仮面ライダーになった男は戦いたくない(休載中)   作:岩鋼玄武

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シビルウォーヒーロー大戦編
アベンジャーズ解体


side狭間玄乃

 

『ナイジェリアのラゴスにおいて、アベンジャーズと武装集団の抗争に巻き込まれ、11人のワカンダ国民が命をおとしました。

めったに国外に出ないワカンダの人々ですが、ラゴスにはボランティアで赴いていました。

ワカンダ国王は…』

 

『彼らアベンジャーズは国際法を逸脱して独自に動いた挙げ句、ナイジェリアにおいて多数の犠牲者を出しました。

マキシモフ姉弟や、ウィンターソルジャーのような本来ならば裁かれなければならない犯罪歴のある人物を戦力としており、アメリカ政府の対応が…』

 

『…このようにアベンジャーズは各国から危険視されており、先のソコヴィアやワシントンD.C.、ニューヨークにおいても救助活動を優先したSPIRITSとは異なり、闘争という手段に括り…』

 

SPIRITSの食堂で見ていたテレビの放送が見ていられなくなったのか、チャンネルを握っていた五代さんが、テレビのチャンネルを変更しても似たような報道ばかりだったので、そのまま消してしまった。

 

「五代さんは、ナイジェリアの作戦について聞いていましたか?」

 

「俺は何も知りませんでした。

狭間さんはどうなんです?」

 

「自分も同じです。

この報道を見るまではアベンジャーズが独自に動いたことを知りませんでした。」

 

テレビの前に立っていた俺と、食べかけの食事のトレイが置かれたテーブルにチャンネルを放り投げるように置いて椅子にうなだれた五代さんが、揃ってため息をついた。

 

先のワシントンD.C.でヒドラの手先だったラムロウ、後のクロスボーンズは本郷さんに倒されたことで、この戦いが起きないだろうと思っていたのは失敗だったようである。

 

「こういうメディアのやり方は、正直好きではないですね。

アベンジャーズの施設にいた時にデイリービューグルという記事を見ましたけど、仮面ライダーに対してもひどい酷評でしたよ。」

 

クインジェットのバルカンによるダメージも癒え、日本に戻ってきていた沢木さんも五代さんの隣の席で半分くらいになったうどんを食べながら言ってきた。

 

「J・J・ジェイムソンですか。

彼は新聞というメディアを利用した一方的な主張で世間を混乱させることに定評のある人らしいですからね。

デイリービューグルは見ない事をおすすめしますよ。」

 

俺は食べてしまって空になったカツ丼のどんぶりを前にそれを言うと、席を立ってトレイごと厨房に返却した。

 

「あれ?狭間さんはもう食べないんですか?

いつもだったら小皿をもう1~2品食べてませんでしたか?」

 

「これから、総隊長との打ち合わせがありまして。

腹6~7分目ぐらいの方が仕事に入りやすいだけですよ。」

 

五代さんに言われてそう答えると、そのまま俺は食堂を後にして総隊長室に向かった。

 

 

 

 

 

「さて、狭間くん。大変面倒な事になりそうだ。」

 

本郷さんは所謂ゲンドウポーズをしながら俺にそう言ってきた。

 

「今回のアベンジャーズの件ですか?」

 

「うむ。

狭間くんは直接関わってきていたからわかっているだろうが、これまでのニューヨーク、ワシントンD.C.、ソコヴィアのような大規模戦闘は我々SPIRITSが戦闘よりも人命救助を第一としてきた事で被害は最小限と言っていいだろう結果になっている。

しかし、アベンジャーズ単独でのやり方で問題を解決できても、その結果に市民の安全は無く、犠牲者が出続く事になるという結果が出てしまった。」

 

「しかし、アベンジャーズの対応がなければ…」

 

「もっと犠牲者が出ていただろうと言いたいのだろうが、世間の気風、各種メディアや各国政府の捉え方はそうではないようだ。

各国政府からの対応によっては、日本政府から我々SPIRITSに対していくつかの指示が出される事になるだろう。

…いや、もう対応をしなければならないのだろうな。」

 

「そうなると、本郷さんは…」

 

「私の警視総監としての任期はもうあまりない。

副総監の加賀美くんが新しい警視総監となり、私がSPIRITSの総隊長として警察とは全くの別の組織という状態になってしまえば、このSPIRITSという枠組みがどうなるのかは正直先が見えない。」

 

「SPIRITSの解体もあり得ると?」

 

「…わからん。

…これまで、闇の手から市民を守り、戦ってきた我々を政府は無下にはしまいが…」

 

本郷さんがそう言うと、本郷さんの端末に通知が入りそれを取り、本郷さんの眉間に急にシワが寄っているのが見えると、数言のやり取りの後に端末を切って言ってきた。

 

「…狭間くん。至急アメリカに向かってくれ。」

 

「どうしたんですか?」

 

「アベンジャーズが解体されるそうだ。」

 

 

 

 

 

アメリカ ニューヨーク州北部 アベンジャーズ施設

 

 

俺は突然の出張に戸惑いながらも、アベンジャーズが拠点にしているこの施設にくると、やたらと職員ではないだろう人たちを見かけながら会議室に向かった。

 

そこではそれぞれが椅子に座ったアベンジャーズの面々に対して、スーツ姿の男性が話をしている最中だった。

 

その顔には見覚えがあり、アメリカ国務長官のサディアス・“サンダーボルト”・ロスであった。

 

「ああ、入りたまえ。

ミスターハザマ。わざわざ日本から来てもらったのだ。

二度同じ説明をしたくはないのでね。」

 

