「いたー!!」
三奈ちゃんの声が辺りに響き渡った。
駆け寄ってくる三奈ちゃんに続いて、響香ちゃん、青山くん、口田くんも近づいてくる。
「良かった、無事だったんだ」
響香ちゃんのその言葉に、透ちゃんが顔を曇らせる。
障子くんが状況を説明するために私を抱えたまま前に出た。
「いや……見ての通りだ。全員無事と言える状況ではない」
「波動さん!?」
「えっ!?波動どうしたの!?」
4人の表情が驚愕に染まった。
「……大丈夫……意識は……あるから……」
「波動、無理をするなと言っているだろう」
私が答えようとしたら障子くんに止められた。
「その……落ちた時に私を庇って……地面に叩きつけられて……」
「今すぐにどうこうという話ではない。だが腕が折れている上に、他にも複数の骨が折れているとしか思えない。頭も打っている。急いでリカバリーガールの下へ連れていきたい」
「それに最下層に水が噴き出してる。このままじゃ何階まで水没するか分からないよ。波動さんのこともあるけど、悠長にしている時間はなさそうだよ」
私の代わりに透ちゃん、障子くん、尾白くんが順番に説明していく。
「わ、分かった!さっき落ちたところまでは私が溶かしたり青山に砕いてもらったりして道は確保してあるから、急ごう!」
「頼む!」
そうして三奈ちゃんたちを先頭に移動を始めた。
道中の瓦礫はもともと人一人分通れる程度には破壊したり溶かしたりしてくれていたけど、障子くんが私を抱えたまま通りやすいように皆で道を広げたりしながら進んでいった。
青山くんが特に張り切っていて、積極的にレーザーで瓦礫の撤去作業をしてくれていた。
だいぶ心配させてしまったみたいだった。
多少時間はかかったけど、落下地点まで戻ってくることは出来た。
そこで気が付いたけど、上の階でも崩落が起きている場所がある。
地下1階までは今と同じ感じで上がっていけると思う。
でも最悪なことに、地下1階から地上に上がるための階段が崩落してしまっていて、地上への道が無くなってしまっていた。
「……障子くん……」
「どうかしたか?」
「地下1階から……地上に出る階段が……崩落してる……道……ない……」
「っ!?それは本当か!?」
「マジで言ってんのかよ!?」
私の言葉に、皆驚愕の声を上げる。
そんな中障子くんが考え込み始めた。
階段以外で地上に上がる方法を色々考えているようだけど、どれも現実味がない。
皆はもう何度もスマホの電波が入っていないかを確認したりしているけど、基地局もやられたのか地下だからか、電波が入っていなくて先生に助けを求めることもできない。
「……ひとまず地下1階まで上がって、そこでどうするかを考えよう。ここにいてまた崩落が起きたらそれこそ取り返しがつかなくなる」
「うん、そうだね」
「……ん……私も……手伝うから……」
私も感知で通れる道を誘導しようと思ってそう答える。
「波動は無理しないで休んでてよ。さっきから話す度に痛そうにしてて見てられない」
「……でも……」
「いいから。感知はウチと障子と口田でどうにかするから」
響香ちゃんのその言葉に、障子くんと口田くんが頷く。
「ああ。今は波動も要救助者だ。無理をさせるつもりはない」
「ぼ、僕も!む、虫の力を借りればここでも偵察くらい出来るから!」
口田くんなんかガタガタと震えながらそこまで言ってくれる。
口田くんは虫が嫌いだったと思うんだけど、無理をしてでも私を休ませようとしてくれていた。
それなら、お言葉に甘えることにしようかな。
そう思って、私は目を閉じた。
地下1階までは特に問題なく進めた。
口田くんが虫を先行させて道を探って、皆を先導。
