波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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手合わせ(前)

皆で体操着に着替えて、体育館γに移動した。

さっきの通形さんの提案である、模擬戦を行うためである。

今は通形さんが準備運動をしているのを困惑した皆で待っている感じだ。

 

「ミリオ……やめた方がいい。形式的に"こういう具合でとても有意義です"と語るだけで十分だ」

 

「遠」

 

天喰さんがすごく離れた位置の体育館の壁に向かって話している。

そのメンタルの弱さは峰田くんにすらツッコまれているほどだ。

 

「皆が皆上昇志向に満ち満ちているわけじゃない。立ち直れなくなる子が出てはいけない」

 

天喰さんなりに私たちを心配してくれているみたいだけど、今年の1年生はB組も含めてそういう面では大丈夫な気がする。

まあ通形さんがよっぽど酷い方法を取ったりしなければ大丈夫だろう。

 

そんな天喰さんの発言に対して、三奈ちゃんの触角を弄っていたお姉ちゃんも反応した。

 

「あ、聞いて知ってる?昔挫折しちゃってヒーロー諦めちゃって問題起こしちゃった子がいたんだよ、知ってた!?」

 

「知らなかった……!お姉ちゃん、博識……!」

 

「ふふ、でしょー。まあそれはそれとして大変だよねぇ通形。ちゃんと考えないと辛いよ、これは辛いよー」

 

「おやめください……波動も止めてよ~」

 

「ごめん三奈ちゃん……お姉ちゃんの好奇心は……とどまるところを知らないから……!」

 

「意味わかんないよ~」

 

触角を弄られている三奈ちゃんがやめてほしそうにしているけど、私はお姉ちゃんが好奇心を満たすのを邪魔したくない。

今も三奈ちゃんの触角が動いているのを見ながら嬉しそうに「動く!」って言っているお姉ちゃんが可愛いから仕方ないのだ。

 

 

 

私がお姉ちゃんや三奈ちゃんとわちゃわちゃしている間にも通形さんとの話は進んでいて、緑谷くんが一番手として通形さんに仕掛けることになった。

まあ私は通形さんの戦い方は基本的に知っているし、参加するつもりはないからお姉ちゃんの横で見学してよう。

 

「近接隊は一斉に囲んだろぜ!!」

 

「よっしゃ先輩そいじゃあご指導ぉ―――……」

 

「よろしくお願いしまーっす!!!」

 

突撃を敢行した緑谷くんを皮切りに、皆が戦闘態勢に移行した。

さっきまでこっちにいた三奈ちゃんもしっかりと常闇くんの隣まで移動して、腕から酸を出して構えている。

 

しかし次の瞬間、通形さんの服が全てばらばらと地面に落ちていった。

当然通形さんは全裸である。

 

「あーーーーー!!」

 

響香ちゃんが顔を真っ赤にして叫んでいる。

相変わらず乙女だ。

 

「今服が落ちたぞ!」

 

「ああ失礼。調整が難しくてね!」

 

通形さんがいそいそとズボンだけ穿き直している

それにしても通形さん、一応見えないように隠してはくれているけど相変わらずだ。

調整が難しいのは分かるけど、せめて下着だけはどうにか落ちないように調整できるようになってもらいたい。

 

緑谷くんは初撃で遠慮なく顔面にフルカウルでの蹴りをぶち込んでいるんだけど、狙うべきところはそこじゃない。

通形さんの個性を知っていると狙うべき場所は限られる。服を着ようとしている今の状況なら、ズボンをひっかけている腰付近やズボンをちゃんと穿いている足だ。

そこに通形さんの視界、意識の外からの奇襲や反応できないほどの速度で攻撃するしかない。

そう考えると通形さんの天敵はトガになるんだろうか。

ミスディレクションを使われると普通に奇襲されそうだ。

 

緑谷くんに続いて遠距離攻撃が出来る人たちの攻撃が通形さんの身体に降り注ぐ。

酸に音波にレーザーにと大量の攻撃が飛んで行って通形さんの身体が見えなくなってしまう。

その隙に通形さんは全身透過して下に落ちた。

私の個性だと感知できるけど、響香ちゃんや障子くんの感知だとこれは分からないだろう。

姿を消したようにしか見えないはずだ。

身体の角度的に、多分響香ちゃんの後ろ辺りに跳ぶつもりかな。

 

