忘れ去られたもう一柱の神〜IF旅人〜   作:酒蒸

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前半三人称、後半とある密偵の男、最後三人称ですね

視点がコロコロ変わるんだからもう


第29話 御破算

「───何?作戦の中止を要求するだと?」

 

謎の存在を肌身で直接感じ取った密偵の男はファデュイの拠点内にいる直属の上司に作戦の中止を要求していた。それを聞いた上司は怪訝そうな表情で、しかし少し驚いている様子だった。

 

密偵の男は冷や汗を浮かべながら首肯くと、詳細な報告を始めていく。

 

「…順を追って説明致します───」

 

密偵の男は任務を遂行するためモンド城内へ侵入し、協力者を探すべく先ずは現政権に不満を持っていそうな存在を手当り次第に探していたこと、その途中で要注意人物である旅人を見つけ後を追ったこと、そしてその先で得体の知れ無い存在に出会ってなんとか逃げ延びたことを上司に伝えた。

 

上司はこの話を聞きつつ顎に手を当てて何かを考えているようだったが、不意に密偵の男へ視線を向けると、

 

「今まで数々の難関任務を成功に導いてきたお前がそこまで言う程の相手だ…万が一にでも執行官様に危険を及ぼす可能性があるのであれば、情報を揃えるべきだろうな…では詳しい話を聞かせてくれ」

 

そう言った。密偵の男は自らの上司の聡明さに少し安堵しつつ、自らが見た容姿を伝えていく。上司はそれを細かく書き留め、

 

「それで、強さはどれくらいだと感じた?」

 

そしてそう問い掛けた。上司は密偵の男が優秀であることを知っているためただで逃げ帰ってきたとは思っていない。だからこそ容姿のことを問い掛けたのだ。現に密偵の男は事細かな特徴を挙げている。

 

「…それが、よく…わからないのです」

 

「…わからない?」

 

しかし、こと強さに関して言えば密偵の男は推し量りかねていた。そのためわからないと言われた上司も先程より大きく驚いている様子を見せる。密偵の男は先程肌で感じたことをそのまま上司に伝える。

 

「自分は姿も気配も消して旅人の後を追って聞き耳を立てていました。加えてそこは森の中であり、影など映らず気付くのは至難の業であるはずです。しかし、その男は旅人に私に気付いているかのような質問を投げかけていました。旅人は私の存在に気が付いてはいないようでしたが、その男は旅人の反応を見てから…自分に目を合わせてニッと笑ったのです」

 

俯きながら少し震えている様子の密偵の男を目を細めて見る上司はしかし何も言わずに次の言葉を待った。暫し間があって密偵の男は顔を上げて上司を見ると、

 

「…本当にわかりません…自分の存在が露呈しただけであればここまで驚くことはありませんし、今まで数回程度ありました…ですが、『明らかに人とは違うナニカ』が自分をしっかり捉えていたのです…まるで魂そのものを直接触られているかのような不快感が全身を駆け巡り…そう、アレは今にも自分の存在が消滅するのではないかという恐怖心です」

 

そう言った。上司の男はふむ、と一つ唸ると密偵の男の言葉を紙に纏め上げた。そして密偵の男の肩に手を置くと、

 

「よく生きて帰ってきた。この人物について少し調べてから執行官様に報告しておく。任務には別の者を行かせるから、お前は少し休んでおけ」

 

優しげな声音でそう言った。密偵の男は敬礼をすると了承し、部屋を去って行った。

 

上司の男はその背中を無表情を見送ると、誰もいないはずの室内で口を開いた。

 

「…どう思われますか?執行官様」

 

その声が響いた直後、紅い蝶が数匹室内に飛び回り、その蝶を中心にして黒い霧が現れたかと思うとその中から身長が高く魔女の如き美貌を持ち、プラチナブロンドの髪を靡かせる女性───ファデュイ執行官第八位『淑女』の姿がそこにはあった。

 

『淑女』は目を細めて先程男が書き終えた内容に目を通していく。

 

「…透き通るような銀髪に陶器のように白い肌、恐ろしく整った顔立ちに血液よりも紅い瞳…?」

 

そしてその一文に目を留めた。男が怪訝そうに彼女を見ていたが、

 

「…ここに書いてある内容に嘘偽りはないわね?」

 

不意にそう問われ声を裏返しながらもしっかり間違いないことを告げた。『淑女』はそう、とだけ返すと部屋から去ろうと出口へ向かう。そして部屋を出る直前、

 

「部隊長を集めなさい。作戦を練り直す必要があるわ」

 

とそう告げた。男はその姿を見送り、ただ平伏するのみだった。

 

〜〜〜〜

 

───任務には別の者を行かせるから、お前は少し休め。

 

そう言われてしまっては断れるはずもない。ファデュイにおいて任務の失敗は基本的に何らかの罰則があり、執行官様によっては部下を殺したり実験の道具にしたり使い潰したりするのだが、つまるところ俺は任務を放棄して逃げ帰ってきた存在である。

 

上司の言葉は労いの言葉のようにも聞こえるが、言外に「お前には失望した」と言われているのは俺だってわかっていた。

 

