らぶこめ・ざ・ろっく!   作:朝比奈小町

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第2話 PAさんとラブコメ

――高校デビューに失敗したひとりと、

――奇人変人として認定された俺は

 

――すっかりクラスで浮いた存在となっていた。

 

今は昼休み。

ぼっちの見つけた階段下の1Fのデッドスペースで一緒にセッションをしている。

ここは薄暗く、人混みもなく、人の視線もなく、

――演奏するには心地いい環境だ。

ひとりの携帯用アンプは、心地よい歪み音を鳴らす。

俺はふたりのタンバリンを持ってきて、一心不乱にタンバリンを鳴らしている。

 

ニチャァ、と破顔するひとり、そして俺。

 

俺たちは他所から見ると完全に、

――奇行種カップルとなっていた。

 

ライブハウスと弁護士事務所のバイトを始め、ひとりに構う時間がなくなってから、彼女に押し切られ、昼休みの度にずっとセッションをしている。

ひとりが見つけたここは、誰にも見つからない、俺たちだけの『秘密基地』のような場所だ。

昼休みになると、二人で何も言わないままここに集まり、無言で弁当を平らげ、一瞬一秒を惜しむようにセッションを始める。

 

とあるきっかけがあった。

最近、ひとりのお母さんにうるさいと怒られたせいか、ぼっちに連れ込まれ、一緒に押入れの中でセッションをしたのだ。

初めは動揺した。

 

――密室で女の子と二人きり

――暗く狭い空間。

 

親戚(いとこ)と言えど、ひとりの桃色の長髪は綺麗だし、体もよくみたら素晴らしいものを持っている。

しかし、カビ臭さと、えも言えぬ防虫剤の匂い、そしてピンク色のクソダサジャージがほのかな俺の期待を全てを台無しにした。

 

押し入れのなかでセッションに集中する。

暗いところでかき鳴らす音楽。

 

ひとりのギターアンプと俺のタンバリン、そして照明代わりのPC。

 

ただただ、ひとりと楽器をかき鳴らすだけで、鬱憤を晴らしてくれる。

ロックは敗者の音楽と言われるが、まさにその通りだ。

 

二つの負のエネルギー

――ひとりは高校デビュー失敗

――俺は学校で友達作りに失敗

 

――それが俺たちの薄暗い情熱を掻き立てていた。

 

昼と夜、俺たちは二人でニチャニチャしながら楽器を弾く。

昼休みが終わると解散し、夜1時間だけまたセッションする。

そのせいか、俺も異様にカビの匂いが大丈夫になってきた。

 

しかもライブハウスで何故か誉められるようになった。

『バンドマンっぽくなってきた』

誉められてるのか、貶されているのか分からない。

 

一方、弁護士事務所では『暗くなったね』とか、『無敵の人にならないようにね』と言われるようになり、不穏なトラブル案件ばかり手伝わされるようになった。

 

――なんでさ!

 

――――――

バイトと新学期が始まって、2週間ほど経った。

先日虹夏先輩はバンドメンバーを探していたらしい。

 

――バンド!

 

楽器を演る者なら誰でも憧れるその存在!

 

「俺はどうですか!?」

 

と反射的に声を掛けるも、

 

「タンバリンはNG」

 

と、苦笑いされ、バンドに入れてもらえなかった。

……どうして‥‥、なんで……。

タンバリンいい楽器じゃん、と思うも、虹夏先輩は喋り続ける。

「今度、結束バンドのバンドメンバー募集を兼ねて、路上ライブする予定なんだよね。メンバー集まるかどうか、分からないけど楽しみだよ」

「本当にそれでメンバー来るんですか?」

「多分大丈夫!」

「…………」

 

先日ココアを奢ったリョウ先輩は無言だ

何を考えているか、正直わからないが、そこにミステリアスな魅力がある。

背も高く、紺色のパーマがかった髪は綺麗で、彼女のユニセックスな雰囲気によく似合っている。

 

虹夏先輩は強がっている様子だったが、「メンバー募集はバンドあるあるで、割とメンバーは集まることが多い、だから大丈夫だと」とリョウ先輩は言っていた。

……心配だが、もはや俺にはどうすることもできない。

何故なら俺はバンド加入を拒否られてしまったのだから。

 

あれ以来、リョウ先輩とはそこそこ仲良くなった。

あのバンド解散騒動のココアが効いたらしく、なんだかんだ俺にたかるようになっている。

でもスターリーでバイトもしていたらしく、ここで会った時は驚いた。

そんなに時給は高くないが、高校生でバイトしてて、お金もあるはずなのだが、お金がないらしい。

リョウ先輩は黙っていればかっこいいのだが、お金に無頓着なところが玉に瑕だ。

先日、『七草粥って言うぐらいだし、食べられるよね』とその辺の雑草を抜いて食べようとしていた。

虹夏先輩によると、ご実家は医院を経営しており、お金に余裕はあるはずなのだ。

………どうしてこうなった?

