寮に着いて、私たちは共有スペースで寛いでいた。
百ちゃんが紅茶を淹れてくれると言っていたので、私も手伝いがてら百ちゃんの淹れ方を教えてもらった。
茶葉がいいのもあるけど、百ちゃんの淹れ方のこだわりが凄くてとても参考になった。
今は2人で淹れた紅茶を共有スペースで飲んでいたのだ。
「明日からフツーの授業だねぇ!」
「ヒーローに休息はありませんわ」
「しかし、色々ありすぎたなぁ」
「一生忘れられない夏……」
「瑠璃ちゃん!そのチョコちょーだい!」
「ん……どうぞ……」
透ちゃんにつまんでいたチョコを分けて欲しいと言われて、箱を透ちゃんの方に向けた。
透ちゃんも嬉しそうに食べている。
このチョコ甘くておいしいんだよね。
百ちゃんと淹れた紅茶をちびちび飲みながら食べるだけで幸せな気分になれる。
しばらくそんな感じでお茶をしてから口田くんが共有スペースに連れてきた結ちゃんを愛でる。
梅雨ちゃんはカワイイちゃんって呼んでいたりするけど、結ちゃんのあだ名なんだろうか。
皆でワイワイしながらのんびりしていたら、爆豪くんが緑谷くんの方に向かい出した。
そしてすれ違いざまにいつものように威圧するような感じで緑谷くんに声をかけた。
「おい!……後で表出ろ」
ついに、緑谷くんにОFAのことを追求するみたいだ。
来るべき時が来たということだろう。
「てめぇの"個性"の話だ」
緑谷くんはまた固まっている。
でも応じるつもりはあるようだ。
なんかコソコソ話しているつもりみたいだけど、私がいることを分かっているんだろうか。
それとも聞かれてもいいと思っているのかな。
皆が寝静まった頃、2人は動き出した。
他の人に聞かれたらまずい話だけど、爆豪くんの思考からして喧嘩を吹っ掛けると思うし教師には伝えておいた方がいい。
本当は相澤先生に伝えた方がいいんだろうけど、内容的にオールマイトに伝えておくくらいしか選択肢がないか。
今日AFOに会ってきて色々考え込んでいる所申し訳ないけど、自分の弟子の不始末だし頑張って欲しい。
とりあえず2人の行き先が分かるまで、思考と進行方向を見つつ観察を続ける。
グラウンド・βに向かってる感じかな。
盗聴対策をしていない電話で全部話すのも良くないし、メッセージに誤魔化しながら説明するのも面倒くさい。
もう行き先だけメッセージで送っておくか。
私から場所だけ書かれたメッセージが来れば流石に確認に行くだろう。
教師寮も範囲内だからあまりにもズレた思考をしたり、メッセージをスルーするようなら鬼のように電話をするだけだ。
青山くんの腕輪の件で教師全員分の連絡先を貰えているから、そういう意味ではラッキーだった。
とりあえずオールマイト宛に『グラウンド・β』とだけメッセージを送る。
既読はすぐに付いた。
オールマイトは一瞬疑問に思うような思考をした後にドタバタとグラウンド・βに向かっていった。
私も監視ロボットに見つからないようにこっそり見に行こう。本当に危なそうだったら止めないといけないし。
爆豪くんも緑谷くんも戦闘訓練で危険行為をした前科がある。
一応緊急事態に備えておこう。
私が向かっている途中で、爆豪くんたちは話を始めた。
内容はやっぱりOFAのこと。
気付いた理由は神野でAFOがラグドールの個性を奪ったことで個性の移動という異常事態の実例を見たこと、複数個性を持った脳無を見ていたこと、緑谷くんがオールマイトと会ってから変わったこと、それに合わせてオールマイトが力を失ったこと、神野でのオールマイトの言葉を緑谷くんが明らかに別の意味で受け取ったことなどなど―――
そのとどめに緑谷くんの"人から授かった個性なんだ"という発言。
これだけ情報があって気付かない方がおかしい。
その後はコンプレックスが爆発した爆豪くんが、案の定緑谷くんに喧嘩を吹っ掛けた。
この辺りで私もグラウンド・βに到着して建物の陰に隠れておく。
オールマイトはさっきまでグラウンド・βにいたけど教師寮に戻っていった。
監視ロボットにバレていた2人のこの会合を見てまずいと思ったんだろう。相澤先生を止めに行っている。
監視ロボットが異常を感知すると担任に連絡が行くようになっているのかな?
