俺の展開したオーロラで俺とスティーブさん、そしてマキシモフ姉弟がニューヨークのアベンジャーズタワーの一階ロビーに帰ってくると、時差により辺りは暗くなっていた。
俺はワンダ・マキシモフを警戒して一定間隔を空けながら上層に戻るエレベーターに乗り込み、ラボへと入った。
そこではソウル市内でワンダが言っていたようにラボ内ではバナー博士とスタークさんがクレードルを動かしていた。
「一回しか言わないぞ!」
「ゼロ回でいいよ。」
「中止しろ!自分たちが何をしているのかわかっているのか?」
スティーブさんの声に相変わらずのスタークさんの返しが入るが、それを無視してスティーブさんが言葉を伝えた。
「断る。」
「キャプテン。君は?操られていないのか?」
スタークさんはかたくなに断り、バナー博士はマキシモフ姉弟といるスティーブさんを疑っている。
俺も疑われてはたまらないので、ゆっくりと両手を見せてスティーブさんたちから距離を取った。
「怒るのは仕方ないけど…」
「怒るだって?
ハルクに変身しなくても絞め殺してやりたいのは怒り以上の感情だよ。」
ワンダの言葉に唸り声をあげるバナー博士は今にもハルクに変身しそうな勢いになっている。
そこから言い争いがはじまるが、ピエトロがそのスピードを活かしてクレードルに繋がれた配線を取り払い、話し合いを促した。
しかし、ピエトロの真下にいたバートンさんにより放たれた銃弾で足場のガラスを割られてピエトロは下の階に落ちていく。
「なんだ?早すぎて見えなかったか?」
バートンさんの嫌味も聞こえてきた。
焦ったスタークさんがクレードルを操作しようとしたがスティーブさんが盾を投げて妨害するとついには喧嘩じみた戦いになってしまう。
しかし、いきなり現れたソーさんがクレードルの上に乗ると、スティーブさんの制止の声を無視してハンマーから雷撃を放ってクレードルを最大稼働状態にして、クレードルの中の体がクレードルを突き破り、ソーさんを突き放してその上に膝をついた状態で現れる。
深紅の肌に銀色のメタリックなラインが入ったボディと額の金色の宝石が目立ち、興味深く周囲を観察している。
そしてソーさんにつかみかかろうかと飛び付いたがソーさんはそれを投げ飛ばしてラボのガラスを割り、外が見えるガラス前で止まった。
ふと気づくと、上の階に続いている階段から五代さんと一条さんも降りて来て警戒していた。
スティーブさんも戦闘態勢に構えるがソーさんはそれを手で制して止めると、深紅の肌のそれを見つめていた。
深紅の肌のそれ、後の『ヴィジョン』は裸の状態から黒いボディースーツを体に纏うと、ゆっくりと宙に浮きながらフロアの床に降り立つ。
「…すみません。…とても、不思議で。
ありがとう。」
ヴィジョンはソーさんにお礼を言うと、ソーさんの真似をするように深紅のマントを背中に作り出していた。
「ソー。何故手を貸したんだ?」
「あるヴィジョンを見た。
大きな渦が希望を飲み込む。そこにこれがあった。」
ソーさんはヴィジョンのマインドストーンを指差して言う。
「マインドストーンだ。6つあるインフィニティストーンの内の一つ。
全てを破壊する比類なき力を持つ。」
「スペース、マインド、パワー、リアリティ、タイム、ソウル、世界を構成する6つの要素。
アベンジャーズの結成時にロキの杖と4次元キューブは似通っていても、別のエネルギーを持っているという我々SPIRITSの情報に間違いはなかったようですね。」
「ああ、その通りだ。」
「しかし、どうしてそんな危険な物を?」
「スタークは正しい。我々ではウルトロンに勝てない。」
「バラバラではね。」
「ちょっと待て、J.A.R.V.I.S.の声か?
J.A.R.V.I.S.は破壊されたはずじゃなかったのか?」
「ああ、J.A.R.V.I.S.のマトリックスを再構築して新しい物を作った。」
「新しい物はもうたくさんだ。」
「私がウルトロンの子供だと?」
「違うのか?」
「私はウルトロンではない。
J.A.R.V.I.S.でもない。私は…
…私です。」
マインドストーンの使い方で揉めそうになるが、スティーブさんがヴィジョンに味方かと問うても、そう単純でもないと言われて言葉遊びをしているわけではないと言い出していた。
「私は命の味方です。
ウルトロンはその逆、ロボットの味方であり彼にとって命は滅ぼすものなのです。」
「ウルトロンは何故動かないんだ?」
スタークさんの言葉に、産みの親であるあなたを待っていると返されて変顔をして、五代さんが吹き出していた。
「ウルトロンは今どこに?」
「ソコヴィアだ。ナターシャもそこにいる。
ついでに片腕が金属の男も一緒らしい。
ウルトロンのコピーまみれで抜け出せないそうだ。」
スティーブさんの問いに答えたのはヴィジョンではなくバートンさんだった。
「バッキーもか?
