「仮免の取得試験は例年災害時における救助を目的としたものが多く出題されている。よって今日は、クラスを10名ずつの2チームに分け、仮免試験を想定した救助訓練を行う」
圧縮訓練の一環として先生がそう話を切り出した。
それと同時に黒板にチーム分けが表示される。
私はBチームだ。
他のメンバーは……
Bチーム
青山
芦戸
尾白
口田
砂藤
障子
耳郎
葉隠
波動
峰田
感知系個性が全員こっちになっていてすごく偏った感じだ。
一方で、戦闘能力に長けた個性やお茶子ちゃんや百ちゃんのような救助に適した個性は軒並みあっち側だった。
恣意的なものを感じる。まあわざとなんだろうけど。
「ウチはBか」
「私も……よろしく……」
「よろしく。救助訓練なら今回も波動の独壇場かな」
「災害時の救助って言ってた……響香ちゃんの感知も大事……頼りにしてる……」
隣の響香ちゃんのつぶやきに反応すると、そんな感じの返答が返って来た。
でも災害時の救助って言ってたし、どういう災害の想定なのかは分からないけど音は重要な要素になるはずだ。
私が感知できない部分だし、響香ちゃんは凄く頼りになると思う。
三奈ちゃんとか峰田くんが私がいればなんとかなるでしょみたいな楽観的な思考になっているけど、私はそうはならないと思う。
私一人でどうにか出来てしまう訓練の時は、相澤先生たちはいつも何かしらの対策や事前告知をしてきた。
それがないということは、何かしらの問題とかが発生するようになっているんだろう。
「監督はAは俺、Bは13号が担当する。コスチュームに着替えてAグループはグラウンド・β、Bグループはグラウンド・γに集合だ。速やかに移動しろ。以上、解散」
そう言って話を切ると先生は早々に教室を出ていった。
私たちもコスチュームに着替えて指示されたグラウンドに向かった。
更衣室でコスチュームに着替える。
コスチュームはちょうど昨日改造が済んでいて、私と透ちゃんのコスチュームには変化があった。
透ちゃんは忍者みたいな透明の大きいスカーフを首に巻いていて、首元から後ろに2本の布を垂らしている感じになっている。
あのスカーフは必要な時に頭巾みたいに被って頭に着けているものを隠すこともできるし、後ろに伸びている布を手に巻いたりして持っているものを隠したり出来るらしい。
凄い実用的だ。
「透ちゃん……それ……カッコイイね……」
「ふふ、そうでしょー!私もお気に入りなの!」
透ちゃんはスカーフの後ろに垂れている部分をばさーっと翻した。
うん、かっこいい。
「葉隠のコスチューム、変わってるんだ。どこが変わってるのかさっぱり分からないけど……」
「ん……忍者みたいな……スカーフが増えてる……後ろに2本の布が伸びてて……かっこいい……」
響香ちゃんが難しそうな感じの顔で透ちゃんの方を見ている。
まあ普通の人から見たら相変わらずの手袋とブーツだけのコスチュームだ。仕方ない。
「その点波動のやつは変化が分かりやすいよね」
「うんうん!瑠璃ちゃんの手のやつすごく綺麗!それが波動を貯め込みやすい物質って言ってたやつ?」
「そう……まだうまくできないけど……」
三奈ちゃんが私の手の甲を指さしながら、私のコスチュームの変化を指摘した。
私のコスチュームの変化は手の甲の所の棘が、楕円形で半球体のクリスタルのようなものに変わっていた。
試しに波動をそこに放出してみたら、本当にすぐに霧散したりしなかった。
練習次第でちゃんと波動タンクとしての役割を果たしてくれそうだ。
今後、頑張って練習していこう。
そんな感じで話しながら着替えを終えて、グラウンド・γに移動する。
グラウンド・γでは13号先生が待っていた。
「待っていましたよ。じゃあ早速説明を始めましょうか」
13号先生は全員いることをざっと確認して、すぐに説明を始めた。
「2時間前、地下にある大型ショッピングモールの最下層で火災が発生。現在火災は鎮火。中にいた人々の避難も終わっています。ですが、この地下街のどこかに、要救助者が1人だけ残っているとの情報が、現場に来ていた波動さんから齎されました」
13号先生が私を示しながら説明を続ける。
