忘れ去られたもう一柱の神〜IF旅人〜   作:酒蒸

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あ、題名はネタです。


第8話 お手伝いなら万能アガレスちゃんにおまかせ!①

「それで、俺の持っている情報だけが望みじゃないんだろう?」

 

先程も述べたがこれはあくまで推測であり確定ではない。だが、実際にそうだったようでジンは一つ首肯いた。

 

「旅人…彼女が何者なのか君は知っているだろうか?」

 

ジンから問われたのはそれだった。まぁ俺と蛍はそこまで…というよりほとんど付き合いがないと言っても良いだろう。そんな俺が彼女の正体を知っているかどうかと聞かれれば、勿論否と答えざるを得ないだろう。

 

しかしジンの求めている答えはこれとは少し違う気がするな。なんとなく、それこそ勘だが蛍よりもパイモンの方が怪しげだし、事実俺もあのような生命体は見たことも聞いたこともない。テイワットにいる存在に当て嵌めると…やはり仙霊が一番近くなるかな。とはいえジンがその答えを求めているとも思えない。端的に言えば質問の意図が俺にはわからなかった。単純に気になるだけなのかもな。

 

何はともあれジンの質問には返答せねばならないので俺は口を開いた。

 

「俺は彼女の正体についてはわからない。会ったのも昨日今日のことだからな。詮索する時間もあまりなかったし蛍もわかっていない様子だった。一回につき一種の元素しか使えないみたいだが入れ替えれば理論上全元素を扱えることができる、ということしか俺は知らないぞ」

 

俺の説明にジンはふむ、と反応すると、

 

「いや、十分だ。ありがとう」

 

そう言って席を立った。どうやら用はこれで全てらしく階段を登っていく。が、途中で立ち止まり振り向いて俺を見た。

 

「…風魔龍───いや、トワリンの件改めて協力に感謝する。それと…」

 

ジンはそこで何かを言い淀む。代理団長として言い難いことならある程度想像できるな。俺はジンに見えないように笑うと、

 

「…そうだな、今の俺には時間がある」

 

ジンがキョトンとした。俺は構わず続ける。

 

「だから人手が足りないなら助けてやれるかも知れないな」

 

そこまで言ってジンは俺の言わんとすることに気が付いたらしく苦笑したが、すぐにその表情を引き締めると、

 

「アガレス、不躾だが協力を要請したい。四風守護の神殿攻略を手伝ってはくれないだろうか」

 

勿論俺の答えなど決まっているのでジンに返答した。

 

 

 

「───そんなわけではるばる…ってほどの距離じゃないがやって来たぜ西風の鷹の神殿!!」

 

俺が謎のテンションでそう言うと何故か蛍とアンバーに苦笑を返された。パイモンはというと空中で器用にあわあわしており、

 

「いや、なんでアガレスがいるんだよ?監視されてるんじゃないのか…?はっ、まさかアガレス、監視を倒してきたんじゃ…!」

 

そんなことを言う。俺はパイモンにジト目を向けると、

 

「んなことしねぇよ何だと思ってんだ」

 

そう抗議した。

 

俺はこほんっ、とパイモンの失礼な言動を見逃し、咳払いをして西風の鷹の神殿を見やる。

 

「さて…リサの調べによれば四風守護の神殿にトワリンの力の根源のようなものがあるらしいな。そうでなくても異常がある、と…」

 

どちらにせよどの秘境内にも同じ反応が見られるため何らかの異常があり、それを騎士団がなんとかせねばならないことには変わりないからなぁ、なんて顎に手を当てながら考えていると、アンバーが俺の顔を覗き込んできた。俺がそんなアンバーの様子に気が付いて首を傾げると、アンバーは少し微笑みながら口を開く。

 

「アガレスさん怖い人かと思ってたけど…案外優しいんだね」

 

そのアンバーの言葉に蛍とパイモンが吹き出した。思わず俺は彼女達に抗議のジト目を向けるとパイモンがぷぷっと笑いながら、

 

「だってアガレス実際怖いからな…べ、別に仲良くなってるし友達だから今は怖くないぞ!」

 

パイモンの言葉に少し驚いた俺は蛍にも視線を向けると蛍も首肯いている。思いの外、俺の第一印象は悪かったらしい。一体何がいけなかったのだろうか?

