ろっきんがーるに恋する男子   作:詞連

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これが今年最後の投下になる、かも?
アンケは年内までです。まだ投票してない方はぜひお願いします。


Chapter23 高清水律志と廣井きくり その3

 平日の昼間から、酒瓶片手にふらりふらり。廣井きくりは下北沢の街を歩いていた。

 本来なら、彼女はこんなところで酔っ払ってていいはずがない。今日は彼女のバンド、SICK HACKのライブの日なのだ。

 ポケットのスマホは、ドラムの志麻からの着信履歴で点滅している。しかし廣井は会場である新宿FOLTに向かわない。

 

(なんか足らないんだよなあ)

 

 天才ミュージシャンの勘が告げている。今日のライブにもう一味。一つまみのスパイスというかエッセンスというか、とにかく何かワンポイント必要だ。

 そんな気がする?しない?やっぱ気のせい?酒のせい?あはははははっ!

 

「そだ、STARRYいこー。ぼっちちゃんいるかなあ」

 

 そんなこんなでSTARRYに行くとぼっちが棺桶に収まっていた。

 ステージ演出かなと思えば

 

「げっ、きくり姉ちゃん」

「お?あーくんもいるじゃん?どったの?」

「学校で後藤が復活しないから運ぶの手伝ったんだ。……まあ、死因の一端は俺だし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 1時間ほど前、放課後。

 秀華高校1年2組の教室で、ぼっちはいつものように萎縮していた。今回の萎縮の原因は、目の前に座った喜多と彩人。二人とも深刻そうな顔だ。

 

(わっわっわわ、私、何かした?やっぱり文化祭ライブをしないつもりなの、バレた!?)

 

 NO協調性NOライフ。処される?空気を読めない陰キャは罵られ吊るしあげられるのか!?

 そんな!喜多さんも皆実君も陰キャに優しい陽キャだと思ってたのに!?やはり“陰キャにも優しい陽キャ”なんてのは創作や妄想の中だけの存在なのか!?

 

 ストレスで溶けかけるぼっちに対して、喜多と彩人もまた、爆弾処理をするかのようなストレスを感じていた。

 昨晩、彩人は石塚に「とりあえず落ち着け」と説得し、流血は回避できた、と思う。

 だが主犯というかキレた本人であるぼっちを何とかしなければ、後藤ガチ勢である石塚は止まらないだろう。そもそもぼっち自身がギターで喜多と彩人をぽむっ(実態を隠す擬音)、とする可能性が消えない。

 

 ((なんとか謝って許してもらわないと))

 

 と思いつつも踏ん切りがつかずお見合い状態。

 

 3人だけの教室に、無言の緊張感が積み上がっていくばかり。

 そんな時だった。

 

「あ、2組の後藤さん!」

 

 と、教室に第三者が入ってきた。生徒会所属の1年だった。

 彼女は急いでいるのか、空気を読むこともなく後藤の所に来て

 

「はい。ステージ使用の認可証。なくさないでくださいね。ライブがんばって」

「あっはい」

 

 後藤が受け取ったのは一枚の紙。

 2日目ステージの、結束ライブを許可する旨が書かれていた。

 

「えっ、あれ?これ、え、な。はへぇ」

 

 その内容を確認し、キュビズム化するぼっち

 

「……ご、ごめんなさいっ!私が、捨ててた申請用紙、勝手に出しちゃったの!ごめん!」

「お、俺も、その悪かった!クラス誘導して後藤がステージ出ざるを得ないような空気にして、その、ごめん!」

 

 もはやこれまで、と頭を下げた二人だが、ぼっちはそれを見ていなかった。

 

「ぉ、ぉぉぉ……っ」

 

 絞り出されるような小さな悲鳴。

 それを断末魔として、ぼっちはその生命活動を停止したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ちなみに、ムンクの叫びは、叫んでる人じゃなくて、どこからともなく聞こえてくる叫び声に恐怖している人の絵」

