ろっきんがーるに恋する男子   作:詞連

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前に『ファーストライブ編終了!』とか『少し投稿に間が空きます』とか言ったな。
ありゃ嘘だ。
本編にどうしても組み込めなかった、かといって独立させるには少なかった端材の再編集です。どうぞ


Chapter15 ろっきんがーると男子達 Extra

海野敦と山田リョウ

 

 

 リョウは敦と夜の街を歩いていた。

 

「向こうに車を停めてます」

 

 打ち上げが終わり解散した後、少し遠めのコインパーキングへ向かう。

 

「路駐でよかったじゃん」

「違反はとられたくないので」

 

 相変わらず生真面目だ、とリョウは思う。

 

「打ち上げ、楽しかったですか」

「うん。廣井さんとも話せてよかった」

「廣井さん……ああ、SICKHACKの?お酒の人?」

「そう。店長の後輩なんだって」

「世間は狭いですね」

 

 取り留めない会話をしながら、繁華街を行く。

 ライブの感想や、打ち上げでのこと。

 歩いているうちに、ライブや打ち上げでの、酔いのような高揚感が夜風に溶けていくのが、リョウには感じられた。

 

 駐車場は通りから少し離れたところだった。

 人通りのないコインパーキング。

 

「ちょっと待っててくださいね。清算を―――」

 

 敦が後部座席を開けた時だった。

 

 

 背後から、リョウが抱き着いてきた。

 

 

 たまにこういう時がある。二人きりの時、誰もいない時、リョウが敦の背に抱き着いてくることが。

 パターンは2つ。一つはいたずら。もう一つは、何かがあって感情の整理がつかない時。

 

 こういう時、敦は何も言わずに待つ。今回もそうした。

 

 誰もいないパーキング。街灯の明かりがわずかに届く中。

 

 ぽつりと、リョウが零した。

 

「また、終わっちゃうのかと、思った」

「何がですか?」

「一曲目」

 

 ライブの事だろう。1曲目、音楽について敦は詳しくない。リョウに付き合って聞くだけ程度だ。その敦にも分かるほどリョウの演奏は精彩を欠いていた。

 

「郁代と、みんなそろってのライブで、大失敗して。このまま解散しちゃうんじゃないかって……」

「怖かったんですか?」

 

 無言。抱き着く腕の力が強くなる。

 

「2曲目からは、ちゃんとできたじゃないですか」

「あれはぼっちが頑張ってくれたから」

 

 衝撃的なギターソロからの2曲目。それによってリョウも調子を取り戻し、最終的にライブは成功した。だが―――

 

「私がしなくちゃいけない役目だった」

 

 あのバンドの中で一番上手い。リョウにはその自覚があった。

 リズム隊として、バンド経験者として、

 

「私がみんなを引っ張って、守ってやらないといけなかった」

 

 ところが蓋を開けてみれば、この有様。

 

「情けなかった」

 

 虹夏や郁代に不安にさせて、

 

「悔しかった」

 

 ぼっちに無理させて、

 

「怖かった」

 

 あのままだったら、ぼっちが何とかしてくれなかったら。

 郁代も、虹夏も、ぼっちも、バンドや音楽を辞めてしまってたかもしれない。また居場所を、自分の音楽をなくしていたかもしれない。

 ライブの成功の高揚感が薄れた今、忘れていた恐怖が思い出されて、どうしようもなかった。

 

 リョウの吐息とかすかな震えを感じながら、敦はただただ、黙っていた。

 

 自分にはそれしかできないから。

 そして、自分にはそれができるから。

 

 何分かして、敦の背中から、リョウの体温が離れた。

 

「もう、大丈夫ですか?」

「―――ん、ありがと」

 

 いつもの表情のリョウがいた。

 

 まだ胸の内には、何か感情が渦巻いているのかもしれない。だが、敦はそれを聞かない。

 言いたいことや、辛いこと、耐えられないことがあったら、またああやって吐露してくれる。それを信じて寄り添うことが、自分の役目だ。

 

