「アガレスさん!?」
蛍が意味深な笑みを浮かべるアガレスを見やる。しかしそんな蛍とは対照的にパイモンはウェンティを驚いたように見やる。
「た、旅人!オイラ達、アガレスの名前は教えてないはずだぞ!!」
パイモンの言葉を聞いた蛍はハッとしてウェンティを見た。だがウェンティの視線はアガレスに固定されたまま動かない。というより、アガレスを見てかなり驚いている様子だった。そしてアガレスもパイモンの言葉に驚いているようだった。
「久しぶりだな蛍、パイモン。元気そうで何よりだ」
アガレスは一旦蛍とパイモンに声をかける。その表情はどこか寂しそうだった。パイモンは普通に話しかけてくるアガレスにも驚きつつ、
「い、いやいやオイラ達は元気だけど、アガレスこそ大丈夫なのか!?最後に会った時はかなり顔色悪かっただろ!」
パイモンの言葉にアガレスは目を逸らすとそのまま答えた。
「理由は言えないが…まぁ確かに調子は悪いかも知れない」
「だったら休むべきだろ!!お前、突然いなくなるから皆驚いていたんだぞ!!」
そしてアガレスのその答えに対してパイモンは思わずと言った形でそう告げた。アガレスはその言葉を聞いて驚いているようで、真偽を確かめるように蛍を見つめている。それに気が付いたらしい蛍は首肯きつつ、
「皆心配してる。だから…」
そう言った。だがしかし、その言葉に対してアガレスは首を横に振りつつ口を開いた。
「悪いが俺がもう帰ることはないよ」
「そんな…」
蛍が悲しみに満ちた声を漏らす。それと同様にパイモンもどうしよう、とばかりに周囲を見回している。だがそんな中で唯一人、ウェンティだけは冷静にアガレスを見つめていた。その視線に気が付いたらしいアガレスがふむ、と一つ唸ると、
「何故ここにいる?介入しないものと思っていたが」
そう言って少しだけ冷ややかな視線を向ける。その視線を真っ向から受け止めたウェンティはにっこり笑う。
「やぁ、久しぶりだねアガレス。ところでどうしたんだい?友人に対して随分な言い様じゃないか」
そんなウェンティとは対照的にアガレスの表情は険しくなる一方だった。そんな険悪なムードをひしひしと感じたパイモンが二人の間に割って入った。
「お、おい!!どうしたんだよお前ら!!訳わかんないぞっ!!」
その言葉を聞いたアガレスが驚いたようにウェンティを見て、そしてパイモンを見る。
「まさか聞いていないのか?」
アガレスの言葉に蛍とパイモンは首を傾げる。その反応からアガレスは何も聞いていないのか、とばかりに溜息を吐くと、ウェンティのことを冷ややかな目で見つめた。
「…そいつは風神バルバトス、俺の
アガレスの言葉に蛍とパイモンはウェンティにその視線を向ける。ウェンティは否定も肯定もせず無表情だった。しかしその視線からはありありと悲壮感が見て取れた。
「蛍、お前には説明していた通りだ。俺は昔は『八神』の内の一柱として名を連ねていたが今となっては忘れ去られている。当時俺の名は世界の隅々まで広まっていた」
だが、とアガレスは瞑目しつつ続けた。
「今となっては『八神』であったことを知る存在はおらず『七神』に変化し…そして俺の存在はなかったことにされた───」
アガレスを知っている存在は彼が知る限りではアビス教団の怪物達…そして彼の目の前にいる風神バルバトスだけである。
「…何故俺だけ歴史から消されたのか、何度も何度も考えたがやはり答えは出ないし恐らく出ることもないんだろうな…」
「アガレス!ボク達は───「お前は喋るな」───ッ!?」
アガレスの手にはいつの間にか法器があり、ウェンティの足が凍っていた。
「ウェンティ!!」
蛍がウェンティを見てそう叫ぶと、パイモンがアガレスに悲鳴のように叫ぶ。
「あ、アガレス!!どうして…ッ!!」
「…俺を裏切ったヤツに余計な事を言われると困る」
アガレスの言動に違和感を覚える蛍とウェンティだったがその理由はアガレス自身が説明してくれるようだった。
「さて、話の続きだ。俺の存在が忘れ去られることなんて余程のことがなければないだろう」
そして彼にとって一番可能性が高いのが誰かが意図的に自分の存在は抹消したのではないか、というものである。それはアビス教団の怪物がアガレスを覚えていたことから生まれた疑念だった。
「…そしてそこのバルバトスも俺のことを覚えていた…さて、もしかしたらお前が俺の存在を抹消したのかもな?」
「ッ…ボクがそんなことをすると…思うかい?」
ウェンティは苦しみに表情を歪めながらもそう聞いた。アガレスはふむ、と一つ唸ったが首を横に振った。
「まさか、思うはずもない…だが、お前が操られていないと誰が断言できる?そしてお前が嘘をついていないことも誰が断言できる?疑いだせばキリがないのはお前も知っているだろう?」
そして、と更にアガレスは続けた。
「…俺の存在を歴史から消す行為は…俺の今までの行動に泥を塗るのと同義だろう?だから俺は…お前達の下には戻らない」
そしてアガレスはそのまま寂しそうに笑うとウェンティの足元の氷元素を解除した。
「それと、最後に忠告だ…天空のライアーが欲しいならジンに頼め。蛍の願いなら恐らく通るだろう。まぁ…無意味だと思うけどな」
アガレスは言いながら風元素で浮遊し始めた。蛍達が引き留めようとしていると何処からか別の声が響き渡った。
「アガレス!!」