「…生き残ったは良いが、マジモンの貧乏くじじゃねぇか…」

 

自室のベッドの上で溜息を吐きつつ、思わずそう呟くくらいには今回の任務は最悪だった。

 

これまでの実績と信頼を全て失墜させるには十分なほどの失敗だ。モンドに一度は潜入しておきながら逃げ帰り、持ってきたのは謎の存在の漠然とした情報のみ。

 

もしかしたら執行官様に殺される可能性もあると考えると体が震えた。勿論今日感じた恐怖心程のモノは感じていないが。

 

「ふふふ、流石のお前も参ってるみたいだな?」

 

と、上から声が聞こえ顔がニョキッと生えてきて俺を見て馬鹿にするように笑みを浮かべている。ちなみに二段ベッドなので俺の上には今回の任務に赴く前に少し話した見張り兵がいた。

 

俺は少し苛ついたが参っているのは本当であるため言い返すことも出来ずただ溜息を吐いた。そんな俺の様子を見た彼は驚いたように目を見開くと、

 

「拍子抜けだ、言い返してくると思ったんだが」

 

そう言った。俺は最早苛立つ気力も失くしたため、

 

「…任務失敗して帰ってきて言外にお前は役立たずだって上司に言われた俺の気持ちも考えろ…」

 

ただ淡々とそう返した。ソレに対して上の隣人は少し笑いながらごめんって、と言って引っ込んでいった。俺はそんな彼の能天気さに嘆息しつつ、これからどうすれば、などと取り留めのないことを思い浮かべては答えを出せずにフラフラと思考を続けている内に眠りにつくのだった。

 

 

 

「───きろ、おい!早く起きろって!!」

 

次に俺が目を覚ましたのはそんな焦燥感に包まれた声に起こされた時だった。俺は何かが起きたのかと考え跳ね起きると、頭を上のベッドにぶつけた。

 

「お、おい大丈夫か…?」

 

彼の心配するような声には答えず、俺は状況は?と問い掛けた。すると彼はそうだった!と言わんばかりに口をあんぐりと開けた。

 

何ていうか、馬鹿なのだろうか?

 

「『執行官』様直々の招集だ。何やら新しい作戦を伝えるらしい」

 

俺は彼の言葉にわかった、と端的に返事をすると即座に着替えて彼と共に広間へと移動した。

 

少しして全員集まった俺達は直立不動の態勢を取って『執行官』様のお言葉を待った。『執行官』様は全員から見える位置に立つと、

 

「それでは作戦を伝えるわね───」

 

そう言って作戦の説明を始めた。俺が持ってきた情報を元にして再び組み立て直したようで、相変わらず風神の下には『執行官』様が赴かれることには変わりがないようだが、俺が遭遇した存在はわざと情報を流してここへ誘き寄せるようだ。そしてここの設備や複雑な通路を利用して罠にかけ、可能であれば捕獲し、出来なくても足止めを俺達でするようだ。

 

正直二度と会いたくないし見たくもない相手だが、命令である以上はやるしかないだろう。俺達一兵士は命令に従って行動するだけだからな。

 

そうして質疑応答の時間が取られたのだが、意外にも一兵士の中で謎の存在に関して質問しているヤツがいる、と思ったら俺の隣に立っていた。そう、同室のアイツである。『執行官』様は隣の彼の質問『基本情報が欲しい』という質問というより要望を聞いてふん、と鼻を鳴らしたが、

 

「その男の特徴に関して纏めた書類をここに置いておくから自分達で確認なさい、以上よ」

 

そう言った。殺されなくてよかったと俺はなんとなく安堵してしまったが、彼は呑気に大声で礼を言っている。なんというかムードメーカーというのはこういう奴のことを言うのだろうか、と場違いな感想を漏らしつつ質疑応答の時間を終えた俺達は書類を手に持って内容に目を通す。

 

基本的には俺が齎した情報と差異はなかったのだが、一つだけ付け足されていた点があった。

 

「標的の名は…『アガレス』か」

 

〜〜〜〜

 

ファデュイの拠点の改造には丸一日の時間を費やし、『アガレス』を罠にかける準備が整った。細かい所や役割分担を詰めて行き、ファデュイの計画は遂に実行の瞬間を迎える。

 

ファデュイの兵士達も、或いは『淑女』ですらも計画の失敗を疑わない。情報漏洩などしようがないからである。

 

「───来たな、ファデュイ執行官第八位『淑女』…待ってたよ」

 

「───何故…アンタが此処にいるの!!」

 

そう、誰も疑わないから、『アガレス』という存在に対して無知であるからこそ、為るべくして為った結果がそこにはある。そして動き出してしまった列車が直ぐには止まらないように、例え破滅に向かうとしてもファデュイの計画が止まることは、決して無かった。




ちなみにこの上司の男の人は名前はないですし絶対わからないので言いますが…IFストーリーではない本編に一瞬だけチラッと出てきてます。本編の第18話ですね、アガレスに拷m((ゲフンゲフンお話されて色々ゲロっちゃう人です
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