そこまで来てようやく通形さんが消えていることに飯田くんが気が付いた。

 

「いないぞ!!」

 

次の瞬間、通形さんが響香ちゃんの真後ろに跳ね上がった。

あの瞬間移動紛い、何度見ても目を疑う挙動をしている。

地面にめり込んだ状態から一瞬で弾きだされているのだ。

完全にゲームのバグを見ている気分だ。

 

「まずは遠距離持ちだよね!!」

 

「ギャアアアア!?」

 

響香ちゃん、通形さんの陰部をモロに見たな。

まあ全裸でいきなり跳び上がってきたら見てしまってもしょうがない。

でもよりによって一番初心な響香ちゃんが被害に遭ってしまっている辺りドンマイという他ない。

 

「……相変わらず……目を疑う挙動している……」

 

「瑠璃ちゃんは地面に落ちた通形も見えてるんだもんね!地面の中ではどうなってるの!?通形に聞いてもよく分からないから気になるの!」

 

「ん……完全にゲームのバグ……地面にめり込んで……一瞬で弾きだされてる……」

 

「へぇーなるほどねー」

 

お姉ちゃんと話しながら模擬戦を眺め続ける。

皆は通形さんの個性をワープも併せ持った強個性だと考えているけど、あれはそんなにいい個性じゃない。

少し失敗するだけで全裸になってしまう上に、全身透過すると地面に落下して呼吸もできない上に何も見えないという扱いの難しすぎる個性。

落下中に透過を解除して弾き出されるのはいいけど、何も感じられない状態で身体の向きとポーズの微調整で出る位置を調整するなんていう血の滲むような努力の跡が見える技。

一部を透過して攻撃を避けるにしても正確に相手の攻撃を読み取って予測しないと、普通に対策されるリスクがある個性なのだ。

お姉ちゃんの個性の大火力で微調整や連携が難しいという欠点とはまた違った欠点が目立つ個性だ。

自分があれを出来るかと言われると首を傾げざるを得ない。

 

この模擬戦は皆にとって実りある模擬戦になると思う。

相澤先生もそれを分かっているから模擬戦を了承したらしく、皆に声をかける。

 

「おまえらいい機会だ。しっかりもんでもらえ。その人……通形ミリオは俺の知る限り最もNо.1に近い男だぞ。プロも含めてな」

 

そのタイミングで通形さんは瞬く間に模擬戦に参加している大部分を無力化した。

 

「一瞬で半数以上が……!No.1に最も近い男……」

 

「……おまえいかないのか?No.1に興味ないわけじゃないだろ」

 

「俺は仮免取ってないんで……」

 

轟くんがすごく潔く遠慮していた。

相澤先生も『丸くなりやがって……』とかいう感想になっている。

溜め息を吐きつつ今度は私に視線を向けて相澤先生が確認してくる。

 

「波動、おまえはいいのか?」

 

「はい……私……通形さんの個性……知ってますし……技の種も……思考と動きを見てれば……分かります……私と通形さんじゃ……お互いに相性が悪くて……どちらかがミスするのを待つ持久戦になるだけなので……体力と身体能力的に負けるのは私ですけど……フィジカル面で差を見せつけるのは……今回の趣旨に反していると思ったので……」

 

「……そうか」

 

「まあ瑠璃ちゃんならそうだよねー」

 

お姉ちゃんも私が残っている理由が分かっていたのか、ケラケラ笑いながら頭を撫でてくれる。

お姉ちゃんは撫でるのが上手だからすごく気持ちいい。

 

そんな感じで話している間に、通形さんは残った近接主体の人たちを素早く無力化していった。

全員を腹パンで無力化しているのにこだわりを感じる。

 

 

 

「ギリギリ見えないように努めたけど!!すみませんね女性陣!!」

 

「……響香ちゃんに……思いっきり見せてましたけど……」

 

「あはは!出た瞬間は仕方ないよね!ごめんね!」

 

指摘すると通形さんは笑いながら謝罪した。

羞恥心というものがないのだろうか。

 

