『スティーブ・ロジャース、1918年7月4日生まれ。
ナターリア・アリアノーヴナ・ロマノフ、1984年11月22日生まれ。』
「何かの録音ね。」
『私は録音ではないぞお嬢さん。
1945年にキャプテンに捕虜にされた時とは随分違うが、私は私だ。』
画面の上部に取り付けられたカメラが、まるで生きているように動きながら電子音声にも似た声がどこからか聞こえてくる。
すると近くの別の画面に眼鏡をかけた老人の白黒写真を写し出された。
「こいつ知ってる?」
「アーニム・ゾラ、レッドスカルの部下だったドイツの科学者…とうに死んだはず。」
『修正1、私はスイス人だ。
修正2、よく見たまえ。この通り私は生きている。
1972年に私は不治の病だと宣告された。
科学では私の肉体を救えなかった。
だが私の頭脳はデータバンクとして残された。
長さ6万メートルのテープでな。
君達は私の脳の中に立っている。』
ロジャースさんは不審なものがないか周囲を歩きまわっているようだった。
「どうやってここへ?」
『招かれたのだ。』
「第二次大戦後のペーパークリップ作戦ってやつね。
S.H.I.E.L.D.が有能な科学者を集めたっていう。」
『アメリカの大義のためにな。
そして私にも大義があった。』
「ヒドラは消滅したはずだ。」
『頭を切り落としてもまた二つ生えてくる。』
「…証明しろ。」
『アーカイブにアクセス…人類は自由を持たせるに値しないという信念の元、ヒドラは生まれた。
だがあの戦争で学んだよ。
自由を奪おうとすれば、人類は抵抗する。
だから人類が自ら自由を差し出すようにしなければならない。
戦争の後、S.H.I.E.L.D.が生まれ、私も招かれた。
そして新たなヒドラもまた寄生虫のようにS.H.I.E.L.D.の中に育っている。
70年の間、ヒドラは密かに戦争や飢饉を生み続け、力を蓄えてきた。
歴史が言うことをきかなければ、歴史を変えた。』
「嘘よ。S.H.I.E.L.D.はあなたを止めたはず。」
『誰にでも事故は起きるものだ。
ヒドラは世界を混沌の渦に突き落とした。
今や人類は安全を得るためならば進んで自由を差し出す。
粛清が終わったその時こそ、ヒドラによる新たな世界秩序が誕生する。
我々の勝ちだキャプテン。君が死のうが生きようが同じ事。
…だが、私の唯一の誤算。
君だよ。ゲンナイ・ハザマ。』
「…でしょうね。」
『君の出生記録は存在しない。
2007年5月11日にいきなり日本に現れた。あの銀色のオーロラを通り抜けて。
仮面ライダー…とても不可解な存在だ。』
二人は俺と画面を行ったり来たりと見つめている。
『ヒドラは繋がりを持つ闇の手を支援して日本を支配しようとしていた。
それは目前だった。
しかし、仮面ライダーによって日本の支配下計画は頓挫し、もはや闇の手を支援することも難しくなっている。』
「そうだ…車の中でもハザマは言っていたな。
今まで沢山の敵組織が存在して、それを仮面ライダーは打ち倒してきたと。」
『そのような事実も記録もない。
私は今言ったぞ。仮面ライダーは突然現れたと。』
「どういうこと?
私達に嘘を付いたの?」
「嘘はついていません。
仮面ライダーはそれぞれがそれぞれの理由でそれぞれの敵と戦ってきました。
…マルチバース、それが答えです。」
『その議論にはとても興味があるが、あまり猶予は残されていない。』
「はっ…まずいわ。短距離ミサイルが来る。
後40秒。S.H.I.E.L.D.よ。」
「あのファイルの中身は!?」
『インサイト計画、恐るべき計画だ。
私がそのアルゴリズムを書いた。』
「お二人共!俺がゲートを開きますから地上へ!
早く!」
俺はエレベーター前にオーロラを開いて、地上への道を作った。
「まさか、私もこれを通り抜けることになるなんてね。」
「ハザマ、地上に出たら詳しい話を聞かせてもらうぞ!」
「まずは生き延びてからです!早く!」
俺達三人がオーロラを通り抜けるとそこはキャンプ・リーハイから数100メートルほど離れた雑木林で、ちょうどミサイルが落ちるところが見えていた。
俺達はそれぞれ木に隠れて爆風をやり過ごす。
「車は周囲に見えますか!?」
「あっちに見えるわ!」
エージェント・ロマノフが指を指す方向に再びオーロラを開いて通り抜けると、凰蓮さんと耀子さんが周囲を警戒しながら車の外に出ていた。
「無事だったみたいね。」
「なんとか。
やつらがミサイルの落下地点に夢中になっているスキに移動しましょう。」
凰蓮さんの言葉に答えて全員が車に乗り込むと、ライトを着けずにゆっくりと走りはじめた。
その後ろには、三機のクインジェットが瓦礫の山をライトで照らしながら飛んでいる姿が見てとれた。
ある程度移動するとロジャースさんが聞いてくる。
「ゾラが言っていたことは本当か?」
「マルチバースと言っていたわね。
どういうこと?」
「まずはロジャースさん。この世界に突然仮面ライダーが現れたというのは本当です。
ですが、この世界には仮面ライダーに変身できる人達は既に存在していました。
エージェント・ロマノフ、その言葉の意味はわかりますか?」
「周りくどいぞ、はっきりと言ったらどうなんだ。」
「マルチバース、並行世界、仮面ライダーを連れてきた?