 開きっぱなしにしていた車のドアを、リョウはするりと潜り、席に着く。

 敦は車を出した。

 路地から大通に。バックミラーを見れば、そこには頬杖をつき窓の外を眺めるリョウ。

 頬が普段より赤く見えるのは、照れているのか、気のせいか。

 独り言のように、彼女は言う。

 

「夏は、もっとたくさん練習する」

「頑張ってください」

「今度はちゃんと守れるようにする」

「バンドのお父さん役なんですね、リョウさんは」

「うん。虹夏は私の嫁」

「では喜多さんや後藤さんは娘ですか?」

「いや、ぼっちはペットのツチノコ」

「かわいらしいツチノコですね」

「しかもお金も貸してくれる」

「リョウさん、お金はちゃんと返しましょ?ね?」

 

 取り留めない会話をしながら、車は夜の街を走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

高清水律志と廣井きくり

 

 

 

「よいっ……っしょ!ほら!ついたよりっくん」

「ぬ、あ、すまん」

 

 夜半過ぎ。

 律志の自宅であるマンションに廣井と、彼女に支えられた状態の律志がたどり着いた。

 

 

 星歌達と分かれた後、二次会と称して2軒目に向かった律志と廣井、そしてPAの3人。

 当初、律志は飲むつもりはなかった。自分の酒量の限界はわかっていたし、飲むにしても薄目のハイボールで唇を濡らす程度にして、泥酔するであろう廣井の面倒を見るつもりだった。

 

「あら!律志ちゃんじゃない!飲み歩きなんて珍しいわね!」

「あっ!銀ちゃん!」

 

 偶然にも、入った店に知り合いがいた。

 新宿FOLTの店長、吉田銀次郎だ。彼(もしくは彼女)もライブの打ち上げだった。

 当然の如く合流。先ほどまでの結束バンドの打ち上げとは違い、こちらは成人バンドグループ達の、対バン打ち上げ。当然の如くアルコールマシマシ。

 

「律志ちゃんが飲むなんて珍しいじゃない!」

「まあ、多少は」

 

 盃を勧められ、律志は受けた。テキーラベースの濃いめであった。

 普段の律志ならば、自分の限界量を鑑み謝辞するところではあったが、悪条件が重なった。

 まず相手が、吉田店長だった点。律志にとって銀次郎は何かにつけて世話になった店長としての先輩である。さらにはEXoutから”卒業”したバンド達の次のステップであるFOLTの店長だ。酒を勧められれば断りにくい。

 また律志自身酔っぱらっており、自身の限界を見誤っていたし、銀次郎という自分以外の廣井の保護者がいることから、万が一自分がつぶれても大丈夫、という気の緩みもあった。

 おまけに銀次郎も酔っていた。普段の銀次郎は相手に酒を無理強いするようなことはしない。だが、彼(彼女)もまた酔っぱらっていた上に、律志が普段酒を飲まない男であるが故、律志の強面な外見もあり『バーボンくらいカパカパ開けるでしょ』という思い込みがあった。

 結果として、

 

「ぬふぅ」

 

 高清水律志は、飲み屋の床に沈んだのだった。

 

 

 

 

 

 

「私がしっかりしてて、りっくんがデロデロとか、珍しいこともあるもんだねえ」

「……不覚だ……」

「ほら、水分を摂取しろ~」

 

 普段と逆の立場で、律志の真似をしてミネラルウォーターのボトルを差し出す廣井。

 律志は黙って受け取り口をつける。

 

「お~!会いたかったよ~!私の半身!スーパーウルトラ酒呑童子EXぅぅっ!」

 

 一息ついた律志は、再会した愛ベースに抱き着く廣井を眺めていた。

 その視線に気づいた廣井は

 

「ん、どうしたの?まさかベースに嫉妬」

「……ふっ、そうかもな」

「お、なんかご機嫌だね。いいことでもあった」

「そうだな。君が目にかけているというバンドも見れたし、久しぶりに天海さんや伊地知店長、あとPA……ああ、名前をド忘れしたな。いかん。まあ、とにかく、懐かしい顔とも飲めた。

