ヒーロー仮免許取得試験当日―――
「降りろ。到着だ」
試験会場である国立多古場競技場に到着して、先生の指示に従ってバスを降りる。
降りてすぐに透ちゃんが伸びをした。
「やっと着いたぁ~」
「ん……結構長かった……でも……B組よりは近かったと思う……」
全国に3か所しかない受験会場のうち、一番近い所を私たちが受けているのだ。
私たちよりも凄く早く寮を出ていたし、B組の移動時間とか考えたくもない。
「緊張してきたぁ」
「多古場でやるんだ」
「試験て何やるんだろう。ハー仮免取れっかなぁ」
峰田くんがいつものように不安を吐露する。
そんな峰田くんに、相澤先生が視線を合わせて話し始めた。
「峰田。取れるか取れないかじゃない。取ってこい」
「おっもっモロチンだぜ!!」
「この試験に合格し仮免許を取得できればおまえらタマゴは晴れてヒヨッ子……セミプロへと孵化できる。頑張ってこい」
先生のその言葉に、皆が気合を入れ直した。
「っしゃあ、なってやろうぜ!ヒヨッ子によぉ!!」
「いつもの一発決めてこーぜ!!」
切島くんのその掛け声で皆が円陣を組み始める。
私も透ちゃんに引っ張られて円に入れられた。
そんな円陣に帽子を被ったどこかの生徒が混ざろうと近寄ってきていた。
「せーのっ、"PLUS……「ULTRA!!!」
切島くんよりも頭1個分くらい高いその身長にびっくりしてしまう。
私だと見上げないとお腹の辺りしか見えない。
「勝手に他所様の円陣に加わるのはよくないよ。イナサ」
「ああ、しまった!!どうも大変、失礼、致しましたぁ!!!」
凄くオーバーな動きで巨漢の男が頭を地面に凄い勢いでぶつけながら謝罪した。
なんだこの人。悪意とか悪感情はないけど正直怖いんだけど。
「なんだこのテンションだけで乗り切る感じの人は!?」
「……背も高いし……正直……怖い……」
周囲の思考からして彼は西の方で有名な士傑高校の生徒らしい。
なんかすごい説明してくれる感じの思考の人がいるから間違いないだろう。
緑谷くんみたいな趣味の人なんだろうか。
謝罪を続ける夜嵐イナサという人を尻目に、私は後ろから来た同じ制服の人たちを見ていた。
というよりも、後ろにいる女性から少しの悪意を感じる気がしたのだ。
ただ思考が全然読み取れない。
さっきから夜嵐くんの血に呟くように反応したりしているのに、感情がうっすらとしか読み取れない。
どういうことだ。
それに波動も少し見覚えがある気がしないでもない。確信が持てないけど、なんなんだろうこの人。
しかも油断していると私の視界の外にスッと移動するし、明らかに意識されているのは分かる。
「瑠璃ちゃん、あの人気になるの?」
「……ん……ちょっと、違和感が……見たことあるような……波動の気がして……」
「え?会った事あるの?」
「ないと……思うけど……」
私がじっと女の人を見ているのに気がついた透ちゃんが聞いてくるのに対して、当たり障りのない部分だけ伝える。
悪意があるとはいっても、正直今はあまり参考にならないのが現状だ。
何やら雄英潰しとかいうものがあるみたいで、周囲の学生から大なり小なり悪意を向けられているのだ。
これに関しては私たちは体育祭で個性の詳細が知られているから仕方ない部分がある。
だから多少の悪意は仕方ない。あの人も、そういうことなのだろうか。
思考が読めないせいで全然分からない。
そんなことを考えていたら士傑高校の人たちは去っていった。
その背中を見ながら相澤先生が夜嵐くんについて話し出す。
「夜嵐。昨年度……つまりおまえらの年の推薦入試、トップの成績で合格したにも拘わらず、なぜか入学を辞退した男だ」
「え!?じゃあ……1年!?ていうか推薦トップの成績って……」
「……合格蹴るなら……受けなきゃいいのに……中学の推薦の枠だってあるだろうし……」
「ねー変なの」
雄英の推薦入試なんて絶対に校内選考とかあっただろうに、それを合格した上で蹴るなんて他の生徒にも失礼な気がするけど。
「変だが本物だ。マークしとけ」
先生がそう警告すると、また別の人たちが近づいてきた。
「イレイザー!?イレイザーじゃないか!!テレビや体育祭で見てたけど、こうして直で会うのは久しぶりだな!!」
その声を聞いて振り向いた瞬間、相澤先生がすごく嫌そうな顔をした。
先生がここまで露骨に嫌そうにするのは結構珍しい気もする。
「結婚しようぜ」
「しない」
「わぁ!!」
「多分……三奈ちゃんが期待する感じじゃ……ないよ……」
女性の突然の求婚に三奈ちゃんが目を輝かせた。
まぁ女性の方も本気じゃなさそうだし、多分腐れ縁な感じなんだろう。
今のところ三奈ちゃんが期待するような関係性じゃないっぽい。
「しないのかよ!!ウケる!」
「相変わらず絡み辛いなジョーク」
「スマイルヒーロー"Ms.ジョーク"!個性は"爆笑"!近くの人を強制的に笑わせて思考・行動共に鈍らせるんだ!彼女のヴィラン退治は狂気に満ちてるよ!」
緑谷くんがいつものごとく早口で解説してくれる。
なるほど。だからさっきから凄く笑ってるのかこの人。
そんなことを考えている間も、ジョークさんは相澤先生と掛け合いを続けていく。
