らぶこめ・ざ・ろっく!   作:朝比奈小町

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第5話 ひとり氷水風呂編

あのライブ直後の休み日、風呂に入ろうとしていると、……氷水に入ったひとりを発見した。

青ざめた顔に意識はなく、手だけが天を差し示し、それ以外は大量の氷水の中に沈んでいた。

 

――衝撃が背中を駆け巡る。

――人間が氷水の中に入って生きていられる時間は、

――5分もないのだ!

急を要す!

とにかくひとりを引き上げないと……!

 

「冷たっ!!」

塊の氷が大量に入った風呂水。

触れただけで指先が凍るような冷たさだ!

思ったより事態が切迫している!

 

指先、腕に伝わる氷水の冷たさを我慢して、ひとりを上げる。

ひとりの体は軽く、柔らかかったが肌は冷たく、低体温症が疑われるレベルだ!

 

ひとりの胸も見えてしまう。

普段、猫背だからわかりにくい彼女の巨乳も、乳首の乳輪のサイズも……、と思ったがそれどころじゃない!

 

慌ててひとりを風呂から担ぎ出し、体を隅々まで拭き、押し入れから取り出した毛布を当てがう。

髪から陰部、足の先まで冷たい水をタオルで拭き取り作業をしながら、俺は一つの可能性にぶち当たっていた……。

 

もしかして……虐待!?

 

ひとりのあの暗く歪んだ性格は、親によるネグレクトだとすれば、納得がいく。

――周りの家族は明るく、友達も多い人ばかりだ

――なのにひとりだけ暗く、異様なほどネガティブだ

――虐待されているなら納得がいく……、もしかして連れ子だったりするのだろうか

――連れ子を虐待する再婚相手は多い

 

俺は思考を一旦横に、救急車を呼び、同時に警察を呼ぶ。

児童虐待の疑い有り、と言えば児童相談所も駆けつけてくる。

あのひとりの家族に、それはありえないとは思いつつも、でも現実があるじゃないか!と自分を納得させる。

数分後、ひとりは救急車に載せられ、病院へ搬送されていった。

両親は女性警官にそれとなく強引に止められ、ふたりちゃんは児童相談所の人が背後に隠している。

 

そうして、俺は――

――翌日にひとりと警察署で謝っていた。

 

――申し訳ございませんでした!

 

俺とひとりの声がハモる。

どうやらひとりが、『バイトに行きたくないから風邪を引くために氷水風呂に入った』ことを、聴取にきた警察官に自白したらしい。

 

俺たちは、事件を担当し、駆けつけてくれた地域課の女性警察官に謝っていた。

 

「あのねぇ……、私たちも暇じゃないの。最近、若い子たちで氷水を被るとか、ドライアイスのプールに入るとか、危険な遊びが流行っているみたいだけど、やめてちょうだい」

 

口調こそ静かなものの、その有無をいわさぬ視線には紛れもなく怒気が込められている。

 

「はいっ!」

 

「そこの子、聞いてるの……?」

 

婦警さんはひとりを問いただす。

 

「はい……」

 

「二度と、そういう遊びをしないこと。彼氏君だって心配してくれてるでしょ」

 

「…………」

 

俺のことを持ち出されると、みるみるうちにしょげていくひとり。

それを婦警さんは反省と汲み取ったのか、少し説教されて解散となった。

 

帰りにタクシーを拾うと、俺はひとりの手を取って話し始める。

 

「そんなにバイト行きたくなかったなんて……、バイトに誘ってすまなかったな……」

「ぁっ………、ちが…………!………………やっぱり、違わないんだけど……」

 

俺がひとりの手を握ると、「ウァアアア!!ワタシノバカァ!!! バカバカバカバカァ!!!!」と車内で奇声を上げ始め暴れ始める。

タクシーのお姉さんは、車内の防犯ドライブレコーダーのスイッチを迷わず入れた。

 

「ち、違うんです……! 誤解、誤解なんです!」

 

俺が弁解しても、DV彼氏とPTSDを起こした被害者彼女の様子にしか見えないのだろう。

車内の鍵を閉められ脱出できなくさせられると、タクシーのお姉さんによって俺たちは再び警察署へ連行された。

 

――――――

「次やったら公務執行妨害で逮捕するから」

「「………すみませんでした」」

 

俺とふたりはすっかり警察署の顔馴染みとなってしまった。

 