「とまぁ―――こんな感じなんだよね!」

 

「訳も分からず全員腹パンされただけなんですが……」

 

参加していた皆はお腹を押さえてグロッキーになっている。

だいぶ鋭い腹パンがめり込んでいたし、さもありなんという感じだ。

 

「俺の"個性"強かった?」

 

「強すぎですよ!」

 

「ずるいや!私のことも考えて!」

 

「すり抜けるしワープだし!轟みたいなハイブリッドですか!?」

 

まあそう考えても仕方ない挙動をしているのは確かだ。

それにしても透ちゃんの文句が切実すぎる。やっぱり透ちゃんももっと扱いやすい個性が良かったと思っている感じなんだろうか。

 

「私知ってるよ"個性"ねえねえ言ってい?言ってい!?トーカ!」

 

「波動さん、今はミリオの時間だ」

 

お姉ちゃんがハーイって手を上げてて凄くかわいい。

そのまま止められてむすっとしているお姉ちゃんもさらにプリティだ。

 

「いや1つ!!"透過"なんだよね!君たちがワープと言うあの移動は推察された通りその応用さ!」

 

「どういう原理でワープを……!!?」

 

緑谷くんが手にメモするような動作をしながら質問する。

その手にメモする動作、意味あるのだろうか。

その後は通形さんによってワープの原理が説明された。

まあ私が見た通りで、弾き出されてるっていう認識で間違いはないだろう。

 

「……?ゲームのバグみたい」

 

「三奈ちゃんの言う通り……波動を見てても……ゲームのバグみたいに……弾き出されてるよ……」

 

「イーエテミョー!!」

 

通形さんも分かっているのか笑い飛ばしている。

そのまま自分の欠点である全身透過中は呼吸ができない事、何も見えない事とか欠点を包み隠さず教えてくれた。

 

「長くなったけどこれが手合わせの理由!言葉よりも"経験"で伝えたかった!インターンにおいて我々は"お客"ではなくサイドキック!プロと同列として扱われるんだよね!それはとても恐ろしいよ。時には人の死にも立ち会う……!けれど怖い思いも辛い思いも全てが学校じゃ手に入らない一線級の"経験"!俺はインターンで得た経験を力に変えてトップを掴んだ!ので!怖くてもやるべきだと思うよ1年生!」

 

通形さんがそう締めくくると皆一斉に拍手し始めた。

 

「話し方もプロっぽい……」

 

「"お客"か。確かに職場体験はそんな感じだったな」

 

「危ないことはさせないようにしてたよね」

 

皆も通形さんの話に思い当たるところがあったんだろう。

これで話は終わりっぽいし、相澤先生ももうそろそろ戻ろうと考えている。

思考を読む限りこの1時間分は全部説明で使うつもりだったっぽいし、余った時間は別のことで使うことを考え始めている。

でも、せっかくTDLまで使っていて、お姉ちゃんたちがいて、それで終わるのはもったいないと思う。もともと1時間使うつもりだったなら特に。

 

「先生……もう戻ろうと思っている所……悪いんですけど……」

 

「……なんだ」

 

「せっかくお姉ちゃんたちもいるので……余った時間は……実戦形式の模擬戦とか……どうでしょうか……残り時間も中途半端なので……悪くないと思うんですけど……」

 

「……まあ、一理あるか。この時間だけだぞ。次の授業は予定通り座学だ」

 

皆も私が授業の進行に口を挟むのが意外だったのか、ちょっとびっくりしてこっちを見ている。

 

「……皆……いい腹パン貰って疲れてると思うから……少し休んでて……」

 

「え、じゃあ瑠璃ちゃんはどうするの?」

 

透ちゃんが私に質問してくる。

腹パンを食らった皆を休ませると必然的に残るのは私と轟くんだけだから当然か。

でも、私もやりたいことがあるのだ。

 

「お姉ちゃん……私と模擬戦……してほしい……!」

 

お姉ちゃんと時間を合わせるのはなかなか難しいから、こういう機会がある時に手合わせしておきたい。

自分の成長を確かめるためにも。

 

あとお姉ちゃんの実力を皆に知らしめるためにも。もうさっきみたいな悪口は言わせない。

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