春のまだ肌寒い夜、俺たちはSTARRYで『結束バンド』の初めてのライブをしていた。
狭い段ボール箱に、後藤ひとりと二人で入って、有名なネットミーム『俺はガ●ダムだ!』のように、俺たちは段ボールから手だけを出してライブハウスで演奏をしていた。
ひとりはギター、俺はパーカッションだ。
ぼっちの尻と背中が俺にひっつき、どちらかが動くたびに箱が壊れそうになっている。
どう見ても、このダンボールは2人向けではない。
いや、段ボールに入ること自体、人間向けではないのだが……。
どうしてこうなった?
――――――
公園で黄昏てたひとりを強引にSTARRYに連れ込んだ後、俺はひとりに他人のような反応をされていた。
「ァッ……あの。あなた、……どちら様ですか?」
「俺、俺だよ!」
俺の熱弁に、ひとりはますますゴミ箱に隠れてしまう。
「悠ちゃん、そのメイドコスプレした様子だと、オレオレ詐欺の掛け子みたいだよー」
「あっ……!」
俺は女装姿のクラシカルメイド服のまま外に飛び出していたのを思い出す。
『女装のまま、表通りを歩く』
急いでいたあまり、やってしまった奇想天外な事実に、頭が狂いそうになる
「ウァアアア〜〜〜〜!!!!!」
思わず頬に手をあげ、体をくねらせてしまう。
まるで『ムンクの叫び』のようだが、体が反射で勝手にやってしまう。
――羞恥の震えが止まらない。
だが、俺の葛藤をよそに、虹夏先輩は話を進める。
無慈悲。
「君、北見悠くんの親戚なんだよね?」
「ぁっ、‥‥‥‥………はい」
「彼! 彼が北見悠くん」
「……………………………………ぇっ?」
壮絶な間があり、ひとりは虹夏先輩と俺の間で視線を行き来させる。
そして親戚に、
――女装バレがサラッと告知されてしまった。
「ァゥッ!」
俺は思わず頭を抱え、膝をつき、床に倒れてしまう。
ライブハウスから借りている衣装が埃だらけになってしまうが、申し訳なく思うと同時にどうでも良くなってしまった。
だって、女装バレしてしまったんですもの……。
だが、俺の人生のショックをよそ目に、虹夏先輩は自己紹介を進める。
そうか……、俺のショックなんて、その程度のものなのか……。
その事実が、俺の羞恥と悲惨な気持ちに拍車を掛ける。
「あなた名前は?」
「ァッ……、後藤、ひとり……、です」
「ひとりちゃんって、言うんだね。私は伊地知虹夏。ここでアルバイトしてて、今日はバンドとして出演するの。来てくれてありがとう。今日はよろしくね」
「ァッ、ハイ……」
「彼女は山田リョウ、ベース担当。変態っていうと喜ぶよ」
「そんな……❤︎」
と、俺を勝手に置いて、自己紹介がすすむ。
ひとりはリョウ先輩の提案で気づいたらあだ名が『ぼっちちゃん』となっていた。
いいのかそれで……、と思ったが何故かひとりは嬉しそうだった。
そうして一通り終わると、ひとりは俺をじっと見る。
「悠くん……、何で、その……、女装してるの?」
「……最初は企画イベントで、スタッフもコスプレして欲しいって要望があって、それで周りが悪ノリした結果、女装したんだけど思いの外好評で……。引けに引けなくなってしまい……その後強迫され……」
「ぁっ……、そう……。で、でででででも! …………………………そんな、キモい悠くんのこと、私、嫌いじゃない、……………から。カッ……!カワイイ、よ……」
最後は小声の方で、精一杯フォローしてくれるひとり。
ひとりから言われる『キモい』という言葉、俺はショックを受けてしまう。
やっぱり……、キモいのか……。
冷静に考えてキモくないわけがないが、内心凹む。
