暴走するアガレスを足止めするトワリンとモラクスだったがアガレスの圧倒的な力の前に苦戦を余儀なくされていた。そんな折、別行動をしていた蛍達と住民を避難させていた西風騎士団が合流。
ウェンティの策である『天空のライアー』を使った作戦でアガレスを一時的に拘束することに成功したが、そのアガレスによって『天空のライアー』を破壊されてしまったために、次善策を考えることになったのだった。
「───仕方ない、この手だけは使いたくなかったんだけどね…」
天空のライアーを破壊されてしまったウェンティ達は次善策をそれぞれ考えていたのだが、ウェンティが不意にそう呟くと懐から酒瓶を取り出した。勿論、中にはちゃんと酒が入っている。
蛍がそれを見て首を傾げ、パイモンがジト目でウェンティを見ながら、
「ウェンティ、お前それ何に使うんだよ?まさかアガレスに飲ませるんじゃないよな?」
そう問い掛けた。ウェンティはふっふっふ〜と笑うと、
「その、まさかだよ!!じいさんッ!!」
アガレスを足止めしているモラクスを呼んだ。モラクスはウェンティの言葉に反応すると、
「わかっている!トワリン殿!」
『ガァッ!!』
トワリンに合図を送った。それまで肩で息をしていたトワリンはアガレスへ向けて噛みつき攻撃を仕掛けたが当然避けられ、挙げ句横っ面を殴られた。モラクスはトワリンが殴られる寸前に岩の柱をアガレスの飛ぶであろう位置から生やした。トワリンはアガレスに殴られて吹き飛んだが、アガレスはそのままの勢いで岩の柱に後ろから突き飛ばされた。
一瞬意識が飛びかけたアガレスは地面にドシャッと音を立てて叩きつけられる。その瞬間、モラクスはウェンティにアイコンタクトで合図を送った。
「いっけええ!!」
ウェンティはその合図の通りに酒瓶をアガレスの頭目掛けて投げた。ウェンティのコントロールは悪くないがそのままだと勿論当たらないので、風元素でコントロールしてアガレスの頭に酒瓶が直撃した。モラクスとウェンティが同時に小さくガッツポーズをする。
そんな二人を見たジンがよくわからない、とばかりに首を横に振った。そんな様子を感じ取ったのか、ウェンティが全員に聞こえるように言った。
「知ってるかい?彼の唯一無二の弱点はね…お酒さ!!」
ポカーンとする西風騎士や蛍達に向けて肩で息をしているモラクスも言葉を紡いだ。
「アガレスは酒を少しでも摂取すると気を失う。匂いだけでもかなりキツイと言っていた。つまり、彼の頭に酒を掛けることによって気絶させられるのではないか、ということ作戦だろう」
ウェンティ、モラクスの言う通りアガレスは酒が唯一の弱点だった。ウェンティがわざわざ酒瓶を持ってきたのはアガレスを酒の匂い、或いは直接摂取させて気絶させるか酔わせて弱体化させるためだったのだ。
現にアガレスは酒を飲んだようで動かない。酒瓶が頭で割れたので頭から血を流しているが、俯いてアガレスが動く様子がなかった。しかし、
「あの様子、酔ってないぜ」
ガイアがそう言った。その言葉にウェンティとモラクスが抗議するような視線を向けるが、
「長年の勘、というか…仕事上、酔ってるヤツと酔ってないヤツの見分けをしっかりできるようにしとかないと犯罪を取り締まれない場合があるんでな。その経験からするに…アイツは酔ってないみたいだぜ」
ガイアのその言葉にまさか、という表情を浮かべてアガレスを見た。アガレスはゆらり、と立ち上がると何でもないように刀を構える。ガイアの言っていることは本当のようだった。
「…どういうことだ?復活したことで酒に対する耐性を得たとでも言うのか…?」
モラクスが冷や汗を流しながらアガレスを見る。ウェンティも同様に考えているようだったが、終ぞ結論は出なかったようで首を横に振って諦めた。
「とにかく、じいさんはまた足止めお願い!次の策を急いで考えないと…」
ウェンティは苦々しげな表情を浮かべながらモラクスにそう言う。モラクスは瞑目すると、命をかける覚悟を決め、
「心得た…トワリン殿、まだいけるか?」
『無論!!』
トワリンと共に再びアガレスの足止めを開始した。だが、モラクスもトワリンも先程より戦いが楽になったように感じていた。先程までなら攻撃してくるはずの場面でアガレスは刀を止め、逆に大きな隙を晒している。
モラクスはアガレスの表情や動きを注意深く観察し、一つの結論を出した。
「バルバトス!アガレスにはまだ自我が残っているかも知れん!!」
そう、アガレスの自我が微かに残っていて抵抗しているのかも知れない、ということだった。モラクスがそう考えた理由は表情と動きが先程までと明らかに異なっていたからである。だが何故突然、とモラクスは考えたが明らかな転機はモラクスが岩の柱を直撃させたことか、酒を頭から被ったこと、そしてウェンティが奏でた旋律くらいのものだろう。
加えて、腐食されていたトワリンに接触したアガレスが腐食されたのと同じようにモラクス達は腐食されていない。つまりアガレスはなんとか腐食を自らの肉体に留めているのだと考えることができた。