 それに、一つ重要な知見を得た」

「ちけん?」

 

 首をかしげる廣井。それを無言で手招く律志。

 無防備に近づいてきた廣井を

 

「ぅわっ」

 

 律志は手を引き、押し倒した。

 

「いてっ!ちょ、な、何?」

 

 律志には珍しい粗野な仕草。

 押し付けるように重ねられた手。熱い吐息に混ざる酒気と、袖口から薫るシトラス系のコロンの香り。

 いつも顰め面をした恋人の、普段と違う抜けた表情と潤んだ眼に、廣井は妙な色気を感じた。

 

「―――りっくん?」

「シンプルな、三段論法だ」

 

 戸惑う廣井を無視するように、律志は言う。

 

「大前提として、君は面倒見がいい。SIDEROSの子達の時もそうだが、今回の結束バンド、特に後藤君に対しては顕著だった。目下の者、保護対象がいると、君はそれを保護するように動く。美徳だ」

「あ、うん。そ、そうかな?あ、ありがと?」

 

 押し倒され、急に褒められ混乱する廣井。拘束を解かず、律志は続ける。

 

「小前提として、アルコール・飲酒は妊婦、胎児に対して悪影響を与える。これはあらゆる研究から明らかになっている事実だ」

 

 おっと雲行きが怪しいぞ。抜け出そうとする廣井。しかし律志は拘束を解かず、結論に至る。

 

「結論として―――君を妊娠させれば、胎児の為に君は飲酒をやめる」

「りっくん!?」

「うむ。完璧な三段論法だ。美しい」

「妊娠断酒法なんて聞いたことないんだけど!?」

「俺もだ。人類初だろう。素晴らしい知見だ」

 

 覆いかぶさった律志の体が、ゆっくりと迫ってくる。

 

「ま、待て待て待って!たんま!ちょっとたんま!」

「愛している、きくり」

「わ、分かった!分かったから!せめて明るい家族計画を!」

「大丈夫だ。これは明確な計画性に基づいた生殖行為だ」

「そういう意味じゃ……んひゅぃっ!」

 

 律志が廣井の首筋に顔をうずめる。

 首筋へのキス。濡れた感触と、吸われる痛み。

 貪られる被征服感と、愛される、奉仕されることによる充足感。

 

「ぁ……ぅぅっ!りっくん……!律志、くん……!」

 

 最初のキスが終わる。浅い息をつきながら、律志の体を押しとどめるように、あるいは抱き留めるようにして、廣井は言う。

 

「い、いやぁ、こんな、お酒の勢いとかで……!」

 

 涙声で言う廣井に、律志は応えず、ただ首筋に顔をうずめているだけだ。

 

 

 数秒経ち……

 

   十数秒経ち……

 

     数十秒経ち……

 

 

「―――りっくん?」

 

 答えはない。

 

「……寝てる?」

 

 赤みの抜けてない顔で、呆然と呟く廣井。

 急速に、表情から熱が抜ける。

 冷徹さすら感じる目で、廣井は律志の体の下から抜ける。律志に起きる気配はない。

 廣井は律志の鼻をつまんでみた。

 

「―――っ!っが!……ふごっ」

「……ぷっ、本気で寝てるし」

 

 しばらく楽しんでから廣井は律志の鼻を解放した。

 それだけやっても起きる気配はない。完全に寝入ったようだ。

 廣井は数口分ほど残っていたミネラルウォーターの瓶を手にして一気に飲み干す。

 それから、ベットから持ってきたタオルケットを律志にかけてやり、ベースを背負い広告の裏に一筆。

 

『帰る。鍵はポスト。お酒はほどほどにね~♪ きくり』

 

 そして、

 

「次、素面で言ってくれたら、考えたげる」

 

 眠りこける愛しの恋人の耳元に、そんなつぶやきとキスを残して、彼女は部屋を出て行ったのだった。

 

 

 

 

 

マスターとPA

 

 

 

 