「リョウ、今はそんな豆知識よりぼっちちゃんが死んじゃってるのをどうにかしないと」

 

 時間は戻ってSTARRY。学校から彩人に背負われて運び込まれたぼっちを、関係者たちが囲んでいた。

 

「このまま後藤さんが目を覚まさないと私達、人殺しに……」

「切っ掛けを作った俺も同罪だ。一緒に自首する……」

 

 納棺されたぼっちを前に、私は罪人ですというカードを首から下げた下手人1号と2号が嘆く。

 そんな二人に酔っ払いが笑いかける。

 

「えー、良いじゃん!ライブするの!」

「……無理、です、私には」

 

 その声に反応して、意外な腹筋力を見せてぼっちが体を起こした。

 

「いつもの箱より多い人の前で、し、しかも、学校での私を知っている人の前でライブするのが、こ、怖くて……」

 

 うつむいて本音を吐露するぼっち。

 それを見て、廣井の脳裏によぎる光景があった。

 

 ライブの前。震える手。そして……

 

(あ、そっか。これが今日の、欲しかったピースか)

 

 丁度良く、ポケットにつっこんでいたそれを差し出す。

 

「ぼっちちゃん、これあげる」

 

 それは今日のライブのチケットだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、大槻ヨヨコは珍しく機嫌がよかった。

 今日は尊敬する姐さん、廣井きくりのライブだからだ。あとついでに……

 

「銀ちゃん!修理終わったでー」

「あら~、仕事が早いわねえ」

 

 ついでに、まあ、どうでもいいことだが。久々に頼光の顔が見れた。

 

(まあ、はっきり言ってどうでもいいことなんだけど)

 

 別に会いたかったとか、そういうのではない。

 なんというか……モチベーション!そう!モチベーションの問題だ!

 打倒すべき相手を定期的に見ることで、モチベーションを高めるためだ!臥薪嘗胆という奴だ!

 

 頼光が今日FOLTに来ているのは、機材修理の手伝いバイトだ。

 修理を引き受けたのは

 

「吉田店長。請求書はこちらになります」

 

 そう言って、奥から出てきたのはEXoutの店長、高清水律志だった。

 

「いくつかパーツを交換するだけで済みましたので、見積もりより安く済みました。……なので、その分きくりの借金は……」

「OK!引いておくわ。相変わらず尽くす男ねぇ」

「このことは、きくりには内密に。調子に乗ったら困るので」

「……ホントに尽くす男ねえ。あの酒カスにはもったいないわ~」

 

 呆れる銀次郎はため息をつき

 

「今日ももうすぐライブなのに、リハすっぽかして……」

「まあ、アレはアレでそういうスタイルと受け入れるべきかと」

「誰もがアンタみたいに寛容じゃないのよ、志麻ちゃんとか」

 

 などと話していると、話題の人物がやってきた。

 

「ここがぁっ!私のホーム!新宿FOLTでーす!」

「姐さん、誰か連れてきたのかしら」

「酔っぱらって他人には見えない人に言ってるだけかもしれへんよ?」

「……あり得るから困るわ」

 

 ヨヨコと頼光の心配は外れた。

 ぞろぞろと、廣井は人を連れてきた。男一人で女が四人。制服を見るに高校生。

 

「おっ!結束バンドの子らやん!久方ぶり!」

「あっ……」

 

 入ってきた一団、それも女子たちの方と頼光の知り合いだったらしく、彼は笑顔で寄っていく。ヨヨコを置いて。

 

「……」

 

 大槻ヨヨコは、不機嫌になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらやだ!かわいい男の子じゃない!え?廣井の従弟?やだも~!そういえばちょっと目元とか似てるかも?」

「あ、はい。うっす。どうもです」

 

 オネエ言葉のおっさんに脳みそをバグらせながら彩人は思った。

 

(バンドマンもその関係者も変なのばっかりしかいねえ)

 

