忘れ去られたもう一柱の神〜IF旅人〜   作:酒蒸

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今回はアガレス側のお話になります


第31話 二重の罠②

時は少し遡り。

 

さて、状況を整理しよう、とばかりに俺は清泉町の風車の上でぼんやりモンド城とシードル湖を眺めていた。

 

清泉町郊外にある洞穴内にファデュイの拠点があることをディルックから聞いていたとはいえ、実際入ってみると驚くべきことにかなり広い様子であり、モンド全体の拠点とされているだけあるようだった。

 

潜入はそれなりに大変だったが、興味深い情報は手に入れることができた。

 

風神バルバトスの力の簒奪…どうやら、以前『天空のライアー』を盗もうとしていたのはこれが原因だったらしい。そして今回は風神バルバトスの帰還によって遺物を狙う必要がなくなり、本人を狙ってその力を奪おうとしているようだ。

 

無論見過ごすつもりはないためこちらでなんとかしよう。頼れるとしたら…ジンくらいのものだろうか?一応ディルックにも話を通しておいて…バルバトスと…念の為旅人も一緒に行動させるべきだな。彼女のポテンシャルはかなりあるだろうから、バルバトスをいざというとき守ってくれることだろう。少なくとも、執行官以外であればしっかり対応してくれるはずだ。

 

さて、まぁ当然モンド城へ来る執行官をどうするか、という問題はある。旅人の話によれば、執行官は七神に勝るとも劣らないほどの強さを持つらしい。しかし、所詮噂であり真偽の程は定かではないため、どれほどの強さかは実際に戦ってみなければわからないだろう。そして噂が本当であるのならば、バルバトスだけ、いや西風騎士団が一緒でも厳しい戦いになるかもしれない。

 

となればやはり、執行官は俺が対応するしか無いだろう。それはそれとしてモンド城内のいざこざがあるかもしれないのでジンに接触してみよう、とそう考えた俺は風車の上から風元素で飛び上がると、モンド城へ向け飛行するのだった。

 

〜〜〜〜

 

その日、夜中。モンド城内西風騎士団本部の大団長室にて、執務を終えたジンはソファで小休止していた。しかし、コンコンと窓をノックされたため音のする窓へ目を向けた。そして外にいる人物を見て驚いたのか目を丸くしつつ窓を開いた。

 

「…いやー、助かった。まさか窓を破るわけにもいかなければ、真正面から入るわけにもいかないしな」

 

入ってきた銀髪の男性は肩を竦めながらそう言った。ジンはムッとしつつ、

 

「普通に正面から来てくれれば、対応したのだがな」

 

そう皮肉を返す。皮肉を返された男性は苦笑すると、

 

「俺が正面から来たら、見張りの西風騎士に攻撃されるか…それか取り押さえられるだろうよ」

 

そう言った。男性とは言うまでもなくアガレスであり、昼の間に手に入れた情報をジンに共有しようとしていたのだ。皮肉の言い合いを一頻り終えたらしいジンは、アガレスに「それで要件は?」と問うた。

 

アガレスはふむと一つ唸ると、

 

「そうだな…少し伝手から情報を得てな、国家に関わるから共有しに来たんだ」

 

本当はアガレス自身が全て調べたのだが、少し濁しつつそう告げた。ジンはその言葉にピクリと眉を動かし、ほうと息を吐くと少し話を聞く姿勢を見せた。アガレスはそれを見届けた後、懐から数枚の紙を取り出してジンに差し出した。ジンはそれを受け取り、これは?と言いたげな視線をアガレスに向ける。

 

表紙には何も書かれておらず、真っ白な紙だったためだ。だがアガレスはジンの視線を軽く流して、

 

「…その紙は俺がわかりやすく纏めたモノだ。詳しくはそれに目を通してから話すから、先ずは目を通せ」

 

そう告げると大団長室の本を適当に手に取って読み始めた。ジンはそんなマイペースなアガレスを見てはぁ、と溜息を吐くと書類に目を通していく。

 

最初は疑いの目で目を通していたのだが次第にその目は真剣な表情に変わっていく。アガレスはそんなジンを横目でチラリと見て面白がっているようだった。そして書類に目を通し終えたジンは机の上にその書類を置き、撫でながらアガレスへ険しい表情を向けた。

 

「…これを君が考えたモノとすれば、夢物語だと断ずることもできる。現に君には然程信用がない。私とて、この書類に書かれている『計画』とやらが本当に存在するのか…信じがたい」

 

ジンのその言葉にアガレスは少しだけ笑ったが返事はしない。ジンはキッとアガレスを睨みつけると、

 

「…これは立派な妨害だ、『元神』アガレス」

 

そう言い放つ。アガレスはふむ、と今度は無表情に変わった。ジンは最初に相見えた時と酷く変化した雰囲気に、得体の知れ無さを全面に感じていた。そしてアガレスは重々しく口を開くと、

