試験終了後、私たちは制服に着替えて戻って来ていた。
「どうかなぁ……」
「やれることはやったけど……どう見てたのかわかんないし……」
「こういう時間いっちばんヤダ」
「人事を尽くしたならきっと大丈夫ですわ」
響香ちゃんがすごく緊張していてそれに百ちゃんやお茶子ちゃんが同意を示している。
ただ百ちゃんは余裕があるのか穏やかに響香ちゃんを宥める感じだったけど。
透ちゃんも当然のごとく同じような状態になっていた。
「うぅ……不安だよぉ」
「透ちゃんなら……大丈夫だよ……」
「瑠璃ちゃんは不安じゃないの?」
「私の採点してた人の思考も……読めてるし……」
「そ、そうだった……」
私の返答に透ちゃんががっくりした感じになっている。
「……ということは、瑠璃ちゃんにはもう私の合否とかも……」
「……予想はついてるけど……聞きたいの……?」
「うっ……聞きたい……いやでも……聞きたいような、聞きたくないような……」
深刻な表情で悩みだしている透ちゃんに苦笑してしまう。
そんな感じで皆と話しながら時間を待った。
轟くんだけは自分の結果がもう予想がついているのか、暗い雰囲気を纏っていた。
そして、ついに結果発表の時間になった。
壇上に目良さんが立って説明を始める。
『皆さん、長いことお疲れさまでした。これより発表を行いますが……その前に一言。採点方式についてです。我々ヒーロー公安委員会とHUCの皆さんによる二重の減点方式であなた方を見させてもらいました。つまり……危機的状況でどれだけ間違いのない行動を取れたかを審査しています。とりあえず合格点の方は五十音順で名前が載っています。今の言葉を踏まえた上で、ご確認ください……』
その言葉とともに、正面の電光掲示板に合格者一覧が一気に表示された。
私の名前も透ちゃんの名前もしっかりと載っている。
A組で載っていないのは事前に感知した公安委員会の人の思考通り、轟くんと爆豪くんだけだ。
透ちゃんはとりあえず自分の名前を見つけたみたいで跳び上がって喜び始めた。
「あったーー!やったーー!」
「おめでと……透ちゃん……」
「ありがとー!瑠璃ちゃんも合格だよね!よかったぁ!」
ついに透ちゃんが抱き着いてきた。
他の合格していた皆は安堵したり喜んだりと表情は様々だけど、感情は歓喜一色だ。
まあ爆豪くんは「ねえ!!」ってすごい顔で目をギラつかせているんだけど。
皆で喜び合っていたら、夜嵐くんが轟くんの方に歩いてきた。
彼は轟くんの前に立つと立ったまま地面に打ち付ける程の勢いで頭を下げた。
「ごめん!!あんたが合格を逃したのは、俺のせいだ!!俺の心の狭さの!!ごめん!!」
「元々俺が蒔いた種だし……よせよ。お前が直球でぶつけてきて、気付けたこともあるから」
轟くんはすぐにそう言って夜嵐くんを宥める。
でも今回の結果は轟くんにも非があるし仕方ない。
最初は夜嵐くんが喧嘩を吹っ掛けたとしても、それに応じる判断をしたのは轟くんだ。
今までもエンデヴァーのことを煽られて冷静さを欠いたことがあったのに、それを直さなかったのも轟くんだ。
夜嵐くんがいなかったら合格していただろうけど、いたからと言ってこの結果になったのは轟くん自身の積み重ねだ。
夜嵐くんの謝罪を近くで聞いていた三奈ちゃんが心配そうに近づいてくる。
「轟……落ちたの?」
「……あの状況で喧嘩してたら……落ちるのも当然……」
「る、瑠璃ちゃん……!」
透ちゃんが私の発言を諫めようとしてくる。
この発言が今あんまりよくないこと自体は理解している。
でもあの状況で喧嘩し始めて気を揉んだのも確かだし、ちょっとくらい苦言を呈しておきたかった。
「いや、波動の言ってることは尤もだ……俺が未熟だった」
轟くんは気落ちはしているけど、私の発言自体は気にした様子もなく流した。
近くでは爆豪くんに上鳴くんが暴言を改めろなんて当然のアドバイスをしているけど、本人は切れて黙ってろなんて当たり散らしている。
峰田くんもさっきまで震えていたのに合格して気が大きくなっているのか、2人を煽りだした。
「両者とも、トップクラスであるが故に自分本位な部分が仇となったわけである。ヒエラルキー崩れたり!」
そう言って轟くんの肩を叩こうとした峰田くんを、飯田くんがスッと遠ざけた。
『えー、全員ご確認いただけましたでしょうか?続きましてプリントをお配りします。採点内容が詳しく記載されてますので、しっかり目を通しておいてください』
目良さんのそのアナウンスとともに、公安委員会の人がプリントを配り始めた。
『ボーダーラインは50点。減点方式で採点しております。どの行動で何点引かれたかなど、下記にズラーっと並んでいます』
「葉隠さん」
透ちゃんがプリントを手渡されている。
そのままじっとプリントを読み込み始めた。
「どうだった……?」
「んー……68点。透明だから連携に悪影響が出ているとか、救助の時の負傷者に対する声掛けとかいろいろ指摘されてる。でも透明で連携に悪影響とか言われてもなー、これが私の個性だし……」
「でも……合格は合格……救助の時の存在感の出し方とか……今後考えていこ……」
「……そうだね!気にしすぎても仕方ないか!これを糧にもっと頑張ればいいんだよね!」
ちょっとむぅっとした感じだった透ちゃんも、やる気が出たのか気を持ち直してくれた。
