走り出そうとする受験生を尻目に、私は大きく息を吸った。
A組は大体何をやろうとしているかを察してくれているようで、爆豪くんとそれに付いていこうとしている切島くんと上鳴くん以外は足を止めてくれている。
「私は!!既にこの被災地内全ての負傷者の位置を把握しています!!怪我の程度も把握できます!!迅速な救助活動のために協力してください!!」
その声掛けに、走り出していた他校の生徒の三分の二くらいが足を止めてくれた。
A組も含めて残ってくれた人たちが近寄ってくる。
士傑の生徒も夜嵐くん以外は大体残ってくれていた。
その中から毛がもじゃもじゃの人が一歩前に出てくる。
「……それは本当か?」
「はい……私の個性は……半径1km周囲の人、物、地形……全てを読み取り続けています……私の指示に従っていただけるなら……最も効率的な方法で救助できるように指示します……」
「それで、先ほどのあの対応か」
「はい……協力……してくれますか……?」
もじゃもじゃの人は周囲を見渡してからこちらを見てしっかりと頷いた。
「ああ。先ほど言ったことが事実なら、協力するのが最も効率がいい。だがどう指示を出すつもりだ?」
他の人も特に異論はないようで、抜けるような人はいない。
というか多分この情報を知った上で抜けたりしたら、それはそれで減点対象になる可能性すらある気もするし。
指示の出し方は百ちゃんが残ってくれているし安心だ。
私が百ちゃんの方を向くとすぐに意図を読み取って頷いてくれる。
そして実際に片耳につけるヘッドセットのような通信機を胸元から凄い勢いで量産しながら声を上げた。
「その点に関してはおまかせを。私が通信機を作りますわ。皆さんにお配りいたします」
「さ、流石雄英。すごいわね」
他校の女子生徒が呆然としたように呟く。
まあ百ちゃんの個性は万能すぎるから驚くのも無理はない。
百ちゃんが作った通信機を各々が1つずつ取っていく。
そんな中、百ちゃんが私に話しかけてきた。
「波動さん、負傷者はこの場に集めてください。一か所に負傷者をまとめられるなら、救護所を作ってしまうのが一番。応急処置が出来るように私が道具を揃えます」
「そういうことなら!俺はこの辺り綺麗にして救護所作ってから救助に向かうぞ!」
百ちゃんが簡易救護所の設立まで提案してくれる。
そんな百ちゃんの提案を受けて砂藤くんがそう声を上げ、他にも賛同した力自慢の何人かが周囲の瓦礫をどけ始めてくれた。
その空いたスペースに百ちゃんが簡易ベッドを作り始めている。
私は他の人に指示を出すために向き直る。
周囲の負傷者はこの地点を中心に、東の火事が起きている廃墟に17人、北東の崩れている山に14人、北の住宅街のような場所に21人、西の廃墟に23人。
北西の高層ビルの辺りが特に多くて、28人かな。
とりあえずそのことを伝えて向かってもらう人員をグループ分けしてもらわないと。
細かい指示は近づいてからだ。
「5グループに分かれてもらっても……良いですか……?」
私がそう声をかけるとささっと大体の数で5グループに分かれてくれる。
「では……ショートがいるそのグループは……東の火事が起きているエリアに向かってください……次、ウラビティがいるグループ……北西の高層ビルがあるエリアへ……―――」
知っている個性や思考から読んだ個性から適任そうなグループに大まかに割り振る。
負傷者に近づいたらまた指示を出すことを伝えたら、皆足早に指示されたエリアに向かっていった。
「デク……正面20m先に負傷者……トリアージ黄……歩行困難……呼吸は若干促拍……出血多量……でも脈拍は安定してる……出血に注意しながら救護所に連れてきて……」
『わ、分かった!』
緑谷くんに指示を出していると障子くんから通信が入る。
『リオル、俺の進行方向、だいぶ先だが人が見える。救助に向かうぞ』
「……動きが一切ない……呼吸もわざと止めてる……心臓は動いてるけど……すいません……この地点の人の心臓……動いている扱いでいいですか……?」