 すごい圧を感じる吉田という店長を筆頭に、アニオタの外人のお姉さんだったり、遠くの席からやたらガンつけてくる女の子だったり。

 だが極めつけは

 

「あっ!りっくん!珍しいじゃん!ライブ見に来てくれたの?」

「ああ、君が壊した機材修理のついでだがな。今日のライブ、がんばれよ」

「へへへ、応援してくれるんだ」

「今日の売り上げも君の借金返済の足しになって、巡り巡って俺の支払いになるのだから」

「金の為かよぉっ!私と付き合ってるのも、金目当てかぁ!ショックだ!飲まずにはいられない!」

「おい!廣井!これ以上酒飲むな!高清水さんも刺激しないでください!」

「俺のせいにするな。こいつは何もせずとも飲むし、それに、なんなら飲んでた方が調子がよかろう」

 

 やたら強面のガタイのいい男が、廣井と、そのバンドメンバーという女と話していた。

 その内容に、聞き捨てならない情報があった。

 

「……えっ!?付き合ってる!?」

「あーくんには言ってなかったっけ?ジャーン、私の彼氏のぉ、高清水律志でぇ~す!」

 

 男の腕を組んでアピールするきくり。

 男―――高清水律志は彩人の方を向くと。

 

「はじめまして。高清水律志だ。芳文大学の理工学部で研究員をする傍ら、近所の、EXoutというライブハウスで店長をしている。君が、きくりの言っていた従弟の彩人君だね?」

「あっ、はい。皆実彩人といいます」

 

 研究員で、ライブハウスの店長?

 一切つながらない肩書を持つ、ヤクザと言われても納得がいくようないかつい男。そしてそれが従姉の彼氏?

 いよいよ混乱する彩人。それを見て律志は

 

「……まあ、君が混乱するのもわかる。こんな酒カスに男がいる、と言われても、にわかには信じがたいだろう」

「ひどくない!?」

「残念でもなく当然なのよねぇ。でも安心して彩人ちゃん。この男、廣井にはもったいないくらい真面目でイイオトコなんだから」

「はぁ……」

「くぅっ!私が自覚して気に病んでいることをっ!」

「ならまず酒やめろ、廣井」

 

 一体何が起きているのか?

 全く把握も咀嚼もできないまま、彩人は繰り広げられる会話と、情報の渦に流されるままとなっていた。

 

 

 

 

 

 それと同時。大槻ヨヨコもまた困惑していた。

 ヨヨコを放置して、きくりの連れてきた女子達の方にフラフラ寄っていった頼光が、

 

「てなことで、この子らが下北のSTARRYっちゅーとこで活動してる結束バンド!仲良うしたってな」

 

 と、その女子たちを連れて戻って来た。

 いきなりのことにヨヨコは

 

「はぁ?何のつもりよ」

 

 とりあえず、とげとげしい態度で対応した。

 

(だって仕方ないじゃない!いきなり面識のない人を一度に二人以上連れてこないでよ!)

 

 と、そんなヨヨコの内心を知ってか知らずか、頼光は肩を竦めて

 

「だってヨヨコちゃん、友達おらへんやん。こういう時に作らへんと、ぼっち拗らせるで」

「ぐふぅっ!」

 

 と、ダメージボイスを放ったのは、ヨヨコではなく連れてこられた女子の内、ピンクジャージを着た女だった。

 ともあれ、紹介されて名乗らないのは礼儀にも反するし居心地も悪い。

 

「……SIDEROSのギターボーカル。大槻ヨヨコよ。バンドしてるなら、聞いた事くらいあるでしょ」

 

 無反応。

 

「……っ」

「どーどー。落ち着きやヨヨコちゃん。この商売で名前知られてなかったんは手前の不足やで?」

「わかってるわよ!」

「あ、え、えっと!SIDEROSの名前だけは聞いたことありますよ!」

「私も。新宿系で最近伸びてきてるって」

「……フンッ!」

 