そんな感じで透ちゃんと話していると、私の方にも公安委員会の人が近づいてきた。
「波動さん」
「はい……ありがとうございます……」
渡された紙をしっかりと受け取って目を通していく。
点数は100点だ。
うん、よかった。公安委員会から見ても間違っていない行動がとれていたみたいだ。
下の方の減点理由記載欄にはコメントが記載されていた。
今回は問題なかったから減点にはしていないけど、話し方に覇気が足りてないから指揮や指示に影響が出る可能性がある。可能なら直した方がいいという感じのことが書かれていた。
これはその通りだ。私もそう思う。
だけど苦手なものは苦手なのだ。もうこの口調で固まってしまったし、今更普通に話すのも難しい。
「瑠璃ちゃん見してー!」
「ん……どうぞ……」
私が透ちゃんにプリントを渡すと透ちゃんが目を点にして固まった。
「100……?」
「ん……そうみたい……」
「100点!?」
理解が追い付かなかったのかボソッと呟いて確認してきてから、しっかりと理解した途端に大きな声で驚愕し始めた。
「100点!?マジか波動!?」
すぐ近くにいた上鳴くんまで大声で反応してくる。
さらに近くで聞いていたA組生徒がちらほら近づいてきた。
「でも波動さんのあの働きなら100点も納得だよね。むしろ、あれで100点じゃなかったら何が100点なのか分からなくなるし」
「救助なら独壇場の面目躍如って感じだったもんなぁ」
尾白くんや砂藤くんまで褒めてくれて少し気恥ずかしくなってくる。
でも多分100点は私だけじゃない。百ちゃんだって絶対にそうだ。
被災地にあの小病院を作り出したのに100点じゃなかったら逆にびっくりだ。
「ん……頑張ったから……あと……100点……私だけじゃないと思う……」
「他にっていうと……」
私の返答を受けて透ちゃんが少し周囲を見ると同時に、響香ちゃんの声が響いた。
「待ってヤオモモ100点!?」
声の方を見ると方を見ると百ちゃんがすごく可愛いドヤ顔をしていた。
透ちゃんがすすすっとそっちに近づいていく。
私も透ちゃんに着いていって移動した。
「ヤオモモちゃん100点なの!?」
「ええ。おそらく波動さんも100点だったのではないですか?」
「ん……そう……百ちゃんも100点だと思ってた……救護所が病院になってたし……」
「いや、ヤオモモも波動も凄すぎでしょ。あの遠隔トリアージとあの病院だからそれ以外ないとは思うけど」
響香ちゃんがそう言って褒めてくれる。
なんか今日は皆に褒められて私も少しずつ気分が高揚してきた。
百ちゃん程とは言わなくても少しドヤ顔をしてしまっている気がする。
その後はまた目良さんからの話になった。
『合格した皆さんはこれから緊急時に限りヒーローと同等の権利を行使できる立場となります。すなわち、ヴィランとの戦闘、事件、事故からの救助など……ヒーローの指示がなくとも、君たちの判断で動けるようになります』
そう、これでセミプロと言える立場になったのだ。
お姉ちゃんは仮免を取ってからリューキュウの所にインターンに行ってたし、これから私たちもインターンに行かせてもらえるのかな。
行かせてもらえるならミルコさんが受け入れてくれると嬉しいんだけどどうだろう。
『しかしそれは君たちの行動一つ一つにより大きな社会的責任が生じるということでもあります。皆さんご存じの通り、オールマイトという偉大なヒーローが力尽きました。彼の存在は犯罪の抑制になるほど大きなモノでした。心のブレーキが消え去り増長する者はこれから必ず現れる。均衡が崩れ世の中が大きく変化していく中、いずれ皆さん若者が社会の中心となっていきます。次は皆さんがヒーローとして、規範となり抑制できるような存在とならねばなりません。今回はあくまで仮のヒーロー活動。半人前程度に考え、各々学舎で更なる精進に励んでいただきたい!』
……この話は昨日も少し話していたけど、結局トガはもう暴露するつもりがないという認識で大丈夫なのだろうか。
暴露されないならそれに越したことはないけど、それでも嫌な感じはする。
トガの私の感知すらもすり抜ける可能性を秘めた変身とミスディレクション。
これからは、私ももっと注意深く見ていかないといけない。
少しでも既視感とか違和感を持ったら、他の人と情報共有するくらいの感覚が必要だと思う。
皆との学校生活を守るためでもあるし、頑張らないと。
そんな感じで考えていたらいつの間にか目良さんの話は終わって、不合格者への特別講習の話になっていた。
3か月の特別講習とその後の個別テスト。
雄英の土曜日まで詰まった予定や各教科の宿題の存在を考えると、凄まじいハードスケジュールになるのは想像に難くない。
それでも、轟くんと爆豪くんならやりきるだろうけど。
その後はバスに乗って寮に帰った。
緑谷くんなんかがバスに乗る前に仮免のカードを見ながら涙を流して安堵していているのがすごく印象的だった。
そこまで感慨深いか。まあでもオールマイトの後継者としての第一歩を歩みだせたと思うと安堵が来るのも当然か。
色々あって緑谷くんに態度や表情に注意するよう伝えるのを忘れていたし、寮に着いたらこっそり伝えておこう。
緑谷くんはあわあわしそうだけど、これも緑谷くんのためだ。