終了の合図を受けて、渋い表情をした轟くんが私の方に近づいてきた。
触れられたくなかったであろう部分を煽った自覚があるから流石に気まずい。
謝っておこう。
「ごめんね……轟くん……煽ったりして……あれくらいしか思いつかなくて……」
「いや……波動はヴィラン役として、できることをしただけだ。それに乗せられて周囲が見えなくなった俺が未熟だった……」
轟くんは相変わらず苦々しい表情をしていたけど、左手から炎を出してゆっくりと私の上半身の氷を溶かし始めてくれた。
「もう限界!もう無理!冷たい!足痛いよ!!私もあったまらせてっ!!」
その炎を見た透ちゃんも我慢の限界だったのか、私の隣に来て轟くんの炎で暖を取り始めた。
「透ちゃん……足、大丈夫……?凍傷とかになってない……?」
「うぅ、痛いから多分なってると思う……」
「悪かった……」
透ちゃんの言葉を聞いて轟くんが謝る。
表情は変わっていないのに内心はすごい申し訳なさでいっぱいになってるな。
透ちゃんだけじゃなくて、私の上半身を凍り付かせたのも気にしてるみたいだった。
感情が表情に出にくいのかな?
「ううん!裸足で氷の上に立ってたのは私だから!轟くんは悪くないよ!」
「ん……私の方も……煽った挙句突っ込んだんだから……自業自得……気にしないで……」
自分たちが選んだ方法の結果だ。
こっちは一切気にしてないし、轟くんのせいだなんて思ってない。
そのことを伝えると轟くんも納得したようだった。
そのまま5分くらい温めてもらって氷が溶けて動けるようになった。
ちょうどそのくらいでオールマイトがやって来た。
オールマイトが透ちゃんと私の怪我の具合を確認してくれる。
透ちゃんは見えないから完全に自己申告でしかないけど。
その結果は、ひとまずは問題なさそうだけど、授業の後でいいから念のためリカバリーガールに見てもらうように指示を受けた感じだった。
「よし!怪我の確認も終わったし、講評の時間だ!モニタールームに戻ろう!」
「今戦は甲乙つけがたい素晴らしいものだった!そんな中でのベストは波動少女だ!」
「轟か波動のどっちかだとは思ってたけど波動かー」
「あの感知とかすごかったものね」
皆の視線が私に集中してちょっと恥ずかしい。
「さーて、なぜか分かる人!!?」
オールマイトが皆に問いかける。
それに対してやはりと言うべきか、すぐに八百万さんがまっすぐ手を上げた。
当てられた八百万さんは、私たち4人への見解を述べ始めた。
「まず波動さん。轟さんの個性を見切り、その後の動向を察知した感知能力、核やブラフを利用した思考誘導や、興奮させることで轟さんの意識から葉隠さんを完全に消し去ったことなど、お見事でした。ただ、確保するためとはいえ、轟さんに固執して捨て身の特攻をして行動不能になった部分は減点ですね」
「次に葉隠さん。気配すら消した完璧な潜伏と、隙を見逃さず轟さんを確保した手腕は素晴らしいです。減点に関しては波動さんとほぼ同じですわね」
「障子さんも、2人の居場所の把握、轟さんの個性が避けられたことの察知など素晴らしい感知能力でした。ですが、その能力に頼りすぎた結果、葉隠さんの気配が消えたことを警戒しすぎてしまったせいで合流が遅れ、轟さんの確保につながってしまいました。訓練ではなく本物のヴィランだった場合、轟さんを人質にされる可能性もあったはずです」
「そして轟さん。波動さんが居なければ初撃で全てが決まっていた氷撃、行動不能にできずともビル全体を凍らせたことでヴィランの行動を制限した点は、素晴らしいの一言に尽きます。核を動かせないという事実と障子さんの感知能力が合わさって、ヴィランチームは籠城せざるを得なくなっていました。減点は、煽られた結果周囲への警戒がおろそかになり確保されたこと」
つらつらと八百万さんが述べていく。
オールマイトは『ま、またしてもっ!!!』とか考えている。
八百万さんがいる限り挙手での分析は彼女の独壇場になるだけな気がするから、別の方法を考えた方が良さそうだ。
新米教師オールマイトには辛いかもしれないけど、頑張って欲しい。
「4人とも役割に沿って動き、素晴らしい点と改善点を併せ持っています。誰がベストになってもおかしくなかったとは思いますが、敗北はしてしまったものの感知能力や緊急事態での咄嗟の判断、轟さんの確保へとつなげた手腕から、波動さんがベストだと思います」
「またしても……正解だよっ……くぅ……!」
オールマイトは震えながらサムズアップしていた。
「八百万少女の言う通り、誰がベストでもおかしくなかった!いい戦闘訓練だったよ!!この調子で次の試合もどんどんやっていこう!!」
こうして私の初めての戦闘訓練は終わった。
5戦目の講評までつつがなく終わった。
締めのセリフを終えたオールマイトが、すぐさまこちらに背を向けながら歩き出した。
だけど―――何故か、オールマイトが焦っている?