 サイドテールとショートカットの二人の言葉に、ヨヨコはとりあえずは溜飲を下げる。

 少し落ち着いた彼女は、結束バンド、という名前に心当たりがあったことを思い出した。

 

(そういえば、姐さんやイレナンの連中が言ってたわね。結束バンドの後藤ひとりだか“ぼっち”とかいう奴のこと)

 

 改めてその4人組を見る。

 リュックを背負ったサイドテール。

 すました表情のショートカット。

 そして

 

「ほら、後藤さん!起きて!」

「……はっ!き、今日は素晴らしいライブを」

「だからまだ始まってないわよ!」

 

 いかにも今時の女子高生といった風の子と、伸ばしっぱなしの髪のピンクジャージ。

 後藤と呼ばれたのは、ピンクジャージの女だ。

 

「あんたが、後藤……」

「ひぃっ」

 

 ヨヨコが目を向けると、後藤とかいう女は縮み上がる。

 

(こいつが、姐さんたちが気にするギタリスト?)

 

 にしてはカリスマ性や迫力といったものを微塵も感じない。

 何やらガクガク震える彼女を、ヨヨコがじっと観察していると。

 

「こーれ」

 

 こつん、と、頭頂部にチョップが落ちてきた。頼光だ。

 

「あんま睨んだらカワイソやろ。後藤ちゃん、ヨヨコちゃんと同じコミュ障なんやから」

「だ、誰がコミュ障よ!?」

「―――てな感じで、当たり強めやけど、根はいい子なんで、安生仲よーしたってな?」

 

 などとやってると

 

「ねえ!そろそろお客さん入ってくるから、テーブルとか動かすの手伝って」

 

 銀次郎が声をかけてきたので会話は中断。

 フロアに人が詰められるようにと、テーブルの移動が始まった。

 それを手伝いながら、壁際に避けた結束バンドの面々に、ヨヨコは目をやる。

 

(結束バンド、後藤ひとり……私は認めないわよ)

 

 尊敬する姐さんを奪い、打倒目標である頼光達から注目される、同年代のバンド少女達。

 ヨヨコは、彼女達の存在を意識せざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 続々と、ライブ会場に客が入ってくる。

 

「すごいねー。もう百人以上かな」

 

 虹夏が言う通り、広い会場のステージ側は、既に人でごった返していた。

 その後方、壁際に、見知った影がある。

 

「リョウと……高清水さん?」

 

 わざわざ最初の頃からいたのに、わざわざ入口近くの、ステージから遠い所に陣取る二人。

 リョウの方は、分かる。

 

「ライブハウスに良くいる“手前で盛り上がってるお前らとは違うんだぜ感”を出す通ぶりたい客!」

「音を聞け!音を!」

 

 だが、律志はそういうのをするとは思えない。

 

「あの、高清水さんはどうしてそこに」

「ああ、前にいると、迷惑に……」

「―――おい、いたぞ」

 

 虹夏が話しかけた時だった。数人の集団が、律志を見て寄って来た。

 出で立ちや持っているアイテムを見るに、どうやらSICK HACKのファン、それもかなり熱烈な方。

 それを見て、虹夏達は思った。

 

(ま、まさかこれって!高清水さんが廣井さんと付き合ってるのを知って……!)

 

 いわゆる、押しの恋愛認めない派、という奴かもしれない。

 廣井様は俺達のものだ!今すぐ別れろ!そんな人達が徒党を組んで……!?

