そして、アンケートありがとうございました。
1位がぼっち・石塚ペアなのは予想してましたが、2位以下は全く予想外。やはり積極的にいちゃ付けるすでに付き合ってる組、婚約している組が強いのでしょうか?
ともかく、今年も頑張っていこうと思います。よろしくお願いします。
日本において、十代の若者の大半は学生である。
15歳までの義務教育課程はもちろんのこと、続く高等学校への進学率は約99%。
大学進学率が5割前後であることを差し引いても、十代の若者はまずほとんど学生であると断言してよい。
よって、10代のバンド少女達もまた、ほとんど学生であり、勉学の義務と権利を有する存在だ。
ここにも、音楽という大望と定期考査という現実の間に苦しんでいる乙女がいた。
新宿を中心に活動するバンドグループ、SIDEROS。その構成メンバーだ。
場所は新宿のライブハウスEXout。普段拠点にしているFOLTより幾分か小さめの箱だ。
EXoutのフロアの一角、テーブルに陣取って、テスト勉強に臨まんとしていた。
「―――ということで、春の時みたいに、補修や追試で練習できないとか許さないわよ!」
「はい、がんばります!」
発起人のヨヨコが腕を組みつつ言う。それに答えたのは、語気の割には柔らかな雰囲気を漂わせるのは、ギターの本城楓子。その横では食事の時すらマスクを外さない、ドラムの長谷川あくびが突っ伏しながら
「今日、音戯アルトさんの生配信だったんすけどぉ」
「アーカイブで見なさいよ!あなたが一番ヤバいのよ!幽々も今日は真面目にやってよね」
最後に声をかけたのは。ベース担当の内田幽々だ。
独特の言葉遣いで、ルシファーとベルフェゴールと名付けた人形を連れた、楓子とは逆の意味でふわふわと浮世離れした少女だ。
そんな彼女は、
「ハイ、ガンバリマス」
なぜか、普段と打って変わって借りてきた猫のようにおとなしい。
そんな彼女に、このテーブルについていた最後の一人、SIDEROSメンバーではない、いわばゲストともいうべき人物が声をかけた。
「幽々ちゃん、顔色悪いで?大丈夫?」
心配そうに声をかけてきたのは、ここ、EXoutを拠点に活動するギターボーカル、大河内頼光だ。彼の言葉に幽々は
「っ!」
びくっと震えて後ずさり、愛する2体の人形を抱きしめる。
それは人形にすがるというより、守るような仕草で
「なんもせーへん!なんもせーへんから!」
「お、大河内先輩はそうかもしれませんけどぉ、その背後の金色でおっきくて怖いのが……」
「えぇ……なんか背中におんのか俺……」
肩越しに振り向く大河内と、同じように彼の背後を見るヨヨコ。
二人の目には何も見えずただ虚空があるのみ。
再びテーブルの方に視線を戻すと、
「大丈夫よ、私が守ってあげるからね」
「よしよーし、幽々ちゃんのことは私が守ってあげる」
抱きしめた人形に声をかける幽々と、それを抱きしめる楓子。あくびはぐでっとしたままだ。
「……なんちゅーか、俺、おらん方がええよな、これ」
「ちょ、勉強教えてくれるんじゃなかったの?」
「いや、教えて言うたんヨヨコちゃんの方で、俺としてはあんま出来
つか、下手したらヨヨコちゃんのが勉強できるんちゃう?」
「出来が悪いっていっても大久保高校の3年でしょ、2年の私は兎も角1年の勉強くらいなら教えれるでしょ!?」
「教えんとは言うとらん。ここにいるんは幽々ちゃん的にあかんやろ、ってこと。
向こうの方で自分の勉強しとるから、分からんことあったら聞きに来てぇな」
「あっ、ちょっと……」
ヨヨコの呼び止めにもかまわず、頼光は勉強道具をそろえると、イレナンのメンバーがいる方に去っていった。
しばらく彼の背中を睨んでいたヨヨコだったが
「……勉強するわよ」
少し涙目でそう言ったのだった。
同じ頃、同じように勉学と音楽の間で苦しむ少女たちがいた。結束バンドの面々である。
特に困っているのは二人。リョウとぼっちだった。特にぼっちが窮地にあった。
「ニュートン、ジュール、仕事率はワット」
「何が分からないのかすらわからない」
ゆっくりとだがどうにか中学レベルから積み上げつつあるリョウに対し、どこからどう手をつければいいかもわからないぼっち。
