俺の名は、狭間 玄乃(ハザマ ゲンナイ)現在25歳。
小中高と地元の九州で過ごし、高校卒業後に東京に出て就職するも、都会の水が合わずに体調を崩して数週間の入院後に会社を辞め、親戚が勤めている埼玉の町工場で働いて約5年、経営が苦しくついには倒産してしまった。
貯金を切り崩しつつもオンボロアパートの一室で過ごし、バイトで生計を立て始めてた2年前、慣れてきたところに現れたバイト希望の女の子の代わりに、店長に突然のクビを言い渡されてほかのバイト先を探しながらも、ついに貯金も尽きはじめてきてそろそろ地元に帰ろうかと悩みはじめていたある日。
夜中の公園のベンチに座り、コンビニで買った肉マンと缶コーヒーを飲み食いしながらぼぅとしていた時だった。
目の前に銀色のオーロラのようなカーテンが突然現れ、そこから一人の男性が姿を現した。
50代ぐらいだろうか、しわができはじめているがモデル、俳優並みに整った所謂イケメンの男性が俺の目前で足を止めた。
突然の出来事に混乱して、思わず何かの撮影かと周囲にカメラがないか見るが、その類の物は見当たらず、強いて言うなれば数メートル先にある監視カメラぐらいのもので、目の前の男性は俺の事を興味深そうに観察していた。
「僕の名前は海東大樹。
ディエンドライバーが君を選んだみたいだからね。
2代目ディエンドは君だ…受け取りたまえ。」
頭が回っていなかった俺は言われるがままに、どこか見覚えのある青い玩具のような銃を手に取っていた
「クラインの壺の中身の財宝も、次元をつなぐオーロラも、様々な世界のライダー達の道具も好きに使うと良い。
君の欲望の赴くままに行動したまえ。
…じゃあね。」
俺は一言も声を発する事もできずに、目の前の男が銀色のオーロラを通り、オーロラと一緒に消えて行くのをただ見ているしかなかった。
「…え?」
そして、今に至る。
「…夢じゃ、なかったのか。」
思わず受け取ってしまい、考えがまとまらないまま布団に入って寝たその早朝。
オンボロアパートの部屋のちゃぶ台に投げ出された、その青いおもちゃのような銃の形をしたもの。
『ディエンドライバー』
2009年に放映されていた特撮番組『仮面ライダーディケイド』の登場仮面ライダーキャラの一人で、仮面ライダーディエンドが使用していた変身アイテムである。
仮面ライダーシリーズはクウガが放映されてから、欠かさずに観ていたのでよくわかっているが、こういうおもちゃの類いを俺は買った事がなかったので、見た目が完全に仮面ライダーのおもちゃで、それが目の前にあることが変に思えた。
作中ではこのディエンドライバーは変身だけではなく、見た目通りに銃としても使え、さらにはライダーカードを使えばほかの仮面ライダーを召喚できるし、インビジブルやバリヤーといった便利な能力カードを使うことができる。
しかも全体的にシアンブルーに塗装されているそれは、2019年に放映された『仮面ライダージオウ』に登場した時のネオディエンドライバーverのものだ。
「…しかも本物の銃と思えるように、金属製でずっしりと重いし、ディエンドのカードは装填されたままみたいだな。」
思えばあの男は、自分のことを海東大樹と名乗っていた。
俺が知っているのはもっと若い頃で、確かに今思い出せば、海東大樹が成長して渋みがでたらあんな感じになるだろうということがわかる。
「でも、何で俺が二代目ディエンドなんだ?」
海東大樹は、ディエンドライバーが俺を選んだと言っていた。
確かに、仮面ライダーシリーズに登場するアイテムの中には高度なAIによって独自に行動するアイテムもあれば、何らかの意識を宿したと思えるものもありはするが、ディエンドライバーはそうではなかったはずだ。
「ディケイドのように、門矢士の存在そのものってわけでもない。
ディエンドライバーは大ショッカーから海東大樹が盗んで使っていただけで、ディエンドライバーが海東大樹を選んだとかいう描写はなかったはずだよな…」
俺がちゃぶ台の前にすわりながらうんうんと考え込んでいると、単身赴任中のサラリーマンの隣人が部屋から出て行く音が聞こえた。
俺の部屋は1階の角で、上には誰も住んでいないから、これで多少なりとうるさくしても迷惑はかからないようになった。
「…一度変身してみるか。」
俺はディエンドライバーを手に持って立ち上がる。
そして、カードが装填されているのをもう一度確認すると、ディエンドライバーの前方を引いてから、そのカードを一度引き抜いて、ディエンドの肩から上の姿が描かれたカードをもう一度差し込んで、ボルトアクションのように前方の部分を押し込んだ。
KAMENRIDE
次いでトリガーを引く
DI・END!!
