忘れ去られたもう一柱の神〜IF旅人〜   作:酒蒸

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ということでアガレス救済回です…割と長かった気がする…

蛍ちゃん…というか旅人の浄化能力に関しては予想の設定になりますんで平にご容赦を!!


第21話 果ての救済

俺は力が欲しかった。

 

一度全てを失った俺は、全てを滅ぼせるだけの力を求めた。今度こそは俺の大切なモノを護るために、全てを滅ぼせるだけの力が欲しかった。

 

いや違う、これは八つ当たりだ。毎日をのうのうと過ごすだけの日々。ただ友人と酒を酌み交わし、世間話をして過ごすだけの日々。それだけだったらどんなに幸せだっただろうか。

 

『終焉』は一度俺から全てを奪い去った。俺が毎日をのうのうと生きていたからこそ引き起こされた『終焉』は、俺達のこの世界の力が不安定になっていたことが原因だった。友人達は恩返しだ、と言って世界の理に干渉して時間を巻き戻し、『終焉』が原因で世界は一度滅んだ。

 

俺は、俺のために散った友人達の言葉と勇姿、その全てを忘れることはないだろう。

 

───皆のことを…この世界を、お願いします、アガレス。

 

───盤石もいつかは…土に還る。お前に後は託す…友よ。

 

───ボク達じゃ止められなかったこの『終焉』を…キミなら止めてくれるよね、アガレス。

 

皆一様に俺を信じて散っていった。俺の記憶は完全ではないが断片的に思い出すことはできる。俺は二度死んだ。一度目は『終焉』と自らの力の不足が原因で死んだ。

 

だからこそ二度目の生は力を磨いた。この世界の力に当てはまるように7つの元素が扱えるようになり、戦闘技術を極限まで高めた。

 

だが世界と世界の衝突という『終焉』そのものの前では個人の力などほぼほぼ無意味だった。しかし、一度目とは異なり、増大した俺の力で世界間のパワーバランスを正常に保ち『終焉』を止めることに成功した。

 

そして500年の月日が経ち俺はこの世に再び生を受けた。だが目が覚めた時俺を知っている存在は誰もいなかった。

 

『終焉』を止める前まで、俺の名前はテイワット大陸の隅々まで広まっており、何かを護れば称賛と信仰という形で感謝の形を見ることができた。他には何もいらず、俺はただそれだけで良かった。

 

だが…世界を護った俺は、世界に感謝されることもなく、何より今まで感謝されてきた民にも忘れ去られていた。

 

俺はただ、大切なモノを護りたかっただけだから見返りがなくても問題ない、と自らを無理矢理納得させようとしたが…それも叶わなかった。

 

日を追う毎に俺の中にある怒りとどうして、という疑問は大きくなっていった。蛍とパイモンという新たな友人に恵まれ、再び民との交流をもすることができたというのに…俺は彼等の下を去ったのだ。

 

忘れ去られた俺にはまた一からやり直す元気も気力もない。何より、俺の中でどんどん激情が大きくなっていっていき、最終的には俺の理性を破壊するであろうことは目に見えていた。

 

だからこそ俺はただ孤独に死ぬのではなく、どんな形であれ俺の名前が残る死に方を選ぶことにした。手間を掛けずに名を残すためにはこうするしかなく、トワリンにも協力を仰ぐ必要があった。

 

だが…結果はこれだ。

 

激情を抑えきれず挙句の果てにアビスの手に墜ちた。本来の作戦とは異なり、旧友もモンド城も…多くのものを傷付けてしまった。俺が孤独に消えていればこうはならなかったことを考えると…やはり俺は何も変わっていないのだ。

 

最初に全てを失った時と本質は何ら変わらない。心変わりしようが力を磨こうが本質は何も変わらない。

 

俺は───何もできない神のままだ。

 

〜〜〜〜

 

(───これは…アガレスさんの記憶?いや、想い…?)

 

アガレスを抱き締める蛍の中に、少しの痛みと共にそんな想いが流れ込んでくる。蛍はキュッと口元を引き締めると、

 

「…アガレスさん、聞こえるよね」

 

アガレスの耳元でそう呟いた。アガレスは無反応だが僅かに体を震わせるだけで蛍を振り解いたりはしないようだった。蛍はそれを確認すると更に続けた。

 

「アガレスさんの想い…私にはちゃんと伝わったよ。皆に謝りたい気持ちも、誰かに見つけてほしいっていう願いも…何より、大切なモノを傷付けてしまって消えたいって気持ちも…」

 

少しずつだが、アガレスの瞳に意思が宿り始めた。従って蛍の感じる痛みも強くなるが、蛍は構わずアガレスを抱き締める力を強くした。

 

「…謝りたいなら謝れば良いし、大切なモノを傷付けてしまったなら…その罪を贖えば良い。何より…アガレスさんのことを忘れてない人だっている」

 

ウェンティ然り、モラクス然り、アガレスのことを忘れてなどいない。

 

「…だが、俺は…確かに…忘れ去られて…」

 

そんな中、遂に自我が戻ってきたらしいアガレスが口を開いた。蛍はアガレスの自我が戻ってきたことを嬉しく思うのと同時に、紡がれた言葉に悲しみを深く感じた。

 

「…確かに、アガレスさんは皆から忘れ去られちゃったのかも知れないし、私は…その境遇を嘘でもわかると言ってあげられない…けど、けどね」

 

蛍は言葉を選び、探しながらなんとかアガレスを励まそうと口を開き、いい言葉が思い浮かんだのか最後は少し微笑むと、

 