「そこは……あぁ、心臓は動いている」
私が障子くんの報告を受けて公安委員会の人に最低限の質問と簡潔な答えが返ってくる。
「テンタコル……トリアージ赤か黒……気道確保して呼吸が再開するかを確認して……しなかったら……黒扱いでいい……」
『……了解した』
障子くんの真剣な声が返ってきて通信が切れる。
轟くんも火災が起きているエリアに到着したみたいだ。
「ショート……今のショートの目の前の建物から……左に3つ目の家……火に囲まれた人が取り残されてる……膝はついてるけど……まだ意識はある……呼吸と脈にも異常なし……トリアージは黄か緑……」
『分かった』
轟くんは簡潔に返事をして移動を始めた。
そんなやり取りをしていたらお茶子ちゃんが高層ビルの辺りにたどり着いた。
お茶子ちゃんに救助してもらうつもりの人の状況を公安委員会の人に確認する。
「すいません……この高層ビルの1階……角部屋の人……瓦礫に埋もれています……HUCの人は……骨は折れてないですけど……設定では折れてますか……?」
「そこの負傷者は……右腕が折れているな」
「ありがとう……ございます……」
確認した内容を伝えるべく通信機でお茶子ちゃんに声をかける。
「ウラビティ……その高層ビルの中……結構人がいる……順番に伝えていくから……まず1階の角の部屋……その中の瓦礫に1人埋もれてる……意識あり……呼吸と脈拍にも異常なし……ただ……右腕の骨が折れてる……他の骨は折れてないけど……歩けるかは不明……トリアージは黄か緑……」
『了解!ちょっと確認してくるね!』
お茶子ちゃんとの通信が途切れた辺りで、緑谷くんがフルカウルをしながら負傷者を抱えて戻ってきた。
「波動さん!連れてきたよ!」
「ありがと……もう大丈夫だからね……えっと……」
救助してきてくれたことにお礼を言いつつ、負傷者の少年に声をかけてもう一度目視でトリアージしようとしたら金髪ロングで額当てを着けている他校の女子生徒に手を掴まれた。
びっくりして思わず顔を凝視してしまう。でもその思考は完全な善意だった。
「急に掴んでごめん、でもあなたは遠隔のトリアージと指示に集中して。あなたの時間はここにいる誰よりも貴重よ。1秒でも無駄にしないで。再トリアージは私がするから任せなさい」
そういうとその女子生徒は緑谷くんが抱えている少年に声をかけつつトリアージをし始めた。
その女子生徒の判断は私と同じく黄色。判断も間違ってない。信頼できそうだった。
「……うん、じゃあ右のエリアのベッドに運んで。クリエティが包帯とかも準備してくれているから、応急処置はそこで」
「は、はい!」
緑谷くんも強く返事をして少年をベッドの方に連れて行った。
百ちゃん作の簡易救護所は今や小さな病院ではないかというくらいの設備が整いつつあった。
大きなテントの屋根の下にいくつもの簡易ベッドが並び、その脇には多くの医療道具がある。
包帯やガーゼだけでなく、消毒液にバックバルブマスク、果てにはAEDまで作り始めている。
素人でも使える可能性のある道具をどんどん作り続けているみたいだ。
いくら私が指示していてここに負傷者を集められると言っても、驚異的という他ない。
思考を読む限り点滴とか注射器とかも作れるみたいだけど、医者がいないから作るのはやめたようだ。
まあ知識のない人間が適当に点滴なんてしようものなら、逆に患者を殺してしまう可能性すらあるからそれで正解だと私も思うけど。
後は百ちゃん作の点滴は流石に使用するのが怖いことか。
点滴の成分が百ちゃんの知識頼りになってしまうと、専門的な勉強を教育機関でしていない独学の百ちゃんが万が一成分を勘違いしていた場合、それが命取りになる可能性すらある。
それらを考えると、百ちゃんは現状出来る最良のことをし続けているということだ。
百ちゃんの点数、きっとすごい高くなると思う。
そして百ちゃんが作った救護所には負傷者が続々と集められていた。
雄英だけじゃなくて、他の高校の生徒も指示に従ってくれているおかげもあって順調に救助活動は進んでいる。
