「1年生のヒーローインターンですが、昨日協議した結果校長をはじめ多くの先生が"やめとけ"という意見でした」
ホームルームで相澤先生がインターンに関しての説明を始めた。
それがいきなり否定的な内容で、お姉ちゃんたちの話を聞いて期待に胸を膨らませていた皆は不満の声を漏らし始める。
「えーあんな説明会までして!?」
「でも全寮制になった経緯から考えたらそうなるか……」
「ざまァ!!」
「参加できないからって……」
インターンが立ち消えになりそうな雰囲気に、仮免を持っていなくてインターンには絶対に行けない爆豪くんが嬉しそうにしている。
「が、今の保護下方針では強いヒーローは育たないと言う意見もあり、方針として"インターン受け入れ実績が多い事務所に限り、1年生の実施を許可する"という結論に至りました」
「ガンヘッドさんのとこどうなんやろー……」
「セルキーさん連絡してみようかしら」
「……クソが!!」
「爆豪くん……みみっちぃ……」
「あっ!!?」
爆豪くんが一喜一憂しているけど、他人の不幸を喜んでいたらそんなことはなかったからそのことに文句を言うなんていうみみっちさに笑ってしまう。
自分が行けないのが悔しいとか遅れているのを見せつけられるのが嫌だとか、理由は理解できなくもないけどヒーロー志望としてちょっとどうなんだという態度だ。
それはそれとして、インターン受け入れ実績を見るとなるとミルコさんは絶対無理な気がする。
ミルコさんは実力は申し分ないけど、代わりに実績はほぼ皆無に等しい。むしろ私以外に職場体験やインターンの受け入れなんてことをしたことがあるのかすら怪しい。
「波動には個別に話がある。この後職員室に来い。以上だ。解散」
最後にそう言って先生は教室から出ていった。
……最近個別の呼び出しが多いんじゃないだろうか。
思考を見る限りインターンに関してみたいだけど、なんで私だけを呼ぶのかがよく分からない。
考え込んでいると透ちゃんが近づいてきて声をかけてくれる。
「瑠璃ちゃんまた呼び出し?一昨日も呼び出されてなかった?」
「思考的に……インターンのことっぽい……前回とは内容が違うけど……よく分からない……」
「心当たりなしかー。っと、呼び止めちゃった。待ってるから、行ってきちゃいなよ!」
「ん……ありがと……ちょっと行ってくるね……」
待っていてくれるという透ちゃんにお礼を言ってから職員室に向かった。
職員室では相澤先生が待ち構えていて、すぐに先生の席まで通された。
「話というのは他でもない。インターンに関してだ。すまんが、お前にだけは別の条件を付け加えることになった」
「条件……?」
いきなりすぎる話だった。私にだけ条件を付け加えるというのが意味が分からない。
「ああ。まず事情を説明する。仮免試験後から、公安が妙にウチの1年のインターンの時期を気にしていてな。確かに1年生からインターンを行うと言うのは異例ではあるんだが、ここまで注視する意味が分からん。ヴィラン連合への対策がどうなっているのか確認するためなんて説明をしていたが、それで2年生以上の対策を聞いてこないもんだからさらに理解できん」
「……確かに……意味不明ですね……」
先生の言うことは尤もだった。他の学年の話を聞かずに、1年生のインターンの時期だけを連合対策なんて理由だけで聞いてくるのは確かに意味不明だ。
「1年の仮免取得を早めていたことからインターンも早めることは予測できたことだ。こんなことを受験の申し込みをした段階や神野事件の段階で聞いてこなかった理由が分からん。だが、公安の態度が変わったタイミングを考えてようやく理解できた」
「……仮免試験ですか……?」
「ああ。お前の個性の詳細が公安側に知られた後から態度が変わったと考えると合点がいく。つまりお前を利用したいがために、インターンの時期を気にしていると考えるのが妥当だ」
「……なるほど……」
公安委員会が私の個性を利用してやらせたいことがあるから気にしていると考えるのなら、確かに理解できる。
でも表立って学校経由で依頼してこない理由はなんだ。調査なのか救助なのか偵察なのかは分からないけど、あまりいい印象は受けない。
「直接言ってこないで遠回しに確認してきていることから、あまり表立って言える内容ではないと考えるべきだ。そこで、お前にのみ条件を付け加えることとした。"理不尽な要求を公安にされた場合に跳ねのけることが出来るだけの胆力を持っている者"であること。これを条件として付け加える」
「……気の弱いプロヒーローだと……良いように使われる可能性があるって……ことですか……?」
「……言い方は悪いが、そうだ。公安が回したい仕事というのがどういうものか分からんが、直接依頼してこない時点であまり信用できん。だが、お前だけインターンに行かせないというのも成長の機会を奪うことになる。だからこの条件だ。代わりに、学生の安全を確保できるだけの実力と言いなりにならない胆力があると判断できれば、実績はある程度は目を瞑るつもりだ」
先生の言うことは尤もだった。
私が直接確認していないからあくまで先生の予測でしかないけどそう考えると納得がいくし、付けてくる条件も理解できる。
でもこの条件なら、ミルコさんは当てはまるんじゃないだろうか。
実績なんて皆無だろうけど、ビルボードチャートJPでトップ10の実力者だし、誰かの言いなりになったりはしない人だ。
「……先生……もし受け入れてもらえるなら……ミルコさんなら……学校側は容認してくれますか……?」
