それから時は過ぎて週末になった。
ミルコさんに許可を貰えたことは翌日早々に相澤先生に伝えてある。
緑谷くんは今日サー・ナイトアイの所に行くみたいだ。
すごくいそいそと準備をしている。
それはそれとして今日は百ちゃんが皆のために予習会を開くことになっている。
私も教師側として呼ばれているし、透ちゃんも生徒側として参加することになっている。
他の生徒側は三奈ちゃん、響香ちゃん、上鳴くん、尾白くんだ。
基本的に百ちゃんが教えて、私は読心で間違った思考をしている所や躓いている所をフォローする予定だ。
透ちゃんと合流してから1階に降りると、上鳴くんと峰田くん、それに常闇くんと切島くんがいた。
「おはよー!」
「おはよ……」
「はよー」
挨拶をしあってからのんびり洗面所に行ったりして勉強会に備えて準備を進める。
やるべきことは終わったし、紅茶でも淹れようかな。
そう思ってお湯を沸かし始めてしまう。
「休みだねー」
「特訓に仮免とバタバタしてたから、今日くらいゆっくり「おはよー!!!」
のんびりと歯を磨いていた上鳴くんと峰田くんの近くを、緑谷くんが嵐のように過ぎ去っていった。
「しろよ!ゆっくり!」
峰田くんの文句も尤もだ。
大事な日なのは分かるけど、それならもっとゆったりと余裕を持って行動すべきだ。
「あっちの2人も、週末は仮免の講習か……今日俺らヤオモモの予習会やんだけど、お前らも来る?」
「わり、俺らも用事ある」
上鳴くんが仮免講習に向かった爆豪くんと轟くんの背中を見つつ切島くんたちを誘ったけど、用事があったらしく拒否されていた。
それにしても爆豪くん、『後ろ歩け!』とか大騒ぎしているけど本当に大丈夫かな。あの口の悪さを治さないで講習をパスできるんだろうか。心配だ。
それはそれとしてお湯が沸いた。
「紅茶淹れるけど……皆……飲む……?」
「飲むー!」
「俺も貰っていいか?」
「頂こう」
透ちゃんがすぐに反応したのを皮切りに、切島くんと常闇くんも希望してくれた。
上鳴くんと峰田くんは歯磨きしていたのもあっていらなかったみたいだ。
人数分淹れてテーブルに持っていく。
そのタイミングで峰田くんが口を開いた。
「今日のおかずどうしよ」
「……それぞれのライフスタイル」
「おかず?お昼ご飯の話?」
「……女子がいるところで……そう言う話しないで……」
透ちゃんがブドウ頭の戯言に純粋な反応を返している。
私も一瞬おかずってなんのことだって思ったけど、思考を読んで理解できてしまった。
何を口走ってるんだこのブドウ頭。
そういう話をするにしてもせめて女子がいないところでやって欲しい。
透ちゃんは疑問符を浮かべたままだったけど、私の反応を見て下ネタだって理解できたようだ。
ブドウ頭をぽかぽか叩いていた。
休日は予習会であっという間に過ぎ去っていった。
百ちゃんの的確な解説に加えて、私が理解できていない所を指摘して補足していったから、多分今日の範囲は皆ちゃんと理解できたと思う。
夕方になって共有スペースに戻ると、緑谷くんたちも戻って来ていた。
サー・ナイトアイにインターンを受け入れてもらえたらしい。
だいぶ頑張ったみたいだ。
「インターン先決まったんだぁ!よかったねぇ、デクくん!」
「凄いじゃん!」
「おめでとう緑谷くん!俺もうかうかしてられないな!」
「けど本当にすげぇよ緑谷」
「通形先輩の推薦でサー・ナイトアイの事務所だって?よかったなぁ!」
緑谷くんの報告に、皆が口々に賞賛の言葉を贈っていく。
実際サー・ナイトアイの事務所にインターンは結構凄いと思う。
その一方で緑谷くんの思考は結構後ろ向きな感じだった。
『僕に、ОFAを諦めさせるための採用なんて言えないや……』とか考えている。
どんな理由でも採用してもらえるなら、それだけの価値があると判断してもらえたってことだと思うんだけど。
「……どんな理由でも……採用は採用……緑谷くん……凄い……」
「あっ、そ、そうかな。ありがとう……!」
私が思考を含めた称賛の言葉を贈ると、緑谷くんは驚いた後に少し照れくさそうにお礼の言葉を言ってきた。
そんな感じで話していると、やっぱり皆の話題はインターンのことになっていった。
「学校側から、ガンヘッドさんインターンの実績が少ないからダメやって言われたぁ……」
「私も、セルキーさんの所に行きたかったわ」
「フォースカインドさん、インターン募集してねぇんだもんなぁ」
お茶子ちゃん、梅雨ちゃん、切島くんがぼやく。
「瑠璃ちゃんは?ミルコさんダメだった?」
「そもそも……ミルコさんはサイドキックすらいない……実績なんて……あるわけない……」
「そっか、そうだよねぇ……」
「つーか元から敷居が高いんだよ……インターンの受け入れ実績があるプロにしか頼めないにしても、ミルコすらダメってやべーだろ……」
「仕方ないよ。職場体験と違ってインターンは実践。もし何かあった場合「プロ側の責任問題に発展する」
私も相澤先生に私からは言うなって言われていたから話を合わせておく。
皆でぼやき続けていると相澤先生が割って入って来た。
