ろっきんがーるに恋する男子   作:詞連

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丁度いい区切りが思いつかず短くなってしまった。


Chapter19 柊俊太郎と伊地知虹夏 その3

 柊俊太郎の夏は受験勉強と家の手伝いで過ぎていった。

 中学三年生の最後の夏休み、一見すると灰色かつ極めて不毛なように見えるが、シュンとしてはそれほど悪いものではなかったと思っている。

 

(虹夏の奴も似たようなもんだしな)

 

 虹夏の夏休みも家事か、バンドの練習か、あとはSTARRYの手伝いが主体だ。

 つまり、学校がある時期より会える回数はむしろ増える。

 

(しかも来年からは同じ学校だしな)

 

 シュンの志望校は下北沢高校だ。レベルは高めだが、現状十分に合格圏にある。

 親には志望動機を

 

「近いから。あとまあ、将来考えて」

 

 と言っているが、その時の彼の両親のニヤケ面を見る限り、

 

「……ったく、勘違いしやがって。そんな理由じゃないっての」

 

 ―――彼の両親は息子に対して正しい理解をしているようだった。

 

「けどまあ、下北高受かったら……」

 

 シュンは想像する。

 下北高はいろいろ厳しく行事も地味だ。だが、地味だからと言ってないわけでもない。イベント以外に日常で会う機会も増えるだろう。

 登下校なり、昼休みなり……

 

「……ま、悪くは、ねえな」

 

 勉強に疲れた時等、ついついそんな高校生活を妄想するシュンだった。

 

 

 

 

 

 

 ともあれ、そんな夏休みも最終日の8月31日の昼。

 いつも通りの御用聞きと配達に、STARRYへと来たシュンは、変な地縛霊と遭遇した。

 

「アスコルビン酸……ヒドロキサム酸……」

 

 その地縛霊はピンクのジャージを着た女で、蝉の死骸を拾っては、店の前の植え込みスペースに埋めていった。

 蝉の木でも生やす気か、それとも墓でも作る気か?

 と思ったら、次はどこで入手したのか卒塔婆を突き立て始めた。

 どうやら植樹ではなく墓の方だったようだ。

 

「いつもの事か」

 

 シュンは地縛霊―――後藤ひとりの行動を平素の奇行と判断し、それをスルー。

 裏口の方に回り、インターホンを鳴らす。

 

「?」

 

 反応がない。

 ちょっと迷ったが

 

「ちわーす、柊商店でーす」

 

 鍵はかかってなかったので、扉を開けて声をかける。

 

「あー、わるいな、シュン。ちょっとぼっちちゃんがな」

 

 シュンから見て奥、店の表側の方から星歌が来た。

 

「ん?あのピンクジャージがどうかしたのか?今日も表で元気そうにしてたぞ?」

「蝉の墓作ってるのがか?」

「卒塔婆も立ててたぜ。まあ、あのピンクジャージは大体あんな感じだろ?」

「おまえといいリョウといい、ぼっちちゃんを何だと思ってるんだ」

「ギター弾ける妖怪」

「お前なあ」

 

 などと言っていると、表の方から虹夏が来た。

 焦り気味の彼女曰く

 

「お姉ちゃん!ぼっちちゃんが死にそうだから海行ってくる」

「おーう」

「死体遺棄かよ」

「あ、シュン!来てたんだ!

 そうじゃなくて、ぼっちちゃんが夏に誰とも出かけてないせいで死にかけてるから、今から夏の思い出つくって蘇らせようって思って」

「状況は分かったが何一つ理解できねぇ」

「まあ、そうだよねー」

 

 肩を竦めるシュンに虹夏は苦笑いして

 

「シュンはどうする?」

「は?」

 

 問われた内容が分からず一瞬呆けて

 

「お、俺もかよ!?」

「そだよ。シュンもずっと勉強か手伝いかって言ってたじゃん。

 最後の日くらい夏休みの思い出、作んない?配達もSTARRYが最後なんでしょ?」

 

 シュンは御用聞きや配達の際、STARRYを最後にして、虹夏と雑談したりバンドの練習を聞いたりと、いくらか時間を潰してから孵るのが定番だ。

 今日も、そのつもりで最後に回してきたのだが……

 