皆も一瞬私をちらっと見たけど特に何も言わなかった。私ならそのくらい感知出来ていて当然と思われているようだ。
まあ実際今地下6階に要救助者と思われる人形が置かれているのは分かるから、感知出来ているのは間違いない。
「地下街全域が火災の影響で停電していますが、幸いにも非常用電源は生きています。その中で皆さんに課せられた任務は、その要救助者を速やかに助け出すことです。ちなみに要救助者としてダミーの人形が置いてあります。説明は以上です。マップを表示できる装置は渡しますので、あとは皆さんでどう行動するかを決めてください。その辺りも含めての訓練になりますので」
そこまで言うと13号先生は装置を渡してさっさと脇に移動して見物の姿勢に入った。
本当にこれ以上の指示も助言もないらしい。
とりあえず話を進めないとどうしようもないと思ったのか、三奈ちゃんが話し始めてくれた。
「とりあえず方針を決めないといけないよね。さっき先生が言ってた波動が情報提供したっていうのは、先生に事前に何か情報を貰ってるってこと?それとも、普通に感知できるだろうからってことで適当に言われたってこと?」
「……今回は……事前に何も言われてない……でも……どこに要救助者の人形があるかは……分かる……」
「さっすが瑠璃ちゃん!頼りになるねぇ!」
「流石だね☆」
透ちゃんと青山くんが手放しに誉めてくれる。
そんな2人を尻目に、響香ちゃんがさっき渡された装置を操作してマップを表示した。
「この地図でどの辺かとか分かる?」
表示されたマップと波動で感じる位置を照らし合わせる。
地下6階、最深部の端あたりに人形があるから、その辺りを指さした。
「この辺……」
「最深部じゃねぇか……」
峰田くんが怖気づいたような感じで言ってくるけど、今のところそこまで怖がる要素はないと思うけど。
まぁ絶対に何かしらの仕掛けはあるとは思う。
そうじゃなきゃ私がいるこっちのグループはなんの訓練にもならない。
わざわざ違うことを考え続けてくれている13号先生の思考を深く読むなんてズルはするつもりもないし、このまま透ちゃんの思考を深く読みながら訓練には参加しとこう。
「……多分……訓練中に何か……あるんだろうけど……ひとまず皆で……ここに向かおう……」
「まぁ波動さんがいるのに何も無いわけないよね……逆に何もないと何の訓練にもならなくなっちゃうし」
尾白くんも私の意見に同調してくれる。やっぱり絶対に何かあるって思うよね。
「今それを考えても仕方ねぇし、さっさと行こうぜ。救助は時間との勝負だろ?波動、先導頼めるか?」
「ん……問題ない……」
砂藤くんの言うことも尤もだし、その方針でいいだろう。
「よし、じゃあ波動を先頭に進もう。脆くなっている箇所があるかもしれないし、俺もサポートする」
「ありがと……障子くん……」
とりあえず方針は決まったし、私たちは地下街に入っていった。
慎重に目的地まで進んでいく。
皆も訓練とはいえ完全に方針も固まっていて気が抜けているせいか、軽口を叩きながらの移動になってしまっていた。
「にしても、今回の訓練のチーム分け、だいぶ偏った感じになってるよなぁ」
「確かにね。索敵とかが出来る4人が全員こっちのチームになってるし」
砂藤くんのぼやきに響香ちゃんが反応する。
それはさっき私も考えていたやつだ。
「まぁこっちは楽でいいけどな!波動もいるし!」
「いや、絶対これだけじゃ終わらないでしょ。そう考えると、何かあった時に色々出来るのは向こうだよ」
峰田くんの楽観視を尾白くんが窘める。
実際尾白くんの言う通りだ。
要救助者を簡単に運べるお茶子ちゃんやオールマイティに対応できる百ちゃんは向こうだし、突出した対応力のある爆豪くんと轟くんも向こうだ。
なんだったらいつも率先してまとめ役をしてくれる飯田くん、作戦立案してくれる緑谷くんも向こうだ。
「麗日もヤオモモも向こうだしねー。このまま終われば楽なんだろうけど、今までの感じからしてそんなことないだろうし」
三奈ちゃんが私の意見を代弁するかのように言ってくれた。
そんな感じで話しながら進んでいくと、下の階になるにつれてどんどん周囲が暗くなってきた。