捕まってたのか…救出しないと。」
しかし、ちょっと待って欲しいとバナー博士が言い出していた。
「新しく生まれた君が、我々を裏切らない保証は?ウルトロンのような怪物だったら?」
「どうします?」
一時の沈黙の後に再びヴィジョンが話しだした。
「…私はウルトロンを破壊したくはない。
彼は特別で唯一無二の存在です。
彼は悩んでいる。…ですがその悩みが地球を滅ぼすのであれば、彼を破壊するべきです。
ネットワーク上からも全ての彼の分身も、早急に。
…ですがそれは私一人で成し遂げる事はできません。
私は怪物かもしれない。でも私ではそれがわからない。
あなた方が望んだものでもないかもしれない。」
信じてもらえないかもしれないと言いながら、ソーさんが置いていたはずのハンマーを手にして、それをソーさんに手渡していた。
確か、ムジョルニアは王たる正しい心の持ち主でなければ持つ事すらできないはずなので、ヴィジョンはその条件をクリアしている事になる。
まあ、生まれたばかりで純粋なだけなのかもしれないが、このハンマーを持てるだけでも少なくとも怪物であるとは言えなくなったのは確かなので、誰も文句を言えなかった。
「…行くか。
よくやった。」
ソーさんはハンマーを受けとると、スタークさんの肩を叩いていた。
ちょうどその時、端末のアラームが鳴った。
「俺です。SPIRITSの戦力が整ったはずなので、一度確認に行きます。」
いきなりのアラームに何事かと周りから見られるが、訳を話すとスティーブさんから出発の準備をしてくれという号令がかかった。
俺が戻り次第出発するというので、俺はそのままオーロラを開いてSPIRITS本部に入って行く。
そして、本郷さんがいるのはずの総隊長室に入ると本郷さんは立ち上がっていた。
「…本郷さん。SPIRITS内の戦力はどうなりましたか?」
「SPIRITS内の部隊編成は終了して、トレーニングルームと食堂にて待機させている。
それと、警察内の仮面ライダー及びガードドライバーが配備された者達の一部も協力してくれる事になった。」
「いいんですか?
不法入国になりますよ。」
「世界が滅びるかどうかの戦いなのだろう?
今さらに過ぎんよ。
それで?決戦の場所は判明したのかね?」
「東ヨーロッパの小国、ソコヴィアです。
恐らくは市街地戦と予想されますので、住民の避難を行いながらになると思われます。
私が戻り次第、アベンジャーズの皆さんとソコヴィアに出発する予定です。
それと、五代さんと一条さんも一緒です。」
「…わかった。
住民の救助は警察の本分だ。
君が現地に到着するまでもう少し猶予がありそうだな。こちらからは住民の救助関係及び避難支援物資の準備もさせておく。
場合によっては現地で君の役割は戦闘ではなく救助を最優先に行ってもらう必要があるかもしれん。現地に到着するまではできるだけ休息につとめて欲しい。」
「…そうですね。
では、物資は最大限に援助をお願いします。」
「うむ。
幸い総理には彼が総理になる前から貸しがたんまりあるからな。
話は通してあるし、闇の手の連中から押収した資料から議員達の弱味も握っている。
政府からの反対意見は出んよ。
逆にもしかすると自衛隊の災害派遣もあり得るかもしれん。
君には大いに期待するよ。
…では君は戻りたまえ。
狭間君が現地に到着次第、十分に距離を取った場所にゲートを開いてくれれば、避難所の開設を開始する。」
「わかりました。
それでは失礼します。」
俺は政府うんぬんは聞かなかった事にして総隊長室を出ると、そのままオーロラを開いてアベンジャーズタワー内部に入り込んだ。
俺が戻ってもまだ準備は終わっていなかったようで、俺は座って待つ事にした。
すると、一条さんと五代さんが寄ってきた。
「狭間君、首尾はどうなった?」
「SPIRITS本部の戦力と警察の戦力の一部が部隊編成を終えていました。
恐らく一条さんと五代さんには部隊と合流して一緒に動いてもらう事になりそうです。」
「狭間さん。スタークさんのさっきの顔、見ましたか?
思わず吹き出しちゃいましたよ。
さっきだって、ウルトロンに一番恨まれていると言われて顔が変になってましたし。」
「息子の反抗期に対処する父親の気分なんでしょうね。」
俺と五代さんの話にスタークさんがうるさいぞと言って来て、思わず五代さんと一緒になって吹き出してしまった。
どうやら、暴走したことを気に病んで落ち込んではいないようで安心していると、バートンさんからクインジェットに乗り込むように言われたので出発のことになった。
クインジェットがソコヴィアに到着すると、バナー博士とバートンさんがヒドラの基地だったという古城にナターシャさんとバーンズさんの救助に回り、マキシモフ姉弟とスティーブさん、五代さんと一条さんは住民の避難をはじめていた。
俺はクインジェットで来る時に見つけていたロシアとの国境から数キロメートルの付近にゲートを開いて避難所の開設をお願いし、さらにそことソコヴィアの市街地とゲートを開いて、避難してくる住民の誘導と隊長達の突入を指示するのであった。