アガレス&蛍「余計なお世話にも程がある!!」
ということなので控えめにはなると思いますね多分、恐らく、きっと、確約はしかねるけれどもそうなる可能性は高いかと。
翌日、俺は一日でバルバトスの職場から逃げ…ゲフンゲフン退職し、再び拠点のある星落としの湖付近へと帰ってきていた。まぁ別に働きたいとは言ったが友人にこき使われるのはなんだかプライド的に宜しくない。そもそもプライドとかを感じている場合ではないが許してほしい。
モラクスとか雷電影や雷電眞の給仕ならいいのだが、バルバトスだけはなんか気乗りがしないのだ。加えて、
「…久し振りに人と話して疲れたしな…」
そう独り言を零す程度には俺はコミュ障になっていた。
そもそもモンドを襲っている時点で俺自身はかなり気不味い。だのにモンドの住民達と来たら普通に俺に話しかけてくるからそれはもう気不味くて仕方がない。必然的に俺の脳内は気不味さで一杯になってしまう。
つまるところ、会話に使う脳のリソースが余らないのだ。少しの反応を返すだけで精一杯になってしまってそれはもうどうしようもなくなってしまう。
ん?昨日の大聖堂でのことに関して言うなら、俺は『アガレス』としてではなく架空の人物である『クロ』として対応したからな。アレはノーカウントだろう。加えてあの時は幕越しだったからまだ大丈夫だった。
対面していたら、と思うとゾッとするな。ただコミュ障に関して言うならそもそも人と話していないからというのもあるのでなんとも言えない。かと言って人と話したいか?と言われれば実はそんなことはない。
なんかもうマジで一人でいいな。下手に大切なモノを増やしすぎると護るのも大変だし裏切られた時のショックも大きいのだ。
パチパチと音を立てて燃える炎をただぼーっと見つめながら時間だけを食べる日々にまた戻ってしまったが下手に人と関わるよりかはずっと良い。璃月の仙人達なんかももしかしたらこういう気持ちがあるかも知れないが本当のところはどうだろうな。
そんな時、普段は聞こえない灌木の折れる音が聞こえたため、火を水元素で消しつつ刀を抜く。方角は…後ろからか。風元素の応用で大体の位置は把握できている。真っ直ぐこっちに向かってきていることから間違いなく人間だろう。もしかしたらアビス教団の手の者だという可能性もあるが果たしてどうだろうか。
俺は岩元素で手早く落とし穴を作ると近くの木の裏に隠れて様子を窺った。灌木の折れる音だけでなく足音も聞こえてきたためかなり近付いてきていることがわかる。そして、
「───キャッ!?」
落とし穴の上に差し掛かった何者かが落とし穴に落ちた音と共に小さい悲鳴が聞こえた。落とし穴は作ったが怪我をするような深さでもなければ杭があるわけでもない。ただ、敵対する存在であれば即座に排除できるように刀を久し振りに持って近付いていく。
「…あれ?」
「あっ…えへへ、驚かせちゃったみたいでごめんね、アガレスさん」
だが、そんな俺の心配は杞憂に終わった。訪れたのは異世界の服装に身を包んだ旅人───蛍だった。
風元素と水元素で蛍のちょっとした傷を癒やしつつ汚れを取ってあげた。言いつつ、先の大聖堂に相談に来た女性の話を思い出した。
そう言えば俺と蛍の関係も友人と言えるかどうかわからない微妙な距離感だったな。現に話すのは結構久し振りだし、蛍は俺のことは友人とは思ってくれていないかも知れない。
ただ、もしかしたら俺のことを友人だと思ってくれているかも知れないので、
「すまない、まさか友人だったとは…」
とそう言ってみた。蛍はその言葉に一瞬面食らったように固まったが、すぐに嬉しそうにはにかむと、
「ううん、気にしないで。友達だもん」
とそう言った。友人と言われて嬉しそうだったから勇気を出して言ってみた甲斐があったというものだな。
俺は自分のちっぽけな勇気に心からの称賛を贈りつつ、蛍が何故ここに来たのかを問い掛けた。特段俺に予定があるとは思えないのだがどうなのだろうか?と思っていたのだが、蛍は少しだけ目を泳がせた後、
「そうだ、アガレスさんに何個か聞きたいことがあって来たんだった」
そう言った。本当かどうかはさておいても久し振りに人と話す俺が上手く喋れるかどうか。
───アガレスは結局、あの旅人に首ったけなのかい?