 

――――

いつも通り学校で一人で過ごしていると、隣の喜多さんが目に入った。

今日の喜多さんは、いつもと爪のコーディネイトが違う。

マニキュアとラインストーンのデザインの意匠を変えターコイズブルーにしているようだ。

それに合わせて髪飾りもターコイズのものに変え、いつも通り明るく美人な彼女をさらに装飾、引き立てている。

彼女の赤髪にも意外とマッチしているのがオシャレポイントだ。

それを残念なことに、他の男子たちは見逃している――

 

――俺でなきゃ見逃しちゃうね

 

と、かっこよく脳内決めてみたものの、気づいたら口に出ていたようだ。

『……やっぱりやばい人なのかも』とチラチラ喜多さんに見られている。

 

「喜多さん、今日のネイルも……」

「ごめんなさい!私もう行かないと……!」

と、声をかけてみても、先日のひとりの事件があったせいか、明らかに距離を取られている。

――しかも次の授業は移動教室ではない。

 

心なしか、俺はクラスでただの痛いキャラだと定着してきた。

 

――慣れたせいか、もはや心に痛みはない。

‥‥‥…‥‥…

…………

…‥嘘だ。やっぱり痛い。

 

友達が、欲しいっ!!!!!

 

――――――

学校が終わり、いつも通りライブハウスでバイトをしてると店長に女装コスプレをするよう、命令された。

 

「今度、貸切でコスプレライブイベントがあってな。スタッフもコスプレしてくれ、と依頼者側から連絡があったんだ」

「はぁ……」

「それで、アタシは店を仕切って監督する立場だし、PAは裏方だから何かする必要もない。すると、ドリンクか受付をする割と表に立つお前が適任だ。他のバイトはその日休みだし」

「いいですけど、なんのコスプレするんですか??」

「ここのスタッフは女しかいない」

――好きなのを選べ。

 

そう言って渡されたのは、去年のハロウィンに使ったであろうコスプレが、雑に詰められたダンボールだった。

完熟マンゴーと書かれた大きめの段ボールには、色とりどりのコスプレが入っている。

――セーラー服

――ブレザー制服(女性用)

――ナース服(ミニスカート)

――クラシカルなメイド服(ロングスカート)

――S●Y FAMILYの幼女の制服(膝丈スカート)

 

あまりのラインナップに頭が一杯一杯となる。

「……業務命令ですか」

「業務命令だ」

「くっ‥‥、悔しい……!でも感じちゃう……!」

――男としての尊厳をな!

 

使用者から労働者に下される業務命令には大義名分があり、それが著しく法令に反していないと、拒否できない上に裁判しても負けてしまうのだ!

大義名分:コスプレライブイベントがあり、企画者に従業員のコスプレを希望され、店長がそれを承認している。

法令違反:全裸にならなければ法令違反ではない。女装は可!

 

絶望しかない‥‥。

どうなってんだ、日本の法律はよぉ……。

将来、絶対ロックバンド出身の議員か市長になってやる……。

 

「大丈夫ですよぉ〜!私がしっかりサポートしますから」

――お化粧とか、女の子の作法をね♪

 

と横から入ってくるのは、ぱっと見えて清楚系でありながらも、ピアスたっぷりで闇が深そう系女子のPAさん。

どうやら、普段お化粧の配信とかしているらしく、その辺りは自信があるらしかった。

 

「それに北見くん、よく見ると華奢だし、小顔だし、十分クオリティの高いコスプレが出来そうよ!」

「女装だとバレないよう喋れないですけど、それでもいいんですか?」

「ライブハウスのドリンク係に誰も愛想なんて期待してないから、無言で渡せば大丈夫」

と、店長の言。

 

――本当にそれでいいのか!?

 

俺はバイトながら、このお店の経営が心配になってきた。

 

「決定だな」

「決定ですね♪」

 

有無を言わさず迫ってくるお二人。

 

俺は動揺していたせいもあり、連日のバイトに疲れていたせいもあり、女装コスプレに頷いてしまう。

――俺が男性モノのコスプレを自腹で買う、手もあったというのに。

 

そうして、俺はPAさんに弄ばれつつ、女装コスプレとして一日、企画イベントのドリンク係をやらされている。

オタクイベント独特の、いろんなオタクが好き勝手に破茶滅茶にやっている以外は、普通のイベントだったのが安心した。

 

だが、

――見知らぬ男に、

――食事に誘われた時は、

――思わず逃げてしまった。

 

職務放棄だと、自分自身凹んだが、……男に性欲の灯った瞳で見られたのが気持ち悪すぎて、背筋にゾワゾワした鳥肌が立った。

えも言われぬ恐怖心、未知の物に対する動揺、

 

――職務放棄して逃げた俺を、

――誰か、許してほしい……………。

 

――――

「北見君、ここにいたんだね」

 

春の夜。まだまだ寒い中、終演までビルの裏手でこっそりしていようと思ったら、PAさんが慰めに来てくれた。

 

「俺、男に女だと勘違いされて、性欲の灯った目で食事に誘われたのがショックで……」

「うん、うん……。大変だったね……。下心見え見えで誘われると辛いよね、しかも同性に……。私だったら吐いちゃうかも……」

 

