前回の最後にちょっと描写を足しておりますので見ていない方をそちらも見ていただけると…。
モラクスとトワリンは上空から引き摺り下ろしたは良いもののアガレスを本気にさせたこともわかっていた。アガレスは現在、雷元素で屋根の上に移動してモラクス達を見下ろしており、しかし自分から動くことはせずただ冷ややかな視線を投げかけているだけだった。
しかし動き出せば最後、あらゆる元素でトワリンとモラクスの攻撃に対して柔軟に対応し、トワリンもモラクスも手痛い反撃を食らうことは目に見えている。
本当なら宙に浮いている方がアガレスも弱体化しているようなものだ。常に風元素を身に纏って飛行しているために、ある程度の神経はそちらに逸れているはずだ。勿論、地形のアドバンテージは大きいので誤差の範囲である。
だが、宙へ浮かなくなるということはつまり、飛行するために使う神経を別のことに使えることを意味する。モラクスが本気を出せるようになったとはいえ、アガレスの弱体化は解かれたも同然だった。
暫く睨み合いが続いていたが、不意にアガレスがキッとモラクスを睨んだ。瞬間、背筋に悪寒を感じたモラクスはトワリンにも聞こえるくらいの声で、
「…来るぞッ!」
と叫び岩元素で分厚いシールドを張る。トワリンも声が聞こえた瞬間に一気に飛び上がった。
「…雷斬」
ボソッとモラクスの耳元でそんな呟きが聞こえたかと思うと、モラクスの頬に裂傷が走る。モラクスはチッと舌打ちをしつつ槍を振るってアガレスに肉薄した。
屋根の上とモラクスの隣の地面をよく見ると雷元素が残留している。アガレスは雷元素を利用した移動方法をしながらモラクスを殺そうとしたが、モラクスのシールドによって刀の軌道がずれ、頬を僅かに切り裂いた程度に収まっている。
しかし、モラクスが反応できなかったことからもわかるように距離を取れば確実に先程の攻撃が来るだろう。そして、睨み合いの最中にも雷元素をモラクスやトワリンに気取られずに配置していたことを考えると、思ったよりアガレスの潜在的な戦闘センスは高いようだ。
モラクスはアガレスに距離を取らせないように槍を振るいつつ、アガレスの動きを岩の柱で牽制し続けている。勿論、距離が離れそうになった時は上空からトワリンが支援をしてあわよくばアガレスを気絶させようと画策していた。
アガレスはモラクスの槍をいなしつつ距離を取ろうとするが岩の柱やトワリンのブレスに加え風元素の球なども邪魔をして思うように距離が取れない現状が続いていた。そのためか、ふぅ、と息を吐くとわざと大きく後ろに飛んだ。それを逃さまいとモラクスが岩の柱を咄嗟に立てて妨害するが、アガレスは口の端を持ち上げて笑っている。
それを見たモラクスは焦ったような表情を浮かべると咄嗟に自分とトワリンにシールドを張りつつ眼前に柱を立てた。しかし、アガレスはそんなモラクスを無視してトワリンから一旦身を隠すためにモラクスの立てた柱の影に身を隠した。そのまま刀を仕舞って槍に武器を持ち替えると一瞬身を出して大きく振り被ると、手にした槍をトワリンへ向け思い切り投げる。
『───ッ何!?』
トワリンは爆速で迫る槍を認識できなかったのか、しかし直前でモラクスのシールドが砕け散ったために気づいてなんとか身を捩って回避運動を取った。しかしそれでも槍を避けきれずに翼を槍で貫かれたため上空から地上へと落とされることになった。モラクスは落とされたトワリンを見てギリッと歯噛みすると、柱を一旦全て破壊して視界をクリアにした。
アガレスは既に武器を持ち替えており、刀を手に持って構えている。モラクスは一旦深呼吸をすると自らも槍を構え、いいだろう、とアガレスに告げた。再びの睨み合いも束の間、アガレスとモラクスは同時に地を蹴り戦闘を再開した。
モラクスは先程とは異なり、アガレスに間合いを取らせない戦いではなく、岩の柱を攻撃や牽制、そして防御に使って戦っていく。時には岩の柱の影から突如姿を現して攻撃するなどの奇襲も使いこなして戦っていく。アガレスは無感動な表情のままそれらを淡々と処理していた。
そんなアガレスを見てモラクスは寂しげに笑うと、
