忘れ去られたもう一柱の神〜IF旅人〜   作:酒蒸

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今回最後だけ密偵の男視点です


第30話 二重の罠①

「───ここで良いのかい?」

 

モンドにある清泉町の郊外の森の中で一人そう呟く緑色の吟遊詩人風の風貌をした少年がいた。その隣には白い衣服を身にまとった少女と空に浮かぶ小さい白髪の子供がおり、少女の方が首肯くと、

 

「アガレスさんによればここにファデュイの拠点があるみたい。作戦通りにすれば大丈夫って言ってたけど…ウェンティこそ大丈夫なの?」

 

そう言った。ウェンティ───ことバルバトスはん〜、と少し考えるように頭を捻ったが、

 

「大丈夫だと思うよ。アガレスがボクと旅人に任せていいって判断したなら多分ね。それに今回はボクだけじゃなくてキミもいるし、百人力さ!」

 

やがて笑みを浮かべながら少女───蛍へ向けてそう告げる。蛍は首肯くとパイモンへ視線を向けて首肯き合った。そしてバッグから3つ目元につける黒い仮面を取り出すと、一つはパイモン、一つは蛍、そしてもう一つはバルバトスに手渡された。バルバトスは訳が分からず首を傾げていたのだが、

 

「てっててー!ディルックさん特製、黒い仮面〜」

 

と少し粘ついた口調で言った。パイモンは特にツッコミはせず静かにしているが、少しうずうずしている様子だったので案外ツッコミをしたいのかもしれない。

 

それはそれとして、バルバトスは取り敢えず受け取った仮面を身バレ防止のためらしいと結論づけて装着すると、

 

「ようしそれじゃあ、ファデュイの洞窟内への潜入を始めようか!」

 

森の中にひっそりと見える洞穴へ視線を向けてそう言った。

 

 

 

洞穴の内部は整地されていたが、篝火が未だ燃え盛っていることから分かる通り人はいるのだろう。だが、恐ろしい程に人の気配が薄かった。

 

「もぬけの殻ってことはなさそうだけど、案外何も無かったりするかもね」

 

そんな洞穴の入り口から入ってきたバルバトスは呑気にそう言う。それに対して、

 

「そんなこと言って…アガレスがここに何かあるって言うから来たんだよな?」

 

パイモンが答えつつ、蛍に視線を向けた。蛍はうん、と一つ首肯くと、

 

「なんかここに風神にとって大事なモノがあるらしいんだよね。詳しいことはアガレスさんもわからないって言ってた」

 

パイモンに向けてそう告げる。パイモンはほうほう、と首肯いていたがバルバトスは目を一瞬見開き、そして細めた。口元はニヤついているので何か考えついたのだろうが、蛍達はそんなバルバトスの表情に気がつく様子はなく、

 

「よし、それじゃあ先に進もうぜ!!」

 

と大声で言った。そう言ってパイモンが蛍を見ながら後ろ向きで進んだ結果、

 

「えっ───わっ吟遊野郎!?」

 

パイモンが謎の出っ張りに引っかかり、その瞬間パイモンのいる場所の上から丸太が降って来る。だがすかさずバルバトスが動き、丸太を風元素で吹き飛ばしつつパイモンを救い出していた。

 

バルバトスの手を離れたパイモンはバルバトスに礼を告げつつ、降ってきた極太の丸太を見てひぇっと顔を青くして怯えていたのだが、直後バルバトスに弓を向けられ「ひゃあああ!?」と悲鳴を挙げつつ防御姿勢を取ったのだが、バルバトスが射った矢はパイモンのすぐ横を飛んで行き、背後から丁度現れたデットエージェントの頭を貫いていた。

 

パイモンがふぅ、と安堵の息を漏らしていたのだが、

 

「まだ来るから気は抜かないで。旅人、戦闘用意はしておいて」

 

バルバトスのその言葉にすぐ緊張した面持ちへと変化する。蛍も剣を抜き放ちこちらも緊張しているようだ。バルバトスはそんな中でもうんうん、と首肯いて、

 

「いやぁ〜、大変だねこりゃ」

 

なんて呑気に呟いている。その言葉を聞いた蛍達は一瞬呆けたが、

 

「おいっ!気を抜くなって言ったのはどこのどいつだよ!!」

 

パイモンが顔を真っ赤にして怒る。バルバトスはそんなパイモンを微笑みながら見つめたままだったが、やがて目を逸らすと道に沿って歩き始めた。蛍達はよくわかっていないようだが、取り敢えずはついていくことにして歩き始めた。

 

普段と少し雰囲気の違うバルバトスは歩きながら罠を処理しつつ、口を開いて話を始める。

 