 お茶の水に、隠れ家のようなレコードバーがある。

 昼はレコード喫茶、夜はバーという経営形態のそこは、知る人ぞ知る名店だ。

 レコードや設備のセンス、コーヒーやカクテル、軽食の美味さ、雰囲気の良さなどもあるが、一番の理由は客層と、マスター自身。

 ライブハウスの店主や楽器店経営者、他音楽関係者が多く集まり、マスター自身もいくつもの箱を持つオーナーだ。

 自然と、その客層は中高年が中心になる。

 そんな中に、少し珍しい来客があった。

 僅かにパンク系のニュアンスが入ったメイクの若い女性だ。

 慣れた様子で店に入ってきたのは、STARRYのPAだった。

 グラスを磨いていたマスターが彼女を迎える。

 

「やあ、久しぶり、カウンターにどうぞ」

「ありがと、マスター」

 

 ほろ酔い気分の彼女はカウンター、マスターの正面近くに座る。

 時刻は日付が変わってしばらくしてから。

 そろそろ店じまいの頃で、客足も大分遠のいている。

 

「紅茶と、あとエルビス」

「ブランデーは」

「今日はいいかな。ちょっと飲み過ぎたし」

 

 注文し、ほどなく出てきたのは、上品なアッサムと、サンドイッチ。ピーナッツバターとバターが塗られたパンにベーコンとバナナを挟んだもの。この店の名物であり、酔客がシメとして頼むことも多い一品だった。

 

「今日、STARRYで新人のバイトの子達の打ち上げだったんですけど、高清水さんと廣井さんもいたんですよ」

「そう。高清水君は元気だったかい?」

「ええ。廣井さんと仲良さそう……って、マスター、EXoutのオーナーですよね?会ってないんですか?」

「彼はしっかり者だからね。放っておいてもちゃんとやってくれるので、つい……」

「もー……マスターって、マメなのかズボラなのかわからないですよね」

「リズムだよ。時に強く(フォルテッシモ)、時に弱く(ピアニッシモ)。でないと長くは続かない」

 

 そう言いながら、マスターはレコードをかける。

 リズム&ブルース。半世紀以上前、ロックの誕生前夜という時期の一曲だ。

 

 最高のサンドで程よく満ちた腹。頭の中に残る酔いと、レコード特有の音色間を漂いながら、紅茶を楽しむ至福の時間。

 

「ねぇマスター」

「ん?」

「伊地知店長、今日、旦那さんも一緒だったんです。海外に単身赴任だって聞いて心配してたんですが、凄く仲良さそうで、幸せそうでした」

「そうかい」

「高清水さんも、廣井さんとイチャイチャしてもう。ま、高清水さんは認めないでしょうけど」

「彼は根が素直なくせに、捻くれてるからね」

「羨ましいなあ」

「君も探せばいいさ。振り向いて流し目の一つでもくれてやれば、どんな男もイチコロさ」

「目の前に、それが効かない魅力的な男性がいるんですけどー」

「こんなおじさんに何を言ってるんだか」

 

 肩を竦めるマスター。そんなつれない彼に、彼女は頬杖をつきながら

 

「覚えてますか?昔、私がマスターに告白した時のこと。

 言いましたよね『10年したら考えてあげるよ、お嬢さん』って」

「ああ、そんなこと言ったかな」

「言いました。それでですね―――」

 

 大人になったかつての少女は、言われた通りの流し目を向けて

 

「あと2年で、10年ですよ。マスター」

「……困ったもんだ」

 

 サウンドが、緩やかに続いていた。

 

 

つづく




今度こそ文化祭編のアニメ版を見て、次の展開を考えようと思います。
あと少々年末進行で立て込むので。

この作品で好きな組み合わせは?

  • 後藤ひとり・石塚太吾
  • 伊地知虹夏・柊俊太郎
  • 山田リョウ・海野敦
  • 喜多郁代・皆実彩人
  • 廣井きくり・高清水律志
  • 伊地知星歌・天海恭弥
  • 大槻ヨヨコ・大河内頼光
  • PA・マスター
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