…いや、ほんとすんませんしたっ…!
逃げ惑う人々の波を掻き分けつつ悲鳴も聞き流しながら俺は風神像までやって来ることができた。勿論風元素で浮き上がれば早かったのだが危険なのと岩元素しか使えないという設定を守るために念の為使わずにやって来ているのでそれなりに時間はかかっている。
さて、辿り着いたは良いがアンバーとパイモンがそこにいるだけで蛍の姿が見当たらなかった。俺は二人に声をかけつつ近付いて蛍の安否を問いかけた。するとパイモンとアンバーが慌てながら、
「「風に攫われちゃった(ぞ)っ」」
つまり竜巻に巻き込まれて空に行った、ということか。ってなると彼女には今の所空を飛ぶ手段がないはずだが…と考えてアンバーが蛍と一緒に去っていったのを思い出す。もしかして、と考えた俺はアンバーの顔を見た。
「アンバー、風の翼は彼女に渡してあるのか?」
アンバーにそう聞いてみると、彼女は首肯いていた。となると彼女は今上空で風の翼を広げている状態であり、トワリンに襲われている可能性もある、ということか…。
「背に腹は変えられないか…」
「ち、ちょっと!?」
アンバーが俺を止めるのを無視し、風元素を使用して浮き上がった。アンバーが驚いているのを無視し、俺は旅人を救出すべく飛び上がる───前にパイモンを見て、
「じゃ、ちょっと助けに行ってくる」
「い、いやいやいや、ちょっとってなんだよっ!?」
俺は下の困惑の声を今度こそ聞き流して上空へ飛翔した。さて、と俺は周囲を見回し、蛍を探すと丁度トワリンが雲の中からバッと出てきた。俺は風元素を駆使して噛み付いてきたトワリンの巨体を避ける。避けつつトワリンの肉体を眺めると首筋と腰辺りに謎の物体が存在していた。
「今のは一体…」
俺は風元素で衝撃を殺しつつトワリンを追いかけ始める。追いかけている途中で蛍が風元素の凝縮物をトワリンに向けて放っているのを見つけたのだが、何故かそのまま浮いて戦っているという事実に対して目を細めた。
近付きつつ俺は風元素を解除して風の翼を広げる。これは元々持っていたものだがしっかり持ち物までご丁寧にあるとは思わなかった。案外武器もあるのかもしれないな。
さて、今はそれはいいだろう。
「蛍、大丈夫だったか」
「ふぇっ!?アガレスさん?どうしてここまで…」
蛍が俺の方を見ずに驚きの声を上げた。蛍が浮いていられるのには多少の理由があるのだがまぁそれは今はいいだろう。それよりも今はトワリンを一旦追い払うのが先決だろう。
「見たところ原因は腰の結晶体にあるのだろうな…500年前に彼を見た際にはまだあのようなものは存在していなかったからな」
ただ見た感じだと先程から蛍は腰の結晶体に向けて攻撃していたようだった。だとしたら恐らく…彼の入れ知恵だろう。
「まぁいいさ。蛍、その調子で攻撃し続ければ恐らくトワリンは一時的に逃げてくれるだろう。その後の対応は…少々面倒臭いだろうが」
最後だけ蛍に聞こえないように小声にしつつ俺は少し考える。
事後対応はかなり面倒なのは勿論承知の上だがはてさてどうしたものか。トワリンは腰を攻撃されてかなり痛がっているようだから攻撃していればそのうちいなくなるだろう。現に、蛍の攻撃によってトワリンは飛ぶ速度を上げている。このまま逃げていく…かと思えば反転して蛍に噛みつこうとしてきた。当の蛍はまだ風の翼に慣れていないらしく避ける素振りすら見せられない。
仕方ないか。
「ふんっ」
俺は若干気の抜けた掛け声とともにすぐにトワリンの横っ面を殴った。本気じゃないし力もあまり入っていないが旅人の手助けをしている奴の風元素を少し邪魔するのを承知で風元素で加速したのでそれなりに威力はある。実際、驚いたトワリンは逃げていった。自我はあまり残っていないようだな。
「あっ…逃げた…」
夢中で攻撃していたのか、或いは集中力が必要だったのかは不明だが蛍は気が抜けたようにそのまま風の翼を広げて下へと下がっていく。まぁ最後はトワリンに噛まれかけたし少しくらい恐怖を覚えていても無理はないだろう。俺も蛍について行くように周囲の警戒を怠らないようにして下へと降りて行く。
下へ降りて行くと蛍とアンバー、そしてパイモンが三人で話していた。アンバーとパイモンは蛍に異常なところや怪我がないかを確かめているようだった。まだそれなりに高度はあるし風の翼で降りているので時間がかかる。その間によくわからない風貌の怪しげな男が拍手をしながら歩いてきていた。
「ん?一人足りないな…まぁいいさ。見事な活躍だったぜ、異邦人。モンドに吹く新たなる風となるか…それとも嵐となるか…」
近付いてきたので容姿がよく分かる。褐色の肌、不思議な形の瞳、片側を隠すように前髪があり、隠れている方の瞳には眼帯がつけてある。案外長髪な男だが怪しいというだけで別に他に特徴はない。強いて言うなら声がいいってところか?