 

俺が顎に手を当てて考え込む姿勢になるとそんな俺を見たパイモンが苦笑を浮かべた。

 

「アガレスのやつ、本気で悩んでるみたいだぞ…」

 

「パイモンのせいだね」

 

「い、いやいや!オイラだけじゃないだろ!!」

 

「あ、あの…いい加減中に入ろうよー?」

 

蛍とパイモンが好き勝手に話し、俺は顎に手を当てて熟考していたのだがアンバーの一声で正気を取り戻し(?)西風の鷹の神殿の中に入るのだった。

 

 

 

中に入ると昔よりもずっと荒廃しているように見える。神殿の壁の至る所に罅が入っており、蔦が俺達の行く手を塞いでいる。加えて、トワリンの高い風元素力に惹かれたのかヒルチャールやスライムが跳梁跋扈しているようだ。

 

…500年前からすれば別の場所と言われても違和感がないな。

 

「ここに風魔龍の力の根源があるって話だけど…」

 

アンバーが周囲を見渡してそう言った。風魔龍呼びに少しだけ違和感を覚えるがアンバーの言わんとすることは理解できるので俺は普通に告げた。

 

「彼の力の根源があるのはもっと先だろう。案外、この神殿は奥があるからな」

 

昔は人の手がきちんと入っていて小綺麗な場所だったし司祭なんかもいた。だが今はその司祭も参拝者も見当たらない。ここ500年で神と人どころか四風守護と人との関係も変化してしまったらしい。

 

それはそうとこのままでは蔦が邪魔で前には進めないな。俺が燃やして進めるようにしてもいいが、残念ながらそれはできない。蛍とパイモン、そしてジンの前なら問題ないがアンバーやガイア、リサの前で使えるのは風元素と岩元素だけだ。

 

なので、と俺はアンバーを見て蔦を指差す。

 

「アンバー、あの蔦を炎元素で燃やしてくれ」

 

「オッケー!まっかせて!!」

 

若干食い気味にアンバーはそう言うと弓を引き炎元素のついた矢を放って蔦を燃やしてくれた。騒ぎに気が付いたヒルチャールが燃え盛る蔦の向こうでこちらへ向けて弓を引き絞っているのが見える。

 

俺は蛍達の様子を見てみたが気付いている様子はない。俺は仕方ないか、とばかりに溜息を吐くと法器を隠れて取り出しヒルチャール目掛けて雷元素で攻撃した。ヒルチャールは突如痺れを感じたのか弓を落とした。自分の腕と落とした弓とを不思議そうに交互に見やるヒルチャールを尻目に俺は蛍達に何気ない顔で話しかける。

 

「ありがとうアンバー、お陰で先に進めるよ」

 

俺のお礼にアンバーは若干照れたようにえへへ、と笑う。そんなアンバーの様子を見たパイモンも嬉しそうに笑った。

 

「それで…先に進むにはあのヒルチャールの群れを突破する必要があるだろうな」

 

無論避けるつもりもないが、と俺は付け加える。

 

西風の鷹の神殿…人が作ったものとはいえそれでも知り合いを祀った場所だ。土足で踏み荒らされているのは俺も少々気が立つ。

 

だからだろうか。俺は三人の返答を待たず蔦があった場所を進んでいきヒルチャール達の前に躍り出る。俺に気が付いたらしいヒルチャール達は俺へ向けて攻撃してくるが勿論させるつもりはない。

 

まず俺は前衛のヒルチャールを無視して少し飛び上がる。前衛のヒルチャールがこちらを勿論釣られて見上げる。

 

「隙あり、だな」

 