明らかに脆くなっている所もあったけど、障子くんと響香ちゃんが音から予測を立ててそういうところは避けて進んだ。
透ちゃんは明かりとして光り続けて感知をする3人をサポートし続けている。
砂藤くん、尾白くん、青山くん、三奈ちゃんは、瓦礫があるところを通らざるを得ない時に瓦礫を破壊してくれていた。
そして、地下1階の階段前に辿り着いた。
「瑠璃ちゃんが言ってくれてたけど……」
「こんなの、どうやって外に出るんだよ」
目の前には、床が完全に崩落して地上への道がなくなった階段だった場所があった。
崩落していない部分まで少なく見積もっても10m以上はありそうだった。
穴になっている所は下の階までつながってしまっていて、本当にどうしようもない。
「これじゃあここは使えないよね……」
「他に地上に繋がっている所となると……」
響香ちゃんがマップを取り出して経路を探す。
だけどそんなものはない。
エレベーターも地下1階までしかなくて地上にはつながっていない。
地上に繋がるような崩落をしている箇所もない。
八方塞がりだった。
「スマホの電波も相変わらずだね……」
「もうここから叫び続けて13号先生に気づいてもらうとかは?」
「でも助けてくれるつもりがあるなら、波動が怪我した段階で助けに来てくれてるだろ。今まで来てくれなかったってことは、怪我人の発生も緊急事態への対処も含めて、全部が訓練ってことだろ?」
「それはそうかもしれないけど……」
「僕のレーザーを外まで飛ばしてSOSをアピールするとかはどうだろう?」
「それも先生に助ける気がないなら意味ないね」
「その崩れてる所の下からよじ登ったりは……?」
「ここから見ても下の階の瓦礫に登れるほどの高さは無さそうだし……」
「一応、下の階まで見に行こう。口田と……砂藤、一緒に来てもらっても良い?」
「おう、もちろんいいぜ」
そこまで話して響香ちゃんが口田くんと砂藤くんを連れて下の階を見に行った。
私に聞こうとしない辺り、徹底して私を働かせないようにしようという意思が読み取れた。
少ししてちょうど崩落した所の下まで辿り着いた3人は周囲を確認していくけど、やっぱり何もなかった。
戻ってきた3人の報告に、皆が少し気落ちしてしまう。
その後も皆でああでもないこうでもないと話し続けるけど、いい案は全然見つからなかった。
そんな時、峰田くんが私の方をじっと見つめ始めた。
こんな時までいつものエロ思考かと思ったけど、今日は違った。
いつものピンク色の妄想なんて一切感じ取れない。
真剣な悩みだけが読み取れた。
そして意を決したように峰田くんが皆の前に出た。
「オイラが行く」
「え?」
「どういうこと?」
峰田くんの急な発言に、皆の頭に疑問符が浮かぶ。
そんな中障子くんは、林間合宿の温泉の時のことを思い出して何をしようとしているのか分かったのか、止めようとし始めた。
「っ……峰田、まさか壁をよじ登って向こうまで行くつもりか?」
障子くんの確認に、皆の表情が驚愕に染まった。
「駄目だ!真っ直ぐ登るだけだった温泉の壁とは訳が違うんだぞ!側面の壁を斜め上に向かって進まなければならない上に、落ちた時は穴の底まで真っ逆さまだ!そんな危険なこと、認めるわけにはいかないぞ!」
「そうだよ!流石に危険すぎる!」
「それに、峰田くん一人で地上に上がれても先生が助けてくれなかったら意味がないんだよ!?それなのにそんな危ないこと……!!」
峰田くんが何をしようとしたのか理解した皆が、必死で峰田くんを説得する。
それも当然だ。
峰田くんのもぎもぎは本人にはくっつかない。
壁にくっつけてそれを辿っていくにしても、結局登るのは本人の腕力頼りだ。転落のリスクが高すぎる。