 ハラハラとしながら様子を見守る虹夏達。

 壁際で腕を組み、動かない律志。

 そんな律志に、廣井のファンと思われる一団は近づいて

 

「廣井さんの介護、お疲れ様です!」

 

 頭を下げた。

 それを皮切りに、同じような人々が次々と

 

「高清水さんお疲れ様です!」

「廣井さんの介護、ありがとうございます!」

「あの、応援してます。廣井さんのアルコール依存の治療、がんばってください!」

「お世話、お疲れ様です」

 

 次々と声をかけていくSICK HACKのファン達に、律志は頷いたり、「うん」「ありがとう」など一言二言、返事をしていく。

 

「高清水さんが廣井さんと付き合ってるのは有名な話だからね。

 コアなファンは、大体高清水さんを認めている。保護者というか、介護者として」

「きくり姉ちゃん、病人扱いかよ」

 

 リョウの解説に、彩人が頭を抱えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(きくり姉ちゃん、本当にライブするのか)

 

 いよいよ始まるという直前、彩人は心配半分、不審半分といった風にステージを見ていた。

 リョウの話や、集まっている人の数を見るかぎり、人気のあるバンドというのは確からしい。

 だが、それでも今一信じられない。

 彩人の中にある廣井のイメージは2つ。

 一つは小さい頃に会った、高校生までの地味で大人しい、引っ込み思案な廣井のイメージ。もう一つは再会して以降の、どうしようもない酔っ払いのイメージ。

 そんなきくり姉ちゃんが、人を魅了するような、あの夏の時の結束バンドの、喜多や後藤のようなライブをできると、彩人にはどうしても思えなかった。

 

「信じられないかね?」

 

 声が掛けられた。律志だ。

 壁側にいたはずの彼は、いつの間にか隣に立っていた。

 ステージを見ながら、きくり姉ちゃんの恋人だという男は言う。

 

「俺は昔のあいつも、今の普段のアイツも知っている。だから、それだけしか見てない君が、信じられないというのも理解できる。だがその上で予告する。

 ステージを見れば君も納得するだろう。きくりに本気で惚れる男が、1人くらいいてもおかしくはない、とな」

 

 その言葉を合図としたかのように、ライブが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライブは大いに盛り上がった。

 最高の演奏。大きな歓声。いつもの泥酔によるグダグダもあったが、それあってこそのSICK HACKだ。

 熱狂と興奮の渦。それに飲まれながら、彩人は見ていた。

 渦の中心。光と音の根源の中で、ベースをかき鳴らす廣井きくりの姿を。

 

 かっこいい

 

 心から、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気づけば、結束バンドの面々と一緒に、バックヤードに連れてこられていた。

 熱量の残滓にぼーっとする頭で、なにやら後藤と話しているきくりを眺めていると。

 

「どうだった?」

 

 声をかけられた。声をかけてきたのはドラムの

 

「えっと……」

「岩下志麻です。―――ライブ、どうだった?」

「はい!えっと、凄くよかったです!その、音楽とかよくわかんないんで、なんて言えばいいのか分かんないっすけど、その……と、とにかく!すごかったです」

「ははは、ありがとう」

 

 志麻はひとしきり笑ったあと、少し居住まいを正し、

 

「……廣井が、実家と上手くいってない、っていうか、絶縁状態なのは、私も聞いてる。

 まあ、それは仕方ないと思う。バンドマンなんて不安定な職業だし、あいつ自身、アル中だし、ちゃらんぽらんだし、借金多いし、段取りめちゃくちゃにするし、ライブも泥酔でよく台無しにするし、臭いし、もの壊すし、リハさぼるし、金返さないし、あのクソヤロウ、ぶち殺して……」

「あ、あの~」

「はっ!?……あーこほん。まーその、なんだ。

 確かにいろいろダメな奴で、親や親戚から見捨てられても仕方ないとは思う。

 けどさ―――ライブのアイツ、凄かったろ?」

「はい」

「うん。あいつは、ああ見えて寂しがり屋だからさ。親や親戚から見放されたのも、口では言わないけど結構ショックで、気にしてると思う。

 だから……君一人くらいは、味方になってやってくれないか?」

「……はい。といっても、高校生のガキ一人にできることなんてないですけど」

「すごいと認めてやる。それだけでも十分さ」

 

 肩を竦めて小さく笑う志麻。それを見て彩人は思い、口に出た

 