4つのディエンドの紋章が射出され、そのうち3つの紋章が3色のシルエットに変化し、それらが俺に重なることでディエンドのスーツを形成する。
さらに10枚のライドプレートと呼ばれる半透明な青いプレートが頭部に突き刺さり、最後にボディカラーがシアンに染まって変身完了となる。
「…本当に変身できた。
変身解除は…ディエンドライバーを元に戻すんだったか。」
再びディエンドライバーを操作して変身解除をすると、俺が立っていた場所に、靴底の跡が残っていた。
「やべえ、変身時のスーツって、結構重量あんのか、失敗したな。
だけど誰かに見られる可能性を考えると、自分の部屋がベストだよな。」
再び、ちゃぶ台の上にディエンドライバーを置いて考え始める。
たとえ俺が二代目のディエンドになったとしても、この現代日本ではどうしようもないだろう。
「…自然災害、交通事故、どれだけの用途があったとしても、一般人の俺にどうしろと言うんだ。
すきにしろって言われても、どれだけの財宝や仮面ライダー達のアイテムがあるかもわからない…
そうだな、どれだけのアイテムがあるか確認しておく必要があるのか。
確か、クラインの壺とかいう場所に保管されているみたいだが、どうやればいいんだ?」
ディエンドライバーを手に持って、うんうん考えていると、目の前に銀色のオーロラカーテンが現れた。
「…この先にあるってのか?」
急いで玄関へ行き、靴を手に持って戻り、銀色のオーロラの前に来るがその先に行くことを躊躇してしまい、腕を伸ばそうとするが、やはり直前でやめてしまった。
知識として、この先に別の場所に行くことができるのをわかってはいたが、いざ行くとなるとビビってしまっていた。
2、3度深呼吸をしてから勢いで飛び込んでみると、淡い光が四方を隅々まで照らす大きな格納庫のような巨大な空間につながっていた。
手に持っていた靴を履きながら、中心の白く塗られている通路を歩く。
後ろを振り返ると、銀色のオーロラがうっすらと無くなっていき、この場所の全容がわかってきた。
前方後方には、見える先がわからない程、空間が伸びていて、左右は何メートルだろうか、大型トレーラーが左右に1台づつ置けるぐらいのスペースがあって、壁は淡い白一色に塗られていて、天井も淡い白い光が差しているが天井は霧がかかっているようで見ることができない。
そして、通路を挟む左右の空間に置かれている様々なもの。
ずらりと並ぶ、仮面ライダーのバイクの数々に、トライドロンとライドロン。
無造作に置かれた、AtoZのガイアメモリやスマートブレインのロゴが入ったアタッシュケースや、ガラスケースに入っているライダーマンのヘルメットらしきものが見える。
遠くには山のように積まれた金塊の延べ棒らしきものや、金銀財宝に、刀剣や、ライダー達の武器の数々。
ふと気付くと、スマホの時計は既に15時をまわっていた。
憧れの仮面ライダーのアイテムの数々を見ているだけで、心が躍るが、それはそれ、これはこれで腹も減ったので、一度部屋に戻ってきた。
いそいそと靴を脱いで、遅くなった昼飯を軽く食べると、ポケットに入れていた一枚の金貨らしきものを取り出した。
「これが本物なら、本当の金銀財宝って事になるが…
行って見るか。」
「ありがとうございましたー!」
わざわざ5つ先の駅を乗り継いでリサイクルショップに売りに行ったが、俺の財布はずいぶんと分厚くなっていた。
「…本物だったか。」
帰りに普段は買わないスーパーの寿司セットを購入して帰ると、家に帰りついてから、急に怖くなってきていた。
あの一枚の金貨が買い取りされた事で、調べられるんじゃないのかとか、ヤのつく人達に嗅ぎつけられるんじゃないのかとか、不安が襲ってきて、寿司の味もろくにわからずに完食してしまっていた。
急な不安に、ついには布団ごとアイテムが保管されている空間に行って、一夜を過ごしてしまった。
一夜明けて、いろいろと考えて見ることにした。
まず最初に、この財宝やアイテムは俺が自由に使っていいとなってる。
だからまずは、このオンボロアパートからまともな住居に引っ越して、住環境と身だしなみを整えて、かなり稼げる仕事をしている風な外観を装う必要があるってことだ。