「それじゃあ私は緑谷少年に講評を聞かせねば!着替えて教室にお戻り!!」
バヒューンという効果音が聞こえるほどの凄まじい速度で、オールマイトは去っていった。
走っている途中で彼は、『授業やってると時間ギリギリだぜシット!!』とか、『波動少女が見えるのは1kmくらいだったか』とか考えている。
オールマイトはそのまま私が感知できる範囲から、早々に抜けていってしまった。
私を、警戒している……?
時間ギリギリというのもよく分からないし、何か秘密があるんだろうか。
私は学校には思考や感情を読めることを伝えていないから、私を警戒するということは姿に関わることだとは思うけど……
その後、更衣室で着替えてオールマイトの指示通り透ちゃんと保健室に向かった。
本当は今日の放課後は透ちゃんのコスチュームのことを聞きに行くつもりだった。
だけど、透ちゃんは足を庇うようにしながら歩いてるのもあって、コスチュームの件は後日ってことにして、ゆっくりと保健室に向かうことにした。
波動を見る限り、保健室の中にはリカバリーガールとオールマイト、寝ている緑谷くんの3人が居るみたいだ。
……あれ?
オールマイトの波動、なんか細くない?
でも波動の質は明らかにオールマイトだ。
オールマイトの思考を見ても、緑谷くんへの申し訳なさとNo.1ヒーローとしての矜持と責任感が読み取れるだけ。
この思考はオールマイトでしかないけど……
リカバリーガールもオールマイトと認識して会話しているのが読み取れる。
私たちがノックして保健室に入ると、リカバリーガールと骸骨のような人がこちらに視線を向けた。
この骸骨がオールマイト?
肉眼で見てもまだ信じ難い。
「はいはい、いらっしゃい。用件は?」
「1年A組葉隠透です!その、授業でですね――――」
リカバリーガールは素知らぬ感じで迎え入れてくれる。
用件を伝えてくれている透ちゃんを尻目に、私はオールマイトを観察することにした。
私の視線にオールマイトは『すごい見られてる!?』とか『これバレてないよね!?』とか考えながら冷や汗を流して居心地が悪そうにしている。
残念ながらバレているわけだけど。
これは気が付いていることを伝えるべきか、黙っているべきか。
気が付いた理由は思考を読めることは伝えなくても説明できる。
実際に波動の質だけでオールマイトだと気付いてるわけだし。
多分これが私を警戒した理由なんだろう。
さっき時間ギリギリとか考えていたのは、あのいつもの筋肉の姿は短時間しか維持できないからとかだろうか。
「はい、じゃあそっちの子も凍っちゃった所見せて」
私が考え込んでいる間に、透ちゃんの診察は終わっていた。
透ちゃんの足はやっぱり軽度の凍傷になっていたらしい。
リカバリーガールに個性を使ってもらって完治したみたいだ。
普通に歩けるようになってる。良くなったようで安心した。
そのままカーテンで仕切られたところに入って私も診てもらったけど、私は何ともなかった。
「ありがとうございました!じゃあ瑠璃ちゃん!教室戻ろっか!」
「あ……その……私、リカバリーガールに聞きたいこと……あるから……先に戻ってて……」
迷った結果、私は気が付いていることをオールマイトに伝えることにした。
「ん?そう?じゃあ教室で待ってるね!」
そういって笑顔で手を振ってから保健室を出ていく透ちゃんに、私も手を振り返す。
透ちゃんが保健室から出て、ちゃんと教室の方に向かっていったのを確認してからオールマイトとリカバリーガールの方に向き直る。
「で、聞きたいことってなにさね」
