波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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報告と後処理(前)

一次試験クリアになった私たち4人は控室に向かっていた。

控室にも公安委員会の人がいるみたいだし、そこの人に話があることを伝えればいいかな。

その道中、上鳴くんと切島くん、爆豪くんともちょうど控室に来ている所に鉢合わせた。

お茶子ちゃんと透ちゃん、上鳴くん、切島くんが謎のダンスで喜びを分かち合っている横で、珍しく爆豪くんが緑谷くんに声をかけた。

 

「……通ったんか。デクてめクソ……」

 

「かっちゃん……!あ……うん……」

 

「そんな"力"がありゃ当然だ」

 

「な……ええ!!?」

 

緑谷くんが爆豪くんに褒められたことを驚いているけど、そういうことじゃない。

自分で蒔いた種を覚えていないのだろうか。

そのせいで気付かれただけだ。頭のいい爆豪くんに情報を漏らすからこうなる。

 

「"借り物"……自分のモンになったかよ……」

 

爆豪くんのその言葉に緑谷くんが固まる。

その態度が答え合わせになっているのが分からないのだろうか。

オールマイトに師弟揃って表情と態度に出すぎだっていったけど、オールマイトからなにも伝わっていないということか。

……オールマイトだし、伝えてなさそうだな。

あとで緑谷くんにも注意しておこう。

とりあえず固まっている緑谷くんの肩を叩いて再起動させる。

 

「……行くよ……緑谷くん……」

 

「あ、うん!」

 

再起動して慌てて動きだした緑谷くんも伴って控室に入っていった皆の後を追った。

 

 

 

控室の中には既に百ちゃん、響香ちゃん、梅雨ちゃん、障子くん、轟くんがいた。

これで合計12人が既に一時試験を通過したことになる。

とりあえず梅雨ちゃんが教えてくれた通りにターゲットを外してボールとターゲットを返却する。

 

その後話すのもそこそこに公安委員会の人に話しかけようとしたら、外の相澤先生が控室の脇に近づいてきていることに気が付いた。

その思考も『波動、聞きたいことがある』という呼び出しだ。

相澤先生は誰かと一緒にいるけど、公安委員会の人だろうか。

思考的にそうっぽい。私たちの様子から相澤先生が気が付いて話を聞きに来てくれたみたいだ。

私がこっそり出ていこうとしたら、透ちゃんが気が付いて話しかけてきた。

 

「……さっきの件?」

 

「多分そう……先生が来てて……聞きたいことがあるって……」

 

「そっか……私も行っていい?」

 

「……ん……いいよ……」

 

透ちゃんももう知っちゃってるし、来ても問題ないとは思う。

あと来てもらうべきは緑谷くんかな。

ここで事を荒立てたくないから緑谷くんをこっそり呼び出したいけど、緑谷くんは輪の中心にいるのもあって他の皆に気付かれそうだ。

 

「……何か気になることがある?考え込んでるけど」

 

「……緑谷くんも……呼びたいんだけど……ここで騒ぎを……起こしたくなくて……気付かれないように……呼びたいなって……」

 

「そういうことなら私に任せて!」

 

透ちゃんはそう言うと私にブーツと手袋を渡してきた。

なるほど、それなら確かにバレないか。

後は透ちゃんに任せて私は控室の外で待ってよう。

 

透ちゃんは緑谷くんにこっそり近づいて、気づかれないように耳元で外に出て欲しいことを伝えてくれた。

緑谷くんも急に耳元で声が聞こえた瞬間は面白いくらいビクッて跳び上がる感じでびっくりしていたけど、透ちゃんの声の内容を理解してからは誤魔化しながら外に出てきてくれた。

 

「波動さん……?」

 

「ん……行くよ……」

 

緑谷くんは困惑しているけど、すぐに納得してくれた。

透ちゃんに手袋とブーツを返してささっと相澤先生の方に移動する。

 

 

 

「来たか。緑谷たちも連れて来たってことは、間違いなさそうだな」

 

「はい……」

 

「詳細を聞くが、ここで話せる内容じゃない。着いて来い」

 

相澤先生は私の様子や緑谷くん相手にトガが見せた変身を観客席から見ていて、トガが侵入していた可能性に気が付いてくれたらしい。

そのまま公安委員会にプロヒーローとして話をつけて渡りをつけつつ、別室を用意してくれたみたいだ。

 

公安委員会の人の先導で連れていかれた部屋の中には、さっきルール説明していた目良さんがいた。

この会場の責任者なのかな。

 

「ヴィランと遭遇したというのはその子たちですか、イレイザーヘッド」

 

「はい。詳しい確認は今からになりますが」

 

「あれ、この人……」

 

目良さんと相澤先生のやり取りを尻目に、目良さんを見ながら透ちゃんが呟く。

目良さんも何が言いたいのか分かったのか答えてくれた。

 

「あぁ、はい。目良です。アナウンスは部下に任せてきました。……試験中にヴィランに遭遇したというのは本当ですか?」

 