婦警さんの向かい側にいた若い警察官のお兄さんは、『ちっ……、またこいつらか。報告書めんどくせえな……』と小声で愚痴っている。

 

隣では記憶のない酔っ払いの女性が保護されていた。

亜麻色の髪のスカジャンを着た20代ぐらいの若い女性だ、ベースケースを背負っている。

酒臭い……。

俺たちは彼女と同類の『社会不適合者』として扱われているのだ。

その事実が悲しかった……。

 

数時間後。

今度は歩いて帰ると、ひとりのお母さんとお父さんは般若のような表情で立っていた。

言葉こそ静かなものの、その内から怒りが滲み出ている。

 

「お帰りなさい、二人とも」

「疲れただろう。お茶にするから食卓に座りなさい」

 

――俺は察した。

――お茶という名の、『吊し上げパーティ』だと

 

ちなみに、ふたりちゃんだけは何故か楽しそうだった。

 

「ゆーくん、聞いて! きのうお泊まりできて楽しかったの! ぜんぜんちがう幼稚園のおともだちもできたんだ〜♪」

 

と、場にそぐわぬ様子で児童相談所の様子を報告してくれた。

なんでも、ひとりの病院での『自白』によって、全ては誤解だったと分かってくれてから、質問や虐待跡の確認もされず、お菓子やお茶でもてなされたのだとか。

 

それでも、ふたりちゃんはお母さんに一日会えず寂しかったのか、今日はずっとお母さんにくっついたままでいる。

 

家の中に入ると、般若の様相が空気に伝染し、冷たい空気が居間に流れる。

思わず背筋が震えてしまう。

俺とひとりは強制的に食卓に着かされた。

 

食卓を挟む。

目の前には微笑みながらも、まるで風神雷神像のような怒りを滲ませるひとりのご両親。

誕生日席に座るふたりちゃんだけが、何か良くわかっていない様子だった。

 

「何か、申し開きは?」

 

お母さんが笑顔で俺に訪ねてくる。

顔は笑顔だが、まるで能面のようだ。

――これは怒りを隠すためのお面だ……!

 

「私の早とちりでした。申し訳ありませんでした」

 

椅子を引き移動、ご両親が座っていても見える位置に移動し土下座。

弁護士事務所で何回か見たことあるせいか、自分でやってみて、とてもスムーズに出来た。

……こんな経験、したくなかった。

まさか役に立つとは。

 

「分かる? お腹を痛めて産んだ娘たちを、こんなにも大事に育ててきたのに、それを疑われ、何も信じてもらえない私の気持ち」

 

本当に申し訳ないことをした。

俺という異物が挟まっていなければ、後藤家は平和なはずだったのだ。

謝罪の意を込め、地に頭を埋める気持ちで額を擦り付ける。

 

「ねえ、あなた?」

「ああ、そうだな……」

 

ひとりのお父さんの方は気楽な様子だが、獲物を前に舌舐めずりした虎にしか見えない。

恐怖でぶるりと、体を震わしてしまう。

 

「ところで、ひとりはなんで、氷風呂に入ろうとしたんだい?」

 

お父さんは話を変えて、ひとりに話題をむけた。

まるで尋問するように。

 

「ば、バイトに……。行きたくなかった……」

 

そう、ひとりは先日のライブの後、STARRYで俺と共にアルバイトすることになっていた。

 

「悠ちゃんて、知り合いがいるから安心だね」

 

と虹夏先輩は笑っていたが、ひとりは内心働きたくなく、嫌で嫌でしょうがなかったからしい。

肯いてしまい、激しく後悔したとのこと。

それで病気になるために氷水の風呂に入り、意識を失ったところで、俺に発見され、俺の早とちりで通報されてしまった訳だ。

 

「それで、2回目のタクシーの件は? 僕もドライブレコーダーを警察に見せてもらったよ……。『違う、やっぱり違わない』って言ってたよね……。どういうことだい、ひとり」

 

お父さんの方は優しくひとりに語りかける。

お母さんがムチなら、今のお父さんは飴なのだろう。

 

だが、ひとりの答えは想像だにしないものだった。

 

「悠くん同席じゃ、話したく……、ない……」

 

ひとりを見ると、顔は切羽詰った様子で紅潮し、今にも強盗にでも行きそうなキマッた顔をしていた。

 