真面目に解答しようとしているのに全て不正解なのがまた痛ましい。
「ぼっちちゃん、もしもの時は私が養うからね」
「後藤さん、学年が変わっても先輩なんて呼ばなくていいからね」
虹夏と喜多も諦めかけたその時、救いの手を差し伸べる者がいた。
「しょうがないなー、私が一肌脱ぎますか」
「ダメな大人は黙っていてください」
ゆらりと立ち上がった廣井を、一顧だにせず言葉で両断する虹夏。
「まあまあ、確かに私には問題一つ解くこともできないけど、大人には大人のやり方があるのさ」
「……一応聞いてあげますけど、カンニング以外に何があるんですか?」
無言で笑い、きくりはスマホを取り出す。ひび割れた画面を操作して、
「あっ、もしもしりっくん?勉強教えてー」
「人頼み!?」
「―――で、忙しいから教えて欲しければそちらが来い、と言ったら本当に来るとは」
「えー、来いって言ったじゃーん」
30分後、結束バンド一行は、廣井に連れられ新宿のEXoutに来ていた。
「移動の30分を勉強に当てた方がマシじゃないか、と言っている」
「それじゃあどうしようもないレベルなんだってー」
言われて律志は小さくため息をつくと、ぼっちに目を向ける。
「ぅへゅっ!」
打ち上げの時の尋問を思い出し、早速精神と肉体の境界線が曖昧になるぼっち。
律志は彼にしては珍しい、困ったような、どうしてよいかわからず戸惑う様な表情をしながら
「……まずは、教科書とノート。そして1学期のテストや小テストの答案を見せなさい」
少し診る時間をくれ、と律志に言われた4人はEXoutの店内を見渡した。
「STARRYやFOLTと全然違いますね」
ぼっちの感想の通り、2店とは違う雰囲気の店内だった。
まず、全体的に明るい。装飾品やインテリアも控え目。
壁も音楽室のような明るい彩色で、ポスターも少ない。その少ないポスターの内容も、ロックやポップスのバンドのものが主体だが
「……ダンススクールの発表や、町内管弦楽団?」
「その通り。ここ、EXoutはバンド以外にもいろんな用途でイベント会場として使われるのさ!」
声をかけられたぼっちが振り返ると
「やあ、お嬢さん」
変なイケメンがいた。
かなりざっくりかつ失礼な表現かもしれないが、ぼっちの語彙の中に、それ以外に表現する方法がないような、そんな変なイケメンだった。
具体的に描写すると、10代後半の、ぼっちと同じか少し上くらいの少年で、顔つきは彫りの深い美形。服装はどこかの学校の制服のズボンと、明らかに学校指定ではなかろうフリル付きのワイシャツ。色はピンク。ボタンは3つ外し、胸板が見えている。
彼は軽く染められた長めの髪を、両手で掻き上げるようなポージングをしていた。
そのイケメンは、今度は右手を首筋に、左手を腰に。右足を重心とし、左足はピンと伸ばしコンパスのようにつま先立ちをしたポーズで
「君が、後藤ひとりさんだね?イッシーから話は聞いてるよ」
「ひっ、は、ひ、ひとちがいでは?」
イッシー?誰それ?知らない?店長さんはリッシーさんだったし。
日々自分を脅かす陽キャやパリピとは違う、未知の、だが陽の者っぽい謎の脅威。
あわあわしていると、ぼっちの前に進み出る者がいた。
「綺斗くん久しぶり!活躍聞いてるよ」
「それは光栄だね!」
「あ、けどぼっちちゃんからは離れて。なんか消し飛びそうだし」
「ふっ!よくわからないけど指示に従おう」
台詞一つごとにポージングしながら数歩下がる。
「あああの、虹夏ちゃん。こここの、喜多さんを3段階くらい進化させた人は一体……」
「えっ、後藤さん的に私って進化するとこうなるの?」
「この人は百澤綺斗くん。イレナンのベース担当。紅山高校の2年生」
「よろしく!」
キラン!と効果音つきで言う綺斗。
「今日は廣井さんの紹介で、ぼっちちゃんの勉強を高清水さんに見てもらうために来たんだ。
っていうか、そだ!綺斗くん、勉強教えてよ!紅山ってことは頭いいんでしょ?」
紅山高校は都内でも有数の進学校だ。そこの生徒だというなら勉強も相当できるはず。
ところが綺斗は肩を竦めて
「教えるのはいいが……どうにも僕の教え方はあまり評判がよくないようでね。
