SIDE左翔太郎
その日、俺とおやっさんは、依頼人が来る時間が近づいていたので、事務所で待機しながら、コーヒーの準備をしていた。
と、言ってもコーヒーを入れているのはおやっさんだ。
曰く、『コーヒーは人生の相棒だ』ということらしい。
く~、ああいうセリフ、俺も堂々と言ってみたいぜ。
すると、入り口のドアが開き、取り付けられた鈴の音が鳴った。
入ってきたのは、一人の男性、年は二十代後半だろうか、ジーパンにグレーのシャツ、その上にチェック柄のYシャツを羽織って、リュックサックを背負い、右手には銀色のスーツケースを持っていた。
「電話を入れていました。狭間玄乃といいます。
今日は、よろしくお願いいたします。」
と、頭を下げてきた。
俺は、慌てて、依頼人の元に行き、紹介をする。
「ようこそ、鳴海探偵事務所へ、自分は助手の左翔太郎、そしてこちらが。」
「当事務所の探偵。鳴海荘吉だ。
まずは、席へどうぞ。」
俺は、その狭間と名乗った依頼人をソファーに案内して、おやっさんが来るのを待つ。
「まずは、コーヒーをどうぞ。
味はその都度、代わりますが味は一級品のオリジナルブレンドです。」
おやっさんは、依頼人の正面に座りながら、自分と、依頼人のコーヒーを置き、依頼人は背負っていたリュックサックを足元に置くと、そのコーヒーを受け取り、一口飲む。
「…確かに。苦味の中にほのかな酸味と甘味を感じます。
おいしいですね。」
そう言って、コーヒーを置いた。
「それで、どんなご依頼で?」
「そう、緊張なさらないでください。
困り事ならば、万事お力になれると思います。
人探し、浮気調査、何でも言ってください。」
おやっさんが話を切り出すも、依頼人は答え辛そうな顔をしていたので、思わず横から声をかけてしまった。
すると、依頼人は、軽くため息を吐くと、意を決したように
「実は、人探しをお願いしたいのです。」
「詳しく、話を聞かせてもらいたい。」
「まずは、これを。」
するとその依頼人はソファーの足元に置いてあったスーツケースを机の上に置くと、鍵を開き中に入っていたものをこちら側に見せてきた。
中に入っていたのは、赤色の同じ型をしたベルトのバックルのようなものが二つと、黒色の長方形の機械のような、見た限りでは、大きなUSBメモリらしきものが二つ。
「これは?」
「まずは、こちらのメモリを持って見て下さい。
鳴海さんはSの方を、左さんはJの方のメモリです。」
そう言われて、黒色のメモリを持ってみると、なかなかの重さだった。
表面には、何かモチーフがあるのだろうか?
変わった形の『J』というイニシャルが入っているようだった。
不思議なのは、初めて見る代物なのに、手になじむというか、いつも肌身離さずに持っていたかのような気になってしまう感覚がした事だ。
「表面に、ボタンがあるので、押してみてください。」
確かに、イニシャルの端に押し込むような出っ張りがあったので、押してみる。
SKULL
JOKER
その機械音声が鳴った瞬間、頭の中で様々な光景が見えた。
敵の凶弾に倒れ、俺に帽子を託すおやっさん。
炎の中で、後の相棒になるフィリップとのビギンズナイト
ドーパント達との戦闘や事件を解決していく日々
そして、はじめてエクストリームに変身した瞬間
「…おやっ…さん!?
…生きてるよな…ガイアメモリにドーパントに!?
いや、今は2007年だろ!?
いったい…何が、どうなって…」
「俺は、未来で、ミスで死ぬと言いたいのか?
…いや、ならばなぜ、翔太郎のことを知らない自分が、翔太郎を認めているようなことを言っている?
それに、シュラウドに依頼した覚えもなく、かつての相棒は、妹分と結婚して幸せに暮らしているはず。」
「おい、あんた!何で、ガイアメモリとロストドライバーなんか持ってるんだ!?