皆可愛い可愛いいうから少しは自信があったのだ……。
………
……
…
やっぱりどう考えてもおかしい、毒されている。
普通男子高校生が日常的にクラシカルメイドの姿をしていたらキモいに決まっているのだ。
「頼むから、親父には言わないようにな……?」
「ぁっ、うん……。わかった」
そうして、俺とひとりの秘密は共有された。
――これが、俺とひとりの初めての秘密の共有となった。
――今後増えていくとは知らずに。
話が済んだと見て、虹夏先輩は
「よしっ! メンバー紹介も終わったことだし! ひとりちゃん、今日がうちのバンドの曲ね!」
ひとりに譜面を渡す虹夏先輩。
彼女の実力なら、何なく弾けるはず。
それは俺の自信でもあった。
だから彼女を連れてきたのだ。
しかし……
――――
初めての合奏終了後、虹夏先輩は宣言してしまっていた。
「ド下手だ!」
あまりにストレートな物言い。
ひとりはその発言に凹んでいる……。
「どうも……、プランクトン後藤です」
再びギターをしまい、可燃のごみ箱に入るひとり。
せっかくの綺麗なピンク色の長髪が、コーヒーやら生ゴミやらの匂いがついていくのが親戚といえど切ない。
だが、俺に妙案が思いつく。
「これならどうだ!」
何とか合体したダンボール箱。
通称、完熟マンゴーロボ。
ちなみにロボは俺が勝手に名付けた。
恐らくひとりは通常家で引いている空間(押し入れ)に近い環境の方が馴染むだろうと思って作った。
再び演奏を始めるも…………。
「普通だ…………」
虹夏先輩が漏らす。
それに入ると、いつもより彼女の演奏はマシになった。
さっきまで、『プランクトン後藤です……』といじけていたのが嘘のようだ。
並の人になった。
――だが、それだけだ。
いつもの押し入れで見せるようなキレのある演奏は見せない……。
あのオリジナリティ溢れる、音の外れた不協和音すらも味方につける鬼気迫る演奏。
準プロ、と言って通じる演奏。
――あれはどこへ行った?
――どうしてこうなった?
俺がウンウン唸っていると、ひとりはきていた段ボールを脱ぎ、手の出るスペースを急に加工し始めたと思ったら、
「悠くん……………………、いっしょに……」
「ぇっ……マジで?」
俺も一緒にダンボールに入るの?とドン引きしていると、ひとりは俺が動揺しているうちに、彼女はいつもと違った異様な行動力で段ボールを加工し、セットアップする。
――行動力の落差が激しすぎる……
と、衝撃を受けていたのは彼女には内緒だ。
入ってみたが流石に狭すぎるので、ひとりはギターと手を出し、俺もハンドパーカッションと手が出る謎の『完熟マンゴーロボver.2』が完成した。
――どうでもいいけど、ver.2とか、試作modとか名前がつくと興奮するよね!
ひとりと背中合わせになり、尻も背中もくっつき、彼女の女性らしい柔らかみのある体に、ドキドキしてしまうも、
しかし……、
――さっきの可燃ゴミの匂いがあだとなり、
――女性らしい香りは失せ、
――急にしゅんと萎んだ気持ちになってしまう。
だが、演奏はさっきより格段にマシになり、客に聞かせても問題ないクオリティにまで達した。
問題はどうやって移動するかだが……。
店長が暗幕を特別に垂らしてくれるらしい。
あ、ありがてぇっ……! とアゴの尖った男みたいなコメントが出てしまった。
とミームっぽい動きをしてると、皆よくわかっていないようだ。
福●作品は読まないらしい。
ガールズバンドの黒一点、……趣味の違いが出てしまった。
『結束』バンドとは一体……………。
バンド名変えた方がいいんじゃね……?