「こんなに大勢の人が…アガレスさんを助けようとして動いてくれたんだよ。勿論知らない人が大勢だけど…アガレスさんを助けたいって言ったのは他でもないウェンティだよ」

 

そう言った。アガレスは視線のみを動かしてウェンティと、そして自らの足止めをしたボロボロのモラクスとトワリンを見て、そして自らを抱き締める蛍を見た。蛍は目を閉じると、

 

「だから…アガレスさん、お願い…戻ってきて」

 

願うようにそう言った。アガレスは何も言わず、ただ俯くと蛍の背に手を回し、そのまま膝をついた。合わせて蛍も膝を付く形になったが蛍は全く気にする様子を見せず、寧ろアガレスの頭を抱いて頭を撫でながら大丈夫と言い聞かせていた。

 

 

 

斯くして、モンドの『龍災』は岩神モラクスと異郷の旅人の尽力によって終結した。このモンドの『龍災』には前半と後半があると言われており、前半は蒼き巨龍が、そして後半は一柱の龍神がモンドをそれぞれ襲った未曾有の災害であった。にも関わらず物的被害は深刻な程ではなく、モンドの住民にも死者も負傷者もいなかったのは奇跡と言わざるを得ない状況であった。

 

西風騎士団は風魔龍と呼ばれていたトワリンと龍神であるアガレス両名の事情を一部を除いて公表し、住処を破壊されたモンドの民の恨みや怒りの矛先が両名にいかないように努めた。

 

この一件で事態の解決に最も貢献した異郷の旅人が西風騎士団『栄誉騎士』の称号を授かる運びとなり、授与式には数年間姿を見せていなかった風神バルバトスが姿を見せ、統治をすることはないがモンドを見守る存在として帰ってきたことを民に告げた。

 

モンドは帰還した風神バルバトスと共に、新たな道を歩み始める。

 

 

 

「───アガレスさん、ほら!」

 

「待て、蛍…心の準備がまだできてないんだが…」

 

『龍災』終結から一週間後。モンドの西風大聖堂にて、蛍はアガレスの手を引いて中へ入る。蛍はニッと笑って無理矢理大聖堂の中へアガレスを連れ込むと、ズルズルと引き摺っていく。

 

ここへ来た理由は勿論、アガレスがウェンティ改め、バルバトスに謝罪をするためである。蛍はバルバトスを見つけると、

 

「バルバトスー、連れてきたよー」

 

と軽い感じでそう言った。バルバトスは少し微笑みながら引き摺られているアガレスを見ると微笑んで、

 

「アガレス、待ってたよ」

 

そう言った。アガレスはいい加減諦めたのか俯いて溜息を吐くとその顔を上げて真っ直ぐバルバトスを見た。そんなアガレスの右目は、左目とは色が異なっており、赤紫に近い色へと変色していた。

 

そんなアガレスは申し訳無さそうにしながら、ギュッと口元を引き絞ると、

 

「自我を失っていたとはいえお前に酷いことを言ってしまった…本当にすまなかった。虫のいい話だとは承知しているが…願わくばまた友人になってくれると嬉しい」

 

そう言いながら深く頭を下げた。バルバトスはそんなアガレスに近付くと、顔を上げて、と言った。アガレスが素直に顔を上げると、額に衝撃を感じて仰け反った。バルバトスは微笑みながらデコピンをしていたようで、指がジンジンするな〜なんて感想を漏らしていたが、

 

「これでおあいこだよ、アガレス。だから…ボクの方からお願いするよ…また友人として一緒に過ごしてくれるかい?」

 

やがてアガレスに笑いかけながらそう言って手を差し伸べた。アガレスは感極まって思わず泣きそうになったが、涙をぐっと堪えると差し伸べられた手を取るのだった。

 

〜〜〜〜

 

大聖堂を出た俺と蛍は少しだけ話をしていた。というのも、俺の『腐食』がどうなったのか、という話である。

 

俺が予想するに、蛍の浄化の力は本当の意味での浄化ではなく、自らに対象をすげ替えているのではないか、ということである。普通の浄化の力も持っていそうではあるが…微妙なところだ。

 

俺の腐食の力を吸収したからか、蛍の左目が若干赤みがかっている。それ以外に特に影響がないようでかなり安心したのはここだけの秘密だが、俺の右目が変色しているのも同じような理由だ。

 

「それでさ、アガレスさん」

 

真面目な話が終わったからか、蛍は新たな話題を提供してくれるようだった。俺はなんだ?と首を傾げながら蛍の言葉を待った。蛍はニッと笑うと、

 

「例え皆が忘れても、世界が忘れても…私だけはアガレスさんのこと、覚えてるからね。私だけは…アガレスさんの苦悩も全部知ってるから」

 

そう言った。俺はその笑顔と言葉に目と心を奪われつつ、彼女の頭に手を載せると、

 

「本当にありがとう。蛍…俺のこの力、その全身全霊を以てお前と、お前の大切なモノを必ず護ると誓おう」

 

そう言って微笑みかけるのだった。




と、いうわけで…序章は終了です(初耳)

長かったぜ…文字数が多いからだなウン。

申し訳ないやら恥ずかしいやら忙しいやらで一週間ウェンティ改めバルバトスに会いに行けない可哀想なアガレス君に加えて一週間も待たされ(焦らされ)るバルバトス君でした。

本編では蛍ちゃんが一方的にアガレスに好意的な感情を向けていますが、今回スタートはアガレスからになります。まぁ、こっからはしっかりラブコメしてくぜ多分…元々のコンセプトを私が忘れていなければな!!はっはっは(高笑い)

ということでここまで見て下さった方に感謝を…まだまだ続きますがどうぞよろしくお願い致します!
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