モラクスはそう考えつつアガレスの刀を槍で受け止め、なんとかいなし続けた。
一方のウェンティ達はモラクスの言葉を受けてどうすべきか考えていた。しかし、残された手札はあまりにも少なく、アガレスを治すことが難しくなってきているのも現状だった。
「…あまり治すことにこだわりすぎると討伐も難しくなるぜ?どうする風神サマ?」
ガイアがおどけた様子で、しかし真剣な表情を浮かべてそう言った。勿論、ガイアの言うことは全く以てその通りである。何が原因でアガレスの自我が目覚めたのかは不明だが、それでもいつまた先程と同じ状態に戻るかわからない。加えて、トワリンとモラクスを同時に相手取っても尚無双するその強さを目の前にして西風騎士達の表情には怯えの色が強くなっている。
時間をかければかける程、不利になるのは明白だった。
「…だからって諦めるわけにもいかない…だってアガレスはボクら神にとっては正真正銘家族のような存在だったからね」
それでも、とウェンティは策を考え続けた。彼の弱点である酒も、昔の旋律も失敗に終わった。勿論ウェンティにはこれ以上手札は残されていなかった。
しかし、
「…私の浄化の力だったらもしかして…」
蛍が不意にボソッとそう呟いた。その言葉に会議に参加していたジン、ガイア、ディルック、ウェンティ、そしてパイモンの全員の視線が蛍に集まった。言われてからウェンティは思い出したように呟く。
「そう言えば旅人はトワリンの涙の結晶を浄化していたよね…本質的には涙の結晶の不純物も腐食と同じはずだから…」
だが、とジンは蛍とウェンティへ向け告げる。
「その場合、あの天上の戦いに旅人を一人放り込むことになる。足止めだけで手一杯なのに、邪魔をしてしまわないだろうか?」
勿論、普通にしていれば邪魔をしてしまうかも知れない。だが、ウェンティは冷や汗を浮かべながら少し笑うと、
「ボクに策がある。今度こそ、最後の策だけれどね」
そう言って策を説明し始めるのだった。
「───よし、それじゃあ…じいさん、トワリン!」
西風騎士達とディルック、そしてモラクスとトワリンがウェンティの指示で一斉に行動を開始した。まず西風騎士達がモラクスのシールドを頼りにしてアガレスへ突撃、それに混じってディルックやジンなどの実力者はあわよくばアガレスを拘束すべく行動を開始した。
その間、一旦距離を取っていたモラクスも西風騎士達と共に突撃し、アガレスへの攻撃を開始した。
「トワリン、旅人…後のことはキミ達に託すよ」
その後方でトワリンの背に乗る蛍とトワリン自身にウェンティはそう告げた。トワリンと蛍は首肯き、決意を込めた眼差しでアガレスを睨む。
「畜生…ッ!」
「ッ…!!」
丁度ディルックとジンがアガレスの攻撃によって弾き飛ばされていたところだったが、すかさずモラクスがカバーに入って事なきを得ている。トワリンは翼を羽ばたかせて上空高く舞い上がる。ウェンティはそれを見送ると自らもアガレスとの戦闘の支援に回り始めた。
『旅人、覚悟はよいか?』
上空で戦闘の様子を見やるトワリンと蛍だったが、蛍はゴクッと生唾を飲み込み首肯いた。トワリンはそれを確認した後、一声大きく嘶くと急降下を開始した。
アガレスは地上でモラクスに手一杯になっていたが、不意に大きい陰が地面に伸びたのを察知してモラクスを蹴り飛ばすと上を見た。
上からはトワリンが迫ってきており、アガレスに直撃する軌道だったのだが、アガレスは冷静に風元素を刀に纏わせて突き出し、トワリンを一挙に吹き飛ばす。
かなりギリギリだったのだが、トワリンはニッと笑みを浮かべながら墜落した。それを見たアガレスはまさか、という表情を浮かべながら再び上空を見る。そこには───
「───アガレスさんッ!!」
両の手を大きく広げた蛍の姿があり、次の瞬間アガレスを蛍が抱き締めた。
───作戦はね、総力戦…と見せかけた旅人によるアガレスの腐食の浄化さ。
───勝率は?
───残念だけど高くないね。アガレスはあの通り強いし…旅人を無事にアガレスの下まで届けられるかもわからないし何人犠牲になるかもわからない。けれど、今犠牲にしなきゃモンドどころか世界が憎しみに追われたアガレスによって滅びることになる。それはボクらも…彼自身も望んじゃいない。
───どちらにせよやるしかない、というわけだな。だがやはりアガレスに接触するのは難しいのではないか?
───うん、そうだね…けれど、総力戦に見せかけてアガレスの隙を一瞬でも作ることができれば───
「───後は頼んだよ…旅人ッ!」
ウェンティの最後の策がハマり、アガレスに蛍が接触することに成功したのだった。
モラクス…かつてない重労働説
めちゃくちゃウェンティに良いように使われてますがアガレスのため、ということで…
因みにパイモンは危ないので瓦礫に隠れて応援をする係です。
実は結構パイモンの扱いに困っていたりする作者…可愛いから喋らせたくなるのは仕方ないよねウン。