新作ASMR作ってたりしてました。
活動報告からよろしくどうぞ!
⚪︎
「えっ!? 私が悠くんと横浜に、デデデっデートに!?!?!?」
「そうよ〜。悠くんもひとりも、いくら親公認とはいえ、どこにも出かけないのは不健康でしょ?だから私、あなたたちでふたり分のデートプラン立てちゃったわ〜♪」
――そのお義母さんの一言に
――後藤家は絶対零度の空気になった
「お、お母さん……?」
「お前……、正気か?」
ふたりちゃんもお義父さんもお義母さんの正気を疑っている。
「ええ、正気よ。じゃないとあなたたち21世紀ベストカップルなのにもったいなわよ〜。このまま青春を暗いひとりの押し入れの中で過ごすなんて♪」
「言われてみればその通りなのですが……」
俺はどちらかと言えば陰キャでも陽キャでもない。
中庸――のはずなのだが……。
「あばっ、あばばばばばば……!」
横を見るとひとりがすでに泡を吹いて倒れそうになっている。
(陰キャ!陰キャの私が陽キャ溢れるオシャレタウン横浜に!? アイエエエエエエエ!?)
ひとりの脳内は手に取るようにわかる。
行きたくないのだろう。
普段ピンクジャージで吉祥寺に行ける根性があるなら、横浜程度楽勝に思える。
でも、ひとりにとってはそうではないらしい。
「それに♪お義母さん、あなたたちの美容室、予約しておいたから♪ それに悠くんも、可愛くなったひとりちゃん、見たいでしょう?」
「え、ええ……」
ブルブルと引き付けを起こすひとりに、無慈悲なとどめを刺すお義母さん。
「それに、あなたと私でダブルデートして、ひとりちゃんと悠くんのデートの行方を見守りましょうね♪」
「あ、ああ……!」
お義父さんを見ると、血涙を流しながら、こちらを般若の形相で睨みつけている。
――猛烈に怖い――
「それに、私たちも出会ったのは横浜だったし、久しぶりに……ね♪」
「ああ……」
お義母さんはお義父さんを手玉に取ると、お義父さんの顔が急ににこやかになった。
――こうしてひとり&俺
――お義母さん&お義父さん
以上の二組による、親同伴のダブルデートが決まったのである。
――決まってしまったのである。
○
――デート。
私には縁のない言葉だと思ってた。
当たり前だけど、結婚するには彼氏がいないと結婚できない。
彼氏を作るためには、当たり前だけど知り合いを作らないといけない。
――私にはずっと無理だと思ってた。
だから逃げるように、ギターに打ち込んできた。
ギターに打ち込む理由は他にもあったが、知り合いを作るのが苦手な私にとっては、ギターこそが生き甲斐だった。
…………でも、気づいたら私には悠くんがいた。
――悠くんは私に美人になってもらいたいんだろうか?
――もっと可愛くなってもらいたいのだろうか?
周りには可愛い女の子が多い。
――喜多さん
キラキラしてて、常に友人が多くて、人の輪の中の中心にいるような子だ。
同性の私から見ても、あんな彼女がいたら人生が楽しくなると思う。
――虹夏ちゃん
バンドにひたむきで、でも明るくて……。
周りとの調和を大事にしてて……、でも夢に真っ直ぐで……。
人柄から現れる優しさが可愛らしい女の子だ。
――リョウさん
女性らしいセクシーさはないけど、アンニュイでミステリアスな魅力に満ちている。
バンドに対する熱意もあるし……、周りから見たらとても美人らしい美人だ。
――私はどうか。
芋臭いし、鈍臭いし、普段押し入れにいるからカビ臭いし、着てるものはジャージだし……(私はジャージがロック女子だと思ってたけど、最近周りはそう思っていないことに気づいた。気づいてしまった)。
髪だって手入れしてないし、ボサボサだし、せっかくお母さんが私のために買ってきてくれた服を……
ずっと押し入れに入れている女だ。
…………私、悠くんにとって魅力的なんだろうか?