「きくり姉ちゃん。音楽の才能と、人の縁には恵まれてたんですね」

「まあな。ったく、どんだけ前世で功徳を積めば高清水さんみたいなのを捕まえられるんだか」

「それだけじゃなくて、志麻さんみたいなバンドメンバーもですよ」

「……口が上手い少年だな」

 

 少ししかめっ面で、気恥ずかし気に志麻が言った、まさにその時だった。

 バキッ、という音がした。音源は廣井だ。彼女の拳が、壁にめり込んでいた。

 

「壁の修繕費、+10万加算しといたからね」

「ぼ、ぼっちちゃんとの連帯責任でぇ!」

「はへっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その帰り道だった。

 

「あ、あの」

 

 これから食事をしながらセットリストを決めよう、という結束バンド一行から、彩人が分かれて帰ろうとした時。ぼっちが呼び止めて、言った。

 

「ありがとう、ございます。喜多さんも、皆実君も」

「えっと、なんのことだ?」

「あの時、皆実君がバンドのこと言ってくれて、喜多さんが、捨てるはずの用紙を出してくれて。

 最初は、どうしようって思ったけど―――今は、すごく楽しみで。

 だから、感謝してます。ありがとう」

 

 いつもより少し背筋が伸びた、まっすぐな視線で、ぼっちは言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じ頃、FOLT近くの居酒屋のカウンターで廣井が管を巻いていた。

 

「チクショー!お金は天下の回りものっていうけどさあ!こんな早く飛び去らなくていいじゃん!」

「全く同感だ。飛び去った原因は君だが。どうしてこうすぐに物を壊すんだ、君は」

 

 隣では、律志が薄めのハイボールを舐めていた。

 

「大将!芋、もう一杯!」

「飲み過ぎるなよ、というのももう遅いか。―――今日のライブも、良かったぞ」

「うへへ……ありがと。あーくんも、楽しんでくれたかな?」

「見たところ、彩人君も後藤君達も、十分に楽しんでいたようだった」

「ふふん、そっか」

 

 嬉しそうに笑うと、きくりは新しく注がれた焼酎を煽る。

 

「今日は機嫌がいいな。どうしたんだ?」

「んー、ちょっとね。今日、昔からやりたいなって思ってたことができたんだ」

「何だ?」

「ライブに尻込みしてる子の背中を押すって奴」

 

 きくりは氷だけになったグラスを弄びながら

 

「実はね、意外なことにこの天才ベーシストきくりさんは、昔は臆病な根暗ちゃんで、ライブの度に、怖くて、逃げたくてうじうじしてたのさ。で、その度に、とある男の子に励まされて、背中を押されてようやっとステージに立ってたのよ」

「その男の子とやらは、背中を押す役を酒に盗られて、痛く気分を害しているわけだが」

「あははっ!まあ、そんでね。励まされる度に、ちろっと思ってたのさ。私もいつか、こんな感じに、誰かの背中を押せるようになりたいな、ってね」

「……」

「夢、一つ叶っちゃった」

「そうか」 

 

 廣井は、律志の肩に寄りかかった。

 

「危ないぞ」

「ふふ、照れてる」

「酒に酔ってるだけだ」

 

 そう言って、律志は薄いハイボールをまた一口舐めたのだった。

 

 

 

 つづく

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

「あの、後藤。だったらその、石塚に俺を撲殺しないように言ってくれると助かるんだが……」

「え?な、何のこと、ですか?」




あまりうまくまとまらなかった感。
他にも新宿までの道中会話とかいろいろ考えてましたが、冗長になりそうで……。
アニメの程よいふくらまし方は、やっぱ素晴らしかったなあ、と

この作品で好きな組み合わせは?

  • 後藤ひとり・石塚太吾
  • 伊地知虹夏・柊俊太郎
  • 山田リョウ・海野敦
  • 喜多郁代・皆実彩人
  • 廣井きくり・高清水律志
  • 伊地知星歌・天海恭弥
  • 大槻ヨヨコ・大河内頼光
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