「じゃあ悠くんは2時間ぐらい、外をブラついてて。ジミヘンの散歩にでも行って頂戴」

 

お母さんの有無を言わさない口調。

俺は後藤家で飼われている犬、ジミヘンのリードを持って外へ出た。

すると、ジミヘンは俺の方が偉いんだぞ!と言わんばかりにリードを強く引っ張りながら、自由気ままに、いつもの散歩コースを外れて歩き出す。

 

――俺のヒエラルキーは犬よりも低いのか………。

 

俺は少し涙が出そうだった。

虚無な2時間の放浪旅が始まった。

 

――――――

 

悠くんがいなくなり、残された食卓で私は普通に話してしまっていた。

――先日あった出来事を

 

「その……、悠くんと一緒にいると……。ドキドキするの。こないだ初めてのライブハウスで私がやらかして、悠くんに怪我させて、気絶さちゃったんだけど……。起きた直後、『ありがとう、ひとり……。今日来てくれて』って言ってくれて……。私、悠くんの胸で泣いちゃったんだけど、ステージを失敗させた後悔と、誘ってくれた彼に申し訳なくなっちゃって……。でも同時に彼の胸で泣いたら、胸の中が暖かくて…………。それ以来、彼のことを見るとドキドキして……、目が離せなくて……。」

 

「でも、バイトに行くと見知らぬ人と話さないといけないし、何よりバンドメンバー二人が可愛い女の子で、取られちゃう!って思ったけど、でも人見知りとアルバイトに行きたくない気持ちの方が勝っちゃって……。それで、病気になれば……、と思ったんだけど。やっぱり悠くんは取られたくなくて、そんな優柔不断な自分に嫌気がさして……」

 

私が段々と語尾を濁らせながらそういうと、お母さんとお父さんは今までの固く引き締まった表情から、狐に包まれたような顔をしていた。

 

「あなた……、ふたりと遊んでいて頂戴」

「そうだな、そうしよう。お父さんと遊ぼうか、ふたり♪」

「いやー! おとうさん、おじさんくさいんだもーん!」

 

お父さんは凹んでいたが、ふたりを連れて家の外へ遊びにいった。

気配が遠ざかったのを確認すると、お母さんが優しく諭すように言ってくる。

今までの硬い雰囲気が嘘のようだ。

 

「ひとりちゃん。あなたね、悠くんに恋してるのよ」

 

――恋!?

――あの青春恋愛映画や、

――ラブロマンス映画、

――宇宙を股にかけて戦争しているはずの映画でも必ず挟まれるアレ……!

――はたまた男女のカップルで前提とされる……

――恋!?!?!?!?

 

思わず動揺から、お茶を啜るも、動揺しすぎて飲んでも飲んでもお茶がこぼれ、私のジャージを緑色に汚していく。

「悠くんは見ての通り、悪い人じゃないし、正義感もあるし……。それにね、あなたのこと、嫌いじゃないと思うの」

 

言われて思い返してみると、確かにそうだ。

 

「彼、地方出身だから……。本当は超難関高狙うための下準備として、うちに来たでしょ? でも、『あなたと同じ高校にした』。普通の親戚はね、そこまでしないの」

 

――でも彼がそうしたのは、

――全部『あなたが心配』になってのことだったのよ。

その言葉で、私の中に衝撃が走った。

…………………………悠くんが私のことを大事に思っている???????

ミジンコゾウリムシ同然の私のことを………………???????????

マントルぐらい深く低い私の自己評価と、悠くんからの評価が釣り合わない。

思わず動揺して、私はお母さんに相談してしまっていた。

 

「わ、わ、わ、私は……、これからどうしたら……!?」

「大丈夫、全部お母さんに任せて♪」

 

――――

犬の散歩を2時間終え、帰ってきたら俺の部屋は無くなっていた。

 

「…………ぇ?」

 

ゴミ同然のような物資がうず高く山と積まれ、歩く場所も一々探さねばならない始末。

混乱し、気を沈めるために、ジミヘンの足の爪を切ってやっていると、ひとりのお母さんがやってきた。

その様子は尊大で、ヒエラルキー最上位のボスのそれである。

 

「罰として、あなたの部屋を取り上げることにしました」

「……分かりました」

 

やらかしたのは俺だ。

粛々と受け入れるしかない。

 

「でも勉強スペースと寝床は必要だから、確保しました。どうぞこちらへ」

 

そう言って、二階へ上がっていく。

二階にはひとりの部屋と物置しかないはずだが……?