「…いつだったかな、ボクとアガレスがモンドで遊んでいた時だったかなぁ…」

 

「遊んでたのかよ…ってか吟遊野郎がこんなに強いなんて思ってなかったぞ」

 

「確かウェンティって七神の中では一番弱いって話じゃなかった…?」

 

バルバトスの言葉に好き勝手に反応する蛍達を尻目に、バルバトスは苦笑した。

 

「まぁそれもこれもアガレスのせいだけどね。取り敢えず、ボクが言いたいのはね…彼はほとんどの場合、意味のない嘘はつかないんだ」

 

そして苦笑したままそう呟く。その言葉を聞いた蛍がはっと何かに気付いたような表情を浮かべて顎に手を当てて考える素振りを見せる。その間もバルバトスの話は続いた。

 

「…そしてその多くはボクなんかの友人…を護るための嘘で、大抵の場合ボクが別のことをしている間に危険を排除するとか、まぁとにかくそういう場合が多いよ」

 

「じゃあ、吟遊野郎はアガレスがオイラ達をここに誘導するような嘘をついたって言いたいのか?」

 

パイモンのその言葉にバルバトスは首肯いて足を止めた。そして向き直ると、

 

「ボク達がここに来た理由はボクにとって大切なモノがあるから…そうだったね?」

 

蛍にそう問い掛けた。蛍は首肯き、そしてそのまま続けた。

 

「…確かに、アガレスさんは大切なモノとは言っていたけど、それが何かは明言してない…まさか…?」

 

その、まさかだよとバルバトスは苦笑いを浮かべたが、パイモンだけは腑に落ちない様子だった。バルバトスは少し俯くと悲しげに目を伏せる。

 

「彼にとって大切なのはボクが大切にしているものもそうだけど、その根本はボク自身…つまりここに来ることによってボクは護られたんだろうね…しかも罠やファデュイの面々がいるから、ボクにとって大切な何かがここにあると信じて疑わないことも視野に入れて…」

 

その言葉を聞いたパイモンは驚きのあまり大きく仰け反っている。

 

「あと、多分だけど危険すぎる罠のほとんどは既にアガレスが作動しないようにしてるみたいだね。最初の簡単に避けられる罠だけ残ってたみたいだけど」

 

「アレが…簡単…?」

 

そしてバルバトスの言葉にショックを受けているパイモンを見てバルバトス自身が少し笑っており、どうやら表情と感情がコロコロ変わるのが面白かったようだ。

 

実際特にその後はトラブルもなく、現れたファデュイをバルバトスがまるで簡単なことのように処理していくので、蛍達は背後の警戒しつつもバルバトスの戦闘を見てこれが神の力なのかぁ、と少し納得したような表情を浮かべていた。

 

〜〜〜〜

 

「───いやぁ、ほら結局なんにも無かったでしょ?」

 

洞穴の最奥で今、最後の兵士が倒された。結局何人生き残れたのか、そもそも生きているのか死んでいるのかどうかすらもわからない。事実わかることは俺一人が今この空間で生き残ったファデュイの兵士だということだ。

 

くそっと内心で思わず悪態をつく。何故かは知らないが目元を覆っている黒い仮面をつけているヤツら…アレは要注意人物の異郷の旅人とその仲間パイモンだろう。そして彼女達がいるということはその隣にいる緑色の吟遊詩人は…道中明らかに尋常ではない元素の操作を見せつけ、ファデュイの兵士達を文字通り千切っては投げていた。

 

恐らく…ヤツは風神バルバトスだ。神の中でも最も弱いとされる実力を侮っていたか。いや、そもそも罠のほとんどが整備不良などの理由によって誤作動したり、作動することがなかった。対アガレスを想定した罠のほとんどがそうなっており、ブラフとして設置していた弱めの罠のみが作動している。

 

(くそっ…なんでこっちに風神がいるんだよ…執行官様はヤツを取り逃がしたのか!?)

 

焦りからか、思考が纏まらないがここで死ぬわけにはいかない。モンドにはまだ複数箇所ファデュイの拠点がある。そこにさえ逃げ込めれば安心なはずだ。

 

俺は機を見計らってヤツらから距離を取ろうと行動を開始した。しかし、

 

「───おや、何処へ行くんだい?」

 

その声が真正面から聞こえた瞬間、俺は足を止めざるを得なかった。そして、俺の目の前には緑色の悪魔とも評すべき存在が立っており、彼は口の端を持ち上げて笑うと、

 

「一緒に遊ぼうよ」

 

そう言った。その笑顔を最後に俺の意識は闇に沈んだ。

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