――――――
ライブ前の待機時間。
俺が女装バレしたの見て、地上のビル裏で凹んでいると、PAさんがやってきた。
「大丈夫ですよ……、北村くん、可愛かったですし……」
「もう……、キモいのは自覚してるんで、それでいいです……」
「本心ですよ……」
そう言って、PAさんは俺の隣に座り、缶ジュースを差し出してくれる。
ココアか紅茶。
ココアをいただき、手に持つとじんわりと暖かさが染みてくる。
まるでPAさんの優しさのようだ。
凹んだ俺の心に優しくじんわりと染み渡ってくる。
――ただ、それだけで幸せだった。
無言でも許される空間。
気を遣って何も言わずにいてくれる関係性。
ビル風が流れてくると、PAさんの付けたコロンとシャンプーの薔薇の香りが優しく漂ってくる。
隣を横目で見ていると、ロングヘアーが風になびき、それだけで画になっている。
……なんだか、改めてその美人っぷりにドキドキしてしまう。
PAさんて、美人だよなぁ……。
学校では俺を一切相手にしないレベルの美人。
……いや、学校に俺が馴染めていないだけか。
考えるのをやめよう、そうしよう。
そうして、ビル裏で二人でココアと紅茶を啜っていると、それだけで元気になってきた。
「……改めて、ありがとうございます。俺を励ましてくれて」
「さて、何のことやら」
PAさんはニッコリと笑う。
俺を元気付けにきてくれたのは、確実に確かだ。
「今日、初めてのステージだと思いますけど、楽しんできてくださいね」
「はいっ!」
そうして、俺は幸せな気持ちのままPAさんに送り出された。
――――――
ステージに上がり、虹夏先輩の来てくれた友達と、他のバンドが呼んできた客の前で演奏する。
――ハンドバーカッション(ダンボール入り/背中を向けてる/普通)
――ギター(ダンボール入り/正面/少し上手い)
――ドラム(普通)
――ベース(上手い)
という謎のインストバンドに虹夏先輩の友人たちならず、他のバンドの観覧者も困惑しているのが良くわかる。
「イェー!結束バンドです!今日はいい天気なのに、わざわざライブハウスまで来てくれてありがとうございます!」
「「「………………」」」
虹夏先輩のMCは滑っているが、気にしないことにした。
それでも、ライブは始まっていく。
――俺とひとりがダンボール箱に詰め込まれたまま……
ライブハウスの強いスポットライトが段ボールを熱くする。
それとともに、背中合わせにしているひとりの熱量が上がっていくのがわかった。
彼女にとって、
――見知らぬメンバー
――初めてのハコ
――初めてのライブ
緊張する要素しかないが、ひとりの熱量が上がっていくのが背中越しに伝わってくる。
俺が背中を向けているため、観客の姿だけは見えないが、それでも演奏が始まると観客たちの息を飲む音が伝わってくる。
よかった……、いつものひとりだ。
正直、三曲だけのインストバンドなんてと思ったが。
虹夏先輩も演奏前に言っていた通り、気にする者は少ない。
もちろん、そんなことは客の前で言えないが!
それでも、皆ひとりのギターに釘付けになってくれているのが、背中越しでもわかる。
ひとりも心なしか、背中同士でついている体温も上がり、キレのある演奏が増えてきた。
俺もパーカッションを叩いていて、今無上の幸せを感じている。
――初めてのライブハウスでのライブ
――初めての観客
――仲間たちとの合奏
――スポットライトの熱
この熱量、観客の視線、ステージに立ち成功するという気持ちよさ。
――誰もが魅了されるのが分かる。
改めて音楽が好きになったし、ひとりも背中ごしに幸せそうなのが伝わってくる。
――問題は!
ダンボールの強度がもうやばい!ということだけだ――
ひとりが興奮して動く物だから、いくら金具で四方を止められ、強度マシマシにされた果物用ダンボールといえど、もう破綻は近い。
ミシミシ、と避けそうな音が聞こえてくる。
しかし、ひとりは気づく気配もない。
――やがて、破綻は訪れた。
――――――
<虹夏side>
――演奏がノリに乗っている状態!
――観客も予想以上のギターの演奏に釘付けになっている状態!
――優ちゃんがぼっちちゃんを連れてきてくれて、
――本当にありがとう!
と感謝していたところで、それは訪れた。
――ミシミシミシッ!!
盛大な音をたて、段ボールが壊れる。
バランスを崩したぼっちちゃんは正面に倒れ、まだ残っていたダンボールの残骸に引っ張られ、悠ちゃんはその上に背中から覆いかぶさってしまった。
「ぁ………………」
北村くんはぼっちちゃんの背中に頭にガツン!と盛大にぶつけ、気を失っていた。
死んだか?と一瞬思わせるほど、すごい音がした。
ぼっちちゃんは、頭を打ち付けてのたうちまわった後、改めて初めて出たライブのステージに慄き、改めてミジンコのようになってしまっている。
――終わった……。
アタシが改めて感じたことはそれだった。
リョウは気にせず演奏を続けていた。
その集中力が羨ましい。
いや、恨めしい……。
ドラムで合図を送り、曲を終わらせる。
残るはリズム隊だけになってしまった。
――気まずい……。
すると、突然建物の電気が落ちて、アナウンスが入る。
『設備に不具合が出たようです〜!少々お待ちください!!』
真っ暗闇の中で突如流れるPAさんのアナウンス。
良く分からないけど助かった!