「ミルコか……確かにあいつなら言いなりにはならんか……実力も十分ではある……だが、受け入れの可能性はあるのか?ミルコはサイドキックすら取ったことがない一匹狼だろ」
受け入れてもらえる可能性はあると思う。
ミルコさんは、学生の間だけなら面倒をみてやるって言ってくれた。
電話を掛ければ、忙しいタイミングじゃなければちゃんとアドバイスもしてくれている。
卒業後にサイドキックにしてくれることはない気がするけど、卒業までなら受け入れてくれるかもしれない。
「ミルコさん……学生の間だけなら……面倒を見てくれるって……言ってくれたんです……プライベートの電話番号もくれて……たまにアドバイスも貰ってます……可能性は……あると思います……」
「……分かった。こっちでも校長に確認しておく。もし受け入れが出来るというなら他の奴らに言わずにこっちに伝えろ。示しをつけるためにも先方から指名があったという体にする」
「はい……!ありがとうございます……!」
今日の夜あたりに電話をしてみよう。
ミルコさんのパトロールが終わる時間は把握しているし、それ以降なら普通に対応してくれるだろう。
「失礼しました……!」
私が早々に出ていくと、鼻息の荒い緑谷くんとすれ違った。
インターンの件でオールマイトに頼みたいことがあるみたいだけど、オールマイトからサー・ナイトアイに紹介してもらうっていうのは無理があるんじゃないだろうか。
オールマイトの寿命の話って間違いなくナイトアイの予知によるものだろう。その状況でサー・ナイトアイがオールマイトに一切関わっていないなら喧嘩別れとかしてそうだ。
透ちゃんと一緒に寮に帰って食事やお風呂を済ませた後、私はさっそくミルコさんに電話をかけていた。
いつも通りサバサバしたミルコさんに、挨拶もそこそこに本題に入る。
「お願いしたいことがあって……インターンとかって……ミルコさんのところでやらせてもらえませんか……?」
『インターン?お前、もう仮免持ってんのか?』
「はい……!つい先日、合格しました……!」
カリッて音がするから多分生人参齧ってるなミルコさん。
仕事終わりの1本な気がするから邪魔して申し訳ないとも思うけど、私にとってはすごく大事な話だ。
「それに……波動も上手く扱えるようになってきましたし……!ある程度戦えるようにも……なったんです……!ミルコさんにも見てもらいたくて……!」
『私は卒業後に雇うつもりはないから、進路が狭まるぞ。来なくても今まで通りアドバイスだけならしてやるから、他の奴のとこに行った方がいいだろ』
「私がミルコさんの所がいいって……思っているのも……あるんですけど……実は……事情があって……」
そして私はミルコさんに事情を説明し始めた。
仮免試験で事情があって公安委員会の人に個性の詳細を読心も含めて伝えたこと。
それ以降、公安委員会の態度が変わって妙に1年のインターンの時期を気にし始めたこと。
学校は何か表立って言えない仕事をやらせようとしているのではないかと予測していること。
それを受けて、インターンの受け入れ先に条件を付けられたこと。
トガの襲撃以外は全部包み隠さず話した。
『あー、なるほど。あいつらならやりかねねーな。それで?私なら言いなりになることは絶対にないだろうってことか?』
「はい……それもあるんですけど……実力と胆力を併せ持った人なら……私の場合は実績には目を瞑ってくれるって……言われたんです……ミルコさんなら……強くて……胆力もあるから……私も……安心だなって……思って……」
『……まあ、そう言われるのは悪い気分じゃねーが……いいんだな?卒業後は本当に面倒見ないぞ』
「はい……!大丈夫です……!それでもミルコさんのところが……いいんです……!」
ミルコさんは少し考え込んだ後、やれやれといった感じで答えてくれた。
『分かった分かった。受け入れてやる』
「本当ですか……!?」
『ああ。こんなんで嘘吐いてどうすんだよ』
「ありがとうございます……!嬉しいです……!」
ミルコさんがインターンを了承してくれた。
仕方なさそうな感じではある言い方だけど、嫌がっている感じではなかった。
嬉しくて思わず笑顔になってしまう。
『んで?私はどうすればいいんだ?』
「今……先生に最終確認してもらってるんですけど……問題なければ……他の生徒に示しを付けるためにも……ミルコさんから指名があって……協議したって体にしたいみたいで……」
『まあ確かに一度指名してるからな。そのくらいは別に問題ねえが』
「ありがとうございます……なので……それが終わったら―――……」
それからしばらくミルコさんと書類のことを話したり、簡単な雑談をしたりしてから電話を切った。
それと同時にスマホからコール音が響いた。
お姉ちゃんからの電話だった。すぐに応答する。
「お姉ちゃん……?どうしたの……?」
『やっとつながったー!珍しいね!瑠璃ちゃんが長電話なんて!』
「ん……ちょっとね……」
『お?何かいいことあったでしょ?声が弾んでるね!』
声の調子だけでいいことがあったことを言い当てるお姉ちゃんは流石だ。
そんな風に思っていたらお姉ちゃんが話を続けた。
『っとと、そうだった。ね、瑠璃ちゃん、麗日さんと蛙吹さんについて聞きたいことがあって―――……』
お姉ちゃんの用件はお茶子ちゃんと梅雨ちゃんのことに関してだった。
3年生寮のお姉ちゃんの思考を見る限り、2人をリューキュウの所に推薦するつもりだろうか。
その情報収集の一環として私に話を聞きたいってことか。
2人にとってもすごくいい話だし、私も快く2人のことをいっぱい話した。