忘れ去られたもう一柱の神〜IF旅人〜   作:酒蒸

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今回は短めかもですな。


第17話 接触

アガレスがモンド城を襲い始める少し前。

 

トワリンと別れて誓いの岬へと降り立ったアガレスは苦々しげな表情を浮かべながら目を瞑って崖の先端部に座って瞑想をしていた。トワリンの背から降りて誓いの岬まで来たのは、自らの負の感情を抑えるのが限界に近づいてきていたからであり、自らの作戦を決行するまではなんとしてでも自我を保とうとしているのである。

 

勿論、アガレスの見立てでは作戦決行まではなんとか自我を保つことができるはずだった。しかし、幸か不幸かここでアガレスの見立ては外れることになる。

 

『───やっぱり、貴様も『腐食』されていたのかアガレス』

 

海の方を向いていたアガレスの背後から足音と共にそんな言葉が聞こえたかと思うと、長身の怪物が姿を現した。そんな怪物は木陰に立っておりその全貌を見ることはできない。アガレス自身も化け物の姿形を見ることはできず、しかし相手がどんな存在かだけは理解できたようだった。

 

「…俺に何の用だ?」

 

苦しげな声ながらアガレスは相手にそう問うた。対する相手はくくっ、と下卑た笑いを漏らしながら、

 

『そうだな…強いて言うなら、より役に立ちそうな力が手に入りそうだから直々に私がやって来たのだ』

 

そう言った。アガレスはその言葉を聞いた瞬間、先程の苦しそうな表情から一転して憤怒の表情を浮かべると、

 

「…トワリンを誑かし、モンドを襲わせるように仕向けたのはお前ってことか」

 

そう言って刀を取り出して臨戦態勢を整えた。しかし相手はその言葉を鼻で笑うと言葉を紡いだ。

 

『誑かした?襲わせるように仕向けた?フン、我々はただあの愚龍の手助けをしただけに過ぎぬ。心中に生じた疑問と怒りと悲しみを増大させただけに過ぎぬ。かの愚龍の行動は全てヤツ自身によるモノだ』

 

トワリンを、モンドを、ひいては七国に住む全ての民を下に見ているであろうその傲岸不遜な態度にアガレスは感情の制御が利かなくなるのを覚え、片腕で頭を抱え膝をついた。その様子を見ていた相手は勝ち誇ったようにアガレスを嘲笑した。

 

『私がわざわざここへ赴いたのは…貴様を煽り、そして貴様の制御された理性を崩壊させるためだ。その調子なら上手くいったようだな』

 

怪物はアガレスに近付くと手を翳してクツクツと喉を鳴らした。

 

『この世を滅せられる程の力…ククク、殿下もさぞかしお喜びになるだろう』

 

何かの作業を終えたらしい怪物はアガレスから足早に離れると突如空間を切り裂く。切り裂かれた空間には禍々しいモヤが漂っており、明らかに普通のモノではないということが察せられた。怪物はそのままモヤの中へ入っていくとそのままモヤごと姿を消した。

 

その場に残されたアガレスは苦しそうに呻き声を上げながら蹲っていた。

 

(何をされた…?感情の制御が…ままならないなんて…)

 

蹲りつつも残酷なまでに冷静な頭脳で、ある事実に思い当たったらしいアガレスは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 

「…そういう、ことか…俺も『腐食』を受けていたと…」

 

そして先程『アビス』の怪物に何らかの処理を施されたことからもわかる通り、アガレスとトワリンの計画はこの時点で破綻していることを意味していた。

 

加えて暴走した自分を止められる存在が果たしているかどうかも全く不明である。全元素を扱い、際限なく暴れ回るアガレスを果たして現存する神だけで止められるかどうかは全く以て未知数と言えた。

 

そしてアガレスの冷静な思考回路はもう一つ、残酷な結論を出していた。

 

「…幾ら正常な判断ができていなかったとは言え…バルバトスにあんな事を言ってしまったな…」

 

相手側の事情も考えず浅慮だったことをアガレスは恥じる。まぁ、バルバトスなら「仕方ないなぁアガレスは…酒代一年分で手を打とう!」とか言ってくるだろうが…などとアガレスも考えてしまっていたがもうそんなやり取りもできないであろうことを心から悔いた。

 

薄れゆく意識の中、アガレスは思う。

 

(ああ…畜生…せめて一言でもいいから…謝りたかったな…)

 

その思考を最後にアガレスの意識は闇へと沈むのだった。

 

 

 

その一時間程後、モンド城にて。

 

「アンバー!状況は───ッ!!」

 

