ろっきんがーるに恋する男子   作:詞連

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世間では12話がぼざろの最終回だという悪質なデマが……いや、分かってます。
原作読みつつ楽曲聞きつつ、来たるべき2期を待ちながら執筆がんばります。


文化祭ライブ編
Chapter22 皆実彩人と喜多郁代 その3


 秘密や嘘のツケは思わぬタイミングで支払う羽目になる。

 ぼっちがそれを思い知ったのは、新学期最初のホームルームの時だった。

 

 文化祭の出し物決めの時間。一致団結などの青春キーワードで意識を失い、文化祭ライブ妄想。そこから覚めればクラスの出し物はメイド・執事喫茶に決定済み。メイド服を着なくてはならなくなった事実に吐き気を抑えていた時、

 

「文化祭ステージでの個人の出し物を希望する人は、生徒会室前のボックスにこの用紙を提出してください」

 

 司会をしていた文化祭実行委員がいったその言葉と、

 

「クラスの誰かがライブとかしたら、私惚れちゃうかも」

 

 クラスメイトの一人が言った言葉。

 文化祭。ライブステージ。意識消失時の妄想。

 すぅっ、と無意識に潜む承認欲求モンスターに体を乗っ取られる直前、

 

「後藤はステージでライブするよな?」

「へ?」

 

 ちょっと離れた席からかけられた言葉に、消えかけていた自我が引き戻された。

 声をかけてきたのは、皆実という男子だ。江ノ島で助けてくれた、喜多さんの友達。

 

(そ、そういえばクラスメイトだったっけ)

 

 今更、とは言わないでやって欲しい。

 他人と目を合わせることができず、陽キャ相手に至っては直視することすらできない。そんなぼっちが、バスケ部の次期エースと目されるクラスの中心の男子の顔をまともに見ることなどできようはずもないのだから。

 一方、ぼっちの微妙な距離感とは裏腹に、皆実彩人はぼっちに対して、完全に友達距離感で

 

「結束バンドのライブ。楽しみにしてるぜ?」

「うぉっ、眩しい……っ!」

 

 彩人の笑顔から放たれた光に、思わずひるむぼっち。

 そんな彼女を追撃するかのように、彩人の言葉に興味をひかれたクラスメイト達が

 

「えっ、後藤さん――だよね?ってバンドとかするの?」

「そういえば春、楽器持ってきてたよな」

「あ!私、噂で聞いたことある!喜多ちゃんと一緒のバンドなんでしょ?」

「えー!ホント!カッコイイー!」

 

 クラスメイトが文化祭のステージに上がる。

 文化祭の出し物決めの直後というタイミングに突っ込まれたその情報は、まさに火に油。

 急にクラスのトレンド入りしたぼっちは

 

「うへ、えへ、い、いや、まだその、駆け出しのバンドですから」

 

 承認欲求を満たされていた。

 

(そう、これ!これだよ!最初にギターを持ってきた時、こうなって欲しかったんだ!)

 

 クラスの話題の中心。みんながちやほやしてくれる。ああ、なんて素晴らしい。

 音楽最高。ロック最高。ありがとうエルビス・プレスリー。

 そんな風に思っていたぼっちの耳に、彩人とクラスメイトの会話が届いた。

 

「なあ、後藤さんって上手いの、ギター?」

「ああ。前にライブ見に行ったら凄かったし、動画の方とか、もっと上手だったぞ」

「動画?」

 

 ―――動画?え?あれ?ちょっと、それって……。

 

 幸福感に溶けかけ、蒸発しつつあったぼっちが一瞬で固体に戻る。

 ギリギリと軋む音を立てながら彩人の方を向くと、彩人はスマホを操作しながら

 

「ああ。学外の知り合いが、1人で弾いてる時の後藤はマジでヤバいってすごい勢いで推してきてさ。

 あー、これだギターヒ「うぼぉぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 

 ぼっちが放った断末魔の如き絶叫が、教室内の喧騒ごと皆実の言葉を遮った。

 全員の注目を浴びたぼっちは、増えるワカメの逆再生動画のような勢いで萎みながら

 

「ぶ、文化祭への参加はバンドメンバーとの協議の上で、け、決定します。その、続報は、あとで……」

「あ、うん」

 

 ぼっちを一番近くで囲んでいた女子が頷き、とりあえずその場はお開きとなった。

 

 

 

 

 

「お願いします!どうか!どうか動画の事だけは内密に!何卒!何卒!!」

 