まあ、立ち話もなんだ」
そう言って、綺斗はイレナンがいるテーブルの方へ彼女達を連れて行った。
「また結束バンド……!」
「ん?ああ、前に言ってた下北のバンドっすね」
「一体なんでここに」
「……ヨヨコ先輩、人にはまじめに勉強しろって言ってるくせにぃ」
幽々の言葉を横において、ヨヨコはイレナンの占有しているテーブルを睨む。
女子が4人増え、一気に華やかになった一角。
「勉強にかこつけて男女でイチャイチャしようなんて……」
それはヨヨコ先輩の方では、と言わないだけの優しさがSIDEROSメンバーにもあった。
大槻ヨヨコはストイックである。好きなことは1番になること。それ以外に、音楽以外に何か時間や労力を割いているところを彼女達は知らない。
そんな彼女が音楽とは無関係に―――まあ、音楽関係者ではあるが―――興味を持った異性が頼光だ。ちょっとくらい応援、とまではいかなくても、アプローチ行為に付き合ってあげるくらいはしてもいい、とは思っている。
「……ちょっとわからないとこ出来たんで、聞いてきまーす」
ついでに偵察くらいはしてやろう、と、あくびはノートと教科書を手に席を立った。
「えっと……ノリさんは何をしてるんです?」
テーブルを運んできて2つ並べ、そこに8人がついていた。
結束バンドのメンバーと、イレナンの内、石塚、頼光、綺斗、そしてジョージの4人だ。
イレナンの最後の一人、虹夏が話題にした陶士則はというと、
『店長に怒られたんご(´;ω;`)ウゥゥ」
と、壁際に正座をしながらタブレットで返事をした。
胸からはダンボールにひもを通したカードがぶら下がり、そこにはサインペンで
『私は練習中耳栓をつけていませんでした』
と書かれていた。
「あー、高清水さんってそういうの厳しいんだ」
「耳栓、ですか?」
虹夏は納得し、喜多は首を傾げ、その疑問にリョウが答えた。
「ロックと難聴は切り離せない。一時的に大きな音に晒されてなる急性難聴が別名ロック難聴って呼ばれるくらいに。その急性難聴は時間を置けば治るけど、継続的に大きな音に晒されてなる慢性難聴は治療できないから、予防が必須」
「特にドラムはねー」
80デシベルが境界線だ。それ以上の音は1日当たりの時間制限があり、それを超えると難聴のリスクが高まる。故に、装着による音の変化というデメリットがあれど、耳栓の着用が推奨されるのだ。
「必ずしもそうなるってわけじゃないし、時間制限かければいいんだけど」
「士則さんは暇さえあれば爆音で数時間叩き続けるからな」
「ああ……」
石塚の言葉でぼっちは思い出した。
オーディション直前のセッション練習。士則は自分達が来る前からドラムの練習をしていたし、止めた後も続けていた。
「まー、これも店長の愛の鞭や。反省しとれやノリさん」
『(´・ω・`)ショボーン』
無表情のまま、すこし項垂れる士則。
喜多はそんな彼から視線をずらし、EXoutのフロア全体に目をやる。
見ればそこらかしこにテーブルが置かれ、自分達と同年代と思われるバンドマン達が、教科書やノートを広げている。
全体的に明るく、シンプルな内装と相まって、ロックハウスというより、まるで学習塾のロビーのような印象を、喜多は感じた。
それを察したのか、頼光が
「EXoutは新宿で一番お行儀がいい箱ってことで有名なんよ」
「お行儀、ですか?」
「店長が真面目でなあ。
耳栓つけさせる。全館禁煙。20時以降までアルコールは出さない。未成年の演者は親の同意をきちんととる。親の希望があれば、追試再試を受けた子はしばらくライブ禁止措置までとることもある。
その代わり、初心者への指導や相談なんかもちゃんとしとるし、なんならバンド活動に反対する親のとこまで出向いて説得したこともあるんやて。
それに―――ほれ、あのポスターあるやろ?」
と、彼が指さした先のポスターは、ダンスやピアノの発表会の他、地域の催し等の物。
「ああいうんで出来たコネから、バンドやりたいって思った子らが、ここでバンドデビューするってパターン、多いねん。で、ここで実力なり評判なりをゲットしたバンドが、卒業してFOLTなりなんなりに行く。ってのが定番コースなんやで」