「お、俺は別にお前のバンドのメンバーでもねーし、女の中に男一人とかキツいし、そんな暇じゃ……」

 

 虹夏と!一緒に!海に行きたい!という、本心とは裏腹に、シュンの口から出てきたのは、同行しない理由の羅列。

 反射的に張ってしまう、無意味な意地。男子中学生とは哀しい生き物である。

 だが、そんな意地っ張りな少年に天使が微笑みかけた

 

「どうしてもダメ?―――男の人が一緒だと、心強いんだけどなあ」

 

 天使の名前は虹夏といった。

 小首をかしげて微笑んでくる憧れの少女の顔に、少年は一瞬見惚れてから

 

「ーーっ、し、しょうがねえな!お前らだけじゃ危なっかしいし、ついてってやるよ!」

「ヤッタ!ありがと!」

 

 腕を組んでそっぽを向きながら言うシュンに、虹夏は満面の笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってことで!気絶したぼっちちゃん運ぶ役、お願いね!」

「そういうことかよチクショオォォォォォォォッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 穏やかに押し寄せる潮騒。

 夏の終わりの夕暮れのビーチ。

 石塚が、ひとりと一緒に波と戯れるように走っていた

 

「ハハハ、おーい、待てよひとり!」

「だーめ、待たない♪」

 

 

 ―――この数行でわかったと思うが、これは石塚の妄想である。

 だが、もうしばらくこの妄想に付き合ってもらいたい。

 

 

 さて、砂浜にもつれあう様に転んだ二人。

 仰向けになり、夏の終わりを感じながら弾む息を整える。

 目と目が合い、手をつなぎ、砂浜に座る。

 

「夏も、もう終わるな」

「来年も、その、い、一緒に来ましょうね」

 

 自然と近づく距離、感じる吐息。

 そして―――

 

 

 Tropical LOVE forev「イラッシアッセェェェェェェッ!」

 

 

 石塚の妄想を終了させたのは、唐突に入ったオーダーだ。

 

 

「ビールィチハイリャーーーースッ」

「ヨロコンデー」

 

 現実復帰した石塚は、慣れた手つきでビールサーバーを操作。

 機械的だが、仕事はそれなりに丁寧。

 冷えたグラスに黄金のビールと、それなりの泡を形成。コツは先に泡を作り、その下にそっとビールを流し込むこと。

 カウンターに置くとウェイターがすぐに来て持っていく。持っていく先はビーチに展開されたテーブルだ。

 

 石塚がいるのは海の家だった。

 夏ももう終わり。海水浴客はもういないが、サーファーや釣り人、そして観光客もチラホラ。

 ビーチは閑散とはしているものの無人ではなく、海の家にもたまに客がやってくる。

 

「夏も、終わりか」

「おい、石塚。大丈夫か?さっき意識飛んでたぞ」

「……大丈夫。ちょっとあり得たかもしれない今日を見てただけだから」

「あー、うんそうか。変な電波受信するとか、バンドマンも大変だな」

 

 やや引き気味に言うのは最近出来た友人、皆実彩人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 結束バンドのファーストライブの日に出会った石塚と彩人。

 まあ、再会することはないだろうな、と思った二人がばったり出くわしたのは4日前。まさにこの海の家だ。

 石塚はぼっちを誘えず、練習以外ほぼ何もなくなった予定表を埋めるためにバイトを探していた。

 

「できれば遠くへ、行きたい」

「なら江の島どうや?ちょうど知り合いがバイトの欠員出て困っとったし」

「微妙な遠さですね」

 

 仕事は海の家、お給料は緊急募集であることもあり良さげ。

 

「行きます」

 

 半分くらい傷心旅行気分で江の島に行ったその先で、

 

「ん?石塚、だっけ」

「あっ、廣井さんの従弟の?」

 

 ばったりと、二人は再会した。

 彩人としては、出会った時のあの赤っ恥は未だ忘れ得ぬプチトラウマであり、その関係者である石塚のことは記憶に残っていた。

 一方の石塚としては、アレは正直どうでもいい思い出だったが、彩人自身を『廣井の身内』として記憶していた。

 