 放課後、人気のない用具置き場、ぼっち曰く謎スペースで、ぼっちは彩人に土下座していた。

 された方の彩人は怯えの混じった困惑顔で

 

「わ、分かった!分かったからやめろよ!」

「ほ、本当ですか?かかか代わりに私は何をすれば?」

「まず土下座やめてくれ!誰かに見られたらマジで困る、ってか社会的に死ぬ!」

 

 埃まみれの床に髪がつくのを一切気にしない全力の土下座。クラスメイトの女子にそんなことをさせてるシーンを誰かに見られたら、彩人の学生生活は試合終了だ。安西先生だって諦める。

 どうにか土下座モードから、三角座り形態に移行したぼっちに

 

「けどさ。なんでクラスの奴らとかには秘密なんだ?」

「そ、その、クラスメイトにっていうか、そこから喜多さんとかにバレたら困るなっていうか」

「え?結束バンドの仲間にも黙ってたのか?」

 

 てっきりギターヒーローとしての腕を買われてスカウトされたのかと思っていた彩人。

 しかし実際はたまたま公園にいたギターを拾ったらSSRだったという虹夏の鬼引きである。

 

「その、わ、私って、1人だと、まあ、ちょっとプロレベルで弾けますけど」

 

 一瞬のイキリモードを経て

 

「けど、他人と合わせるのは、まだミジンコレベルで」

「石塚も言ってたな。他人と合わせる……セッション?だっけ?後藤はそれが苦手、っていうか経験が少なくてできてないって」

「け、経験してもなかなか慣れませんけどね。ほら、私、根暗の陰キャの微生物ですし」

「いや、そこまで言ってないけど」 

「だ、だから!もうちょっと人と合わせる練習して、ギターヒーローとしての実力を発揮できるようになってから、みんなには言おうと。……虹夏ちゃんには、この前のライブでバレちゃましたけど」

「なるほど」

 

 彩人は事情を理解した。

 そういうことならば、ギターヒーローのことは秘密にしよう。まあ、それ以前に、土下座交渉で言わないと約束させられているわけだが。

 

「あ、あの、それでですね?ちょっとお伺いしたいことが……」

「ん?なに?」

「え、えっと、私がそのギターヒーローだって言うのを、いったい誰から……」

「石塚から」

「石塚君が?―――あっ」

 

 言われて、ぼっちは思いだした。

 オーディション前、ギターヒーローのチャンネルを教えていたこと。そして

 

(く、口止めしてなかったっ!)

 

 そもそも口止めが必要とは思っていなかった。

 虹夏達とは学校違うし、そんな滅多に会わないし、と。

 だが、今回のような例を見るに、意外と人の縁とはつながるものらしい。

 それがどこからどう経由して、喜多やリョウの耳に入るかわからない。

 今更遅いかもしれないとは思いつつ、ぼっちはロインを起動。

 

 

『石塚君、お願いします。ギターヒーローのことは、どうか二人だけの秘密ということで、他の人には言わないようにしてくれると助かります』

 

「あ、皆実君にはもう言っちゃってるから、二人だけの秘密にはならないか……ま、いいや」

 

 送信後、ぼっちはそのことに気付いたが、まあ些事だと思いすぐに忘れた。

 

 

 

 

 

 ロインのメッセージに気付いた石塚は、隣を歩いていた頼光に声をかけた。

 

「先輩。記憶消す方法ってなんか心当たり有りません?」

「おん?なんや、忘れたい黒歴史でもできたんか?」

「いえ、後藤と二人だけの秘密を作るために、先輩らの記憶ぶっ飛ばす必要があって。鈍器とかでいけますかね?」

「時々サイコパス風味になるなあ、石やん」

「イレナンのメンバーの他は……彩人か。よし」

 

 

 

 

 

「ま、あれだ。ギターヒーローはおいておいて、ライブの方、マジで期待してるからな」

「あ、あの!も、もう一つ!聞きたいっていうか、知恵を貸していただきたいことが……」

「なんだ?」

 

 一度喋るようになると意外とぐいぐい来るなあ、と彩人は思いながら、ぼっちに促す。

 ぼっちは、真剣な顔で

 

「ぶ、文化祭のライブの事なんですが……なんとか、クラスのみんなを失望させないように断る方法はないでしょうか?」

「……は?」

 

 予想だにしなかった質問に、彩人はぽかんと口を開けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会室前。ステージ使用許可書類の提出ボックスに、用紙を半分突っ込んだ状態で、ぼっちは動きを止めていた。

 動きを止めた、とはいっても静止しているわけではない。体は指先から全身に至るまでプルプルと震えていたし、心に至っては嵐のような様相だった。

 

(出せ出せ出せ出したくない出せ出したくない出せ出したくない出せ出したくない!)