そうして、『ありがとうございました〜〜〜!!!』と私は声を張り上げて、二人を引きずり撤退した。
――失敗の印象だけを残して
――――――
<side:後藤ひとり>
私だ……、私のせいだ……。
私が悠くんに一緒にダンボールに入ってもらったから……。
ライブも失敗した。
今、周りが悠くんを救急車呼ぶかどうか話をしているうちに、悠くんが目を覚ます。
「ぁっ……………」
悠くんと目が合う。
それでも、悠くんは私から目を離さなかった。
「ありがとう、ひとり……。今日来てくれて」
ずるい、ずるいよ……。
最初に出てくる言葉がそれなんて……。
私の胸の奥で、トクントクンと鼓動が高まるのを感じる。
私はベンチに横たわっている悠くんの胸で思わず泣き出してしまった。
高校生にもなったのに、泣くなんて情けない……。
でも、悠くんの胸元にいると、それだけで安心してしまう。
私は嫌な女だ。
悠くんを怪我させておきながら、その胸元で泣いて悦に入っている。
本当に嫌な女だ。嫌気が差す。
でも、ここで泣くと何故か安心する……。
その気持ちだけが、今の私の真実だった。
――――――
あれから、ライブは失敗したまま終了した。
俺が意識を失った後、うっかりPAさんが電源を落としてしまったらしい。
PAさんは店長に怒られた。
バンドも失敗に終わった。
ひとりにも泣きつかれた。
全てはボロボロだった。
虹夏先輩は控え室で泣いていたようだ。
リョウ先輩は悲しげな顔をして、どこかに去っていった。
後から別バンドに苦情を言われたのだが、後のライブのバンドも冷えた空気から再び始めないといけず、散々だったという。
――だが、俺には確信があった。
地上のビル裏でボヤッとしていると、再びPAさんが現れた。
「今回、フォローしてくださったのはPAさんですよね……?」
「何のことですか?」
しらばっくれるPAさん。
でも、俺にはその気持ちが嬉しかった。
俺たちの悪評を恐れ、PAさんが泥を被ってくれたのだ。
「本当に、すみませんでした……」
「………いいんですよ。私はあなた、そして結束バンドの未来を潰したくない」
そういうと、今度は二人分の缶コーヒーを取り出し、俺に渡してくれる。
暖められたアルミ缶が心地よく、それだけで春の夜で冷えた体に染みる。
ブラックは苦い味わいだった。
「でも、私に付き合ってくれるのもいいですけど、メンバーのフォローをした方がいいと思いますよ?」
「……?」
「私、正直結束バンドに特に魅力を感じたんです。最近、ああいう純然としたJROCK、ギターロックみたいなのは少なくなってきました。ライブハウスもライブだけじゃなくて、アニソンイベントの貸し切りに応じたり、パリピって言うんですか? ああいう人たちにダンスホール的にハコを貸し出すことも増えたんです。PAの魅力である色んなバンドを見れる、っていうのも正直少なくなってきて……」
そういうと、PAさんは缶コーヒーで唇を濡らし、話し始めた。
「結束バンドはアマの中でもまだまだイマイチです」
――リョウさんは上手いけど、プロになれるかは疑問
――虹夏ちゃんは店長がいろいろ経験させてあげて磨いているけど、まだドラマーとしての個性が芽吹いてない
――君も女装姿は可愛いし、パーカッションは半年にしてはうまい。でもそれだけ。
――ギターの子は上手いけど、実力にムラがありすぎる。
――でも、
――全員揃うと光るものがあった
――だから、潰したくなかった
――だからハコ側の機材トラブルを装った
彼女の言葉が俺に染みる。
俺らのために泥を被ってくれたのだ。
嬉しくて嬉しくて涙が出そうになった。
PAさんは缶コーヒーを持ったまま、メイド服の俺を抱きしめてくれる。
彼女の優しい薔薇の香りが俺を落ち着ける。
「……頑張れ、少年。今が踏ん張りどきですよ」
そういうと、俺の背中を押し、軽く、そして優しく突き飛ばす。
「メンバーを追っかけて、何とか引き戻すんです」
「ありがとうございます……!」
俺はPAさんの言葉に感謝して、走り去る。
少しだけ涙を流しながら。
背中を向けててよかった。
女性に涙を見せるのは恥ずかしい。
振り返ると、PAさんは優しく手を振ってくれていた。
<SIDE:PAさん>
「あーあ……。私、何で敵に塩を送っちゃってるんだろう……」
敵とは北村くんのことではない。
『ぼっちちゃん』と呼ばれていた、同じ段ボールに入り込んでいた、ギターのことだ。
ぼっちちゃんが北村くんの胸の中で泣いていると、北村くんも安心した様子で、頭を撫でていた。
まだ付き合ってはいないようだったが、どう見ても私のライバルだ……。
それに、北村くん自体はまっすぐでいい子なのだ。
謙虚だし、仕事ぶりは素晴らしい、それに何より私に懐いてくれている。
――それこそ私が付き合いたいくらいに。
「あーあ……」
ため息ばかり漏れる。
覆水盆に帰らず。
結束バンドが分解することを一瞬でも考えてしまう。
――そうしたら楽か?