俺はそう言われて彼の近くの空いた席に促されるままに座ると、ロス長官は話を続ける。

 

「…さて、世界は君たちに返しきれないほどの借りを作っている。

君たちは我々を守るため戦ってくれている。

命をかけて…だが、君たちを"ヒーロー"だと言う者もいれば、ヒーローではなくただの"自警団"だと言う者もいる。」

 

「長官はどちらの呼び名を使いたいですか?」

 

「"危険な集団"かな。」

 

ナターシャさんの一言に返された言葉は辛辣だった。

 

「…考えても見たまえ。

アメリカを本拠地にする超人達の集団が、国境などまるでお構い無しとばかりに自分たちの正義を振りかざす。

自分たちが暴れた後のことなど、知った事ではないという顔をしてな。」

 

するとロス長官は壁に備え付けられていた画面を操作して過去の記録を写しはじめる。

 

「ニューヨーク。」

 

スマホの録画らしい映像には、上空をハルクが飛んで来て壁に着地し、また移動していたが、その時に崩れてきた瓦礫の下敷きになろうとした時に仮面ライダーバスターが庇い、避難を促す様子が写った。

 

「ワシントンD.C.。」

 

こちらもスマホの録画だろう映像で、上空をファルコンが舞いクインジェットの流れ弾が飛んくるが、仮面ライダーブラーボが覆い被さってくれて助けた姿や、監視カメラの映像らしいものには、銀色のゲートに同じく仮面ライダーブラーボとそして仮面ライダーサーベラが避難を促す様子が写し出される。

 

「ソコヴィア。」

 

ヘリによる撮影らしい上空からの映像には、崩れゆく建物に銀色のゲートがくぐり抜け、避難場所で撮影された映像にゲートをくぐり抜けてきた様々な体勢の人々が出てくる映像と、監視カメラだろう映像に、破壊された浮遊大陸の破片が市街地に落ちないようにゲートを張った仮面ライダーディエンドの姿が傾いたアングルで写し出された。

 

「ラゴス。」

 

その映像には仮面ライダーの姿は無く、キャプテンアメリカがテロリスト達と戦う様子と、もうもうと煙を上げる建物や散乱した瓦礫、そして動かない寝そべった人々の姿が写し出される。

 

そしてスティーブさんの制止によって画面が消えると、再びロス長官が話し出す。

 

「…この4年、君たちアベンジャーズは誰の管理も無く好き放題やってきた。

だがそんなやり方では世界各国の政府が黙ってはいない。

…そこで対応策だ。」

 

ロス長官は近くに立っていたスタッフであろう男性から一冊の冊子を受け取ると、そのままその冊子をテーブルの上に置いてその上に手を置いた。

 

「【ソコヴィア協定】

世界の117ヵ国が同意した。

これにより、アベンジャーズは解体され、アベンジャーズだった人員と旧S.H.I.E.L.D.の人員がSPIRITSを母体とした新しい組織へと組み込まれる事になる。

まだ正式名称は検討中だが、これからは国連の委員会により正式に認められた場合に限り出動が許可されることになる。」

 

「アベンジャーズはこれまで、世界を守ってきた。

役目を果たして来ている。」

 

俺にとっても寝耳に水な話しで驚いているとスティーブさんが反論した。

 

「ではなぜ、ラゴスに仮面ライダーを連れていかなかった?

世界は君たちアベンジャーズよりもSPIRITS、そして仮面ライダーの方を評価し、重要視しているということだ。

君たちがソーとバナー博士の所在を把握できていないのも問題があるしな。

世界が求めるのは、歩み寄りと安全の保証だ。

…受け入れろ。これが一番良い着地点だ。」

 

「…それで、この協定に従えと?」

 

「三日後にウィーンで正式承認のための国連の会議がある。

大人しく従うことをおすすめする。」

 

ローズ大佐の質問にそう答えると、そのまま会議室から出て行こうとしたところに、ナターシャさんが言う。

 

「私達の答えが長官が望まないものだったら?」

 

「…引退してもらう。」

 

そう言われたナターシャさんは苦虫を噛み締めたような顔にっていた。

 

ロス長官が見えなくなると、今度はスティーブさんが俺に話しかけてきた。

 

「…ハザマはどう思う?」

 

「正直、今回の事は俺も驚いています。

世界各国117ヵ国にはもちろん日本も含まれているでしょう。

SPIRITSは先のソコヴィアで派手に立ち回りってしまったため、政府にあまり強く出れないでいます。

それに総隊長の警察官僚からの任期期限により、引退することでSPIRITSが警察機関から切り離されるというのも、今回の組織合併ということにつながったのかもしれません。

しかし、国連の委員会による決定でしか動けないというのは脅威による被害を防ぐのは難しくなるでしょう。

…ですが、管理される事で安全面が保証されるのもまた事実。

…一長一短と言えるでしょう。」

 

「ハザマは賛成なのか?」

 

「…正直迷っています。

仮面ライダーにも家族はいますし、我々が戦ってきた闇の手も、規模が縮小されている事が確認されていますから、賛成する者もいるでしょう。

ですが、ヒドラの時のように我々の技術を狙い目にした癒着の可能性も捨てきれないとも考えています。

…既に各国が承認している時点で、今さら俺がどうこう言うのは遅いのでしょうが総隊長と話し合う必要があります。」

 

スタークさんの一言にそう答えると、俺もまた会議室から出てSPIRITS本部に連絡を入れるのだった。

 

 

 

 


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