「…この戦い方を俺に教えてくれたのはお前だ。その時は大層お前は喜んでくれたが…っはは、今は全く喜んでくれていないようだな」
アガレスへ向けそう言った。モラクスは一瞬の隙をついてアガレスの持つ刀に自らの槍を絡め、アガレスだけを投げ飛ばした。瞬間、モラクスはトワリンに視線を向け、トワリンは待ってましたとばかりに大きめのブレスをアガレスへ向け放った。
避けようのない完璧なタイミングで放たれたそれは、武器を持っていないアガレスにしてみれば弾き返す手段など存在しない───はずだった。
「何───ッ!!」
『グヌ…我のブレスをあの体勢で弾き返すとは…やはり何でもアリか、アガレス殿は』
アガレスはトワリンの放ったブレスを破裂音と共に弾き返し、なんてことないように地面へ着地したのだ。弾き返されたブレスはそのまま別の建物を破壊し、消滅した。モラクスはその様子を見てむぅ、と唸る。そしてトワリンも自らの渾身とはいかないまでもアガレスを殺さないようにして放った最大火力のブレスを弾き返されて脱帽のようだった。
アガレスが風元素のブレスをどうやって弾き返したのか、というと炎元素と雷元素を咄嗟に両手にそれぞれ纏わせてパァンッと合わせ過負荷反応を起こして爆発させ、ブレスを弾き返したのである。勿論、自らもそれなりにダメージを負ったが結果的に少ないダメージで危機を回避したわけである。
トワリンはブレスを弾き返されたことで威力のあるブレスを放てなくなり、牽制程度しかできなくなってしまったのだが、それも仕方のないことだろう。なんたって弾き返されたブレスでモンドに被害が出てしまったのだ。
モラクスもそれを理解しているからか、それ以降はトワリンの援護の下槍を振るい始めた。当然、アガレスは刀を奪われたままであるため、大剣を扱い始めるとモラクスと戦い始める。
当然、アガレスは大剣であるため一撃一撃が重く、槍で受けきるのも限界があるためなるべく避けるように心掛けながらモラクスはアガレスと戦って時間稼ぎを続けていくのだった。
少し時間を置いてようやく、住民の避難を完了させた西風騎士団と天空のライアーの準備を終えたウェンティ達がモラクスとトワリン、そしてアガレスのいる場所まで遂にやって来た。
「───わかってはいたけれど…ここまでとはね」
ウェンティは苦々しげな表情を浮かべて戦闘していた場所を見る。そして戦闘場所を見た者は皆一様に目を見開いて固まっていた。
地面は所々抉れており、何かの破片が散乱していた。そしてトワリンとモラクスは傷だらけになりながら肩で息をしながらなんとか立っている状況だった。しかし、アガレスは顔の一部に傷を負っているだけでそれ以外はなんともないようで凛としていた。
アガレスはモラクス達から視線を外してウェンティを見た。ウェンティは背中にかなり悪寒を感じたが、ゴクッと生唾を飲むと若々しい輝きを放つ天空のライアーを取り出すと少しだけ音を鳴らす。
不思議なことに、アガレスの動きが止まる。蛍達やジンにディルック、そして周囲の西風騎士達が警戒しつつも固唾を飲んで見守る中、ウェンティは遂にアガレスを元に戻すべく天空のライアーを爪弾き始める。
今度はただ音を鳴らすだけでなくしっかり旋律として成り立っていた。その旋律を聞いたアガレスは苦しそうに頭を抱えたが、その視線からは確かに懐かしさを感じているように見える。
アガレスはそのまま暫く苦しんでいたが、不意にウェンティへ向けて手を翳すと岩の礫が天空のライアーへ直撃し破壊された。ウェンティは咄嗟に手を前に出して防御したものの、天空のライアーがなくてはアガレスを正気に戻すことなど夢のまた夢だった。
アガレスは肩で息をしながらも少し遠くの地面に刺さっていた自らの刀を手にした───瞬間、モラクスが再びアガレスに踊りかかった。
「時間稼ぎは…限界までさせてもらうぞ!」
無論、アガレスはモラクスに反撃し手一杯になった。ジンは周囲の西風騎士に待機と警戒を命じつつ、一方で作戦が失敗したウェンティ達は次善策を考えるべく、モラクスの時間稼ぎに乗じて思考を巡らせ始めるのだった。
眠すぎてヤバいかもです!!うがあああ!!(気合)