そして転落すれば下の階の、瓦礫の山に叩きつけられる。死のリスクと隣り合わせの提案だった。
それなのに峰田くんは、障子くんに抱えられたままの私をもう一度ちらりと見てから、拳を握って力強く言い放った。
「だけど、それしか手がねぇだろ!!オイラたちはいいよ!!どれだけ時間をかけても最終的に脱出できればそれでいい!!だけどよ、波動は違うだろ!!いくら見た目が大丈夫でも、身体の中で出血してるかもしれねぇ!!そしたら、時間をかけすぎたら最悪波動が死んじまうかもしれねぇだろ!?オイラなら登れる可能性がある!!オイラだけなら外に出られるかもしれねぇ!!なら、やるしかねぇだろ!!オイラはかっけぇ男になる為にヒーロー目指してんだ!!自分の身可愛さに女見捨てるような、かっこ悪い男にはなりたくねぇんだよ!!」
峰田くんのその言葉に、皆が息を呑んだ。
「……だが、外に出てどうする。先生が手を貸してくれなければ結局何も変わらないぞ」
「先生には助けを求める。だけど、それで駄目ならそれはそれで考えがある」
「考え……?」
「ああ。今回の訓練、先生はオイラたちを取り残された要救助者を助けに来たヒーローだって説明したんだ。そんな状況なら、周囲には大勢の人もいるし、他のヒーローや警察だっていると思う。なら、救助道具がないのはおかしいだろ」
峰田くんの指摘に、皆唖然としてしまう。
確かにその通りだ。
火災の後の救助現場。これだけの状況で、なんの道具もない方がむしろおかしい。
「だからオイラが先生を説得して、この穴を全員が通れるような道具とか、波動だけでも救助できるような道具を借りてくる。それでここから脱出すればいい」
「た、確かに、それなら……」
「可能性が、あるね……」
峰田くんの説明に、皆納得してしまった。
確かにこれなら助かる可能性がある。
峰田くんが1人でリスクを背負うような案になってしまっているけど、現状で一番現実的な案だった。
「止められてもオイラは行くからな」
そう言って峰田くんはこっちに背中を向けて崩落した階段の方に歩き出した。
そんな峰田くんの背中に、三奈ちゃんが声をかけた。
「峰田!」
三奈ちゃんの声掛けに、峰田くんが足を止めて振り向く。
「今の峰田、超カッコイイよ!待ってるから!お願いね!」
「……任せとけ!!」
ぐっとサムズアップしてから、峰田くんはもぎもぎを横の壁にくっつけてよじ登り始めた。
峰田くんはもぎもぎに腕力だけでしがみつきながら、次のもぎもぎを壁につけて乗り継ぐという作業をしばらく続けていった。
何度かふらついたり落ちそうになったりしたけど、それでも峰田くんは向こう岸まで辿り着いた。
こっちでハラハラしながら見守っていた皆にまたぐっとサムズアップしてから、峰田くんは外に走っていった。
外では案の定授業の一環ということで先生による救助を拒否されていた。
13号先生の思考を見る限り、案が何もなければ救助に来てくれるつもりだったみたいだけど、峰田くんに案があるのを見抜いて拒否することにしたらしい。
先生は峰田くんの救助道具があるはずという考察を聞いて、快く応じてくれた。
峰田くんは縄梯子を手に戻って来た。
「皆!!縄梯子あったぞ!!穴の下に回り込んでくれれば、皆も出られるぞ!!」
「峰田くん……!!」
「やったか!」
向こう岸からそう叫ぶ峰田くん。
そして峰田くんはもぎもぎで梯子の端を固定して、下に縄梯子を垂らした。
私たちは地下2階の縄梯子が垂れているところまで行って、順番に梯子を登った。
私は抱えてくれていた障子くんが1番に梯子を登って、そのまま地上まで運んでくれた。
その後に続いた皆は、上で待っていた峰田くんを「やるじゃねぇか!」なんて言いながら揉みくちゃにして褒め称えていた。