でもこの世界には既にいたのならそれは違うわよね。
どういうことなの?」
「俺がこの世界に持ち込んだものは、『力』と、『記憶』です。」
「!あなたまさか…」
「耀子さんと凰蓮さんには話をしていませんでしたがちょうどいい機会です。
俺はこの世界とは別の世界から来た、『異世界人』です。」
「異世界人?あの銀色のゲート能力か!」
「そうです。ロジャースさん。
ゾラが言っていたように俺はこの世界の生まれではないので出生記録がありません。
俺はこの世界の日本に、仮面ライダーとしての力と別の世界では仮面ライダーだった者達にその記憶を与えているのです。」
「関係のない人達を引き込んで戦わせているというのか!?」
ロジャースさんは今にも飛びかかって来ようかという状態のようだったが、そこに畳み掛けるように言う。
「アメリカにはヒーローがいるのに、日本にいてはいけないのですか?」
「そう思うならば!」
「俺一人で戦って潰されろと?」
「そうじゃない。どうして周りに頼らなかった!?」
「頼ったからこそ、今のSPIRITSがあるのです。
ロジャースさんが目覚めてすぐに顔も知らない東洋人が現れて、S.H.I.E.L.D.でもないのに日本を救ってほしいと言われても即座に動けますか?」
「S.H.I.E.L.D.が止めるでしょうね。
そもそも、スティーブに会えたかどうかもわからないわ。
最悪、ハザマは指名手配されたとしてもおかしくないわ。」
「…ナターシャ、それは。」
「それが順当でしょう。
俺がやってきたことはロジャースさんにとって受け入れられないものかもしれません。
しかし、ロジャースさんが手に入れたその力もまた祖国を守りたいからこそ手に入れたのではないのですか?」
「…君達はそれでいいのか?」
力なく座席に座り直したロジャースさんは、前の座席の二人に聞いた。
「…ロシアの軍にいた時にはね、新兵が死ぬ度にもっと力があればと思った事は1度や2度ではないわ。」
「…ピエール。」
「その望んだ力が目の前にあるのに、手に取らないわけないじゃない。
別の世界のワテクシの記憶も、受け取った力を使いこなしている記憶なのよ?
この力があれば、新兵達を少なくとも死なせないぐらいのことができるかもしれないわ。
だから今のワテクシの選択に後悔はないわ。」
「君はどうだ?」
「…私は元々闇の手やヒドラ側の人間だったのよ。
この世界でも、別の世界でもね。
でもね、狭間さんはそんな私の手を躊躇なく掴んで正義の側に引き上げてくれたのよ。
しかもこの世界で与えられた力は、別の世界の力とは違う力だったわ。
だから今度こそ、私は誰かを守れる側の人間として戦っていくつもりよ。
誰にもその思いは邪魔させるつもりはないわ。
…そしてゆくゆくは…ウフフフフフ。」
「ちょ、ちょっと待て、いきなりどうしたんだ彼女は??」
「ああ、耀子さんはたまに妄想に浸ってしまう時があるので気にしないでください。」
「そ、そうなのか?
いきなり雰囲気が変わって驚いたぞ。
もっとクールな女性に見えたが…」
「ともかく、仮面ライダーの歴史とはそれぞれの世界で戦ってきた仮面ライダー達の記録を俺が持ち込み資料化したものです。
フューリーさんとの会談では少々大げさに言いましたが概ねそういうことになります。
それでも、現在この世界で戦っている仮面ライダー達にも別の世界の自分たちの記憶を持っていますので、自分たちが戦い打ち倒してきたという風にも言えなくもないですね。」
「…なるほど、そういう風にフューリーに言ったから『地球の守護者』なんてことを言ったのか。
本当に周りくどいぞ。」
「因みに、今の話はSPIRITSの重要機密ですので、言いふらせば今後のSPIRITSの協力はないかもしれませんね。
特にエージェント・ロマノフさん。」
「…残念ね。いい脅迫材料が手に入ったと思ったんだけど、ピエールに免じて聞かなかったことにしてあげるわ。
それと、この際だから私のことはナターシャでいいわよ。」
「…ふっ、そうだな。
SPIRITSとは今後も協力をしていきたいと思ってる。
だから僕もスティーブでいい。」
「ありがとうございます。
スティーブさん、ナターシャさん。
話がまとまったところで、今後の予定を話します。」
「どうするんだ?」
「まず、我々が泊まっているホテルは既にS.H.I.E.L.D.に知られています。
しかし、知られていないだろう場所が一ヶ所だけあります。」
「…サムか。」
「そうです。現在、本郷さん達はウィルソンさんの家に集まっています。
そこに合流して作戦を練りましょう。」
俺達を乗せた車はライトを光らせてワシントンへと向かっていた。
感想にありましたけど、主人公はエンシェントワンが怖いので余計なマーベル知識を言いふらしたりはしません。
感想待ってま~す