先ずそもそも大前提の話をせねばならないだろうな。
つい先程までずっと歴史書を読み漁っていたので大まかなここ500年のことは知ることができた。トワリンのこともその中にしっかり書いてあった。どこまで信用できるかはわからないが参考程度にはなるだろう。
知識違いは後から修正すれば良いのだ。まぁ、知識のことに関してはとある人物に聞くのが一番手っ取り早いのだが…まぁ、今はいいだろう。
「さて、あの蒼き巨龍…つまるところお前達が『風魔龍』と呼ぶ彼の正体を知っているか?」
俺は手始めにジン…いや、西風騎士団でどの情報を把握しているのかを知ることにした。質問された彼女の様子を窺うと普通に椅子に優雅に座っている。俺は目を細めつつ答えを待った。
「ああ、リサの調べによれば彼はかつてモンドの四風守護のうちの一柱、東風の龍トワリンである、ということは把握している。だが、彼が何故怒り、何故モンドへ敵意を向くのか…それがわからないんだ」
ジンはそう答えた。
トワリンであることは知っているが彼が怒っている原因が不明であり、かつ調べることもほぼ不可能であるためその原因を排除できかねる、だから風魔龍への対処は撃退或いは討伐ぐらいしかできない、ということか。
「なるほど、合点がいった。考えなしにトワリンを排除しようとしていたのならば───」
───いや、これは言うべきではないな。
俺は不思議そうな顔をするジンへ「なんでもない。癖だから気にするな」と言い訳し、本題に入る。
「それなら話は早い。四風守護がモンドへ牙を剥くとは考えにくい…つまり原因が彼自身ではなく第三者にある、と考えられるわけだ」
「…何が言いたいんだ?」
ジンは言っていることは理解できるが…といった様子だった。勿論、俺が言っていることはただ知っている状況から鑑みて導き出しただけのものだからな。
「蛍が見たかどうかは断言できないが、トワリンのうなじと腰に禍々しい水晶のようなものが生えていた」
トワリンが激しく怒りモンドを襲っているのは恐らくあの水晶に原因があるだろう。ジンは少し驚いたように目を剥きつつ「それは本当か?」と俺に問うた。俺は首肯きつつ、
「ああ、少なくとも500年前までにはあんなものはなかったからな。間違いなくここ500年の間の出来事が原因だろう」
俺はそう述べた。するとジンはバッと席を立ち俺の胸ぐらを掴みつつキッと睨んできた。
「私を馬鹿にしているのか?水晶の話が本当のことだとして、何故500年前にそれがなかったと断言できるんだ?君は我々と同じ人間だろう」
信用してもらっている、と思っていたが案外そうでもなかったようだ。まぁ、一言も俺が神だとか数千年生きているとか言ってないからな。こうもなるか…言っていたとして信じてくれるかどうかは別だろうが。
一先ずどうしたものか、と俺は頭を悩ませるが普通に説明するしかないだろう。証明のしようもないからな。一番手っ取り早いのは『神の心』を見せることだが…俺の神の心は他の神と違って元素が宿っていない。模造品だと取って捨てられる可能性もあるし、ジンが神の心を知らない可能性はかなり高い。何より神の心を我が身から離すのは危険だ、と本能が告げている。まぁ兎にも角にも普通に説明するしかないな、といった感じで俺は胸ぐらを掴まれかつ美人に凄まれたまま至って冷静に話し始めた。
「ならば問うが俺は今まで一言も自分が人間だとは口にしていないはずだが?『人工生命体』ではないと言っただけで相手が人間と断定するのは結論が早すぎるだろう」
俺はただ、と言って少し笑う。
「相手が人間かどうか、というのは判別が難しいだろう。肉体の造りで判別する人間なのか、或いは意思疎通ができるから人間なのか、人型であれば全て人間なのか。逆に何を以て人間ではないと断じるのか…まぁ、この辺りは『生命とは何か』を考えるくらい正直言って無駄だ。今の話にはあまり関係がないだろう」
俺の言葉にジンは黙り込み、そして俺の胸ぐらを掴む手を緩めると椅子に座り直した。俺は乱れた服をしっかりと直して再び席に就く。
「すまない、続けてくれ」
「当然の疑問だから謝る必要はない。で、俺が何故500年前のことを知っているのか…それが気になるのだろう」
俺はジンの前に右手の手の平を上へ向けて差し出す。ジンは俺の謎の行動に首を傾げた。対する俺は左手の人差し指を口の前に立て、
「ここからは他言無用で頼む」
とそう言った。ジンが首肯くのを確認してから左手も同じように前に出して右手に岩元素、左手に風元素を生み出す。
「さて、この二つの元素を扱えることは先程言ったな」
俺の言葉にジンが首肯く。俺はその二つを霧散させると左手を戻す。ここからは元素反応が怖いので一つずつやることにしたのだ。霧散させた後に次の元素を発生させようとしたのだが俺は思わず苦笑を浮かべずにはいられなかった。
