「え、瑠璃ちゃん1対1で模擬戦するの!?」
「ん……お姉ちゃんと……真剣勝負したい……」
「でも、ビッグ3なんでしょ?さっき先輩に皆で挑んでも一方的にやられたのに……」
「勝ち目が薄いのは……承知の上……それでも……やってみたい……」
透ちゃんが通形さんにボコボコにされたのを理由に止めてくる。
確かにお姉ちゃんに勝てるとは思っていない。
お姉ちゃんは空を飛べるから、跳躍しかできない私は圧倒的に不利だし火力も不足している。
そんなのは分かっているけど、それでもやってみたかった。
急に模擬戦の誘いを受けたお姉ちゃんも真剣な表情で私を見ていた。
「うん、いいよ。瑠璃ちゃんの成長を確かめるチャンスだし、どーんと胸を貸してあげるよ!」
「……がんばる……!」
「ふふ、しっかり見るのは合宿前以来だね。色々あったし、どれくらい成長してるか楽しみ!」
快く受けてくれたお姉ちゃんに安堵する。
思考を見る限りちゃんと本気でやってくれると思う。
相澤先生もお姉ちゃんの戦い方を見るのも勉強になると思っているみたいで、そのまま傍観の構えを取ってくれていた。
実際お姉ちゃんの広範囲攻撃の制御とか、調整の技術は一級品だ。
轟くんはもちろん緑谷くん、あとは意識してみてくれれば上鳴くんあたりの参考になると思う。
そのままお姉ちゃんとTDLのコンクリートで出来た岩山の方に移動する。
作戦は短期決戦しかないと思う。
お姉ちゃんは絶対に飛ぶから、私は岩山に隠れて隙を伺いつつ一気に二段ジャンプで跳躍して発勁か波動弾で決めるしかない手がないというのもあるけど。
のんびりしているとお姉ちゃんの大火力で岩山ごと吹き飛ばされておしまいだ。
だからなるべく速やかに、お姉ちゃんの虚を突いて決めないといけない。
とりあえずお姉ちゃんと向かい合う。
「じゃあいつでもいいよー!仕掛けておいでー!」
「ん……分かった……」
先手は譲ってくれるみたいだ。
お姉ちゃんのその言葉を受けて私は四肢に波動の圧縮を始める。
問題なく圧縮が終わったところで、右腕に波動を集める。
お姉ちゃんはチャージに時間がかかるから、まずは一気に畳みかけて先手必勝狙いだ。
波動弾で無駄に波動を消費したくないから、ここは真空波が最適だ。
そう思って真空波をお姉ちゃんの方に飛ばす。
お姉ちゃんは片手でねじれる波動を出してきて難なく相殺した。
「見たことない技だね。衝撃波?不思議!」
お姉ちゃんが反応してくれているけど、足に圧縮しておいた波動で一気にお姉ちゃんの方まで吹き飛んで移動する。
そのまま懐に潜り込んで両手で発勁を叩きつけようとする。
「早いねー。でも、瑠璃ちゃんが私相手に取れる戦い方ってそんなに多くないから、予想できるんだよね」
そう言いながらお姉ちゃんが両足からねじれる波動を放出して飛び上がった。
後方に飛びながらの飛行に、発勁は難なくいなされてしまった。
相変わらず私には真似できそうにもない芸当を難なく見せてくれる。
飛ぶために相当量の波動を出し続ける必要があるし、お姉ちゃんがすごく努力して飛べるようになったのは知っているけど、少し羨ましくなってしまう。
個性で活力を波動にしているお姉ちゃんだからこそ出来る技で、自分の波動を使う私には波動の量の関係で絶対にできない技だ。
「と、飛んだ……」
「波動とか爆豪がしてるみたいな強引な跳び方じゃないよなあれ」
「お姉さんの個性も"波動"なのかな?でもそうだとしたらどうやって飛んでるのかさっぱり……」
「瑠璃ちゃんが出してる波動とは色が違うけど、あれってそもそも波動なの?なんかすごいねじれてるし」
皆がお姉ちゃんの個性に関して考察している。
まああれを見て普段から私の波動を用いた攻撃を見ている皆が、"波動"の個性で間違っていないなんて思わないよね。
それはそれとして、お姉ちゃんに飛ばれてしまうと私の攻撃はほぼ届かなくなってしまう。
お姉ちゃんの戦闘スタイル的に飛ばないのは完全に舐められているとしか言えないから、ちゃんと向き合ってくれているっていう証拠ではあるんだけど結構困る。
とりあえず上空から見下ろされている状態だとお姉ちゃんの高火力の遠距離攻撃に勝ち目がない。