「ガイア先輩!」
アンバーがそう言った。先輩、ということはつまり現れたあの男───ガイアは西風騎士団の人間か。俺は地面へと降り立ちつつ警戒を解きガイアを見る。ガイアの視線が蛍とパイモン、そして俺へと移った。彼は含み笑いを浮かべると腕を組んだ。
「歓迎するぜ、旅人。まぁ、歓迎できるような状況じゃなかったがな」
苦笑しつつガイアは蛍とパイモンを見て言った。
「あんたらの活躍はモンドの住民全員が見た。勇敢で凄いって今やモンド城内はあんたらの話題で持ち切りらしいぜ」
若干皮肉っぽくガイアが言う。まぁしかしモンドの住民も昔から元気だ。つい先程までトワリンの襲撃を受けていたというのに噂話をするほどの元気があるだなんてな。まぁ良くも悪くもモンド人らしいと言えるだろう。
「ただ、ちょっと面倒なことになっててな…うちの代理団長サマが重要参考人としてあんたらを連れて来いって仰せでな。まぁそういうわけでちょっとついてきてくれないか?ああ、アンバーも勿論一緒にな」
蛍とパイモンが首肯いたことで必然的に俺もついていく羽目になってしまったが、まぁどちらにせよついていくつもりだったので問題ないだろう。
俺達はそのままガイアとアンバーに連れられて西風騎士団本部へと足を踏み入れた。建物は石造りで外見は然程変わっていなかった。内装はやはりというべきか、最後に見た時とは異なっており幾らか綺麗になったように見える。ただ、西風騎士の数は昔よりずっと少ないようだ。
入ってすぐ左が団長室なようで俺達はそこへと案内された。中に入ると二人の女性が何やら話をしていたようだった。一人は全体的に紫色で魔女の帽子を被っているところから恐らく法器を使うのだろう。
もう一人はポニーテールが特徴的な長身の女性だ。ただ雰囲気が物凄く真面目な雰囲気であり、先ず間違いなく騎士の道を生きる存在だろう。女性でそういった人間と聞かれると…一人思い当たる節があるな。
「ガイア、それにアンバー…戻ってきたのだな。それで進捗は?」
呼びにくいので便宜上ポニーテールと呼ぶことにして…そのポニーテールの彼女がガイアとアンバーにそう聞いた。この感じから察するに彼女はガイアとアンバーの上司か…割りかし偉い位置にいるようだ。
聞かれた当のアンバーとガイアは、というとアンバーは首を横に振って、ガイアは肩を竦めて俺達を見やった。
「む、そちらの方々が報告にあった旅人達か?」
そこまで来てポニーテールの彼女が俺達に気が付いたようで、胸に手を当てて自己紹介を始めた。
「すまない、自己紹介が遅れたな…私はジン、西風騎士団の代理団長を務めている者だ」
これがポニーテール…西風騎士団の現代理団長ジン・グンヒルドとの出会いだった。