「リスクを承知のうえでインターンを受け入れるプロこそ本物。常闇、その本物からインターンの誘いが来ている。九州で活動するホークスだ」
「ホークス!?ヒーローランキング3位の!?」
「流石だなぁ……」
常闇くんはホークスからの指名まで受けたらしい。インターンで指名ってよっぽどだし、本当にすごい。
「どうする、常闇」
「謹んで受諾を」
常闇くんも表情は憮然としているけど、内心が歓喜に満たされている。
すぐに承諾していた。
「それから、波動」
「……はい……」
相澤先生はここで私の話もまとめてしてしまうつもりみたいだった。
基本的に知らない体で話を合わせておくべきかな。
「お前にもインターンの誘いが来ている。ミルコからだ」
「ミルコ!!?」
「ミルコさんってさっき瑠璃ちゃんが実績ないって言ってたのにいいんですか!?」
「だよな!?ありなんですか!?」
皆も混乱してしまっていて先生を問いただす感じになっている。
まあ実際実績云々を無視できるならインターンに行ける人も増えるだろうから気になるのも当然だろう。
「ミルコに関しては先方から指名があり、ビルボードチャートトップ10と実力も突出していることから、会議の結果認めることとした。つまりほぼ特例ということだ。他の者も同様に指名があれば会議で判断するが、基本的によほどの実力者からの指名でなければ通るとは思うなよ」
「確かにミルコの所なら危険なんてないだろうけど……」
「瑠璃ちゃん、ミルコさんにプライベートの連絡先まで貰って気に入られてるもんねぇ。指名も来るかぁ」
「にしても、常闇も波動もビルボードチャートトップ10入りしてるプロから指名とかすげぇなぁ」
皆も一応理解は示していた。
透ちゃんなんかは私がたまにミルコさんと連絡を取っていることを知っているから、特に納得した感じになっている。
「それで……波動はどうする」
「喜んで……受けさせてもらいます……」
「分かった。常闇と波動には後でインターン手続き用の書類を渡す。それぞれインターンに行く日が決まったら教えろ。公欠扱いにしておく」
先生はそこで一回話を切った。
「良かったね!瑠璃ちゃん!」
「ん……ありがと……」
透ちゃん含めた女子に祝福されて少し嬉しくなってしまう。
常闇くんの方も男子が集まって同じように祝福していた。
「それから切島。ビッグ3の天喰がお前に会いたいそうだ。麗日と蛙吹にも姉の方の波動から話があるらしい。明日にでも会って話を聞いて来い。以上だ」
先生はそこまで言って早々に立ち去っていった。
「天喰先輩、何の用だろ」
「やはり、インターン絡みの話ではないかしら!?」
「嘘ぉ!?もしそうなら期待してまう!!」
お茶子ちゃんたちもこの流れでの話に期待が大きくなっている。
「少なくとも……お茶子ちゃんたちは……インターン絡み……少し前に……お姉ちゃんに……お茶子ちゃんたちのこと……色々聞かれた……」
「ほんと!?」
「お姉さんのインターン先って言うと……」
「ドラグーンヒーロー……リューキュウのとこ……」
私がそこまで伝えると、皆はまたざわめきついた。
「リューキュウって、そっちもチャートトップ10のヒーローじゃねーか!?」
「もし本当にインターンの誘いなら凄くない!?」
皆もどんどん盛り上がっていった。
リューキュウがどんなヒーローかとか、天喰さんがファットガムの所にインターンに行っているとか、ホークスやミルコさん、サー・ナイトアイのこととか、様々な話題がどんどん湧いてきていた。
切島くんも同じ流れで呼ばれているし、緑谷くんが通形さんの推薦を受けているのもあって同じように自分も推薦してもらえるのではという期待が大きくなっていっている。
どんどん高まる期待に、お茶子ちゃんたちは我慢できなくなったようだった。
「明日まで待てねぇ!俺、3年の寮に行ってくる!」
「お茶子ちゃん、私たちも行きましょ!」
「うん!」
3人は期待に胸を膨らませながら3年生の寮の方に駆けていった。
「いいなぁ麗日たち」
「俺らも頑張ろうぜ!」
「へっ、何がインターンだ。1年の俺らが行っても、雑用を押し付けられるのがオチだってーの」
三奈ちゃんの胸をいつものようにアレな表情で見ていたブドウ頭がやさぐれた感じで呟いた。
それにしても、このブドウ頭本当に隙あらば女子の身体を見てるな。
文句を言っているときまでそれってどういうことなんだろう。
とりあえずそっちを見ないようにブドウ頭の頭を後ろから叩いておく。
その様子に苦笑しながら上鳴くんがブドウ頭にツッコミをいれた。
「それはお前の職場体験だろ?」
「思い出させるなよ黒歴史ぃ!!」
ブドウ頭は頭を抱えながら嘆き始めた。
Mt.レディの所での職場体験、どれだけトラウマになっているんだろう。
さっきまでインターンに行ける私たちに対する羨ましさからちょっとなんとも言えない空気になっていたけど、峰田くんのおかげで皆の顔に笑顔が戻っていた。
峰田くんのエロ命の姿勢は一切評価できないけど、こういうところは憎めないのかもしれない。