だがTwitterで流れてきたヨヨコ先輩アニメ版の映像見たらいつの間にか出来上がってたんだ。
Chapter16 大河内頼光と大槻ヨヨコ その1
大槻ヨヨコにとって、大河内頼光は見る価値もない、取るに足らない存在だった。そのはずだった。
「ども~!関西は兵庫から来ました、大河内頼光いいます~!
とりあえず、ロックで行けるとこまで行こ、ってのを目標としてます!
あんじょうよろしゅうお願いします!」
出会ったのは2年前だ。
自分より1年ほど遅れて活動を始めた、自分より1つ年上の男。
声もガタイも大きく、性格も明るく、人当たりも良い。一見するとがさつで無思慮に見えるが、意外と察しが良く気も使える。
頼光が拠点としているライブハウスはEXout。新宿FOLTとはほど近く、店長同士の付き合いや、FOLTの顔でもあるSICKHACKの廣井きくりとEXout店長と関係もあり、人の出入りも多い。
あっという間に頼光はFOLTにも馴染み、スタッフや廣井を始めとする他のバンドマン達とも仲良くなっていた。
人見知りが激しく、バンドメンバーとすらギクシャクしている彼女とは正反対。
正直言って、ムカついた。
「フンッ、バンドマンに大事なのは演奏の腕前の方よ」
そう思って、彼女は顔を背けて練習と活動に打ち込んだ。
顔を背けながらも、頼光の動向は耳に入ってきた。
頼光のポジションはギターボーカル。
ギターは高校になってからの初心者で、はっきり言って下手。
だが歌は抜群にうまいらしい。なんでもデカい寺の生まれで、読経をしてたから発声は凄く良いのだとか。
まずは高校の同級生一人と組んで、ギター2本でコピーバンドから始め、その内どこからともなくドラムとベースを拾ってきて、正式にバンド結成。
「『Irrational/Numbers』だって。りっくんが名付け親なんだ~』
姐さんと慕う廣井きくりから、結成の報を聞いたのは冬の初め。
それから本格的にバンドとして始動した頼光の活動を聞いて―――彼女は怒りを覚えた。
典型的な、コミックバンド路線だった。
Irrational/Numbers、イレナンのメンバーが、とにかく濃かった。
アフリカ系移民の2世。外見はいかにもロックやヒップホップやってそうなガタイの良い黒人男性なのに、その実態はアキバ系オタクのギタリスト、ジョージ・モリスこと
高校生モデルとしてファッション誌の紙面を度々飾る美形だが、言動がナルシズムを越えてキモチ悪いにまで至っている変人ベーシスト、
そして、全く喋らないくせに悪ふざけが好きな、変人美形の内、視覚的に静かだが音的にうるさいドラム。
「あの子達、ステージに乗せて適当に喋らせてるだけでも面白いわよね~」
FOLT店長の吉田の言う通り、彼らは前座の盛り上げ役として丁度良かった。
数曲適当にメジャー曲を披露し、フリートークでつないで場を盛り上げる。そんな役割。
あんたはこんなのでいいのか?
こんなの、お笑い芸人じゃないか!
ロックで行けるとこまで行くんじゃなかったの!?
珍しく、というかほとんど初めて話しかけた。ケンカ腰に、詰るように。
頼光はそれをどこ吹く風と、肩を竦め
「まだ期やない。それだけのことや」
それを聞いて、怒りが失望に変わった。
「結局、遊び半分、ガチじゃなかったってことね。行くところまで行く、とか言ってたくせに」
まだチャンスじゃない。機会があったら。充電期間。
どれもこれも、やらない奴の言い訳だ。一番を、上を目指さない奴が立ち止まり、挑まない自分を慰めるための言葉だ。
大河内頼光は、障害足り得ない。ライバル足り得ない。―――仲間、足り得ない。
そう判断して、彼女は彼を、意識から切り捨てた。
頼光の存在を彼女が再び意識したのは、それから半年後、夏になってからだ。
Irrational/Numbersが、本当の意味で活動を開始した。
切っ掛けは5人目のメンバー、石塚太吾の加入だった。
中学生キーボーダー。西東京から神奈川にかけての路上演奏で、そこそこ名前が知られつつあった彼の加入を切っ掛けに、イレナンはオリジナル曲の演奏を中心に据え始めた。
次々と発表する新曲。
前座を重ねたコネを利用した高頻度のライブ出演と、動画投稿サイトやSNSを駆使したプロモーション。
無謀ともいえる大ステージや対バンへの参加。ライブを繰り返す度に、勝利と善戦を積み上げ、演奏は厚みと深みを増していく。
彼女が彼らに感じるものは、夏の頃には追い上げられるプレッシャーだったが、秋にはあっさり並ばれたショックとなり、冬には後塵を拝する悔しさとなった。
思い返せば、その時のショックやストレスが、当時のメンバーの離脱・解散の原因だったのかもしれない。
彼女が気を取り直し、今のメンバーをそろえ活動を再開した頃、その新しいバンドメンバーからこんな話を聞いた。
「イレナン、未確認ライオットっていう企画にエントリーするらしいっすよ?」
10代限定のロックフェス兼コンテスト。いくつかの審査の上、最後にフェス形式での審査を行い、グランプリを決定する。
彼女はエントリーしなかった。
今のメンバーで活動し始めてまだ数か月。エントリーが4月。実力的に無理な挑戦だとは思わなかったが、知名度が足らない。
彼女が新生したバンドと地道に活動を重ねるうちに季節は巡る。
その間にイレナンは危なげなく予備審査を通過。フェスに臨むこととなった。
「見に来てくれへんか?」
フェスの前日、珍しく頼光が話しかけてきた。
「……なによ。いまだに伸び悩んでる私達に、晴れ舞台の自分ら見せてマウントとろう、ってわけ?」
「そんなんちゃうて!ただ、ずっと見ててくれたやん」
「見たことなんてないわよ、あんたのライブなんて」
「『行けるところまで行く』」
それは、かつて頼光が言った言葉で、ヨヨコが問い返した言葉。
「メンバー以外で、あの言葉を聞いて、覚えてくれてて、怒るくらい真剣に受け止めてくれたんは、見ててくれたんはヨヨコちゃんだけやねん。
せやからこの晴れ舞台、見に来て欲しいんよ」
そう言って頼光は彼女に、チケットを押し付けて去っていった。
顔が少し熱かった。
ライブ審査当日。彼女はフェスの会場にいた。
「あ、ヨヨコ先輩も来たんですね」
バンドメンバーも頼光に呼ばれたらしい。
「なんか、メンバーの石塚君が誘おうと思った子らがいたらしいんですが、初ライブの準備がどうたらで、結局遠慮して誘えず、チケットが浮いたみたいで」
「ふーん」
あのナンパ野郎。余ったチケットを口から出まかせで押し付けたのか!?