 

 相反する二つの想い。

 

 文化祭ライブに出たい。みんなに聞いてもらって、さっきみたいにちやほやされたい。ってか今さら出ないとか言ったらクラスでなんて言われるか!

 出たくない。無理だ。普段の私を知ってる人の前で、それも100人以上相手に、絶対無理。妄想で1000回以上やったしもういいじゃん!

 

 相反するベクトルを持った巨大な想念は、ぼっちのちっぽけな精神を両面から圧迫し、均衡している、

 

(ああ、どうしよう。っていうか、こんな所みられるのはそれはそれで恥ずかしいっていうか、他に提出しに来た人がいたら迷惑になるんじゃ……)

 

 もはや現実逃避気味に別のことを考えていた時、

 

「ごとー……さんっ!」

 

 わっ、っといった感じに、肩をたたかれ、背後から声をかけられた。

 それは喜多だった。

 喜多の胸中に会ったのは、ちょっとしたイタズラ心。

 いつものように心ここにあらず状態になっているぼっちを発見した喜多は、いかにも年頃の陽キャ寄りの女子高生らしい発想で

 

(こっそり後ろから近付いてびっくりさせちゃおう)

 

 と思い、実行した。

 右肩に、人差し指を立てた状態でポンと手を置いて、声をかける。

 よくある、ありきたりないたずら。

 

 だが、この時のぼっちにとって、それは致命的な行いだった。

 二方向から強力な力を受けて均衡を保っていた物体に、予想外の方向から衝撃を与えたらどうなるか?

 答えは、崩壊だ。

 

 ボッ!

 

 という音を立てて、錐揉み回転したぼっちは、その精神もろともばらばらに砕け散った。

 

「ご、後藤さああああああああああああん!」

 

 

 

 

 

 

 

 パーツごとに分解したぼっちは、保健室で組み上げられ無事復帰。

 

「うん。よく考えれば虹夏ちゃん達に相談してからだよね。止めてもらえて喜多さんに感謝だ」

 

 など言いながら保健室を去った。申込用紙を保健室のゴミ箱に捨てて。

 そして、その保健室に

 

「後藤さん?」

 

 喜多が戻ってきた。大丈夫とは言われたものの心配になったのだ。

 彼女が保健室で見たのは、空になったベッド。それとごみ箱に捨てられた、ぼっちパーツと一緒に拾い、机の上に置いたはずの申込用紙だった。

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夕方。

 部活を終えた彩人は、自転車に乗って下校中だった。

 ロードレーサーで夕暮れの並木道を走っていると、バス停に喜多の姿を見かけた。

 何をするでもなくぼーっと座っている喜多。

 一声かけて通り過ぎようと思っていた彩人だったが

 

「……となり、いいか?」

「え?」

 

 わざわざUターンして自転車を停め、喜多の隣に腰掛ける。

 喜多は、少し驚きながらも、いつもの表情で

 

「どうしたの?」

「それは俺のセリフ。どうしたんだよ、そんなしょげて」

「しょげてなんか」

「暇さえあればイソスタかトゥイッターかロインいじってる喜多が、一人でぼんやりしてるって時点で異常事態だっての」

「うっ」

「……なんかあったのか?」

「あった、っていうか、またやっちゃったっていうか……」

 

 

 

 

 

「勝手に申込用紙を出したぁ!?」

「ううう、や、やってからしまった!って思ったもん」

「やる前に思えよ、そういうの!」

 

 半泣きの喜多と、驚きあきれた彩人。

 

(後藤と喜多、一見すると正反対だけど時々突拍子もないことするとこは似てるなあ)

 

 など思いながら、彩人は促す。

 

 

「なんでそんなことを……」

「だって……」

 

 喜多は、少し拗ねたような、悔しそうな声で

 

「後藤さんがすごいって、かっこいいってこと、みんなに知ってほしかったんだもん」

「ああ……喜多って、そういうとこあるよな」

 

 喜多は共感性の強い少女だ。

 幸せのおすそ分け。他人の幸せや楽しいことを楽しいと感じ、そしてそれを共有したがる。

 SNS中毒の傾向にあるのも、そういう感情の共有を強く好む性格が背景にある。

 彩人の無言に、喜多は気まずそうに

 

