ろっきんがーるに恋する男子   作:詞連

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当たり前のことだが、登場人物が増えると話が長くなる


Chapter13 ろっきんがーると男子達 その2

 結束バンドの出番が終わり、他の演者の演奏も終わり、撤収作業も一段落した結束バンドおよびSTARRY一行は

 

『かんぱ~い!』

 

 下北沢からほど近い、居酒屋にて祝杯を挙げていた。

 一行の面子は結束バンドの4人と、STARRYスタッフである店長およびPAさん。

 そして……

 

「店長さんの旦那さんの、恭弥さんですよね?」

「はい。いつも星歌と虹夏ちゃんがお世話になってます」

 

 喜多の正面に座った男性、天海恭弥はジョッキを置いて答える。

 彼は人の良さそうな顔に、少し気まずさを感じる笑いながら

 

「えっと、俺、部外者なんですが、なんか混ざっちゃってすみません」

「いえいえ!Tシャツ作っていただいて、ありがとうございます」

「そうだ、お前はバンドの為にきっちり仕事した。遠慮すんな。―――マジで関係ないのについてきた連中もいることだしな」

 

 恭弥の隣でビールを煽っていた星歌は、恭弥と反対隣を見ると

 

「ええ~誰のことですか、せんぱ~い」

 

 と、泥酔する廣井きくりが星歌に抱き着き

 

「その酔っ払いの回収係ですよ、伊地知店長」

 

 きくりと逆サイド、机の一番端に陣取った高清水律志が答えた。

 喜多から見て、見知らぬ大人の男女だ。とりあえず手前、廣井については前情報として

 

「えっと、たしか、彩人くんの従姉の……」

「はーい!誰よりベースを愛する天才ベーシスト!廣井きくりでーす!

 ベースは昨日飲み屋に忘れました。どこの飲み屋かもわかんなーい」

「一瞬で矛盾したんですけど……」

「酒呑童子ならEXoutに届いたぞ」

「マジ!?」

「新宿近辺の飲み屋なら、大体君のことは知れ渡ってるからな。

 何かあったら大体俺の所に連絡が来る。家に置いてるから後でとりに来い」

「助かる~、持つべきものはできる恋人だねえ~」

「え?お二人は付き合ってらっしゃるんですか、ええっと……」

「――Exoutの高清水店長だよ。

 SICKHACKの廣井きくりと恋人同士ってのは結構有名な話」

 

 と、口を挟んだのは、珍しいことにリョウだった

 

「ん?ウチらんこと知ってんの?」

「ハイ!何度かライブに!」

「見る目あるじゃ~ん」

「ありがとうございます!」

 

 目を輝かせてリョウが言うには

 

 ・ 泥酔はあたりまえ

 ・ ステージ上から客に酒を吹きかける

 ・ 泥酔した結果歌詞が飛ぶ

 ・ それをブーイングされたらF〇CKサインと暴言で返す

 ・ 顔面踏まれるのはいい思い出

 

 等々

 

「私ってロックの事、全然知らなかったんですねー」

「知らなくていいかなー」

 

 呆然とする喜多に、苦笑いする虹夏。

 

「ええ~一度来て、体感しなよー。そこの子は特に歓迎するよ~」

 

 一方の廣井は、なぜか喜多に絡みモード。

 なぜかといえば

 

「うちの彩人(あー)くんとイイカンジだったじゃ~ん。

 チケットあげるから今度二人できなよ~」

「えっ!」

 

 と、瞬間的に顔を赤くして固まる喜多と

 

「お?ナニ?彩人くんって、喜多ちゃんがライブに呼んだ男の子だよね?なんかあったんですか?」

 

 猫耳モードになり、話に食い付いてくる虹夏。

 

「なんかライブ終わった後、彩人くんとイチャイチャとさあ~」

「ち、違います!ちょっとお話してただけですっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは小一時間前のことだ。

 

 

 

「悪かった」

 