PAさんは俺の話を聞いて、大人らしい包容力で慰めてくれる。

そう言うと、胸元で抱きしめてくれた。

シャンプーの香りだろうか、フワッと薔薇の香りがが漂ってきて、俺をリラックスさせてくれる。

心なしか、俺の胸の鼓動が高まっているように感じる。

動揺とリラックス、相反した感情が俺の中で落ち着き、昂っていく。

不思議と、幸せな気持ちだった。

背中をPAさんがさすってくれるたびに、先の恐怖が癒やされ、落ち着いて幸せな気持ちになってくる。

………。

……。

…。

そうして、5分ほど抱かれていると、俺も落ち着いてきてやる気が出てきた。

 

「ありがとうございます。なんだか、元気が出てきました」

「それならよかった」

 

と、PAさんは柔らかに微笑んでくれる。

ピアスもいっぱいしてるし、病み系メイクだし、怖い人なのかな、って思ってたけどそれ以上に優しくて、元気が出てきた。

彼女を見ているだけで、ドキドキしてしまう。

 

「でもPAさんよかったんですか?まだお仕事ありますよね?」

「もう殆ど終演だから、ミキサー卓いじることはそんなに無いし‥‥。5分ぐらいなら大丈夫」

 

そう言って、再び抱きしめてくれる。

幸せな気持ち、高揚感、それと女性に抱きしめられている安心感。

さまざまな幸福な感情が、俺を癒してくれる。

 

「私、北見君のこと、応援してるね♪ お仕事まだあって、辛いと思うけどがんばってね♡」

「はい……!ありがとうございます……!」

 

俺がそうしてバイトに戻ると、背中から何か聞こえた気がした。

『弁護士少年、婚活ちゃーんす♡玉の輿、ありよね♡」

「………?何か言いましたか?」

「なんでもないよ!早く戻らないと店長に怒られちゃうよ♪」

 

PAさんは俺を優しく送り出してくれる。

自分の仕事もあったはずだし、俺より責任が重い仕事のはずなのに、仕事を放棄して俺を追っかけて来てくれるなんて、なんて優しい人だろう。

PAさんの優しさに涙して、バイトに戻ると、何故か虹夏先輩がドリンクスタッフとして入っていた。

俺が元のドリンクの持ち場に戻ろうとすると、止めに入ってくる。

 

「どちら様ですか? ここはスタッフ以外立ち入り禁止ですけど」

「あ、俺です、北見悠です」

「え!? 北見君!?」

 

そうして俺をジロジロと見ると、急にヒィーッ!と過呼吸気味に笑い始める虹夏先輩。

彼女が笑うたびに、俺の自尊心は破壊され、めちゃめちゃにされていく。

顔が紅潮するのも止まらなかった。

身体中が恥と後悔と羞恥心で震えている。

 

「『急にバイトがいなくなった!』ってお姉ちゃんが急遽私のこと呼び出すから……、何事かと思ったら北見くん、今日のドリンク担当だったんだね。逃げたんじゃないの?」

「……逃げました、ごめんなさい」

 

屈辱と悲しみと羞恥と後悔が混じった言葉で謝罪する。

 

「大丈夫大丈夫、お姉ちゃんに一緒に謝りに行こうね」

「はい……」

 

一緒に謝ってくれる虹夏先輩の優しさに、胸をいっぱいにしていたら、パシャっ!と軽快なシャッター音が聞こえた。

気づいたら、虹夏先輩がこっちにスマホを向けている。

 

「これ、可愛いからお姉ちゃんにも送っておくね!」

「や゛、や゛め゛ろ゛〜〜〜〜ッ!」

 

俺が虹夏先輩のスマホを取り上げようとする間に、素早くロインを送ってしまう彼女。

目の前で、ピロン!と軽快な音が鳴り、俺の女装画像が送信されてしまう。

 

「…………うぅ、デジタルタトゥーが……」

「大丈夫だって、お姉ちゃんにしか送ってないから」

 

そう言うものの、翌日にはこの職場のスタッフ、全員が俺のガチ女装の姿の画像を持っていた。

しかも皆、『可愛い♡』『アタシが男だったら抱きたい』『北見は私の嫁』だの、皆好き放題言っている。

 

――俺には社会的死しか想像できなかった。

――できることなら産まれ直したい

 

最初からこのお店を、風営法のこじつけて潰してやればよかったんだ!

うぅ……、バイトテロしてやる!

 

………

……

なんて根性もなく、スターリーで皆のおもちゃ(奴隷)として働かされることが決定してしまったみたいだった。

職を得て安泰、と言うべきか、奴隷となったのを悲しむべきか……。

 

――俺にはどちらか分からなかった……

 

ただ、それでもPAさんは俺の画像を拡散せず、周りを止めてくれていたのが救いだった。

――よかった……、常識人がいて。

PAさんにその旨感謝すると、PAさんは「そんなの、当然のことだよ」と謙虚に俺に接してくれた。

その優しさに、PAさんのことが好きになってしまいそうだった。

 

――些細な裏があるとは知らずに




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