説明をしつつ目を細めながら目良さんが聞いてくる。

確信を持っているのは私だから、私が答えよう。

 

「はい……ヴィラン連合に所属しているヴィラン……トガヒミコが……侵入していました……」

 

「……また、ヴィラン連合ですか。経緯を聞いても……?」

 

「もちろんです……」

 

目良さんの目を見つつしっかりと答える。

目良さんはこちらを疑っているというよりも、今後のことに頭を痛めているようだ。

 

「トガは……変身の個性を持っています……彼女は……士傑高校の生徒に変身して……紛れ込んでいました……」

 

「士傑ですか……まずい、これが事実なら、本当にまずいですよ……」

 

目良さんがさらに頭が痛そうな表情のまま呻き始める。

 

「君、今すぐに会場内の士傑高校の引率教師を連れてきてください。あぁ……また睡眠時間が……」

 

「そ、そんなにまずいんですか?トガはもう逃げましたけど……」

 

慌てて出ていく公安委員会の人を尻目に、透ちゃんが理解が追い付かない様子で目良さんに尋ねる。

でもまずいなんてものじゃない。ヒーロー社会の根底が揺るぎかねない事態だ。

 

「……ステイン逮捕以降、ヒーローの在り方に疑問を呈する世間の風潮があることは先ほど話しましたね。それに加えてオールマイトという心のブレーキが消え去り、これから増長するものが現れることが予測されるこの時期に……雄英と士傑というヒーロー科2トップの不祥事に加えて、我々ヒーロー公安委員会が仮免試験の会場にヴィランの侵入を許したなどという不祥事が加わってしまうと、ヒーロー社会が大きく揺らぎかねない事態になりますよ……しかも、その成り替わりと侵入に気が付いたのは受験生の学生とその学生の変化から気が付いた引率の教師のみ……洒落になりません……正直、考えたくもない……」

 

「し、士傑高校の不祥事ですか?」

 

「葉隠さん、トガは士傑高校の生徒に変身してたんだよ。つまり、士傑高校の生徒を襲撃して成り替わっているとしか思えないんだ。その状況で、仮免試験の会場まで誰も気付かずに連れてきてしまっている。多分、かっちゃんが誘拐されたのと同じくらいの騒ぎになるよ」

 

「あ!?そ、そっか!?」

 

「ん……だから……誰に聞かれるか分からない所では……話さなかった……」

 

私のその言葉に、目良さんが目を見開いた。

 

「本当に、誰にも聞かれていないですか?」

 

「はい……気付いた瞬間だけ……トガの名前を……出しちゃいましたけど……他の所では……トガはおろか……ヴィランという単語も話していません……トガと発言した時も……透ちゃんと2人だけで……声が聞こえる範囲には……確実に……誰もいませんでした……」

 

「確実に……?すみませんが、貴女の個性を確認しても?」

 

「……私の個性は……波動の感知です……半径1km周囲の人、物、地形、全てを……感知し続けています……それで……周囲に人がいなかったことは……確認しています……」

 

「……それなら、まだ対応の方法が……しかしヴィランがこの状況を利用しないとは……失礼しました。発覚の経緯を教えてください。可能な限り詳しく」

 

ここからは読心についても話さないといけない。

話さないといけない状況だし、包み隠さずに伝えよう。

 

「……まず前提として……私の個性は……感知した波動から……思考と感情を……読み取り続けています……」

 

「っ!?……つまり読心ということですか」

 

「はい……今日……変身したトガと会った時から……違和感は持っていました……少しの悪意と……波動から、少しの既視感を……覚えたので……」

 

「……なぜすぐにトガだと分からなかった?以前確認した精度を考えると、会った時点で即座に分かっていてもおかしくない」

 

相澤先生が話を遮って確認してくる。

 

「それは……トガの思考が……読めなかったからです……こんなの初めてのことなので……私も困惑しましたけど……」

 

「あぁっ!?そういうことか!?」

 

私が相澤先生に返答したら、緑谷くんが何かに気が付いたように大きな声を出した。

緑谷くんにここにいる全員の視線が集中する。

 

「す、すみません!でも、トガヒミコが僕に襲い掛かってきた時に姿を消すことを不思議に思っていたら言われたんです!隠れただけ、これは技術だって!相手の()(みみ)から自分の存在を逸らすんだって!その瞬間、息を止めて、何も考えずに潜んで紛れるって!」

 

「やっぱり……ミスディレクションのせい……」

 

「それって、私とお茶子ちゃんが合流した時にトガが瑠璃ちゃんに言ってたやつ?ミスディレクションが苦手なんだとか言ってたと思うけど……でも、一切何も考えないなんて本当にできるの……?」

 

「トガヒミコはそれが一番難しいって言ってたけど……」

 

どうやらトガは緑谷くんにミスディレクションの種をぺらぺら話していたらしい。

でも本当に意識的に完璧な無心になるなんて、恐ろしい技術だ。

人が無心になろうとしても、頭の中では何かしらのことを考えていることがほとんどだ。というか、トガに会うまで完全な無心になれる人と会ったことなんてなかった。

 