一通り指示を出し終えたジンが先に西風騎士団本部の外へ出ていたアンバーにそう問い掛けるべく自分も外へ出たのだが、外に広がっていた光景を見て息を呑んだ。蒼き巨龍と長身の男性、そしてアガレスがモンド城の上空で戦っていたのである。既にモンド城の建物や城壁にある程度の被害が出ていたため、ジンはアンバーを見つけてすぐに状況を聞いた。

 

聞く所によれば既に住民の避難は完了しており、モンドで最も頑丈な建物である西風大聖堂へ避難済みであるとのことだった。しかし、アガレスの迎撃に向かった西風騎士の数名が既に負傷し、空中を飛んでいるため迂闊に手出しできなくなっていた。

 

ジンはギリッと歯噛みすると、

 

「今のうちに警戒を!!『ファデュイ』や『アビス』が何をしてくるかわからんぞ!!」

 

とそう指示を飛ばすことしかできなかった。

 

 

 

『───ぬぅッ!!アガレス殿!!目を覚ますが良い!!』

 

一方、空中を飛ぶ蒼き巨龍───トワリンはこれまた同じく宙に浮いているアガレスへ向け極太の風元素のブレスを放った。勿論、モンドへ直撃すればモンドがただじゃ済まないため、必然的にトワリンはアガレスより少し低い位置から上空へ向けて放っている。

 

対するアガレスはブレスをギリギリで回避するとそのままブレスに沿ってトワリンに肉薄し、刀を抜き放ってトワリンの喉元を掻き切ろうとした。しかし、

 

「やらせんッ!!」

 

そんな声が聞こえたかと思うと岩元素でできたシールドがアガレスの刀を阻んだ。トワリンはその間にすぐアガレスから距離を取り、アガレスもシールドをそのまま粉々に砕いて脱した。

 

その隙を見逃さず長身の男性───モラクスが岩元素でできた柱を立て、それを足場にして高く飛び上がり、槍を振るう。シールドを砕いてフリーになったアガレスはモラクスの槍を体を大きく捻って躱し、そのまま右足を叩きつけた。突然の衝撃にモラクスは地面へと落とされるが、間髪入れずトワリンの無数の風の球がアガレスを襲った。

 

1つ目はアガレスに直撃したがアガレス自身も岩元素或いは風元素に覆われているからか効いている様子はなく、その後は全て撃墜されるか避けるかされ、あろうことか風の球を目眩ましにトワリンに近付いたアガレスはトワリンの不意を着いて刀を振るった。

 

しかし、地面で体制をなんとか立て直したモラクスによって再び阻まれた。トワリンが安堵し距離を取ろうとしたのも束の間、アガレスはシールドごとトワリンを地面へとはたき落とした。

 

『ッ…これほどまでに手強いとは』

 

地面へと落とされたトワリンがすぐに体制を立て直しながら思わずと言った形でそうボヤいた。その言葉に少し傷を負っている様子のモラクスも苦笑と冷や汗混じりに同意した。アガレスはまだ全ての元素を使用していないためまだまだ余力がある。対するトワリンとモラクスは二人がかりでも苦戦しているため、かなり厳しい戦いであることが察せられた。

 

アガレスは上がってこない様子のトワリンとモラクスを無機質な目で見ると、地面へと降りて来た。モラクスはそれを見て少し笑うと、

 

「トワリン、どうやらアガレスは俺達を敵対視してくれたようだ。今ならモンド城から離せるかも知れんぞ」

 

小声でそう言った。トワリンはその声をしっかり拾うと気合を入れるようにグルグルと喉を鳴らした。

 

『良かろう…どちらにせよやるしかないしな』

 

トワリンはアガレスへ向けて咆哮すると、敢えてそのまま突進した。アガレスは居合の体勢で固まっていたが、不意にモラクスによる物理的な横槍によって居合の体勢を崩された。そこへ迫ってきたトワリンがアガレスの衣服を噛んで遠くへ吹き飛ばそうとした。

 

しかし、パリッと空気が爆ぜる音が聞こえたかと思うと、閃光がトワリンとモラクスの目を覆う。直後に雷鳴が聞こえたかと思うと、アガレスはトワリンの拘束から逃れ、少し離れた所の屋根の上に立っていた。

 

「ッ…トワリン、覚悟を決めるぞ」

 

モラクスはそんなアガレスを見て冷や汗を大量に流しながらそう言って槍を構えた。トワリンはモラクスのその言葉にアガレスに威嚇の鳴き声をすることで答えた。

 

───じいさん、アガレスの足止めをお願いできる?

 

モラクスの脳内にウェンティ───いや、友人であるバルバトスから告げられた言葉がリフレインした。モラクスはギリッと歯噛みすると苦々しげな表情を浮かべ、

 

「…こんなにも厳しい戦いは…初めてだ」

 

とそう呟くのだった。




短め万歳!!主に私の負担が減る!!
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