 結束バンドの出番が終わった後、ステージ袖にて。

 喜多を呼び出した彩人は、まずは素直に謝った。

 直立姿勢からのお辞儀。ものの見事な謝罪の姿勢である。

 ぎょっとする喜多に彩人は

 

「正直、お遊び程度の、なんちゃってバンドだと思って、バカにしてた。

 本当にすまない」

「ちょ、や、か、顔上げてよ!」

「けど……」

「も、もういいからぁ!」

 

 言われて、ゆっくりと顔を上げる、彩人。その表情は、まだ自分の謝罪について、どこか納得してない、といった風だった。

 一方の喜多は、彩人が顔を上げたのを見て一息ついてから、ちょっと気恥ずかしそうに

 

「それで、その、どんなところが良かった?」

「ん、あ、そうだな……」

 

 これは喜多の純粋な興味本位の質問だったが、

 

 (多分、これは謝罪の続きかな)

 

 と、彩人は考え、喜多が納得してくれるような言葉を必死に考える。

 

「っても、俺、音楽とか全然知らないから、あんま大したこと言えないけど。

 ―――なんか、カッコよかった。

 特に後藤!2曲目とか、なんか、とにかくすごかった。

 全身を揺さぶられた感じっていうか、クラスにいる時のアイツと全然違うじゃないか!」

「うん!」

 

 彩人の言葉に、我が意を得たり、という風に頷く喜多。

 彩人もそれを見て、今の自分の答えが正解だと思い、そのまま続ける

 

「あとドラムの人やもう一本のギター、みたいな?」

「リョウ先輩?ベースの事?」

「そう!ベース!

 正直何やってるかよくわかんなかったけど、めっちゃカッコよかった!」

「わかる!立ち居振る舞いからカッコいいよね!」

「ああ、それと――」

 

 と、彩人はライブの興奮を思い出したままの勢いで

 

「それと喜多。お前も、カッコよかったぞ!」

「ぇっ」

 

 突然、自分の話になって凍り付く喜多だったが、彩人はそれに気づかぬまま

 

「ステージの真ん中で歌う姿、すっごい凛々しくて、綺麗だった!

 ライトに照らされてキラキラしてさ!

 いつも通り歌もうまいし!それもギター弾きながらだろ、すげえよ!

 まるでプロの歌手とか、アイドルとかみたいで!

 思わず惚れ―――」

 

 と、そこまで口にしたところで、彩人は自分の口にしていることの内容と、喜多が目の前で顔を真っ赤にしていることを認識する。

 

 まて、今俺は何を口走った。いや、嘘は言っていない。思ったままだ。後ろ暗いことは何もない。

 何もないが、じゃあ同じことを、素面でもう一回喜多に言えるか?

 

(ぅおああああぁっ!何言ってんだ俺ぇっ!)

 

 喜多と同じような色の顔で、そっぽを向く彩人。

 どうしようかと思って話題を探していると、フロア、というかバーカウンターの方から

 

『ぼっちちゃん!そうそう!ビールにウィスキー注いで……はい!ボイラーメーカー完成!

 おめでとう!これで君も立派なバーテンダーだ!』

『は、はい!……ふ、ふふ、カクテル、陽キャパリピのマストアイテム。それを作れた私は、リア充界を支配する力を得た、いわばリア充マスター……』

『何言ってるかわからないけどその通り!ホラ、もっと練習!次はニコラシカを』

『コラッ!!!勝手にメニューにないようなもん作らせんな!ぼっちちゃんも作らない!』

『え~っ!』

『ひ、ひゃい、すみませんでした。陰キャがカクテルとか調子に乗ってすみませんでした。陰キャらしく番茶でも挽いてきます……』

 

 などと聞こえてきた。

 

 甘酸っぱい青春空間から、一瞬で甘酸っぱ(ゲロ臭)い空間に引き込まれた彩人は

 

「あー、っとさ。俺、実は身内にロックバンドしてる奴がいてさ、それがどうしようもない―――」

 