 

俺は疑問符を抱えたまま、お母さんの後ろについていく。

彼女が襖を開けると、衝撃の光景があった。

 

「あなたにはここで寝てもらいます」

 

――そこには6畳の大半の面積を占めるセミダブルベッドがあった。

――しかも買ってきたばかりなのか、

――布は真新しい輝きを放っている。

――だがシーツも枕も布団カバーも全て淡いピンク色で、

――何処か性欲を想像させる色だった

 

唖然。

 

「これから、『ここでひとりと一緒に』暮らしてもらいます」

 

その言葉で、思わず起こるこれからの出来事を想像してしまう。

――緊張のとけた、無防備なひとりの寝顔

――女性らしい暖かい体温で暖まった布団

――たまに香ってくる女性らしい甘い匂い

 

俺は思わず期待と興奮にブルッと震えてしまったが、ひとりのお母さんはそれを見逃さなかったようだ。

俺は気づかなかったが。

 

動揺しながら周りを見渡すと、ひとりの机と俺の机が窓に向かって両隣に並べられていた。

その二つの机は、板が打ち付けられ、強固に固着していた。

 

「あなたには、ひとりの勉強も見てもらいますからね」

 

有無を言わさないボスの発言。

俺は頭を首に縦に振るしかなかった。

 

――――――

数時間後、公園にでも行っていたのか、お父さんと笑顔でふたりちゃんは帰宅した。

 

「ただいま〜〜〜♪」

「お帰りなさい。あなた、ふたり」

「今日のお夕飯は何かな?」

 

皆、ウキウキしている様子だ。

さっきから挙動不審なひとりと、動揺から抜け出せない俺と対照的に。

 

「ふたり、じ○じ○えん? っていう焼き肉屋さんがいい〜〜♪ テレビでやってて美味しそうだったー!」

 

ふたりちゃんはあそこの値段を知らないものだから、気軽に言う。

 

「あら、ちょうど今日……。ねぇ?」

「ああ、そうだな……。今日、やらかしてしまって罪深いのに、お金がある人がいるぞー♪」

 

お母さんの方はやんわりと言うが、お父さんの方はノリノリだ。

 

「分かりました。私のお金でJOJO苑に行きましょう」

 

俺がそう宣言すると、後藤家は皆笑顔になる。

お父さんが、

 

「お父さん、中学生の時ラグビー部だったからなあ、その時ばりに食べちゃうぞー♪」

と、大食らいアピールし始めると他の家族も止まらない。

 

「私も、今日ばっかりはハメを外しちゃおうかしらね♪」

 

「わたし、せいちょーきだからいっぱい食べるー!!」

 

「お父さんたち……、悠くんがかわいそうだから……!」

 

ご両親も、ふたりちゃんもが勢いに乗り始めるが、全面的に悪いのは俺だから仕方がない…………。

 

俺がいなければ、後藤家は全て平和だったのだ。

罪滅ぼしとして、全て支払う覚悟を決める。

 

うーん……7〜8万かな、なんて思ってたら……。

まさか現地で山田リョウ先輩のご家族と合流した。

 

「よ、ぼっち、悠ちゃん」

「ぁっ、ぁわわわわ、リョウ先輩……? どうしてここに?」

「うちのお母さんが、『リョウちゃんが今日も可愛いから、記念日よ〜!』って焼肉に連れてきてくれた」

 

後ろをみると、リョウ先輩のご家族。

小綺麗で品のいい身なりをしている。

よく弁護士事務所にくる太客のような身なりだ。

リョウ先輩の貧乏アピールは、虹夏先輩の『実家はお医者さん』の言葉をあまり信じていなかったが、確かに本当らしい。

 

――そして、

――気づいたら、

 

――後藤家と山田家は意気投合していた。

 

「うちのリョウちゃんが可愛くて……。ベースを始めた時は何かと思いましたけど、今ではすっかり板についてて〜〜!」

「分かります! でもうちのひとりも負けてませんよ! 中学では友達を作る暇すら投げ捨てて、ギターを弾いてたんですから!!」

 

ひとり経由でママ友ができてよっぽど嬉しいのか、ひとりのお母さんはリョウ先輩のお母さんと何故かメタ張ってた。

 