「ん……ごめんなさい……ちょっと、嘘吐きました……」
確認してくれるリカバリーガールに謝罪し、骸骨のオールマイトをまっすぐ見据える。
「あの……オールマイト先生……ですよね……?」
私の言葉を受けて、オールマイトが滝のように汗を流しながら弁明し始めた。
「な、なにを言ってるんだい!?私は教師の八木というものでオールマイトではっ!?」
「誤魔化さなくても……大丈夫です……波動の質が……オールマイト先生と全く同じだから……わかります……」
私が確信を持って聞いていることを伝えると、オールマイトは絶句して固まってしまった。
動かなくなったオールマイトの思考は『どうする?話すべきか?』なんて感じで悩んでいるのがよく分かる。
というよりもその絶句して固まる反応そのものがオールマイトである証拠でしかないんだけど、気付いてないんだろうか。
そんな悩みまくっているオールマイトを見かねたのか、リカバリーガールが諭すように話しかける。
「この子もう確信してるみたいだし、正直に話して黙っててもらった方がいいんじゃないかい?わざわざ正面切って分かってることを伝えてくれた子なんだ。聞いた情報を悪用しようとなんてしないよ。大事なんだろ、"平和の象徴"であることが」
「そう、ですね……」
その後オールマイトは数分間悩み続けて、意を決したように話し始めた。
「すまなかった、波動少女。確かに私はオールマイトだ。いつも皆に見せている姿は、プールで腹筋を力み続けているようなものでね、今の本当の姿はこっちなんだよ」
話しながらオールマイトが自身のシャツをめくり上げる。
見えた身体には、それだけの傷を受けて生きているのが不思議になってしまう程痛々しい傷跡があった。
「6年前……ヴィランの襲撃で負った傷だ。呼吸器半壊、胃袋全摘。度重なる手術と後遺症で憔悴してしまってね。私のヒーローとしての活動限界は今や1日約3時間程なのさ。これは世間に公表されていない。公表しないでくれと私が頼んだ。人々を笑顔で救い出す"平和の象徴"は、決して悪に屈してはいけないんだ。だから、決して口外して欲しくないんだ」
口外するつもりは当然ない。
そんなことをしたら治安が悪くなって、ヒーローになったお姉ちゃんの負担が増えてしまう。
「ん……口外するつもりは……ないです……お姉ちゃんがヒーローになった時に……負担、増えちゃうから……」
「そうか……気を遣わせて済まない……」
「隠すために……手が必要な時は……協力するので教えてください……」
「ああ、ありがとう」
オールマイトはまだ隠していることがあると思う。
悩んでいる時に浮かんできた『個性』『ワンフォーオール』『オールフォーワン』『緑谷少年』『どこまで話すべきか』『身体の説明さえすれば納得してもらえるか』なんていう多くの思考。
でも実際にここまでしか話さないってことは、それを知られることによって生じるリスクが大きくて話せないとかそういうことなんだろう。
だから、オールマイトの秘密はとりあえずそれでいい。
だけど、起きたのにいつまでも寝たふりをしてる悪い子を放置するのは、ちょっと気に食わないよね。
「ん……じゃあ、私は教室に戻ります……緑谷くんも……起きてるなら……寝たふりしてないで声かけて欲しかった……私、個性で波動の透視できるから……見えてるよ……個性把握テストの時もこっそり見られてたし……オールマイトの弟子なんでしょ……もっと堂々とした方がいいよ……」
捨て台詞のようにそう伝えてから保健室を出る。
後ろから阿鼻叫喚のような緑谷くんの思考が聞こえてくるけど、無視して教室へ向かった。