それに、この記憶はどうやって!?」
俺は、思わず狭間という男に詰め寄り、聞き出そうとした。
「落ち着いて下さい。最初から説明させていただきますので。」
「いいだろう。翔太郎、お前も座れ、1から説明してもらおうじゃないか?」
おやっさんが珍しく、苛立った声で言うもんだから、思わず、近くの椅子に座ってその男をにらみつけた。
SIDE狭間玄乃
仮面ライダーダブルの主要人物達が、自分に向かって、にらみつけている。
体が震えそうになるが、意を決して、話しを切り出した。
「まず、鳴海荘吉さん、あなたはこの世界では普通の探偵という職業に就いているだけの方です。
しかし、別の世界では、あなたは仮面ライダースカルで、ミュージアムと戦う戦士でもあります。」
「『別の世界では』とはどういう意味だ?」
「そのままの意味です。
平行世界、パラレルワールド、マルチバースというものをご存じでしょうか?」
「理論だけならな。眉唾物のおとぎ話程度にしか印象になかったが、今の記憶は、平行世界の記憶を見せられた。
そういうことか?」
「そうなります。」
「ということは、依頼人、あんたは別の世界の出来事を他人に見せることができる。
もしくは、別の世界から来たと、そう言いたいのか?」
「単刀直入に言えば、そうなります。
信じられないのも、よくわかるつもりです。
しかし、『別の世界からの存在』は、左翔太郎さん、別の世界のあなたの記憶を見たあなたならば、思いあたるはずです。」
「どうなんだ?翔太郎。」
「ちょっと待ってくれ、おやっさん。
そんな、いきなり言われても…ん?もしかして…ディケイドのことか?」
「そう、仮面ライダーディケイド。
様々な世界を巡り、渡り歩く、次元の渡航者です。」
「待てよ!ディケイドは、門矢士であんたじゃないだろ!」
「そうです。俺は、ディケイドではありません。
ですが、彼に近しい存在であり、共に戦いあった仮面ライダー。
仮面ライダーディエンドの二代目なんです。」
そう言って、俺は、手元のあたりに銀色のオーロラを発生させて、ディエンドライバーを取り出して、机の上に置いた。
「今、『どこから』取り出した?
何か、銀色の膜のようなものが見えたが、まさかお前はドーパントか?」
「早とちりしないでいただきたい。
この能力は、先代から受け継いだ能力のひとつで、クラインの壺と呼ばれる空間からいろいろとものを出し入れすることができるんです。」
「ずいぶんと、便利な能力だな。
翔太郎、見覚えはあるか?」
「えっと、ディケイドと一緒にいた仮面ライダーが持っていた武器に似ていると思うぜ。
俺が知っているのは、全体的に黒い色だったと思うけどな。
それに、ディケイドと違って、そこまで良いやつのようには見えなかったがな。」
「ご明察の通り、先代の仮面ライダーディエンドの変身者だった、海東大樹という方は、そこまで善良という訳ではありませんでした。
さらに言えば、先代は、怪盗を自称する、仮面ライダー専門の泥棒という方だったんです。」
「ほう、泥棒の二代目がどうしてここにいる?
自首をするなら警察へ行け。」
「だから、早とちりしないでいただきたいと言ってるんですよ!
先代は、確かに怪盗というものを楽しんで行っていた人でしたが、自分もそうだと決めつけないでもらいたい。
俺だって、いきなり二代目だとか言われて、押しつけられたんです。
こんな危険物、手放せるなら手放してしまいたいというのが、本音です。
ですが、これらの危険性を理解している手前、簡単に処理出来ないということもわかっているんです。
現に、ロストドライバーとガイアメモリをあなた方に渡しているではないですか。」
「ちょっと待て、狭間と言ったな。
お前は、その泥棒の弟子だから受け継いだということではないのか?」
「違います。俺は、仮面ライダーを知っていても、何の関わりのない一般人でした。
海東大樹さんがいきなり現れて、二代目として、このディエンドライバーを渡されてクラインの壺の中身を自由にしていいという名目で、押しつけられたというのが、現状なんです。」
つい、勢いで言ってしまったが、このことは元々言うつもりだった。
ある程度の真実を話さなければ、信用は得られないと思っていたからだ。
「矛盾だらけの発言だな。
一般人だと言ったが、どうして、ガイアメモリの危険性を知っている?
あれは、裏社会にある程度出回っていても、その危険性まで、知っている者はほとんどいないはずだ。」
そう言われたので、あらかじめ用意しておいたものを、足元に置いたリュックサックから取り出した。
「CD…いや、DVDか?
そんなものを取り出して、どうしたというんだ?」
俺は、さらにノートパソコンを取り出して、起動し、そのDVDを挿入して、動画を再生、それを二人に見えるように置いた。
そして、動画、仮面ライダーダブルの第一話が始まって、鳴海荘吉が死に、仮面ライダーダブルが誕生、そしてオープニングが流れはじめる。
ちなみに、出演者や、スタッフの表示は消してあり、オープニングは最初の第一話だけで、あとは最後までつなげて見られるように編集済である。
二人は声を失い、食い入るようにその画面を見ていた。
そして、第一話が終わったあたりで、一時停止をして、二人の様子を見る。
「な、なんだ、いったい…これって。」
「これが、俺が異世界から来たという証拠でもあり、矛盾が矛盾ではなくなる理由です。
俺がいる世界では、仮面ライダーというジャンルの特撮映像作品があるんです。
そこでは、仮面ライダーは、架空の存在であり、サブカルチャーのひとつであり、子供達のヒーローなんです。」
左翔太郎が狼狽しながら、言葉にならない言葉を話そうとしているのに被せるように、俺は、二人に訳を話したのだった。