「事実として……読めなくなってた……意識的に無心になれるなんて……恐ろしい技術……」

 

「……波動の読心で読めなくなるほどのミスディレクションとなると……相当の練度だな……だが、悪意は感じたんだろ?なんで誰にも言わなかった?」

 

相澤先生がちょっと厳しい目でまた確認してくる。

 

「それは……今日の状況が悪いです……受験生が雄英潰しを企んでいたせいで……少ないながらも悪意を抱いている人が……多かったので……思考が読めないのもあって……そのせいだと誤認しました……」

 

私が返答すると、相澤先生はまた頭が痛そうにし始めた。

 

「説明を続けます……雄英潰しから脱した直後……私と透ちゃんは周囲に誰もいない所に避難して……作戦会議をしていました……その途中で感知したんです……トガが……私のクラスメイトに変身したのを……その子であってその子でない……何かが混ざったような波動……この混ざり物が……林間合宿で襲撃された時の……柳さんに変身していた時に柳さんの波動に混ざっていたものと……同じであることに気が付いて……トガだとようやく気付けました……」

 

「……確認しますが、貴女の個性は本来波動から個人の特定が出来るということですか?」

 

黙って聞いていた目良さんが聞いてくる。

 

「はい……波動は……人によって質が違います……私は……校内でがりがりの姿のオールマイトを見た時にも……すぐにオールマイトであることに……気付いていました……オールマイトにそのことを伝えて……口止めされましたけど……」

 

「なるほど……しかし、波動を知らない人物に変身されると、分からないと」

 

「……今回は、そういうことになります……最初に見た時の既視感が……この混ざり物だったんだと思います……次からは……この既視感をトガだと疑えば……おそらくは……看破できると思いますけど……」

 

目良さんが聞く姿勢に戻った。一応納得してくれているみたいだ。

 

「その後は……相澤先生も見ていたんですよね……?緑谷くんに合流して……トガを撃退しました……私が合流した時には……話し方を偽装することすらしなくなっていましたけど……」

 

「話し方が急に変わったのは波動さんが来てからだよ。トガヒミコは波動さんが来た時点で、バレたのを確信したんじゃないかな」

 

「ん……そんな感じのことを言ってた……その後は……トガが会場の外まで逃げて……範囲外に消えました……それ以降、範囲内にトガの波動は感じませんし……悪意ももう感じません……」

 

私がそこまで説明すると相澤先生も目良さんも頭が痛そうにして唸っている。

トガの目的が分からないのと、今後の対応とで頭痛を覚えている感じだろう。

 

「緑谷、お前も襲われてたんだろ?経緯と流れを説明しろ」

 

「は、はい!」

 

緑谷くんも皆と逸れてからの流れを説明した。

逸れた後にトガに襲われて、他の受験生に2人まとめて襲われたと思ったらトガが姿を消して、お茶子ちゃんに変身したトガが騙そうとしてきたのを看破したというくらいではあったけど。

 

「ますます目的が分からん。これだけの状況で、ヴィランがそれを利用しない理由はなんだ。雄英の信用失墜を目的とした執拗な襲撃を行ってきたヴィラン連合の手法とは思えん」

 

「確かに、その通りですね。今、世間に士傑の生徒を拉致監禁して成り替わり、仮免試験の会場に潜り込めたという情報を暴露するだけで、ヒーロー全体の信用と信頼を失墜させられるというのに……」

 

「……話したかっただけ、かもしれません」

 

困惑している先生たちに向けて、緑谷くんが声をあげた。

 

「どういうことだ?」

 

「もちろん、これから暴露するかもしれません。だけどトガが逃げる前に言ってたんです。もっと話したかったって……僕に襲い掛かってきたのを考えると、僕と……後は、波動さんとも」

 

「緑谷は分かるが、波動もか?」

 

「その、多分ですけど……トガヒミコは波動さんの読心のことを、知っていたんだと思うんです。考えていることが分からなくて戸惑ってるんだって煽っていたので……波動さんが気が付いて、来るのを待っていたんじゃないかと……それに、トガヒミコが波動さんに言ってたんです。お友達になろう、一緒に来ないかって……」

 

「っ!?それは本当か?」

 

相澤先生が驚愕した表情で緑谷くんに聞き返す。

私に関することだし、私が返答するべきだろう。

 

「はい……そう言われました……私の中学までのことを調べた……自分と似たもの同士だと思う……お友達になろうって……」

 

「……トガヒミコに読心がバレているということは、ヴィラン連合全体にバレていると思った方がいいな……それに、勧誘だと……?それが目的か……?」

 

「多分ですけど……勧誘は……トガの独断だと……思います……なんだったら一緒に来るか……みたいな……ついでみたいな感じで……言われたので……」

 

そこまで話したところで、士傑高校の教員を連れた公安委員会の人が戻って来た。

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