いや、けどそれはこの子達だけで、私のは別かも?いや、けど、どうだろう?
などとヤキモキしていると、イレナンの出番が始まった。
圧巻だった。
動画で彼らの演奏は聞いていた。上手いとは思っていた。
しかし、ライブではさらに数段上だった。
普段の奇矯な振る舞いからは考えられない、安定感のあるベース。パワフルさと繊細さを兼ね備え、演奏を支えるドラム。精密かつ大胆なリードギターと、変幻自在なキーボード。
そして、それらの楽器に支えられ、まとめ、率いる頼光の歌唱とギター。
特に歌だ。
まるでライブの観客一人一人に訴え、叫び、語り掛けるように感じられたそれは、技術か天性か。
頼光の歌に伴いギターとキーボードが奏でられ、ベースとドラムがリズムを作るという、通常とは逆の、しかしイレナン独自のスタイル。
ただ一曲で会場は熱狂に包まれ、その中に、彼女もいた。
「―――みんなも感じたと思う。こいつらはモノが違う!他のバンド達もすげぇ良かった!熱演だった!だが、そんなお前らも納得してくれるだろう!?こいつらなら、仕方ねえって!
―――グランプリは!Irrational/Numbeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeers!!!」
祝勝会は、FOLTで開かれた。
「所詮泡銭!ぱーっと使うが作法やで!」
などと言いつつ未確認ライオット優勝ライブと銘打って、チケット代を徴収して費用のほとんどを回収していた。抜け目のない男だ、と彼女は思った。
「……ま、歌は悪くはなかったわよ。相変わらずギターは下っ手くそだけど」
「たはー、相変わらず厳しいなあ」
「それと……」
と、彼女が続けようとした時だ。
「ライコウ!来てくれたまえ!例のレーベルの人が来ている。話があるそうだよ!」
ワイシャツの前をはだけさせてポージングした半裸の声が、それを遮った。
声をかけてきたのはベースの百澤だ。ちなみに彼がどこぞのぼっちが想像する陽キャパリピ染みた所作をするのは、祝勝会テンション故ではなく、平素からである。
「おう?ちょっと待ってや!―――ヨヨコちゃん、それと、なんや?」
「なんでもない。それより、レコード会社の人なんでしょ、早く行きなさいよ」
「せやけど……」
「いいから!!」
尻を蹴り飛ばす勢いで頼光を送り出す。
全く、大きなチャンスになるかもしれない話なのに、知り合いとの雑談を優先しようとするとか、なんといい加減な男だろう。それともグランプリを取って増長しているのか?
「こんなところが全盛期とか、赦さないわよ。あんたは、私の目標なんだから」
目標。そう、目標だ。
今日のフェスで、魅了された。そして思い知らされた。並ばれた、でも、先に行かれた、でもない。完全に格上だと、認識してしまった。
だが、同時にこうも思った。
私も、あそこに行ける。
今は無理でも努力を重ねれば、この道を進んでいけば、その先に彼らがいる。彼らに追いつき、競い、いずれ勝つことも可能である。
廣井らSICK HACKのような、年齢層もジャンルも違う、敬う先達ではない。
遠いが、しかし追いつき、乗り越えられると思える具体的な目指すべき指標。
だからこそ、こんなところで立ち止まらずに、もっと先へ、進むべき道を示して欲しいのだ。
そしていつかその遠い背中に追いついて……
「いつか、私たちのステージで魅了し返してやるわ。覚えてなさい」
言いそびれた言葉を一人呟き、そっとその場を離れようとした彼女の耳に、頼光の、無駄にデカい声が届いた。
「あー、すんません。ちょっとそのお話、待ってもらえますか?
実家継ぐ関係で、イレナン、今年で終了するかもしれへんので」
大槻ヨヨコは、持っていたグラスを取り落した。
つづく
次回も頼光とヨヨコ編です。これはなるべく近いうちに。
というか、ほぼほぼ捏造かつオリキャラ話なんだが、二次創作としてこれでいいのだろうか?
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後藤ひとり・石塚太吾
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伊地知虹夏・柊俊太郎
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山田リョウ・海野敦
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廣井きくり・高清水律志
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伊地知星歌・天海恭弥
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大槻ヨヨコ・大河内頼光
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