……違うんだ、ひとりのお母さん。

ひとりは元から友達が………………。

いや、何も言うまい。

 

反対側をみると、父親同士で意気投合していた。

共通点が何も見出せないが、仕事の苦労話を聞き合っているらしい。

酒瓶ばかり積み上がっていく。

……よくみると、ボトルが入っているな。

値段を見る。

ウイスキー1本3万円。

………………俺は考えるのを放棄した。

 

ふたりちゃんは初めての高級焼肉に夢中だ。

 

「おいしい〜〜〜♪ まいにちここにきたーい!」

 

と、100gうん千円する高級肉をたらふく味わっている。

……いいんだ、ふたりちゃんが幸せなら。

その調子ですくすく育ってほしい。

 

ひとりもひとりで、リョウ先輩と作曲トークで盛り上がっている。

その際、高級肉を頼んでは食べ、食べては「ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛、ゴメンナサイ! モウシマセン!!」と奇声を上げながら食べるが、2テーブル入る中規模な貸切部屋で、皆盛り上がっているせいか、誰も気にしていない。

 

……みんな幸せそうだから、それでいいんだ。

俺は涙を飲んで今月のお給料が吹っ飛んだことを受け入れた。

 

――――――

お会計時、『12万8920円になりまーす!』と、レジ係のお姉さんに言われた時は、流石に冷や汗が出た。

念には念を入れて、お金を下ろしてきた甲斐があった。

 

そうして、払っていると、後ろから柔らかい感触がピタリと張り付く。

なんだ?と思って後ろを振り返ると、そこにはひとりが。

 

「ゆ、悠くん……。私がいるよ……」

 

と、慰めてくれているようだ。

ひとりの体温、そしてその言葉、気遣いと優しさが俺の中に染み渡っていく。

それが先ほどまでの喧騒で疲れていた俺を、急に癒してくれるようだ。

あっという間に疲れが取れていく。

………でもな、すまん、ひとり。

――後ろのポケットに財布を入れているんだ、邪魔で取り出せないんだ……

とは言えず、あたふたしていると、前から苦々しさを含む呪いのような視線が飛んでくる。

 

――高校生ごときが高級焼肉店でいちゃつきやがってよぉ……。

 

と、顔は笑顔なのだが、目線が呪詛を吐いているようだ。

 

店員さんに笑顔で睨まれ気まずい中、5分ほどかけてひとりを引き剥がし、全ての支払いを終えて俺は店を出た。

 

後から13万円こっそりお父さんが出してくれたのはありがたかった。

俺が撒いた種だと言うのに、申し訳ないと言ったら、

「こちらこそ、飲みすぎたからね、これは普段ひとりと良くしてくれるお侘びさ」

受け取ってくれ、と強引に俺にお金を掴ませる。

元の額よりわずかではあるが増えていて申し訳なかった。

感謝を告げると「これからもひとりの友達でいてくれ」と肩を叩かれ、気を遣ってくれた嬉しさから涙が出てしまう。

俺の涙をお父さんは見ないふりをしてくれた。

今はその配慮が暖かかった。

 

色々考えながら山田家と別れた。

今度は山田家がご馳走してくれるらしい。

ありがたいことだ、後藤家と山田家は家族ぐるみの付き合いになるかもしれない。

帰宅し布団に入って少しすると、風呂上りのひとりが、グレーのパジャマ姿で同じ布団に入ってくる。

シャンプーの香りがほのかに香り、女性らしさを感じてしまいドキドキしてしまう。

 

「今日は私のせいでごめんね……」

ひとりが珍しく俺の目をまっすぐ見る。

そして……、

 

――これからも、よろしくね。

 

そう言って、俺の手を握る彼女。

その瑠璃色の瞳を見ていると、全てが許された気がした。

 

「こちらこそ、これからよろしく……」

 

俺が握り返すと、にっこり笑うひとり。

家族以外にはまだ見せたことのない、俺しか知らない彼女の笑顔。

俺も、後藤家の一員として受け入れてもらえたって、ことなのかな……。

なんて考えていると、すごく心地よい眠りに落ちていった。




本当は今日オリジナルのASMRの脚本の続きを書く予定だったんですが……
どうしてこんな筆がノリノリで私は二次創作を書いているのか……
その気合いをオリジナル作品で出したい!!!!!(切迫)

感想と評価待ってます!!!!!!(切実)
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