったのかい?」
案の定飯田くんに聞き返されてハッとする2人。ちょっと迂闊すぎる。
サプライズパーティーなのに、飯田くん本人にバレたら意味がなくなってしまう。
助け舟を出そうかな。私が言えば信憑性も高いと受け取ってくれるだろうし。
「2人とも……遅くまで……楽器のお手入れとか……読書とかしてるから……そうなる……もっと早く寝ないと……」
「つい夢中になってしまって……お恥ずかしい限りです……」
「い、一回やり出すと止まらなくなっちゃうんだよね……」
返答が若干ぎこちない2人に飯田くんが少し首を傾げてはいるけど、それだけだった。
そんな状況の中、常闇くんが話題を逸らすためなのか、咳ばらいをしてから口を開いた。
「……やはり、朝食は和食だな」
「ん……お米おいしい……」
「……あぁそうだな。こんなに美味しいごはんが朝から食べられるなんて、ランチラッシュ先生に感謝しなくては!」
唐突な話題転換に飯田くんも一瞬不思議に思っていたけど、ランチラッシュ先生の朝食の美味しさのおかげで納得してくれていた。
その後も話しながら食べ続けて、一粒残らず食べ終わった飯田くんが「それじゃあお先に」と一足早く寮を出ていった。
そこでようやく若干の緊張感を持った空気が緩んだ。
「……皆……露骨すぎ……」
「ごめん……」
「申し訳ありません、先ほどは助かりました」
「それはいいけど……気を付けないと……」
百ちゃんたちは申し訳なさそうにしながら言葉を返してきた。とりあえず日中は気を付けて欲しい。
しばらくして、他の皆も続々と降りてくる。
飯田くんがもう登校していることが分かると、夜の続きが始まった。
皆夢中でパーティーの詳細を詰めているし、それだけ飯田くんが皆に慕われているということなんだろう。
まあでも朝からこれを始めたのはよくなかった。
いつの間にか時間ギリギリになっていて、興味なさげに先に寮を出た爆豪くんを除いた皆で、大急ぎで教室に向かうことになってしまった。
なんとか始業には間に合って勢いよく教室へ駆け込む。
「ま、間に合ったっ……!」
「ちょっ……朝から全力ダッシュはキツイ~」
切島くんと三奈ちゃんが肩で息をしながら言う。
私も息も絶え絶えになってしまっていた。
そんな私たちに飯田くんが心配したような表情で声をかけてきた。
「みんな!何をしてたんだ!?もう少しでホームルームが始まる時間だぞ!?」
飯田くんはいつもみたいに腕を左右に振りながら聞いてくる。
その言葉に皆すぐに理由を言い返せなくて、ピタッと動きが止まってしまった。
「それは、ほら」
「ねえ……?」
皆明らかにぎこちない感じで言い淀む。
私も何かいい言い訳はないかと考えていたら、お茶子ちゃんが飯田くんの前に出た。
新築の寮だからだいぶ無理があるっぽい案な気がしないでもないけど、今はその考えに乗ろう。
「そ、それはねえ……!……Gが出たんよ」
「Gとは……?」
「キッチンとかによく出る黒いアイツ……」
「あぁ!ゴキ「名前を口に出すのもおぞましいアイツが出て……みんなで退治してたんだよ……!」
麗かじゃない表情になって飯田くんを見つめるお茶子ちゃんに、飯田くんも納得したようだった。
「ん……他にいないかも……確認しておいたから……もう安心……」
「波動くんがそう言うなら安心だな。手伝えなくてすまなかった!みんなも大変だったな!」
誤魔化せたことを確認して、皆も各々の席に散っていった。
お茶子ちゃんが寝癖を飯田くんに指摘されて、誤魔化そうとしてだいぶ怪まれる感じになっているけど、流石にそこまではフォローしきれない。
寝癖をあらかじめ指摘出来ればよかったけど、時間がギリギリだったのもあってスルーしてしまっていた。
そのタイミングで相澤先生が教室に入ってきて、飯田くんも考えるのを後回しにしてくれたから助かった。
そうしていつも通りヒーロー基礎学の授業が始まった。