ろっきんがーるに恋する男子   作:詞連

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なぜ、創作上のダメなアル中お姉さんはこんなにも魅力的なのか?(哲学)
あと、やや猥談要素が入ってしまったのでR-15タブ追加


Chapter2  高清水律志と廣井きくり その1

 新宿の一隅にあるライブハウス、EXoutの雇われ店長、高清水律志(りつし)は車を出した。

 新宿から首都高に乗り、そこから中央高速に入る。

 目指すのは山梨県の大月。同じく『中央』の名を関する路線である中央本線に乗って運ばれた酔っ払いを回収するためだ。

 ちなみに、高速自動車道と鉄道、その両方に冠する『中央』とは、『日本の中央=東京から日本アルプスをぶち抜いて名古屋まで』を指す言葉らしい。

 などと益体のない豆知識を思い出しながら、高清水は車を転がす。

 八王子に入る頃にはビルもなくなり空が開け、過ぎるころにはすっかり春の緑が萌えあがる山の中。そこを越えて、長いトンネルを抜け、一瞬だけ神奈川県に入る。

 相模湖・相模川に沿って走り、すぐに山梨県に入る。それとほぼ同時に相模川は桂川へと名前を変え、そこからずっとつかず離れず、蛇行する山間の平地を走ること小一時間。

 大月ICで降りると、そこからUターン気味に甲州街道を走る。目指すはJR大月駅。

 数分で到着し駅前の路肩に車を止めて、スマホの子供用GPSアプリを起動。

 100m程離れたコンビニに反応あり。

 広めの駐車場のある、田舎のコンビニに彼女はいた。

 駐車場に車を止め、彼女の前に立つ。

 彼女は、廣井きくりはしゃがみこんで泣いていた。

 

「うぐっ……ひぐぅっ……!

 りっくん!酷いんだよ!このコンビニ―――鬼ころがおいてない!!」

 

 ストロングで虚無な缶酎ハイを握りしめながら咽び泣く酔っ払いを見て、律志は手で顔を覆ってため息をついた。

 

 

 

 

 

 

「くぅ~っ!シジミが肝臓に染みるぅ」

「ほれ。水分も取れ」

「ありがと~」

 

 大月駅前は住宅街のど真ん中だ。

 その駅前のコンビニにこの酔っ払いを置いたままにしておけず、さりとてこの状態で1時間程運転をしてる途中で『ダム放水』されても困る。

 それゆえの折衷案として、律志は高速に乗ってすぐのサービスエリアで、酔っ払いを休ませることとした。

 お気に入りのしじみ汁を飲んで一息ついた酔っ払い―――廣井きくりは受け取ったペットボトルを見て、不思議そうに

 

「あれ?なんでお酒じゃないの?」

「この流れでなぜ酒を渡されると思った?」

「だってお酒は命のお水だし?」

「命の水ではなく普通の水を摂れ。

 アルコールは分解にも水を使うし利尿作用もある。水分補給にならない」

「いじわる~」

「そうか。

 ほら、スポーツ飲料で水分と電解質を補充しろ。そうしておけば二日酔いの予防にもなる」

「二日酔いなんて迎え酒があれば」

「二日酔いはアセトアルデヒドの中毒と脱水によるものだ。迎え酒はアルコールで不快な症状を麻痺させているだけで治療にはならない」

「なんかいつもより冷たくない?なんかヤなことあった?」

「そうだな。直近で言えば唐突にアルコール依存症患者の介護の要請があって、予定を全部キャンセルさせられたこととかか?」

「はっはっはっ!それは災難だったねえ!

 そんなときはやっぱり幸せスパイラルをキメるに限る!

 というわけでりっくんも一杯!」

「これから運転せねばならん人間に何を勧める気だ?

 というかどこから取り出した!没収だ!」

「あ~っ!返せ~っ!」

 

 などと、痴話げんかとも酔っ払いの介抱ともつかないやり取りを、人気のないサービスエリアのベンチで交わす。

 鬼ごろパックの争奪戦は、元の体格差に加え、泥酔状態の廣井が勝てるはずもなく、律志が没収で決着。廣井は敗北の涙と共にスポーツ飲料を舐めることとなった。

 「おにごろ~」とべそをかきながらストローを咥える廣井。

 深い春の夜の底。街灯と、時折通り過ぎるヘッドライトに照らされる静寂の中で、律志は切り出した。

 

「―――それで、きくりこそどうしたんだ」

「ん~?なんのこと~?」

 

 いつもと変わらない風に、赤ら顔で笑う彼女に、けれども彼もまた変わらず問いかける。

 

「まず酒を買う金があり電車も残っているのに電話で助けを求める点。次に帰還困難などのケースで最初にレスキューを求めたのがバンドメンバーではなく俺である点。そして、何より―――いつも気分よく飲んでいる時は忘れるベースを、今日は肌身離さず持っている点」

 