「暗いな……」
障子くんがぼやくように言う。
私は波動を見ていれば暗くても関係なく進めるけど、皆はそうじゃないだろう。
「私は大丈夫だけど……皆は困るよね……明かりは……青山くん……頼める……?」
「ウィ!僕の輝きが皆を照らしちゃうよ☆……まぁそんなに長続きはしないんだけど」
私の声掛けに青山くんが先頭に出てネビルレーザーをお腹を壊さない程度の長さで放った。
……頼んだはいいけど、これ、危ないな。
ネビルレーザーが柱とか変な所に当たると取り返しのつかないことになりそうだ。
「……頼んだはいいけど……これ……あんまりよくないかも……」
「威力を弱めることが出来ないなら、レーザーを明かりにするのはあまり好ましくないな。さっきからパラパラと何かが崩れそうな音がする個所もある。そこに当たると取り返しのつかないことになりかねない」
「マジ?……うわ、マジじゃん……だいぶ脆い所があるよ……具体的な場所は分からないけど、自然に崩れてもおかしくないレベルの場所が」
「じゃあ青山のレーザーを明かりにするのはダメだな……」
障子くんの言葉を受けて、響香ちゃんが確認するように地面にイヤホンジャックを突き刺した。
聞き始めてすぐに響香ちゃんも確信したように言ってくれる。
やっぱり青山くんを明かりにするのはダメだな。
青山くんもそれが分かったのか、ズーンと落ち込んだ感じになってしまった。
「それなら!私に任せてよ!」
透ちゃんがはいはい!と勢いよく手を上げて自己主張してきた。
「透ちゃん……?」
「葉隠?」
透明化の個性の透ちゃんが明かりに立候補してきてびっくりしてしまう。
でも思考を読んで分かった。
そんなことができるの?どういう原理?本当によく分からない個性だ。
「ふふふ……見よ!これが私の必殺技だ!」
その言葉とともに、透ちゃんは七色に輝き出した。
青山くんよりもよっぽど輝いている。
「うわっ、まぶしっ!?」
「えっ!?どういう原理なのそれ!?」
「光るのはいいけど目が痛いよその光り方!?」
「ゲーミング葉隠!?」
透明のコスチュームも当然のように虹色に輝いている。
実際に見ても本当によく分からない。どういう原理なんだ。
「……凄いんだけど……虹色じゃなくて……普通のもうちょっと弱めの光に……できない……?私はいいけど……皆には目くらましになるかもしれないから……」
「えー?面白いと思ったんだけどなー。まぁ弱めの光も出来るから任せてよ!」
そう言って透ちゃんはいい感じの目に優しい光に変わった。
「おー!いいじゃん葉隠!その調子で照らし続けちゃって!」
「まっかせなさーい!」
そんな感じで透ちゃんが明かり役になった。
輝く役を取られた青山くんが不満そうな顔をしているけど、青山くんは長時間照らし続けることができないし、単純な明かりなら透ちゃんが適任だろう。
そんな感じのやり取りがあって地下4階に差し掛かった時、それは起こった。
「っ!?崩れるぞ!!」
障子くんのその声がしたと思ったら、足元が一気に崩落した。
崩落を免れたのは後ろの方にいた三奈ちゃん、響香ちゃん、青山くん、口田くんくらいだ。
他は全員崩落に巻き込まれた。
「きゃああああ!?」
足元だけじゃなくて、上からも大量の瓦礫が降ってきている。
まずい。
尾白くんと障子くん、砂藤くんは自力で瓦礫を弾いたり粉砕したりしている。
峰田くんは近くにいた障子くんが抱え込んだ。
でも、私と透ちゃんは明かりと先導役で少し突出していたから、自分たちでどうにかするしかない。
私だけなら上から降ってくる瓦礫を波動で砕けばいいけど、それじゃあ透ちゃんが瓦礫の下敷きにされる。
そう思った私は大急ぎで手に波動を圧縮して透ちゃんの方に吹き飛んだ。
「透ちゃん!」
透ちゃんを抱き込んで、真上から降ってきている瓦礫をどうにか片手で作った波動弾を当てて砕く。
出来たのはそこまでだった。
瓦礫と一緒に落下していく中で、透ちゃんを庇うように自分の身体を下にする。
勢いを殺すために圧縮した波動を地面に向けて噴射したけど、それだけで勢いを殺しきれるはずもなかった。
私の身体は、地面に叩きつけられた。