新宿でバンドを始めるならまず一度、EXoutに行って相談すること。ここ数年で、そう言われつつある。
卒業したバンドは名前をあげ、たまにここに戻ってきてライブを行い、その前座や対バン相手として初心者達に機会を与える。そういう流れができている。
「ま、俺らみたいにある程度売れても居座っとる奴らもおるけどな」
「へぇ……」
そんな雑談をしていると、テーブルに近づいてきた人物がいた。SIDEROSのあくびだった。
(男漁り目的の名前だけバンド、って感じはしないっすね)
近づきながら、あくびは結束バンドの面々を観察し、結論付けた。その結論の決定打となったのは、
(ジャージはないっしょ)
ぼっちだった。
男を誑し込んで遊ぶのが目的のメンツに、あの格好はない。顔こそ色白の美人ではあるが、衣装も挙措動作も、明らかに陰キャのそれだ。ただの勉強姿からもあふれ出す、明確な陰キャのオーラ。
(幽々が『肩にすっごいの乗っけてる』っていうのも納得っすね)
ともあれ、偵察はこのくらいでいいだろうと思い、もう一つの目的を果たすことした。
「キラトさん、ちょっと教えて欲しいんすけど」
「ふっ、良かろう!」
綺斗に声をかけたのは消去法だ。
頼光は結束バンドの子と話している。石塚は同学年で、そこまで成績がいい方ではないはず。ジョージは女子相手だと日本語がわからない外人になる。
故に綺斗だ。ポーズと話し方はウザキモイが進学校の2年だし、最低限教えてくれるだろう。
「あの、ここなんすけど」
数学の教科書。三角関数の公式についてだ。
公式がどうやって導かれているかの解説がどうしてもわからない。
それを聞くと綺斗はポージングをしながら
「……それで?何が分からないのかね?」
「いや、何がって……」
「教科書に、全部わかりやすく書いていると思うのだが……」
「あー、あくびちゃん。無理や。そいつ勉強はできるけど教えるの下手やねん」
割って入ったのは頼光だった。
「あ、頼光さん。それはどういう……」
「つまりや―――キモやん。お前、教科書よりわかりやすく解説できるか?」
「ふっ、流石の僕も教科書以上に簡便かつ正確な解説は困難だな」
「ちゅーこっちゃ」
「???」
疑問符が取れないあくびに対し、頼光は少し考えて
「つまりや。こいつ勉強できんねん。教科書に書かれたことも普通にバッチリ理解できるんよ。せやから『教科書読んでもわからない』ってのが理解できへんから、何をどう教えていいかわからへんのよ」
「『2+3=5が分からない』って言われて、どう説明していいか困ってるんだよ、綺斗先輩は」
横から石塚が補足し、あくびもなんとなく理解した。
「IQにある程度差があると会話が成立しないって、こういうのを言うんすかね」
「さらに頭がいい連中になると、わからん人の頭ン中をエミュレートして、バッチリ分かりやすく教えるみたいやけどなあ」
「ふっ、我が身の不徳を恥じるよ」
ちょっと元気なさそうに綺斗は言った。
「まあ、そういうわけやから、俺が教えたる」
「え?いいんすか?」
「まあ、教える約束やったしな。それに、結束バンドの子らも本命の用事の時間みたいやし」
見れば、ぼっちから預かっていた勉強道具を手に、律志がこちらにやってくるところだった。
「結論から言って、典型的な『真面目だが勉強のできない子』のノートと教科書だな」
「あうっ」
律志の言葉にうめくぼっち。
律志はぼっちの教科書やノートを広げて
「付箋が多すぎる、カラーペンも使い過ぎ。ノートもノートで教科書の内容を丸写し」
「それはダメなんでしょうか?」
「ダメというより、無駄だ」
喜多の質問を、ばっさり切り捨てながら
「付箋などは頻繁に開く図表等の所にだけあればいい。色鉛筆も赤一色か、なんなら鉛筆一本で十分。
下線で済むから蛍光ペンもいらん」
「色付きの下敷きで隠したり……」
「不要だ。労力に見合うほど使わんだろう」
「うぐぅ」
ぼっちはさらに抉られた。だが同時に納得もした。
確かに、一生懸命蛍光ペンでラインを引いたり塗りつぶしたりしたが、それを活用した記憶がほとんどない。
「そもそも、教科書と同じ内容をノートに書き写すというのがナンセンスだ。