喧嘩が始まったあたりで相澤先生の思考にも動きがあった。
『マジかよ……』とかいう思考になっているから、監視ロボットが通報したみたいだ。
なんとか間に合ったオールマイトが相澤先生を止めることができた。
まあ代わりにオールマイトが2人を先生の所に連れていくという約束をしたみたいだけど。
しばらく続いた爆豪くんと緑谷くんの争いは爆豪くんが緑谷くんを取り押さえて終わった。
これ以上続けるようだったら流石に止めに入ろうと思っていたから終わってくれて良かった。
緑谷くんがフルカウルを8%で出来るようになっていたりして収穫はあったことにはあったんだろう。
しばらく様子を伺っていたオールマイトもようやく止めに入った。
爆豪くんは、神野のことを相当気に病んでいたようだ。
まあ爆豪くんの憧れのヒーローであるオールマイトが完全に力を失う原因になった事件だから、気に病むのも仕方ないんだけど。
今までもたまにそんな感じの思考がちらっと見えたけど、すぐに別の思考に移っていたからそこまで気にしていなかった。
そんな爆豪くんに事情を説明するオールマイトだけど、爆豪くんも素直じゃないからなかなか真っ直ぐには受け取れない。
それでも根気よく爆豪くんに声をかけるオールマイトに、爆豪くんも響くものがあったようだった。
座り込んで緑谷くんに声をかけた。
「おまえ……一番強え人にレール敷いてもらって……負けてんなよ……」
「……強くなるよ。君に勝てるように」
爆豪くんは溜め息を吐いて話を続ける。
「デクとあんたの関係知ってんのは?」
「リカバリーガールと校長……生徒では、君と波動少女だけだ」
オールマイトがちらっとこっちを見ながらそう返答する。
どうやらオールマイトには私が近くまで見にきていたことが分かっていたらしい。
「は、波動さんも知ってるんですか?」
緑谷くんがオールマイトに問いかける。
むしろなぜ私が知らないと思っていたんだ。読心を打ち明ける前ならまだしも、もう打ち明けたのに。
入学してから今まで緑谷くんは散々私がいるところでOFAのことを考えていただろうに。
「あのクソチビの個性で知らねぇわけねぇだろクソデク……バレたくねぇんだろオールマイト」
爆豪くんは頭を抑えて顔を隠しながら確認するように呟く。オールマイトからの返答は特にないけど、理解はしているみたいだ。
「あんたが隠そうとしてたから、どいつにも言わねぇよ……クソデクみてぇにバラしたりしねぇ……ここだけの秘密だ……」
「秘密は……本来私が頭を下げてお願いすること。どこまでも気を遣わせてしまって……すまない」
「遣ってねぇよ。言いふらすリスクとデメリットがデケェだけだ」
「こうなった以上は爆豪少年にも、納得いく説明がいる。それが筋だ」
そのままオールマイトはOFAの説明を始めた。
爆豪くんは静かに話を聞いていた。
「暴かれりゃ力の所在で混乱するって……ことか……っとに……なんでバラしてんだクソデク……クソチビの口の堅さ少しは見習えや……」
「私が力尽きたのは私の選択だ。さっきも言ったが、君の責任じゃないよ」
「結局……俺のやることは変わんねぇや……ただ、今までとは違ぇ……デク、俺も全部俺のモンにして上へ行く。"選ばれた"お前よりもな」
「じゃっ……じゃあ僕はその上を行く。行かなきゃいけないんだ……!」
これがお茶子ちゃんがよく言っている"男の因縁"ってやつなんだろう。
爆豪くんと緑谷くんは因縁の相手っていうか、ライバルって感じだけど。
話が終わったところでオールマイトが2人に相澤先生の所に行かなければいけないことを説明して連れていった。
私もそろそろ戻らなきゃなと思っていたら爆豪くんの思考が『あのクソチビ、見てやがったな』というものになった。
間違ってはいないんだけど、いつ気付いたんだろう。
私がいるところには一回も視線を向けてなかったと思うんだけど。
オールマイトが来たことで気付いたんだろうか。
まあでも隠れてグラウンド・βまできたはずなのに、事の詳細を説明できるオールマイトだけが都合よく現れたことから私が呼んだと思われたのかな。
……爆豪くんが気付くなら相澤先生にも気付かれている可能性があるか。
今の所相澤先生の思考的には大丈夫そうな気がするけど、ボロを出さないように気を付けないと。
これから2人に下される罰則が私にまで課されたらたまらない。
私も監視ロボットに見つからないようにしながら部屋に戻る。
私が部屋に着いたあたりで、教師寮の方では相澤先生による拘束と罰則の宣告が行われていた。
相澤先生のキレ具合が酷い。
まあ仮免試験から戻って来てから相澤先生とブラドキング先生も地獄の確認作業に合流していて、やっと終わって休めると思ったらこれだ。
それは怒るだろう。
結局オールマイトの説得もあって、爆豪くんは4日間、緑谷くんは3日間の謹慎と掃除、反省文の提出という罰則になっていた。
それにしてもあの怪我で保健室に行くなとか言われてるけど大丈夫かな。
爆豪くん、思いっきりフルカウル状態の緑谷くんに蹴られたりしてたし、緑谷くんも爆発に巻き込まれたり地面に叩きつけられたり結構な怪我をしていたはずだ。
それはそれとして爆豪くんもオールマイトも私のことは相澤先生に言わないでいてくれた。
これなら私がボロを出さなければ証拠がない。
夜中にグラウンドまで勝手に出歩いて罰則なんて外聞も悪い。
何も言われないなら助かった。
とりあえず2人の喧嘩も終わったし、怪我はともかく無事なことも確認できた。
私ももう眠いし、結構遅い時間だ。早く寝ることにしよう。
そう思って寝る準備をしていたら、オールマイトからメッセージで2人のことを伝えたお礼とあまり夜中に出歩かないようにという注意が返ってきた。
変なところで律義だなオールマイト。
とりあえず『今日は事情が事情だったので。以後気を付けます』とだけ返信して、スマホを充電コードにつないでベッドに入った。
ここの原作のオールマイトってどうやって監視ロボットの密告を受けた相澤先生よりも早く話の内容を把握して先回りしたんですかね?謎です