 

「妨害、ね。まぁお前がこの話を信じようが信じまいがどうだって良いことだ。俺が守りたいのはバルバトスであってモンドではない。だが、嘘だと断じてしまえばお前の護るべきモンドひいてはバルバトスにはかなりの被害が出ることだろう」

 

そう言った。ピクッとジンは眉を顰めると、その後はぁ〜と俯きながら大きい溜息を吐いた。そして顔を上げてアガレスを見ると、

 

「…何をすれば良い?」

 

そう告げる。アガレスは口の端を持ち上げて笑うと口を開いて自らの計画に必要な言葉を告げた。その言葉にジンは眉を顰めたが、

 

「奴らの計画の実行は二日後、明日一日の猶予があるから問題はない。俺の要求に応えるだけの時間は十分あると思うが?」

 

アガレスは足元を見た。卑劣だが彼の頭脳をフル活用した結果であり、自身の大切なものにしか意識を回さなくなった結果である。そしてこうなったのは復活してからの偶然が重なった故の必然と言えた。

 

バルバトスから事の顛末とある程度の事情を聞かされていたジンは考え込むように暫し瞑目した後、

 

「…わかった、条件を飲もう。ただし、ここに書かれている対価、というのは…」

 

条件を飲むことを告げつつ、再び書類に目を落とした。対価、とは無論今回の計画に協力した暁に支払われるであろう対価である。その書類にはとある文言が書かれており、半信半疑といった視線をアガレスに向けている。アガレスはニッと笑みを作ると首肯いた。

 

そしてジンはキュッと表情を引き締めると気合を入れている様子だった。それを満足げに見たアガレスは用は済んだとばかりに踵を返して窓際へ移動した。ジンはいなくなりそうな雰囲気を察してか、アガレスに声をかけると、

 

「…何故璃月から賓客を招くことができたのだ?私が知る限りでは伝手などないはずだが…」

 

最後にそう問い掛けた。するとアガレスは右手の人差し指を口元に当てると、秘密だ、と残して去って行った。ジンは内心でアガレスの監視を強化しようと考えつつ、あの様子なら意味はないか、と取り留めのないことを考えるのだった。

 

 

 

翌日、再びアガレスは姿を消しジン達の前に日中は姿を現すことはなかった。その間、ジンは西風騎士の限られた人物、部隊長クラスにのみ計画とアガレスのことを伝え、計画の下準備を始めた。無論、一部の部隊長からは不平が出ていたものの、モンドを護るためということでジンは無理矢理納得させた。

 

その日は慌ただしい一日だった。ジンは午前の内に騎士達への命令を済ませ、モンド城内は騎士がひっきりなしに走り回っており、無論モンド城の住民達も西風騎士団が慌ただしく方々へ駆け回っているのを見て何かがあることを察してか公務の邪魔にならないように普段より控えめに過ごしているものがほとんどだった。

 

無論、

 

「ぷはぁ〜…いやーっ人の奢りで飲む酒は美味しいね!!」

 

夜の『エンジェルズシェア』内においては別であり、普段より少ないとはいえ酒飲みが集まっているようだ。その中には見覚えのある緑色の吟遊詩人がおり、カウンター席で酒を嗜んでいた。と、言っても嗜むというより流し込むに近く、お世辞にも美しい飲み方とは言えなかった。

 

それを眺めていたバーテンダーのチャールズは苦笑気味だったが、何も言わずに酒を出し続けている。チャールズも一応間接的にアカツキワイナリーのオーナーであるディルックから事情を聞かされているため、特段咎めることはしない。ただ、未だに目の前の少年が風神バルバトスであることは信じ切れていないようだった。

 

尚、モンド城のほとんどの人は神としてのバルバトスの見た目しか知らないため、緑色の吟遊詩人が神と同一人物であることなど知る由もない。

 

そんな中、酔い醒ましの水を飲んでいたバルバトスは、

 

「…最近モンドに嫌な風が吹いているね。騎士が慌ただしいからよくわかるよ」

 

チャールズにしか聞こえない声でそう呟いている。バルバトスは、チャールズが自分の正体についてディルックから教えられていることを、二人から何も聞いていないはずなのだが、まるでチャールズが自分の正体を知っていることに気がついてるかのような口ぶりであるため、チャールズの首筋に冷や汗が走った。

 

「…近い内にきっと何か、大変なことが起きるね。それは…ボクの友人が関わっているのか、はたまた無関係なのか…」

 

その呟きはチャールズに向けられているものではないことは本人もよくわかっていたようだが、それでも耳を傾けずにはいられなかった。

 

「…変わっているんだね、アガレス」

 

バルバトスはそれ以上、何も言わなかった。




次回から罠の答え合わせ〜!!
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