俺は言いながら刀から法器に持ち替えて風元素でヒルチャール達を吹き飛ばしていった。壁に叩きつけられたり、普通に絶命したりしているのでどうやらこれで戦いは終わりなようだ。

 

ヒルチャール、か…楽なものだが本当に妙だ。1000年前にはこの世界に現れていたようなのに記憶が欠如しているかのように俺にはヒルチャールの記憶がない。確実に知っていたはずだが何らかの理由がありそうだな。『摩耗』による魂の剥離が原因の記憶障害にしては違和感があるしな。

 

なんて考えつつ俺は後から走ってきた蛍達を見る。蛍とアンバーよりも更に遅れてきたパイモンが俺に呆れと恐れが混じったような視線を向けつつ、

 

「あ、アガレス…倒すの早すぎだろ…」

 

そう言った。

 

「仕方がないだろう。少し苛立っていたからな」

 

パイモンの発言に対して俺は隠そうともせずそう答える。言われた当のパイモンは引き攣った笑みを浮かべていた。

 

アンバーがいる手前理由までは言えないが蛍には話しておいたほうがいいだろうな。彼女はこの世界の人間ではない。だからこそ…俺や他の存在が例え消えたとしても忘れないだろうからな。

 

「もう少し先なはずだ。ヒルチャールは…まぁ恐らくもういないはずだからな」

 

「え、なんでわかるんだよ?」

 

俺の言葉にパイモンが首を傾げながら疑問を呈する。勿論、本当ならわかるはずもない。だがこの神殿の構造的にないだろう。

 

俺は三人にもう少し進めばわかる、と伝え歩き始める。三人はちゃんと俺についてきてくれているようだ。進みながら俺はアンバーを見て告げる。

 

「アンバーがいてくれてよかった。最初もそうだがアンバーがいなかったら先に進めなかったからな」

 

そう言う俺を蛍とパイモンがジト目で見ているのを感じる。言われた当のアンバーは嬉しそうにはにかんでいたのでまぁ許してほしい。

 

さて、先に進んできた俺達の前には炎元素の元素石碑となにもない空間が広がっている。勿論、地面も存在せず今の所風域があるわけでもない。アンバーが必要、とはこういうことだ。

 

「アンバー、頼めるか?」

 

「まっかせて!」

 

先程蔦を燃やしたときのようにアンバーが元素石碑に炎元素を当てて活性化させた。すると先程までなかった風域が現れ少し離れた場所にある最奥まで行けるようになった。

 

俺達は風の翼を広げると最奥まで飛んでいった。

 

「アレか…」

 

最奥の広間の中央には風元素の凝縮された塊が存在しており確実にあれが元素の流れを乱しているモノだとわかる。周囲に魔物がいる様子はなく特段護衛などもいないようだ。

 

「さて、どうするか…」

 

風元素の凝縮された塊は下手をすれば元素反応でこちらに危険が及ぶ可能性もある。普通に破壊しても問題ないとは思うのだが…正直な話よくわからないと言えるだろう。

 

「アンバー、リサかジンから原因のモノを見つけたらどうしろとか言われてるか?」

 

なのでこういう時は人を頼ればいい。リサはトワリンの襲撃が始まってからずっと調べていたんだろうし俺よりこの凝縮物に関しては詳しいだろう。事実、アンバーは迷いのない瞳で普通に破壊しろと言われていたことを明かした。

 

そのまま俺達は念の為元素攻撃はせずに物理攻撃のみで凝縮物を破壊した。破壊した後、一瞬強い風が吹き荒れたがそれだけで他にはなんともなかった。

 

「これで西風の鷹の神殿は問題なさそうだなっ!」

 

「うん、任務完了だね!!」

 

パイモンとアンバーが顔を見合わせて微笑み合いハイタッチしている。そんな中、蛍の微妙そうな表情に気が付いた俺は蛍にどうしたのかを問い掛ける。

 

「…いや、なんでもない。大丈夫」

 

蛍のその様子にどことなく違和感を覚えつつも深くは聞けない俺なのだった。


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