この財宝はバレなれば税金もかからないだろうし、もしも金持ちをたかりに来るような変なやつらが現れたらディエンドライバーを使って別の世界に逃げればいい。
俺は良くも悪くも一般人で仮面ライダーに憧れはあっても、自分で変身して戦いたい訳じゃないから、一旦、あのアイテム群は、脇に置いて行動しよう。
それに、一晩考えて頭の中で思いついた『あの事』を実行してみるのもいいかもしれないからな。
俺は、昨日とは何も変わっていない自分のオンボロアパートに戻ってきて、なんとなく不安と安心感からか、大きなため息をついた。
俺は結局あのアパートを引き払い、九州に戻る事にした。
財宝の中から、日本の通貨を発見した俺は、200万程が入っている預金通帳を作って、アパートにあったいらないものをまとめてリサイクルショップに売りに行き、ゴミ処理をして軽トラック1台分もない荷物を実家に送った。
実家からは、もともと叔父の工場が倒産してから戻ってきてもいいと、両親から言われていたので、あらかじめ連絡を入れて実家に帰ることにした。
隣のサラリーマンのおっさんは、うらやましそうにした顔を隠そうともせずに、別れを告げられた。
「おかえりなさい。」
「大丈夫だったか?」
「ちゃんと、食べてたの?」
いつの間にか当たり前ではなくなっていた言葉に一喜一憂しながら、2~3ヶ月を片田舎の実家で過ごして、町の中心部でマンションを借りて、そこに引っ越しをすることにした。
両親からは随分と心配されたが、いい加減に働き口を探したいと言う名目と、実家暮らしでは片田舎特有の『若い者は働かないといけない』と言うプレッシャーをかけてきていたから、両親にも迷惑をかけていることがわかっていたので、少し離れた場所に住むことにした。
それでも、実家からは車で1時間ぐらいの距離なので、ちょくちょく両親が来るかもしれないとは思った。
まあ俺が、部屋にいるとは限らないが。
実は俺は、オンボロアパートを引き払い、実家に帰るまでに1月程、電車で移動しながらあちこちの地方を転々としながら、資金づくりをしていた。
身分証の名義を、悪いとは思っていたが、オンボロアパート時代の住所を使用しながら貴金属や小粒の宝石なんかを元手に資金調達を行いながら、仮面ライダー関係と、とある作品群の書物を買いあさるようになっていた。
そして今、市街地で住居を整え、身だしなみを整え、服装を整えて、ディエンドライバーを手にして、銀色のオーロラをくぐり抜けて別の世界に来ていた。
路地裏に現れて、道端に落ちていた新聞記事を拾って見てみると、日本語で『風都新聞』と書かれていた。
そう、俺は仮面ライダーWの舞台である風都へときていたのである。
俺はさっそく、『鳴海探偵事務所』を探し始めた。
ウィキによると、仮面ライダーWの主人公、『左 翔太郎』らが拠点とする探偵事務所は、風都の風花町1丁目2番地2号に建つ、古びた玉屋かもめビリヤード場の2階にあるとされている。
俺は、道を聞きながらも、その場所を探し当てた。
しかし、その場所には、古びたビリヤード場ではなくて、大きなボウリング場が建っていた。
「はずれか。風都はあっても、仮面ライダーがいない世界か。
この世界を起点に移動するか…風都の平行世界へ。」
そして、再び、路地裏に入って、別の世界に移動する。
この前の世界は、風都の仮面ライダーWがサイクロンアクセルだったし、その前の世界は仮面ライダーWがいるが、それ以前の仮面ライダーがいない世界だった。
俺が探している世界は、少々ややこしいだろうが、歴代の仮面ライダーに変身した人々はいても、仮面ライダーがいない世界だ。
『仮面ライダー作品群が合わさった世界だけど、仮面ライダーも敵組織も現れず、ある程度平和な世界』と、『ある世界』が合わさった世界を俺は探している。
いろいろと世界を渡り歩いているうちに、銀色のオーロラの設定や使い方、世界線の移動のやり方などがわかってきていた。
今では、自分がもともといた世界に自由に戻れるし、とある世界を起点にその平行世界を探すことも可能になっていた。
そして、ついにその世界を探し当てることに成功したのだった。