『あ~ん!ビールサーバーに住みた~い!』

 

「―――ホント、どうしようもない女でさ」

「うん。そうみたいね」

「だから、喜多がそうならないかって心配で、つい、よく知りもしないで、喜多の仲間を悪く―――その、本当にすみませんでした!」

「―――わかりました。

 謝罪を受け入れます。だから、もうやめて、元通りになろ!ねっ!そっちの方が私嬉しいかな」

 

 喜多の首をかしげておねだりするような笑顔に、彩人も流石に態度を崩さざるを得なかった。

 

「そっか……そだな!じゃ、仲直りってことで」

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

「―――って感じで!別に付き合ってるとか、いい雰囲気だとかそう言うのじゃないですよ!」

「青春じゃん」

「イチャイチャじゃん」

「あ~、失われた輝きがハートを鈍く切り裂く~」

 

 喜多の弁明への感想は、上から星歌、PA、そしてボトルでキープした焼酎をラッパする廣井。

 

「つか、お前ら高校生の癖に色恋的に強者過ぎないか?」

 

 星歌は自分から見て右から順に

 

「リョウは高校生の分際で婚約者持ちだし」

「いぇい」

「喜多ちゃんは元から陽キャでバスケ部のキープくんいるし」

「だからキープとかそう言うのじゃ……!」

「虹夏―――は、おいておいて」

「お姉ちゃん、ちょっと」

「ぼっちちゃんは―――」

 

 と、そういえばずっと静かだな、と思いながら、星歌はテーブルの端、ぼっちと、そして律志がいる方を見ると

 

「―――では、次の質問だ?いいかな、後藤くん」

 

 と、テーブルの上で手を組み、いつものいかめしい面構えをした律志と、

 

「ハイ」

 

 その圧を前に、爆発四散すら許されず、正座で対応をしているぼっちがいた。

 目は虚ろ、口元からは謎の液体を垂らしている。

 

「ギター歴3年ということだが、他に楽器、音楽の経験は?」

「ありません」

「独学ということだが、使用した教材は市販の教本かね」

「ハイ、父の本棚から借りました」

「ストロークに独特の癖、というか技法を感じたがそれはどこで」

「気が付いたら、癖で」

「その癖が身についた切っ掛けのようなものはあったかね?誰かの演奏動画など」

 

 それは完全に圧迫面接だった。

 

 律志自身には、そんなつもりはなかったが、高い上背と低い声、そして直截的な物言いは、周囲に、そしてぼっちに、まるで捕まった犯罪者か捕虜が、尋問を受けているかのような印象を与えていた。

 ぼっちは、思う。

 どうして自分はこんな目に合っているのか?

 居酒屋で真っ白で燃え尽きた状態でギタ男達におめでとうされていたら、目の前にメニューを差し出されたのが切っ掛けだ。

 お礼を言ってメニューを手に取ったら、渡してきたのが見知らぬ怖い印象の男の人で

 

「君が後藤君だね、ライブハウスEXoutの高清水という者だ」

 

 話を聞くと、石塚の知り合いらしい。

 

「今日の演奏、素晴らしかった。良ければ少し、君について聞きたいのだが」

 

 褒められて、少し気を許したのが良くなかった。

 え~、他のライブハウスから引き抜き?それともどこか事務所に紹介?でゅへへへ……

 そんな予想に、承認欲求の魔物がちょっと身じろぎをして

 

「では、いくつか質問に答えてもらう」

 

 始まった瞬間、魔物は一瞬で奥に引っ込んだ。

 

 有り体に言って、尋問だった。

 

 無表情から、ベースのような低音で放たれる、機械的な事実確認。

 ぼっちが人生で体験してきた中でこれに一番近かったのは高校入試の面接だが、試験官である高校教師達が醸し出していた、受験生達が緊張しないように、という気遣いのオーラは残念ながら一切ない。

 出会い頭に爆発四散するなり、塵に還るなりしていればあるいは逃げられたかもしれないが、尋問が始まった今、そんなんで逃げれる雰囲気じゃない。後悔先に立たず。

 

 私が一体なにをした?どんな罪を犯したというのか?