「ジン、そんなに近づいたら危ないぞ?気になるのもわかるがもう少し離れろ」
そう、俺の右手に物凄くジンが近かったのである。ジンは恥ずかしかったのか少し頬を紅潮させつつ「すまない」と言って距離を取った。
では改めて、と俺は右手に炎元素を生み出した。薄暗い図書室の中でかなり炎の明るさが際立つ。無論、本に燃え移らないように配慮しているため炎自体はかなり小さい。だが、それでもジンにとっては大きな驚きがあったようで仰け反って目を丸くしていた。
「こ、れは…」
「次だ」
俺は炎元素を霧散させ、そのまま水元素、雷元素、氷元素、そして草元素と全てを生成しては霧散させを繰り返して全てを扱えることを見せた。
「嘘に嘘を重ねてすまなかったな。この通り俺はあらゆる元素を扱うことができる」
「そうか…いや、確かにこれは危険だな。岩元素のみ扱える、としていたのは正解だろう。だが、それでどうやって君が500年前のことを知っていることを証明するつもりだ?」
ジンはそう俺に疑問を呈した。俺は首肯きつつ改めて俺のことを知っている人間が少ないことを実感することになったが、まぁそれはいいだろう。
「リサが言っていたことを覚えているか?口伝には『七神』ではなく『八神』だったかのような記述が残っていると。その具体的な内容を知っているか?」
俺の言葉にジンは首を横に振った。なので俺はわかりやすいものを抜粋してジンに告げる。まぁ、わかりやすいものと言っても内容としては至極単純なものだ。
『遥かな昔、祖先が受けた恩を忘れてはならない。様々な元素を操り我等を救うその様は正しく神であった』というだけのものだ。書物に拠れば璃月にある明蘊町の口伝を集めたものらしい。そしてこの口伝は話によれば今から数百年前の話だそうだ。まぁ、その明蘊町は現在生計を立てるための鉱山の鉱脈が枯渇してしまい、人々が去って行ったようだがな。
俺が上記のことを説明するとジンは考え込むように顎に手を当てて下を向き、少ししてから口を開いた。
「…なるほど、様々な元素を操る、という一文に注目すると…『七神』の中にそのような神は恐らくいない。となるとやはり…」
ジンはそう呟いて俺を見た。どうやら、彼女は気がついたようだったので取り敢えず首肯いておく。
「確かに複数の元素を操る、という点では同じだが…果たしてそれで信じて良いものかどうか」
ジンの言うことも尤もな故に何も言えないが俺から言えることは唯一つだ。
「信じてくれたら嬉しいが俺がその八人目の神だ。勿論、証明できるようなものはなにもないがな」
俺はそう言って微笑む。そのままトワリンの首と腰にある水晶に関しての予想を述べる。
「さて、500年前まではトワリンにはあのようなものはなかった。そしてあのような水晶も俺は見たことがない。ここ500年間で生まれたものだと考えられるな…そういえばジン、一つ聞きたいことがあるんだが」
と、予想を言っている途中で一つ聞きたいことを思い出したので聞いていいかをまずは聞く。ジンからの許可が下りたのでそのまま俺は問いかけることにした。
「バルバ…いや、風神は何をしているんだ?風魔龍こと、トワリンがモンドを襲うのは一大事のはずだろう」
聞いたみたは良いが、ジンの歯切れが悪い。不思議に思って問い質してみるとジンの口からは予想外の言葉が出てきた。
「風神様は…ここ数年モンドへ姿を見せていないんだ」
俺は何故か、その風神が高笑いしている様が頭に思い浮かんで溜息を大きくついた。いや、恐らく何らかの理由もあるだろうし高笑いなんか全くしていないだろうがなんとなく浮かんだので若干腹を立てておこう。
俺の表情がおかしかったのかジンが怪訝そうな顔をするが、構わず俺は口を開いた。
「まぁとにかく、お前に知っていてほしいこととしては水晶のことと俺が7つの元素を扱えること…これらを頭に入れておいてくれ」
俺がそう言うとジンは首肯いて「わかった」と言った。他言無用の点にしても彼女は信用できる人間にしか言わないだろうし、その辺の人間に言い触らしたところで俺の存在は無用な混乱を招くだけなので話しはしないだろうという読みだ。勿論俺のことを知っておいたほうが色々対応もしやすい、という向こうの事情も鑑みた結果だ。
まぁ、事件現場に二つの元素の痕跡が見られた場合真っ先に俺が疑われることにはなるだろうがな…などと自虐しつつ俺は少し考える。
今はまだ情報交換の段階だ。ジン自らここへ出向いたということは俺にこれ以外の用があるはずだ。ない場合もあるだろうがその場合でも俺は勝手に蛍の手伝いをする気満々なのでどちらにせよ彼女達を手伝うことになるだろう。
ただ、他の用があるかどうかは確認しておくべきだろう、と考えたため俺はジンに用向きを尋ねることにして口を開くのだった。