そう思って視界の外に逃げるために足に波動を圧縮、噴出して岩場の陰に飛び込んだ。
「ま、そうくるよねー。火力勝負はまだできないだろうし」
私は素早く岩山の陰を移動し続ける。
同じ所に居続けると絶対にお姉ちゃんはその岩山崩してくると思うし。
救助活動とかヴィラン退治とかの設定じゃなくて模擬戦だから、遠慮する必要すらないからいくらでもぶっ放せるはずだ。
実際今もお姉ちゃんの思考はどの岩山を崩すか迷っている感じだ。
何もしないで逃げるだけだと勝ち目なんか皆無だから、片手で作った小さ目の波動弾を岩と岩の継ぎ目の辺りで投げておく。
お姉ちゃんは相変わらず低威力のねじれる波動を出してすぐに相殺してくる。
やっぱりこれだと威力不足だ。
その隙に反転して進路を変えてお姉ちゃんに隠れている場所を予想させないように走り続ける。
「今投げてきたのがそこだからー、じゃあそこにしようかな。チャージ満たん出力30、
お姉ちゃんの思考からして私の進行方向の1個先の岩山を攻撃しようとしている。
なんで私の性格とか足の速さとかそんな情報だけで反転まで含めて正確に予測できるのか。しかも私が避ける前提で次の手も考えてるし。
進行方向を変えてどうにかお姉ちゃんの背後に回り込もうと走り続ける。
するとお姉ちゃんは予想とかはしていないのに自分の背後の岩山を崩しだした。
向かっていた岩山が、お姉ちゃんの広範囲の波動による衝撃波を受けて粉々に砕け散った。
「うんうん。やっぱり回り込もうとするよね。今方向転換したってことは……」
まずい。ここでこの前の練習の時に見せてもらった曲がる槍みたいなのを使われると逃げ場が無くなる。
もういっそ曲がってくるタイミングで上に跳んで、岩山を追加の波動ダッシュで思いっきり蹴って跳び上がってお姉ちゃんに特攻するか。
誘われてる気もするけど、どのみち隠れる岩山を一つずつ潰されたらジリ貧だし。
手にも波動を圧縮しておいて二段ジャンプできるようにして一応の緊急回避もできるようにしておけば最低限の対応はできる。
「続けて行くよー!
案の定曲がる波動の槍を打って来た。
波動を圧縮しながらギリギリまで引き付ける。
お姉ちゃんも私が避けることを確信しているのか、容赦なく腕をグリンと動かして槍を曲げて直撃コースにしてきた。
当たる直前で足で圧縮していた波動を噴出して一気に跳ね上がる。
空中で再度両足に波動を圧縮しながら、片手の波動で隣の岩山の方に吹き飛ぶ。
隣の岩山に着いたところで壁ジャンプの要領で圧縮していた足の波動を噴出してお姉ちゃんの方に吹き飛ぶ。
「素直に真っ直ぐ来るねー。でも、それを私が受ける必要はないかな」
お姉ちゃんはそのままさらに上昇して直接攻撃できないようにしてくる。
そんなことをされるのもある程度読めていたから、手の波動を噴出して再上昇をかけてお姉ちゃんを追う。
もうこの状態になっちゃったらここで決めるしかない。
着地狩りされるのは目に見えてるから逃げるなんて選択肢はない。
動けなくならない程度で今出来る範囲の大きめの波動弾を両手で作る。
お姉ちゃんも両手に渦巻くほどの波動を練り上げている。
正面から迎え撃つつもりみたいだ。
今の練り上げ方は
このまま打っても火力負けするだけだ。簡単に波動弾が霧散する未来が見える。
そう思った私は波動弾を作りながら、足に波動を圧縮し始めた。
今から圧縮するんじゃそんなに吹き飛んだりはできないけど、これを噴出すればお姉ちゃんの射線上から外れることが出来るかもしれない。
せめてもの悪あがきだ。
「じゃあ、決めよっか。
お姉ちゃんが特大の波動のビームを私に打ち込んでくる。
さっき多少圧縮した波動を足から噴出して少しでも身体を射線上からずらす。
当たるのは避けられないけど、最低限上半身は射線から外すことが出来た。
下半身はダメージ覚悟だから、そのまま波動を少し集中しておいて身体強化をかけておく。
「波動弾……!!」
下半身に
お姉ちゃんの手元で
そう思ったんだけど、私の波動弾はお姉ちゃん手元の
完全に威力不足だった。お姉ちゃんの手元まで届けば、減衰はしてもお姉ちゃんには当たるんじゃないかと思っていたけど、それすら叶わなかった。