 そうか、ギターソロだ。陰キャの私が陽キャの喜多さんのMCを遮ってギターソロなんてしたのがいけないんだ。

 喜多さんの話をギターの騒音で遮った賞で逮捕されたんだ。そして、今、余罪がないか取り調べを受けているに違いない。

 ああ、もう駄目だ。無期懲役100万年だ。お父さんやお母さん、ふたりやジミヘン、結束バンドのみんな、網走まで面会に来てくれるかな?

 

「ぜ、全部認めますから執行猶予を……」

「回答の意図がつかめない。認める、とは何を対象としてかを……」

「おい」

 

 と流石に見かねた星歌が律志に声をかけようとし、しかしそれより1秒ほど早く、焼酎瓶を片手の廣井が律志の隣にそっとやってきてた。顔を見れば、頬がパンパン。焼酎を口いっぱいに含んでいるようだった。

 廣井はぼっちへの質問に意識が行っていた律志の肩を叩く。

 

「?なんだ、きくり。今、忙し―――」

 

 と、いう、律志の口を、唇でふさいだ。

 

『――――っ!』

 

 ぼっちや星歌含め、全員があっけにとられる中、廣井は『ズキューン!』という植写が見えそうな勢いのキスを敢行。口に含んだ焼酎を、律志の喉に流し込み、そして彼を解放。

 

 

「ッ!ゲホッ!き、きくり!何を―――!」

 

 咽る律志を尻目に、廣井は今度は焼酎瓶をラッパ飲みしてから

 

 ズキューン(2回目)

 

 しかも今度は、焼酎を流し込んだ後、舌を突っ込み10秒ほど攪拌。

 それは、時間稼ぎだった。

 その10秒で律志の胃粘膜から血中へと、アルコールが吸収され。

 

「ぬ……ぐ」

 

 パタリと、意外に軽い音を立て、律志の体は畳の上に倒れ伏した。

 沈黙の中、廣井は袖で酒と二人の唾液の混合物で汚れた口元を拭って

 

「ごめんねぇ、ぼっちちゃん。

 こいつ、悪気があったわけじゃなくってさ。気になることがあると周り見えなくなる癖があるんだよ~。

 酒弱いから、こんだけ酔わせればもうしばらくグデングデンだし、安心していいよ~」

「そんなことしなくても、普通に止めればよかったじゃないか」

 

 照れ半分、ドン引き半分といった風に言う星歌に

 

「無理ですよセンパイ。りっくん、いつもはクールな大人ぶってますけど、気になることがあるとすっごい執着するんですから~」

 

 ケラケラ笑う廣井。

 その様子を見て、頭から煙が上がりそうなほどに混乱した喜多が言う。

 

「私、まだロックの事、全然理解してなかったんですねー」

「うん、ロックやってる女ってみんなこんななんだねー」

「高校卒業しても手を出してこなかったら……やるか」

 

 その両隣、虹夏は数日前のリビングでの遭遇をフラッシュバックさせながら真っ赤な顔でそう言って、逆隣のリョウは静かに決意を固めた。

 なお、至近距離にいたぼっちは、ショック死し、塩の柱となっていた。

 

 

 夜はまだ、これからだ。

 

 

 

 

 つづく




次回でとりあえずファーストライブ編は終わり、になればいいなあ

この作品で好きな組み合わせは?

  • 後藤ひとり・石塚太吾
  • 伊地知虹夏・柊俊太郎
  • 山田リョウ・海野敦
  • 喜多郁代・皆実彩人
  • 廣井きくり・高清水律志
  • 伊地知星歌・天海恭弥
  • 大槻ヨヨコ・大河内頼光
  • PA・マスター
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