鳴海荘吉は、大きなため息をつきながら言う。
「一般人でも、ガイアメモリの危険性を知っている。
その理由がこれか…
この映像作品は、後で見せてもらいたいが。」
「ちょっと、おやっさん!?」
「翔太郎は黙っていろ、平行世界のお前達の道筋を見させてもらう良い機会だ。
父親として、娘の成長も気になるところだからな。
狭間、お前が異世界から来たというのはわかった。
だが、なぜ俺達にドライバーとメモリを渡す?
この世界と全く関係がないお前は、そのクラインの壺とかいう空間に、ドライバーやメモリは放置したままであれば、関わる必要すらないだろう?
むしろ、先代の仮面ライダーと関わり合いになりたくないのであれば、そちらの方が自然だ。」
「鳴海さん、あなたはもう一つ、勘違いをしています。
俺は、別段、海藤大樹さんを嫌っているわけでも、仮面ライダーディエンドが嫌いなわけでもないんです。
むしろ、俺は、仮面ライダー作品のファンなんです。
俺は、ディエンドの能力を手に入れたことで、画面の中でしか、見たことがない仮面ライダー達を現実として見られる。
こんなロマンあふれる機会が舞い込んで来るなんて夢のようでしかありません。
ですが、それでも俺は何の戦いができるわけでもない一般人なんです。
ですから、仮面ライダー作品に登場した場所、人物達はいても、戦いのない平和な世界に来て、見てまわるだけでも、満足したいと、俺はこの世界に来たんです。」
「え、でも、それなら、何でドライバーとメモリを渡すんだ?
この事務所に来て見て回るだけで満足なら、渡す必要すらないだろ?
こんな説明までして、何がしたいんだ、あんたは?」
「そうだな。ミュージアムのないこの世界に、仮面ライダーは必要ないだろう。」
俺の熱弁に疑問を感じたのだろう、左翔太郎はそう言い、鳴海荘吉がそれに同意した。
そこでようやく、俺は、この世界に組み込まれている、ある世界の話をする時がきたと思い、話しを切り出す。
「ここから先は、ある程度、覚悟を持って聞いてもらいたいのですが、『闇の手』または、『ザ・ハンド』という組織を知っていますか?」
「…どこでその名を聞いた?
むやみやたらに口にしていい名ではないぞ。」
急に声色が低くなった鳴海荘吉が言う。
「この世界に来てすぐです。
確かにこの世界は、平和なように見えます。
ですが本当に、たとえ仮面ライダーがいなくても、平和な世界なのか、確証を得る為に調査をしました。
そして、確かに、仮面ライダー達の敵といえる組織等は見つかりませんでしたが、それ以外を見つけてしまったんです。」
「それが、『闇の手』だとかいう組織なのか?
おやっさん。俺は聞いたことはないぜ。そんなやつら。」
「まだ、半人前のお前に教えるわけがないだろう。
日本のみならず、世界にまで手を広げる、裏社会をほぼ手中に収めている巨大組織らしいとは、俺もある筋から聞いてはいたが、これでも、そちらの方面には警察に任せて、仕事を制限してきたつもりだったんだがな。」
「裏社会に広がる巨大組織です。あなたが優秀な探偵であればあるほど、いつか関わりを持つことになるでしょう。」
そう、この仮面ライダー達がいない世界は、仮面ライダー作品の敵組織もない世界だ。
しかし、Marvel 世界と合一したこの世界では、かつてはキャプテンアメリカが活躍し、スタークインダストリーという企業が存在し、日本では改造人間並みのニンジャ達が暗躍しているのだ。
俺は、仮面ライダーディエンドの力を手に入れた。
そして、Marvel作品、アベンジャーズシリーズに仮面ライダー達が出るのをみたいと思った。
しかし、仮面ライダーには、それぞれに敵組織があって、日本では闇の手とダブルブッキングは、さすがに厳しいだろうと思い、俺が持つ仮面ライダー達のアイテムを提供することで、敵組織を一つに限定しようという考えだ。
たとえ、俺が戦うことになっても、召喚した仮面ライダー達に戦ってもらえばいいし、インフィニティウォーで負けて、俺自身が危なくなったら、元の世界に逃げ込めばいい。
そう思っていたからだ。
「闇の手か…まるで、財団Xだな。
なるほど、だから、あんたは俺達にドライバーやメモリを渡して、もしも闇の手のやつらが現れても対処できるようにしたかったのか。」
「そうです。そして、これが、探してほしい人たちのリストになります。」
表向きの理由に納得した左翔太郎と、何やら考え込んでいるような鳴海荘吉に、リュックサックからクリアファイルを出して、テーブルの上に置く。
鳴海荘吉はそのリストを手に取ると、ぺらぺらとめくりながら、内容を見始めた。
「ずいぶんとあるようだな。
所在地が判明している者もいれば、そうでない者達もいる。
警察官のリストもあるようだが。」
「所在地が判明しているとしても、それは特撮映像作品でそこにいたというだけに過ぎません。
実際には、そこにいないかもしれないので、確認をお願いしたいのです。
それと、そのリストは平行世界の仮面ライダーの変身者を含む、仮面ライダーに関係が深い関係者達のリストも含まれています。