それはそれとして再トリアージを引き受けてくれた女子生徒にお礼を言っておく。
「ありがとうございます……助かります……」
「あなた一人の負担に比べたらこんなの屁でもないわよ。いいから指示を続けてなさい」
「はい……」
サバサバした感じの他校の女子生徒の人は他の運ばれてきた負傷者の方に駆けていった。
私もどんどん指示を出さないと。
「ウラビティ……歩けるなら緑だから……誘導は他の人に任せてウラビティは2階に……そのビルの救助にウラビティ以上の適任はいないから……」
『う、うん!すいません、この人の誘導をお願いしてもいいですか?』
「ウラビティ……そのまま2階に上がって……着いたらすぐ右の部屋に2人……床が抜けて身動きとれなくなってる……トリアージは緑……」
『瑠璃ちゃん人使い荒いね!全然いいけど!』
「それだけウラビティが……頼りになるってこと……」
お茶子ちゃんとの通信を切って、また公安委員会の人に確認する。
「この地点の気絶したフリしてる人……見た目通りの状況でいいですか……?心臓は動いて呼吸もしています……脈拍にも異常はないです……血糊もそんなに付けてないし……骨にも異常ないです……」
「……あぁ、それで合ってる。見たままで大丈夫だ」
「分かりました……インビジブルガール……ちょっと遠いけど……その場所から50mくらい西……崩れた瓦礫の隙間……多分真っ暗になってる所に意識を失ってる人がいる……呼吸と脈拍には異常なし……トリアージは赤……グループの人も連れて行って……瓦礫の撤去に協力してもらって……」
『任せて!私が照らせばいいんだよね!』
「ん……そう……頑張って……」
透ちゃんに指示を出し終わったあたりで、救護所に少年を送り届けてきた緑谷くんが戻ってきた。
「波動さん!この後僕はどこに向かえば―――」
緑谷くんがそこまで言ったところで、会場の壁が大爆発を起こして吹き飛んだ。
「緑谷くん……!ヴィランが来る……!緑谷くんはその対処に向かって……!」
客席の下あたりに集団が隠れているとは思っていたし、思考的にも襲撃してくるのは分かってはいたけどそこまで大胆に侵入してくるとは思っていなかった。
「ヴィラン!!?……そっか!!皆さん!演習のシナリオ―――……」
緑谷くんが振り向きながら叫ぶ。
しかしその皆に呼びかけている言葉が最後まで言われることはなかった。
緑谷くんの視線の先にギャングオルカが侵入してきていたからだ。
テロという説明である程度予測していたとは言っても、ここまで強大な敵だとは思っていなかったのだろう。
これで、救助をしつつヴィランの対処もしなければいけなくなってしまった。
結構専門用語とか書いてしまっているのでここで解説しておきます
トリアージ:
重症度や緊急度に応じた傷病者の振り分けのこと
災害時の限られた医療資源を、速やかにより多くの人間に振り分けるための基準です
黒>赤>黄>緑
の順で重症度が高くなります
黒:治療対象外
死亡している、または蘇生の可能性が低く、治療の優先度が最も低い
言い方は悪いですが、限られた資源(人員、医療資源など)を有効に使うために切り捨てなければいけない重症度
赤:緊急治療群
最も治療優先順位が高いです。速やかな救命処置を必要とする重症度になります
黄:非緊急治療群
治療の遅延が生命には影響しないが、治療の必要がある
緑:軽傷群
歩行可能、必ずしも治療を必要としない
一応簡単な振り分け方としては
歩行が 出来る→ 緑
出来ない
↓
呼吸が ない→ 気道確保をして呼吸が再開しない→黒
ある 再開する→赤
↓
呼吸回数 異常に多いor少ない→赤
問題なし
↓
脈拍 異常な頻脈or脈が触れない→赤
問題なし
↓
指示に 従えない→赤
従える
↓
黄
こんな感じです
これを何度も行い、経時的な状態変化への対応や判断ミスの防止をしていきます
バックバルブマスク:人工呼吸をするための風船付きのマスクです
AED:簡単な診断や心電図の確認、電気ショックなどを自動でしてくれる機械です