「売れてるバンドマンだ、って聞いたから、バイトとかするとは思わなかった」

「売れているといっても、新人として注目されてる、ってレベルだし。そっちこそ、部活は?」

「自主練期間で休んでバイト。新しいバスケットシューズも欲しかったし……あと、喜多がまたライブした時のための、チケット代稼ぎ、だな」

「……そうか」

「言っとくが、後藤目当てとかじゃないからな」

「そうか」

 

 石塚と彩人。 

 方や陽キャ寄りのバスケ部。方や陰キャお一人様気質のバンドマン。一見して正反対の二人だったが、意外と気が合った。

 結束バンドや廣井きくりという共通の話題もあったし、根が真面目で、仕事に対しては黙々と取り組むタイプだという共通項もあったからだろう。

 

 そんな風に過ごして今日で4日目。8月いっぱいの契約のバイトも、今日で最終日だ。

 

 

 

 

 

「店長達、遅いな」

「客を呼び込んでくる、とか言っていたけど。どうなったかなあ」

 

 今、店内には石塚と彩人、それと厨房担当が一人だけ。

 それだけでも十分周るほどの暇さ加減だ。

 

「シラス、入荷し過ぎてヤバいんだっけか?」

 

 思い返すのは、今朝の店長の顔。

 

「強気に行き過ぎちゃったぜ!―――もうちょい頑張って捌かないと怖いお兄さん達に、シラスの餌にされるかも?みたいな?」

 

 こんがり焼いた日焼けの上からでも、血の気が引いているのが分かる程に青ざめていた店長は、他メンバーを集めて呼び込みに出ている。

 

「知り合いも呼べるなら呼べって言われたけどさあ……」

「キーボードがあるなら客寄せ位程度できるんだけど……持って来てない」

 

 などと話していると、話していると

 

「あー、惜しかったぁ」

 

 と、店長達が帰ってきた。サーフパンツに、星型のサングラスとかいう、これでもかというパリピな装いだ。

 

「お疲れっす店長。釣果はどっすか?」

「ダメダメ!一組、いーかんじのJK?JD?のグループいたんだけど、声かけた子がいきなり爆発四散しちゃってさ、逃げられちゃった!」

「後藤みたいな人、他にもいるんだなあ」

 

 世の中広い、と彩人が思う。

 

「アヤトくんもタイゴくんも、もうちょいトモダチとか呼べない?

 注文入れてくれなくても、ただ座って席埋めてくれてるだけで、客の入りが大分違くなるからさ」

「―――もっかい、当たってみます」

「了解です」

 

 店長に言われてスマホを起動。

 とりあえずで開いたSNSに、フォローしているアカウントの新規書き込みのお知らせ。

 それは喜多だった。内容は写真。

 写真の内容はタコせんべいを買い食いしている喜多達だ。

 

「ん?これひょっとして、近所か?」

 

 だとしたら、誘えば海の家に来てくれるか?

 

 などと思っていると、

 

「彩人」

 

 石塚が、彩人の肩をつかんだ。

 いつになく力のこもった、真剣な声音と表情の石塚。

 彼のスマホにも、喜多がさっき上げたばかりの写真が表示されている。

 石塚は、その写真の中の一点を指さしながら、言った。

 

「この男は誰だ?彩人は知っている?……まさかバスケ部か?」

「お前のそのバスケ部に対する敵愾心は何なんだよ」

 

 画面内、結束バンドと一緒に写っている少年、シュンを指さし聞いてくる石塚に、彩人はため息をついた。

 

 

 

 

つづく




夏休みの時系列もそうだが、廣井関係の時系列も結構悩ましい。


 星歌が大学留年しているという情報があることから、星歌が大学に在籍していたのは5年間(複数回留年の可能性もあるが、まず置く)。
 大学の先輩後輩となるとしたら、その年齢差は最大でも4年だが、そこから一切情報なし。

 なお。今作中内では1つ2つ下くらいのイメージです。

この作品で好きな組み合わせは?

  • 後藤ひとり・石塚太吾
  • 伊地知虹夏・柊俊太郎
  • 山田リョウ・海野敦
  • 喜多郁代・皆実彩人
  • 廣井きくり・高清水律志
  • 伊地知星歌・天海恭弥
  • 大槻ヨヨコ・大河内頼光
  • PA・マスター
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