なんて、一瞬でも思ったが、頭を振って追い出す。
「人の不幸を願うなんて、嫌な女‥…」
後悔とともに、私の呟きは春の夜の闇間に消えていった。
私の送った塩でうまく行くように星に願った。
――――――
バンドメンバーを追っかけ、ミーティングルームに詰め込むと、俺は謝罪から始めた。
「申し訳ありませんでしたっ!」
「そ、そんな、大丈夫だよ……!」
俺の謝罪に、虹夏先輩は動揺しながらも受け止めてくれる。
その目は少し腫れて充血している。
泣きはらしていたようだ。
「ぁっ……!ぁの……、それこそ私が悠くんに無理言って、ダンボールに入ってもらったんです。私こそ、すみませんでした……」
そう言って、ひとりも一緒に謝ってくれる。
俺もひとりに申し訳なかった。
せっかくのライブハウス、初めてのライブ、初めてのイベント出演。
期待と楽しみに満ち溢れたイベントになるはずだったのに、ぶち壊してしまった。
だが、彼女はなぜか床にうつ伏せになっている。
その綺麗なピンク色の髪は埃に塗れ、ピンクの制服はお客さんたちの持ってきた泥に塗れている。
そんなひとりに突っこむ余地のあるリョウ先輩。
「……土………下………寝?」
真面目な話をしているのに、某格闘漫画のネタを詰め込むのはやめて欲しい。
まるで最●死刑囚編のような絵面だ。
しかもひとりは真面目に謝罪しているのに、サブカルネタで突っこむリョウ先輩はシュールだ。
とりあえずひとりを椅子に座らせると、虹夏先輩が笑ってごまかす。
「まぁ、いろいろ失敗ネタはあるよ! アタシたちだって色々見てきたからね、悠ちゃん!」
「えぇ……」
思い出すSTARRYでのバイトの日々。
社会不適合者の集まるライブハウスだけあり、やばい演者もいっぱいいる。
――ギターを折ろうとするも、ギターが硬すぎて逆に手首の骨を折るやつ
――観客にダイブしようと思ったら避けられて骨折するやつ
――モッシュライドと呼ばれる群衆の上に乗るテクニックを使うも、落ちて骨折するやつ
……考えてみたら骨折ばっかりだな。
そういう意味では俺たちは火傷を負った程度なのかもしれない。
それらを説明すると、ひとりは急に安心した様子だ。
緊張感は解け、さっきまでの切腹しそうな雰囲気と覚悟のキマッた顔はなくなった。
皆が和解の雰囲気を持つと、バンドリーダーで潤滑剤の虹夏先輩がひとりに話しかける。
「それでさ、ぼっちちゃん」
「ぁっ、はい」
「結束バンド、入ってくれないかな?」
「ぇ、えぇっ!? いいんですか……、私なんかで……」
「あの轟くようなギタープレイ見てたら、ぜひウチに入って欲しいよ!」
「わ、私でよろしければ……」
ひとりが了承すると、虹夏先輩はテーブル越しにひとりの手を握る。
「これから、よろしくね。ぼっちちゃん!」
虹夏先輩は分からなかったようだが、ひとりは確実に破顔していた。
その様子に俺もつられて嬉しくなってしまう。
「ぁっ、あぁぁありがとうございます! これからもよろしくお願いします!」
ひとりは虹夏先輩の手をぶんぶん振っていると、俺も手を上に重ねる。
すると、空気を読んだのか、リョウ先輩も手を上に重ねてきた。
女性らしい暖かい体温に挟まれ、手の感触が何だか気持ちいい。
「これからよろしく、ぼっち」
「はっ、はいっ!よろしくお願いします!」
皆で手を合わせ、一体となった結束バンド。
俺の胸は高まっているが、皆を見渡すと皆同じように高まっている様子だった。
――何かが、始まる予感がした。
――俺の人生になかった、
――新しい何かが
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