そんな時、大勢の西風騎士を連れたジンがアガレスの下までやって来た。アガレスはジンを一瞥すると風元素で浮き上がるのをやめ、再び地面へ戻ってきた。
「ジン、久し振りだな」
なんでもないように話しかけてくるアガレスに対して警戒心を顕にするジンだが、すぐに溜息を吐くと、
「ああ…それで、何故突然姿を消した?私達に疑われることは間違いなくわかっていたはずだろう?」
ジンの言葉にアガレスは少し笑うと首肯いた。
「では何故…」
「簡単な話だ」
アガレスはジンの言葉を遮って更に告げた。
「
ジンはその言葉を聞いてようやく、アガレスという存在を完全に理解できた気がした。ジンはそのまま西風騎士達に指示を出してアガレスを包囲した。
「…アガレス、君を拘束させてもらう。抵抗はしないでくれ」
ジンはアガレスを危険だと判断し、部下にそう指示を出した。アガレスは無表情だったが不意に気の抜けたような顔になると手を上げた。ジンはそんなアガレスを見て首を傾げながら警戒感を強める。
心做しか周辺へ吹いてくる風が強くなってきた。アガレスは少し笑うと、
「お前達を傷付けるようなことはしない…だが、もう護るのは辞めだ」
そう言って風元素で少し浮く。それに気が付いたジンが西風騎士に合図を出して一斉に飛びかかろうとした。しかし、突如アガレスを中心として強い風が吹き荒んだ。
ウェンティが目を見開くと、強い風を取り囲むように風の壁を展開した。
「まさか…トワリンッ!!」
同時にウェンティが上空を見やるとそこには蒼き巨龍が翼を羽ばたかせていた。その場にいた全員が巨龍───トワリンを見て驚いている。トワリンはアガレスを護るようにして地面へと降り立った。
「…アガレス、キミは…」
トワリンの首筋にも、腰にも禍々しい血液の結晶体は存在しない。そしてトワリンも無差別に人々を攻撃することもしなかった。アガレスはそんなトワリンを見やると、
「…最初からこうしておくべきだった。何かを護っても…結局最後は全てを失うなら…俺はもう…」
悲しそうに表情をうち歪めてトワリンの背に乗った。だが性分なのか、アガレスはトワリンの背の上からジンへ向けて声をかけた。
「…ジン、『龍災』に関してはもう心配しなくていい。だが…ファデュイの動きには注意しておけ」
アガレスの言葉が終わったのを見計らってトワリンが一声嘶くと翼を羽ばたかせ飛び上がる。その様子を見ていた蛍はギリッと歯噛みすると、
「…アガレスさんッ!!」
「あ、おい旅人!待てよ!!」
飛び上がるトワリンの尻尾に捕まり、パイモンも蛍のスカーフに捕まって共に飛び上がっていく。残されたウェンティ達はその光景を呆然と見ることしかできなかった。
少しして我に戻ったジンが西風騎士達にアガレス達の捜索を命じるとウェンティに話しかけた。
「…不躾ながら聞かせていただきたい。貴方は…」
ジンの言葉を遮ってトワリンの飛び去っていった方角を見つめてウェンティは呟く。
「…ボクは───ボク達はただ、キミを救いたかっただけなのに…どうしてこうも上手くいかないのだろうね」
ウェンティは暫し瞑目するとジンを見て口を開く。
「聞きたいことはわかってるよ。ボクが何者か、そして何があったのか…そうだね?」
ウェンティの言葉にジンは首肯いき、溜息を吐く。
「…我々は余りにもアガレスという人物について無知だ…そして貴方は彼のことを知っている様子だったからな」
ため息混じりのその言葉にウェンティは苦笑すると、
「ここじゃ何だから、話ができる場所に連れて行ってくれると助かるな?」
ジンにそう告げた。ジンはその言葉に首肯くとウェンティをそのまま西風騎士団本部の大団長室まで案内するのだった。
〜〜〜〜
───お前は忘れ去られた。
俺は500年前まで文字通り身を粉にして世界とそこに住まう民のために尽くしてきた。
───お前を覚えている者など誰もいない。
だが、結果はこうだ。誰も俺のことなど覚えてもいないし完全に無駄だった。
───お前は孤独だ。
そう、俺は孤独だ。俺の行動は無駄だったのだろう。確かに世界は救われた。昔はそれでいいと思っていた。それでいいと自信を持って言えた。だがそれは誰かが俺を認めてくれていたからだ。俺を見ていてくれたからだ。
俺の自問自答は…少し前に通り過ぎた道だった。そして俺に問を投げかけてきたその存在は今はもういない。
「…トワリン、お前もそうだったんだろう?」
『…フン』
トワリンの反応に俺は少し微笑みを浮かべた。
「…重圧から解放されたといえばそうなのかもしれないがな」
生憎俺はそんな幸せな考えはできない。
確かに友人であるバルバトス自身は俺のことを覚えていたが記録を抹消したのは俺を除いた『八神』だろう。それは俺の努力を全て溝に捨てたのと同じだ。
だが今更世界に敵対することこそ無駄だ。だから俺は誰にも看取られず孤独に消えることを誓ったのだ。
「トワリン、俺を適当なところへ下ろしたらバルバトスの下へ戻ってモンドを護ってくれ…俺の代わりに頼むぞ。その下準備は済ませてある」
『…アガレス殿の頼みとあらば良かろう』
トワリンは一声嘶くと飛ぶ速度を上げた。アガレスは誰にも聞こえないように、
「…これで安心して消えることができるな」
そう呟くのだった。
アガレスの真意や如何に───
さて、疲れた、私は寝る!!
アガレス「いや、お前明日からもっと執筆しろよ我等が読者様が待ってんだよ」
ああああああ!!モチベーションがあああ!!限界突破する!!
という状況で基本描いてます(?)