地上では13号先生だけじゃなくて、リカバリーガールも待機していた。
「はいはい。患者はその子だね。早くこっちに寝かせな」
「よろしくお願いします、リカバリーガール」
「おねがい……します……」
障子くんはリカバリーガールが準備してくれていた簡易ベッドみたいなのに下ろしてくれた。
そのままリカバリーガールの診察を受ける。
「骨折多数。腕だけじゃなくて大腿と腰も折れてるね。足の感覚もあるみたいだし最低限動いてもいるから神経には問題なし。頭も打ってるみたいだけどそっちも問題なし。応急処置も適切だね。まあ治せる範囲だね。安心しな」
そこまで言うとリカバリーガールは治療のためのキスをしてきた。
何度もされるあたり、結構重症だったんだろう。
しばらくそれを繰り返した後、痛みが引いた代わりに凄まじい疲労感に襲われ始めた。
さっきとは違う意味で動けなくなってしまっている。
「はい。おしまいだよ。だいぶ体力使っただろうし、ゆっくり休むことだね。ほら、ペッツだよ。お食べ」
「ありがとう……ございました……」
私は口に放り込まれたペッツを食べながらお礼を言った。
そして治療が終わると、遠巻きに見守っていた皆が近づいてきた。
「瑠璃ちゃーん!!よかったよぉ!!」
「リカバリーガールのお墨付きなら安心だね。いやぁよかったよかった」
「腕もちゃんと治ってるね」
「皆も……ありがと……」
抱き着いてくる透ちゃんを筆頭に、皆もワイワイと話しかけてくる。
そんな感じで話していると、リカバリーガールが声をかけてきた。
「ああそうだ。そこの透明な子も診せてみな。そっちの子が庇ったとは言っても身体打ち付けてるんだろ?一応異常がないか確認するから」
「え?大丈夫だと思いますけど」
「だから一応だって言ってるだろう?2階分の高さから受け身も取らずに落ちてるんだ。そっちの子がクッションになったとは言っても骨が折れてる可能性もあるよ」
「そ、そういうことなら……」
透ちゃんの身体をリカバリーガールが見ていく。
凍傷の時も思ったけどどうやって見えない透ちゃんの身体に診断をつけているんだろう。本当にすごいと思う。
結局透ちゃんはなんともなくてすぐに解放された。
そして私がしっかり治っていることと、透ちゃんがなんともなかったことを確認すると、私に休んでもらうという名目で男子たちは少し離れた位置に移動しようとした。
私はその男子たちの最後尾にいた峰田くんに声をかける。
「峰田くん……ありがとね……少し……だいぶ……見直した……」
「ほんとほんと!今日のでだいぶ見直しちゃった!」
「確かにね」
「うんうん!ありがとね峰田くん!!」
今度何かお礼しなきゃなと思いながら声をかけた。声をかけたんだけど……
女子4人でお礼を言うと同時に、峰田くんの顔が緩んだ。
というか、ピンク色の思考に包まれた。
表情もいつもの気持ち悪い感じに戻ってしまった。
「お礼はオッパイでいいぜ!今日くらいはいいよなぁ!?」
案の定動けない私に抱き着こうとブドウ頭が飛びついてきた。
その瞬間、透ちゃんたちの思考が驚愕と怒りに染まった。
「なんですぐに見損なうようなことしちゃうの!?」
「見直した傍から結局それか!?」
「なんでそうなっちゃうかなぁ!?」
透ちゃんのまぶしすぎる光を放つ拳と響香ちゃんのイヤホンジャック、三奈ちゃんの弱めの酸が同時にブドウ頭に突き刺さった。
他の男子たちもあちゃーって顔で顔や頭に手を当てている。
私もそんな感じの感想しか出てこない。
さっきの峰田くんは素直にかっこいいと思えたのに、もういつものブドウ頭に戻ってしまっていた。
いつも通りすぎるブドウ頭の悲鳴が、グラウンド・γに響き渡った。