ジョークさんは傑物高校の先生みたいで、2年生の担任をしているらしい。
ジョークさん以外にさっき近づいてきていたのはこの生徒の人たちだったようだ。
その中でも見た目は爽やかなイケメンと言った感じの人が、皆に握手を求めながら挨拶周りをし始めた。
「俺は真堂!今年の雄英はトラブル続きで大変だったね。しかし君たちはこうしてヒーローを志し続けているんだね。素晴らしいよ!」
……この人、正直見ていていい気分じゃない。表情と言動は爽やかなくせに内心とのズレが大きすぎる。
彼は見た目の爽やかな感じとは違って狡賢いタイプの人間みたいで、こういう見た目と内心のズレが大きい人は正直に言って苦手だ。
「中でも神野事件を中心で経験した爆豪くん。君は特別強い心を持っている。今日は君たちの胸を借りるつもりで頑張らせてもらうよ」
「フかしてんじゃねぇ。台詞と面が合ってねぇんだよ」
爆豪くんは真堂さんが求めた握手を振り払った。
「こらおめー失礼だろ!すみません無礼で……」
「良いんだよ!心が強い証拠さ!」
切島くんが謝っているけど、爆豪くんも間違ってはいない。無礼なのはそうだとは思うけど。
「爆豪くん……正解……私もあの人……苦手……」
「え、波動がそう言うってことは……マジ?」
「ん……マジ……」
そんな感じで話していると、相澤先生が声をかけてきた。
「おい、コスチュームに着替えてから説明会だぞ。時間を無駄にするな」
「はい!!」
その後は指示通り更衣室でコスチュームに着替えて説明会の会場に移動した。
相澤先生はわざと雄英潰しのことを皆に伝えてないみたいだけど、私はどうしようかな。
予め口止めされていないから、私に任せるってことなんだろうけど……
説明会の会場では受験者の1540人がぎゅうぎゅう詰めになっていた。
雄英の入試の時よりはマシだけどだいぶうるさい。
透ちゃんの思考を深く読んでおこう。
少ししたら公安委員会の人が説明をし始めた。
「えー……ではアレ、仮免のヤツをやります。あー……僕ヒーロー公安委員会の目良です。好きな睡眠はノンレム睡眠。よろしく」
そこまで話したと思ったら目良さんは台に肘をついて俯いて独白を始めた。
「仕事が忙しくてろくに寝れない……!人手が足りてない……!眠たい!そんな信条の下ご説明させていただきます」
……大丈夫なのだろうか公安委員会。すごくブラックな職場みたいだ。
周囲の人たちも目良さんの心配をしているくらいだ。
そんなのを気にせずに目良さんは説明を続けていく。
「ずばりこの場にいる受験者1540人一斉に、勝ち抜けの演習を行ってもらいます。現代はヒーロー飽和社会と言われ、ステイン逮捕以降ヒーローの在り方に疑問を呈する向きも少なくありません」
目良さんはその後少しの間ヒーローについて語ってから説明に戻った。
「―――そのスピードについていけない者ははっきり言って厳しい。よって試されるはスピード!条件達成者先着100名を通過とします」
その言葉に、会場がざわついた。
当然私たちA組もだ。
「受験者は全員で1540人。合格者は5割だと聞いておりましたのに」
「つまり合格者は1割を切る人数ということね」
「ますます緊張してきたぁ」
百ちゃんたちも焦りが見えるような反応を示している。
流石にこの通過率で雄英潰しを黙っておくのはよくないような気もする。
この後落ち着いたら皆に話そうかな。
「で、その条件というのがこれです」
目良さんはそう言ってボールと丸い装置のようなものを取り出した。
「受験者はこのターゲットを3つ、身体の好きな場所、ただし常に晒されている場所に取り付けてください。足裏や脇はダメです。そしてこのボールを6つ携帯します。ターゲットはこのボールが当たった場所のみ発光する仕組みで、3つ発光した時点で脱落とします。3つ目のボールを当てた人が"倒した"こととします。そして2人倒した者から勝ち抜けです。ルールは以上」
つまり受験者同士の潰し合いということか。
やっぱり雄英潰しのことは伝えておいた方がいいな。
そしてどこにターゲットを付けるかだけど……視界に入らない場所とか咄嗟に回避しづらい部位は避けるべきだ。
具体的には背中とか。
背後からの奇襲で当てられたら目も当てられない。
私は奇襲される心配はなくても、複数人で同時に襲い掛かられるとどうしても背後は正面よりも疎かになるし。
両腕とお腹とかがいいかな。
足は軸足についてたりすると咄嗟に回避しづらいし。
「えー……じゃあ展開後、ターゲットとボール配るんで。全員にいきわたってから1分後にスタートとします。各々苦手な地形、好きな地形あると思います。自分を活かして頑張ってください」
その言葉に合わせて、説明会の会場の壁が倒れていった。
USJと演習場を組み合わせたような試験会場が姿を現した。
まぁ波動で分かっていたので今更ではある。
どこに隠れるかを考えて、その後奇襲をかけて2人倒すのがいいかな。
渡されたターゲットを腕とお腹に着けながら、皆に雄英潰しのことを伝えるため近づいておく。
緑谷くんが思考的に気が付いているから、彼と一緒に伝えよう。