 お互い、高校の頃からのそれなりに長い付き合いだ。

 律志が忙しい身であることを知る廣井は、迎えなどを求めるのは予定が空いているバンドメンバーを選ぶ。

 また、そもそもこういう乗り越しケースの体験も多いので、自力で帰れるなら何とかする。

 そしてなにより―――

 

「打ち上げなどの本当にストレスフリーで飲んでいる時は、音楽のことも脳から消し飛んで、ベースを置き忘れるからな。

 そのベースを忘れてないということは、おおよそ、何か音楽で悩んでいて、酒でもそれが抜けないパターンだ。

 バンドメンバー相手にも、音楽関係で弱い所は見せたがらないしな、君は」

「――なんでもお見通しだねえ。流石本業が大学の先生」

「まだ院生だ。そして、一応は雇われとはいえライブハウスの店長と、プロデューサー染みたこともしてる。あと、君の彼氏も兼務だ。

 ――話ぐらいは聞くぞ。たまにはゲロ以外のものも吐けよ。受け止めるから」

「まあ、大したことないんだけど―――いろいろだよ。

 ただまあ、きっかけは………知り合いがまた1人、音楽やめちゃったこと、かな」

 

 

 ぽつぽつと、廣井は話し出した。

 

 後輩の一人が、バンドを解散し、音楽をやめてしまったこと。

 努力の他に才能と運が求められる世界だ。好きだけではやっていけない。駄目だと分かって見切りをつけて去っていくのも、悪いことではない。

 けれども、それでも背中を見送るのはつらく、また、同時に自身を振り返っての不安にもつながる。

 

「寂しくて、辛くて、けどどうしようもなくて。

 そう思ってると、自分のことも不安になって、いつまで音楽できるのか、してていいのか、続けられるのか、怖くなって。

 なんかもう、頭の中ぐるぐるしちゃってさ。

 幸スパキメても消えなくて、もうどうしようもなくてさ。

 駄目だね私」

 

 目尻の下がった泣きそうな笑顔。

 その表情に律志は覚えがある。

 廣井が昔、まだ酒を飲んでない頃によくしていた顔だ。

 自分に自信がなく、将来が不安で、ライブハウスどころか楽器店に入ることすら躊躇していた頃。自分はダメだと自嘲ばかりしていた頃。

 あの時の表情をする彼女に、彼もまた、あの頃と同じようにする。

 

 手を取り、引き寄せ、抱きしめる。

 

「――できる。君は音楽を続けられる。俺はそれをずっと見ている」

「こんなどーしよーもない酔っ払いベースでも?」

「逆説だ。こんなどうしようもない酔っ払いをこんな山奥まで迎えに来ているのが、何があっても見捨てないという証拠だ」

「私も大概、ロックと酒に嵌ったダメ女だけど、りっくんもそんなダメ女に嵌ったダメ男だね」

「そうだな。お似合いだ」

 

 お似合いの男女が、唇を重ねた。

 しばしの交感の後、彼女は彼の肩に頬を寄せ

 

「ありがと。ちょっと元気出た」

「そうか」

「うん――――で、このあとどうする?お持ち帰りしてエロいことでも、する?」

「しない。この後ライブハウスで残業があるし、何より、酔っぱらっている状態での性交渉はもうこりごりだ。行為中にぶちまけたのを忘れたのか?

 しかもよりにもよって、君が上に乗っている時に」

「あれはりっくんも悪いって。

 たらふく飲んで酔っ払ってる時に、ロデオ状態で下からガンガン突かれたら、上から噴出するのは自然の摂理じゃん」

「その摂理を学び、生かすのが人間の叡智というものだ」

「ええ~、ロックじゃない~」

 

 などと、春の夜。まだ少し肌寒い中、二人が取り留めなく言葉を交わしていると―――

 

「……ちょっと待て、着信だ」

 

 番号は、面倒を見ているバンド、イレナンのバンドリーダーである頼光のものだ。

 バンドメンバーの石塚と一緒に、STARRYのライブに行ったはずだが……

 

「――もしもし、どうした」

『店長!大変や!石やんがナンパして振られてショック死した!』

「なんか、りっくんの周りも結構ロックだね」

「何でもかんでもロックでくくるのは、やめるべきだと思う」

 

 おちおち恋人といちゃつくこともできない。

 ため息一つついた高清水は、酔っ払いの送迎と、ライブハウスの残務と、そしてSTARRYの店長伊地知への謝罪と、その他タスクの整理に頭を悩ますのだった。

 

 

 

つづく

 




 高清水店長のライブハウスEXoutは、原作2巻で廣井がライブをした、吉田店長のライブハウスとは別。
 ライブハウス運営と私情は分けねば、という高清水の生真面目さもあり、廣井はあまりEXoutでライブに出ない。たまには出る。  という設定

この作品で好きな組み合わせは?

  • 後藤ひとり・石塚太吾
  • 伊地知虹夏・柊俊太郎
  • 山田リョウ・海野敦
  • 喜多郁代・皆実彩人
  • 廣井きくり・高清水律志
  • 伊地知星歌・天海恭弥
  • 大槻ヨヨコ・大河内頼光
  • PA・マスター
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