不安になってチラチラと闇の中の悠くんを見てしまう。
私たちはいつも通り、暗闇のような押し入れで二人でセッションする。
――不安
不安――
――不安
【私は見捨てられないだろうか?】
その考えに行き着いてしまうと、私はいてもいられなくなった。
「悠くんっ!? あぶぇっ!?」
「だ、大丈夫かひとり……」
勢い余って、ギターごと立ち上がると、盛大に頭をぶつけてしまった。
呻いていると、ヨシヨシしながら頭を撫でてくれる悠くん。
優しい……。
頭のてっぺんの痛みが優しく癒やされていく。
暗闇ゆえに見えなかったが、…………………………………それでも。
――私は一生分の勇気を使い果たして聞いた。
「悠くんは……、綺麗になった私、みたい……?」
恐る恐る、相手の様子を伺うようにでてしまう私の弱々な声。
いつも死にそうな生命力の証。
「ああ、みたい。見てみたいけど……、ひとりが嫌なら俺がお義母さんに断っておくよ」
「みたい……見たいの?」
「うん」
悠くんのリラックスして澱みない答えに、私は躊躇せず答えた。
「私……、横浜、行くよ、悠くんのために!!」
悠くんを他の人に取られるのはぜっっっっっっっったいに嫌だ!!!!!!!
別れるのもぜっっっっっっっったいに嫌だ!
だから………、ちょっとずつでもいいから私は変わるんだ……!
幸い、お義母さんとお義父さんが私をサポートしてくれる!
だから………、私は変わるんだ!!!!!
例えお父さんとお母さん同伴のダブルデートでも!!!!!
○
「お待たせ〜、ふたりとも待ったかしら〜♪」
「全然待ってないです♪」
定番の話をしながら俺とひとりは、後藤家のご両親のことを待っていた。
ちなみにふたりちゃんは来たがったが、家でお祖母さんとお留守番らしい。
南無三!
今日の後藤家ご両親はふたりともキメキメの格好で現れた。
お義父さんはライダースジャケットにジーンズ、それに皮のバイクシューズというコテコテのロッカーファッション。
お義母さんは…………なんと学生服だった。
「お母さん!? な、なんで学生服なの……!?」
「お義父さんと学生時代、横浜でデートしたのを思い出して……、つい嬉しくなっちゃって着ちゃった♡」
「「…………」」
これには流石に俺とひとりも驚いた。
「お母さん大丈夫? パパ活っぽい雰囲気出てるよ?」
「ひとり……、確かにお義母さんは若いが、ツッコミどころはそうじゃない……」
「二人とも〜!褒めてくれてありがとう!今日は一緒に楽しみましょうね!」
そんなこんなで何故か……。
――お義父さんは楽しんでる様子だ!
「いや〜!通りすがりの人たちからの視線が気持ちいいね!下卑た目線から、羨ましいって目線まで!僕は窓際族だから、こんな目線でもすっごく嬉しいよ!」
「お願いだから間違った方向に行かないで、お父さん!」
ひとりの必死のお願いも虚しく、お義父さんは間違った方向にイッてしまっている。
そうして、俺らは美容院へ向かった。
○
「ひとり!がんばれ!」
「フレーフレー!ひ!と!り!」
「頑張って、ひとりちゃん!!!」
「ふぐっ!うぎぎぎぎぎ………!」
とても女の子が出していい声じゃない声をひとりが出している。
――俺はいつ北斗の拳に転生したんだ?
ひとりは泡を吹きそうになりながら、美容室の台に固定されて、前髪を切っている。
頑張って意識を保っている。
……………北斗の拳というより、
映画グリ○ンマイルだわこれ……。
手首を固定されてるところなんて、死刑用の電気椅子そっくり。
しかもひとりはガクガクと震えてる。
髪を切るだけなのに……。
――どんな光景を俺は見せられているんだ??
○
「危うく皆倒れるところだったわね……。お母さん、霊媒師さんから買った呪符持ってきて正解だったわ」
「うんうん、お母さんが持ってきてくれなかったらもっとヤバいことになってたね!」
ワッハッハ!と笑うご両親二人だったが、ひとりはとてもげっそりしていた。
「20年分の気力を使い果たした気分……」
「お、お疲れ‥………」
ひとりの肩を正面から揉んでやると、爽やかなひとりの前髪が視界に入る。
そこには素敵な美少女がいた。
トリートメントを受けた直後なのか、枝毛ひとつない艶やかな髪。
毛量は適切に抑えられ、もっさりとした髪は見る影もない。
眉も整えられ、ついでに顔剃りもしてもらったのか、産毛という産毛は全て処理されている。
――心を激しく揺さぶる美しい美少女がそこにいた。
「ひとり……」
「悠くん……!?」
――衆人環視だというのに、
――俺は気づいたらひとりを抱きしめキスしていた。
「ひとり……すきだっ」
「ひゃぁ…………!!!!」
一人は俺の中でビクンビクンと震えながら、なされるがままになっている。
キスが終わると、美容室自体はやさしい雰囲気に鳴っていたが、
——一人だけ血涙を流している男がいた
——ひとりのお父さんだ……
怒りにわなわなと震えながら、お母さんに止められている。
——俺はやらかしたことを自覚した