などと考えていたらバルバトスのその言葉が余計に脳内にリフレインしたため、蛍の言葉に返事をすることができずに暫く彼女の顔を真っ直ぐ見つめることになってしまった。
「…あ、アガレスさん?私の顔になにかついてる?」
そのため、蛍が若干顔を赤くしながらそんなことを言う。俺は慌てて顔をわずかに逸らしつつ、
「い、いやなんでもない。それで、何が聞きたいんだ?」
そう言った。お互いに若干気不味さを感じつつも本題に入るべく蛍が咳払いをして空気を変えた。尚、お互い顔が少し赤いので余り意味のないものではあったが、まぁ気分的なものだろう。
「それでね、アガレスさんが神様だってわかった時に本当は聞きたかったんだけど…聞きそびれちゃってて…」
神だというのがわかった時、となると神関連で聞きたいことがあるようだ。そして蛍が最も気になりそうな話題と言えば、
「蛍の兄のことと…お前達の行く手を阻んだ謎の神のことか?」
と思って聞いてみると、蛍は首肯いた。言われてから蛍の言っていた特徴を持つ神が俺の知り合いにいないことがわかったためそれを先ずは伝えた。そして、
「500年前、俺が『終焉』を食い止めた際にお前の言っていた外見の青年を見た覚えがある。とはいっても俺は直接話したことはないから…その二つはお前の期待には添えられそうにない」
俺はそう言って謝罪した。蛍は全然気にしないで欲しい、と言ってくれたが少しだけ落ち込んでいるのがよくわかった。なにもしてやれないし埋め合わせもしてやれない。これに関しては薄情だと思われるかも知れないがどうしようもないのだ。
俺は少し気になったのでバルバトスにも聞いたのかどうかを蛍に問いかけると、
「バルバトスも同じこと言ってて…謎の神のことは知ってる感じだったけど…」
そんな答えが返ってきた。妙に俺の中で腑に落ちてしまったが、同時に自分に少しだけ嫌気が差してしまう。まぁ仕方がないしどうしようもないのだが。
本題が終わったのか蛍は俺への質問を考えている様子を見せていたが、不意に口を開くと、
「アガレスさんの好きな食べ物ってなに?あと誕生日も知りたい」
そう聞いてきた。そう言えばほとんどそういった日常の情報は蛍と交換していなかったな、なんて思いつつ俺は返事をすべく口を開いた。
「そうだな、好きな食べ物は鶏肉のスイートフラワー漬け焼き、誕生日は9月18日だ。知ってどうするつもりなんだ?」
前半は真面目に、そして後半は冗談めかして答えると蛍は「秘密」とだけ返してきた。
そうして話している内になんだか楽しくなってきて普通に数時間くらい談笑して過ごした。その間は蛍の好きな食べ物なんかも聞いたし、俺の思い出話なんかも沢山聞いてもらった。というか途中から蛍が全肯定botみたいになってしまったのだが、それはそれで心配になってしまうのでやめてほしい。
そういえば蛍の近くにパイモンがいない理由だが、何故か最近は西風騎士団で過ごしているらしい。曰く、「オイラがついてるから上手くやれよ!!」だそうだ。よくわからないが蛍の側にいなくていいのだろうか?まぁ今は彼女の旅も休憩中のようなものだしそれでいいのかも知れないが。
「…それで、結局蛍が次に行くのは璃月なんだよな?」
俺のその言葉に蛍は俺が作った料理を頬張りながら、
「うん、モンドの問題は一応解決したし目的も果たせたからね」
そう言った。そうか、と俺は軽く返すと料理を頬張る。
いなくなるわけではないから二度と会えなくなるわけではないとはいえ寂しいものだ。願わくば一緒に旅ができれば良いのだが…なんて柄にもなく思ってしまった。
「…それで、なんだけどさアガレスさん」
そんな時蛍が真剣な表情を俺に向けて口を開いた。俺はびっくりして喉に料理を詰まらせかけたがなんとか飲み込むと聞く態勢を整え、続く言葉に耳を傾ける。
蛍は言い淀んでいる様子だったが、ギュッと目を瞑ると口を開いた。
「…私の旅に同行してくれたら、心強いかな〜…なんて「いいぞ」冗だ…え?」
そして即答で了承したのだが、後に続きかけた蛍の言葉に対して「え?」と素で返してしまった。冗談だったのだろうか、と思って軽く落ち込んでいるとそれを察したらしい蛍が慌てて冗談じゃないことを俺に伝えてきた。
その後少し落ち着いてから改めて、「本当にいいの?」と俺の隣にある岩に腰掛けている蛍が首を傾げながら俺に問い掛けてきた。俺は顎に手を当て少し考えてから、
「ああ、元からお前の旅路には興味があったからついて行くつもりだったんだ」
そう告げた。まぁ大切な存在を一番近くで護りたいから、というのが一番の理由だがそれを言えるわけもない。勿論言ったところで…という感じではあるが、伝えることができれば苦労はしないのだ。
そんなこんなで俺が了承したことで、蛍の旅路に同行することが決定したのだった。