平行世界で仮面ライダーだった者達は星のマークで表記していますので。
それと、できる限り、そのリストに書いてある人達との接触は避けていだだけると助かります。」
「なぜだ?」
「たとえ平行世界で仮面ライダーだった人達だとしても、こちらの世界では平和な世界で生活している人達です。
闇の手という脅威があったとしても、むやみに騒ぎ立てる必要もありませんから。
あなた方と同じように、こちらで接触をはかりたいと思います。
それと、警察官達については、いつかのタイミングでこちらから接触して、協力を求めたいと思っています。
仮面ライダーの中の、警察官出身の方は、警察組織の技術で作られた者達もいます。
彼らに、こちらが持っている技術を提供して、協力を仰げればと。」
「いろいろと穴だらけの考え方だが、いいだろう。
依頼を受けさせてもらおう。」
「ありがとうございます。
こちらに、前金で100万ありますので、お役立てください。
定期的に、そうですね…月に一度は顔を出しますので費用が足りないようでしたら、その時におっしゃってください。」
「了解した。
それと、まだ何か頼みごとがあるんじゃないのか?」
俺が、説明をしながら、リュックサックから封筒を取り出して、目の前に置くと、鳴海荘吉が、聞いてきた。
「よくわかりましたね。」
「こちらからしたら、肝心のことが抜けていたからだ。
このリストには、フィリップのことが書いてなかった。
そして、ミュージアムの本拠地でもある園咲家についてもリストになかった。
そして、机の上に置いてあるのは、ロストドライバーとスカルとジョーカーのメモリだけだ。
肝心のダブルドライバーが無いことを不思議に思うのは当然のことだと思うがな。」
「そうですね。このリストのこととは別に、園咲家とコンタクトがとれるように、アポイントメントをお願いしたい。
できれば、訪問のさいに、同行をお願いできないかと思っていいました。」
「ふん、そんなことだろうとは思っていた。
いいだろう。それで?お前への連絡はどうすればいい?」
「元々の俺がいた世界でも、やらないといけないことがありますから、できれば一月後にこちらの事務所に顔を出しますので、その時に進捗をお願いしたいです。」
そうして、正確な日時をカレンダーを見ながら決めて、ノートパソコンと仮面ライダーダブルのDVDをそのまま渡して、その場を終えた。
そして、俺の元の世界に戻ると、急に汗がふきだしはじめ、携帯を見ると、両親からのメールがたくさん入ってきていた。
そして、それから一月後までの俺の行動は、あの世界で活動するための理由づくりに動いていた。
ちょっとした裏技を使って、宝くじの2等を当選させて、両親に報告。
俺は、就職を一旦辞めて、夢だったキャンピングカーを購入して、日本中を旅をして回りたいと話す。
両親には、海外旅行をプレゼントし、キャンピングカーを購入してから準備をして、出発まで一ヶ月近くをかけ、そして適当な山奥で、キャンピングカーごと、クラインの壺の空間に収納した。
これで、クラインの壺の空間に仮拠点を置くことができたし、元の世界では、一月に、一回、税金の支払いの為に姿を現して、適当な場所で写真を撮り、生存報告をしていれば、大丈夫だろうと、あの世界で活動に専念できるようにしたのだった。
SIDE園咲来人
2008年10月 某旅館 男湯
「おお、広い風呂だな!」
「ああ、翔太郎も来たのか。
今は、貸切状態だよ。」
湯船に入って座っている僕の隣に、かけ湯をした翔太郎が入って来た。
「…ふう。
しっかし、ずいぶんと大ごとになってきたな。
お前の親父さんが言い出したこととはいえ、大丈夫なのかこれ?」
「正直、僕にもわからないさ。
今の僕は、地球の本棚に入ることができないからね。
今夜の会食の時になってみないと。
でも、父さんは、全く不安がってはいなかったから、どうにかする手だてがあるんじゃないかな?」
この世界で、翔太郎とはじめて会って、サイクロンメモリを手にした時に、平行世界の自分の記憶を見た。
最初は混乱したけれど、家族の支えもあって、翔太郎もいたから、平行世界の関係が続いているみたいなものになった。
狭間玄乃と、父さんと母さん、そして、平行世界では亡くなっていた鳴海荘吉が父さんの書斎でずいぶん遅くまで話していたようで、翌朝にはとても眠そうにしていた。
それから気づけば、僕も鳴海探偵事務所に足を運んで、翔太郎と行動を共にしていた。
そして、1年程、毎月顔を出す狭間玄乃と打ち合わせなどを行って、この旅館に集まることになった。
僕が、これまでのことに、思いをはせていると、また一人、男湯に入ってきた。
「なんだ、お前達か。」
「照井か、ってお前のその頬どうした!?」
タオルを腰に巻いた照井竜が立っていたがその頬には殴られた跡があった。
「鳴海荘吉に殴られてきた。
これでも、平行世界とはいえ、娘さんを娶った男だからな。
筋ぐらいは通すぞ。」
「全く、君も律儀だね。平行世界の君たちの関係を気にしているとは。」
僕達は、浴槽の中であきれていたのだった。