そのまま落下していると、お姉ちゃんはサッと攻撃をやめて手を上に向け、私の方に向かって加速しながら落下してきた。
一応着地用に手に波動を圧縮し直していたけど、私が地面に落ちる前にお姉ちゃんが拾い上げてくれていた。
私を持ったままお姉ちゃんはふわりと地面に着地する。
「負けちゃった……」
「でも昔の瑠璃ちゃんだったら最初の1撃で終わりだったよ。成長してるって!」
「ん……でも……手も足も出なかった……」
「瑠璃ちゃんまだ1年生なんだから!気にしすぎても良くないよ!一歩一歩じっくり進んでいこ!ね?」
私がしょげているとお姉ちゃんが慰めてくれる。
慰めてくれるのは嬉しいけど、やっぱり悔しい。
お姉ちゃんの役に立つためにも、もっと力を付けないと……
そう思っていたらお姉ちゃんはにっこりと嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「それに、私は瑠璃ちゃんがお友達と普通に話せてるのが見れて嬉しかったよ。葉隠さんと仲良くしてるのは前に見たけど、今日見てた感じだとちゃんと皆と仲良くできてるみたいだったし」
「ん……そっか……」
「うん!瑠璃ちゃんが普通にしてても大丈夫なお友達が出来たんだっていうのが実感できて安心しちゃった!」
そう言ってお姉ちゃんは頭を撫でてくれた。
皆に見られている中で露骨に子供扱いされると流石に恥ずかしいんだけど……
あんまり2人で話してても時間がなくなっちゃうし、照れ隠しの目的も含めてちょっと足早に皆の方に戻る。
「ねぇ、なんかお姉さん波動に対してとさっきの感じで全然雰囲気違くない?」
「さっきは天然だと思ったけど、こうしてみると優しい姉って感じだな……」
「なんか、今のお姉さんは瑠璃ちゃんの部屋の写真のイメージそのまんまって感じだよね」
皆がお姉ちゃんに関して話している。
どうやらお姉ちゃんの滲み出る優しさと母性、それに実力をようやく理解できたらしい。
「通形先輩もそうだったけど、波動先輩も、雰囲気と実力が全然ちげーな……」
「あ、あの!聞きたいんですけど、お姉さんの個性って瑠璃ちゃんと同じ"波動"なんですか!?」
「ん?んーそうだねぇ。確かに個性の名前は"波動"だけど、瑠璃ちゃんとは全然違うよ」
「ん……お姉ちゃんの個性は……活力を……波動に変換してる……感知はできない……」
その後はお姉ちゃんの個性の説明になった。
お姉ちゃんの個性は勝手にねじれるしスピードは出ないし、威力を出そうとするとチャージが必要で時間がかかる。
さらに高威力にしていくとコントロールが難しいし周辺への被害も看過できないほどになるなどなど……
お姉ちゃんの戦い方を見ていると想像もできないけど、すごく扱いが難しい上に癖も強くて欠点も多い個性なのだ。
それを努力して努力して努力して、安定して飛べるようになったり、様々な形状の攻撃で周辺被害を軽減したり、色んな工夫や技術を身に着けてこの実力まで至っているのだ。
流石お姉ちゃんである。才能まである上に努力まで出来るのだ。まさに最強のお姉ちゃんだ。
それはそれとして、お姉ちゃんはこの技術やコントロールをリューキュウの下で、インターンで経験を積みながら学んだのだ。
通形さん程とは言わないけど、インターンの成果が表れてあれだけの戦いが出来るようになったと言っても過言ではない。
この話をお姉ちゃんがしたらまた皆はインターンへの期待を抱いていた。
「分かっただろ。これが雄英トップの実力だ。まだ時間余ってるし、好きなだけ揉まれて来い」
相澤先生がそう声をかけてくる。
私も5分と持たずに負けたし、通形さんの手合わせも5分もかかっていない。
なんだかんだでまだ20分くらい残っていた。
その後は皆でお姉ちゃん、通形さん、天喰さんの胸を借りて模擬戦をしてもらった。
手も足も出なかったけど、凄くいい経験になったと思う。
皆も色々思うところがあったようで、個性の応用やインターンについての思考で頭が埋め尽くされていた。
それにしても爆豪くんは謹慎で掃除をしているんだけど、これはだいぶ色んな意味で損をしたのではないだろうか。
自業自得とはいえ流石にちょっとかわいそうになってしまった。