「わ、分かってるわよ。私だって、後藤さんがそう言うの苦手な子で、そう言うの無理に勧めるのは良くないって!彩人君に言われなくても……」

「いや、言わねえ、っていうか責めない。つーより責められないわ、俺も」

「え?」

 

 今度は、彩人の方が喜多と同じような気まずげな表情で

 

「……後藤が文化祭でライブに出るように、炊きつけたんだ、俺」

 

 文化祭の出し物の話し合いで、ぼっちに 『ライブするよな?』 と言ったのは、計算ずくだ。

 あのタイミングで、クラスメイトに聞こえるように、あえて大きめの声で言った。

 そうすればクラス全体がそういう雰囲気になり、彼女は断れないだろう、という思惑でだ。

 

「彩人くんって、たまにそういう陰湿な所あるよね」

「陰湿って……いや、まあ、ハメるような真似をしたのは悪かったかなって思ってる」

 

 けど……

 

「後藤さ、教室でいつも一人なんだ。居づらそうで、つまらなそうで。なんか教室にいること自体が苦痛?みたいな感じ」

「ちょっと想像できる……っていうか、ゴミ箱の外にいる後藤さんって、大体居心地悪そうにしてるけど」

「実はセサミストリートの住人じゃないのかアイツ。そんな奴いたよな。

 ―――まあ、とにかくさ。そういうの、勿体ないって思って」

 

 後藤に、学校はもっと楽しい所で、クラスメイトと一緒にいるのは、もっと楽しいことだと知って欲しい。

 そしてクラスメイトに、後藤はもっとすごくて、楽しい奴だと知ってもらいたい。

 

「で、まあそういう陰湿な真似をしたわけだ。……喜多の事、責める資格はないさ」

「そっか……」

 

 街灯が灯り、星が見え始めた空を見て、二人はため息をつく。

 

「まあ、後藤にとっては余計なお世話だったろうけどなあ……」

「正直に言ったら怒るわよね、後藤さん」

「怒った後藤……」

 

 想像の中で、いつもの崩壊しかけた表情のぼっちが

 

『お、おこったぞぉ、ぷ、ぷんぷ―――あっ、な、何でもないです!』

 

「……ぷっ」

「わ、笑い事じゃないわよ!」

「クククッ……わ、悪い!想像図がちょっとツボに入った!」

 

 ひとしきり笑った後、

 

「ま、アレだ。後で二人で謝ろうぜ」

「その前に、実行委員に言って取り下げてもらわないと」

「いや、無理らしいぞ。聞いた話、以前いたずらや、応募したけどやっぱキャンセルってのが横行しまくって、今は一度提出したら絶対取り消せない、ってなったらしい」

「そんなあ……」

「やっぱ素直に謝ろうぜ。そんで、今度は搦め手とか、不意打ちとかなしで頼もう。『ライブ、出てください』って」

「……そうだね。そうしよっか!」

 

 喜多がようやくいつもの笑顔を取り戻した、丁度その時だった。

 彩人のスマホにロインの着信。石塚だ。

 メッセージを読んで―――彩人は硬直した。

 

「ヤバ……後藤、怒るとこうなるのか……」

「ん?どうしたの?」

 

 彩人は無言で、スマホの画面を喜多に向ける。ロインに曰く

 

 

 石塚:後藤のお願いで、お前の頭を記憶が飛ぶまで鈍器で殴る必要ができた。いつ会える?

 

 

「ひっ」

「……俺がクラスをワザと煽ったの、気づいたのか……?」

「な、何かの間違いじゃ……」

「喜多、ごめん。やっぱ後藤に謝るの、お前だけで」

「ちょっと!み、見捨てないでよ!」

「いやだって!俺石塚の対応あるし!!!」

 

 自転車に乗って逃げようとする彩人の裾を、喜多が握って引き留める。

 バスがやってくるまで、そんなやり取りが続いたのだった。

 

 

 

 

つづく




 複数の登場人物が交錯すると、ヒロインと男役二人のタイトルコールがいい加減辛くなりつつあるが、もうちょっとこの路線で頑張ってみようと思います。
 とはいえ、執筆者自身も、原作のどのあたりかわかりにくくなってきたので、正月あたりにでも章分けとかしてみようかしら。
 あと、アンケは年内まで予定です。

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  • 後藤ひとり・石塚太吾
  • 伊地知虹夏・柊俊太郎
  • 山田リョウ・海野敦
  • 喜多郁代・皆実彩人
  • 廣井きくり・高清水律志
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