授業中に言われた教科書にない部分や捕捉部分を記録するのが板書を書き写す目的であり、担当教師が許すなら教科書に直接書き込んでもいいくらいだ」
「はい先生!ノートに書き写す作業で覚える、という意味はあるのではないでしょうか!?」
聞いてた虹夏が手をあげて言うと、律志は首を振り
「うむ。書き取りは勉強の基本だ。だがノートでやることではない。ノートはあくまで繰り返し、後で見返すためのもの、保存をするためのものだ。だからこそ
記憶するために書いて覚えるなら、チラシの裏で十分。金を払って購入したノートでそれをするのは金の無駄だし、そもそも授業中にするべきことではない」
「アッ、ハイ」
「あ、あの……それで、後藤さんは一体どうすれば……」
すでに自我が崩壊しつつあるぼっちの代わりに、喜多が質問する。
律志は渋い顔で
「本来なら、授業一つ当たり予習復習を5分ずつでいいからすることを勧めるが……」
「5分でいいんですか?」
「授業前5分間で今日授業で何をするか、項目だけでもざっと見ておくだけで、授業中の学習効率が段違いだ。
授業後は、教師が授業中に言っていたポイントを、5分かけて教科書内で線引きする。それだけでその後の勉強自体も楽になる」
「あの~休み時間は、休み時間では?」
「あれは次の授業のための準備時間だ」
虹夏は思った。
あっ、この人、意識高い人だ。高い系とかじゃなくて、ガチに高い人だ。
「……とはいえ、今からそれを言った所で間に合わんだろう。
あまりこういう手段は好まんのだが……」
そういうと、律志は開いた教科書を見せる。
数学の教科書だ。そこにはぼっちに見覚えのない、鉛筆で書かれたマーキングがあった。
「すまないが、勝手に書き込ませてもらった。後藤君、よかっただろうか?」
「あっ、はい。その、これは?」
「ここを覚えろ。テストに出る」
「はぁ……えっ?」
あまりにさらりと言われたことに、ぼっちは意味が分からなかった。
テストに出る?え?なんでわかるの?ま、まさか……
「い、今の短い時間で先生を脅したり問題用紙を盗んだり」
「きくり!君か!?」
「えへへ」
「えへへじゃない!大人が子供に何を教えている!?それとまだウチは飲酒禁止の時間帯だ!」
「え~、持ち込みなのに~」
「当店では飲食物の持ち込みを原則禁止としている!」
頭を押さえて、ため息一つついた後、律志は自分が突然上げた声で、ぼっちが意識を飛ばしてしまっていたことに気付く。
「……あー、すまない。大丈夫かね後藤君」
「―――はっ!あ、あれ?盗難バイクは?」
「尾崎かね?……まあ兎も角だ。あくまで予想だが、確実に出ると思われるところをマーキングした。
そこさえ丸暗記でいいので押さえておけば最低限赤点は回避可能だろう」
「えっと、どうして……」
「君のノートだ」
律志はぼっちのノートを広げ
「教師は、別に気分で授業をして、気まぐれに問題を作っているわけではない。
授業には定められた要項があり、生徒に修めさせるべき内容がある。
授業の内容が分かれば、教師側がどうしても出さなくてはならないポイントがわかる。
そして教師側も、最低限のポイントを抑えられれば合格できるように問題を作るものだ」
そこで律志は言葉を区切ってから、その顔に、不器用ながらも笑顔らしきものを作り
「……そういう意味では、君が丁寧にとってきたノートは、完全に無駄だったというわけではなかった。
よく頑張ったな」
「あっ―――」
無駄じゃなかった。そう言われたぼっちは、急に溶けだして
「ま、まあ、真面目なだけが取り柄ですので。でへへへ」
「安いなあ、君は」
呆れる律志。
その横から、酔っ払いが絡んできた。肩に手を回しながら
「あれ~。ぼっちちゃんに優しくな~い?」
「……先日の飲み会の時、悪いことをしてしまったからな。その補填だ」
と、律志が少し照れたように眼をそらすと、その先にはリョウと虹夏がいた。
キラキラと、期待を込めた目を向けてくるが
「すまないが、これはあくまで後藤君への謝罪のための特別サービスだ。これから他の教科の分も教科書をチェックせねばならず、時間もない。
君達は自力で頑張り給え」
「そんな!」
「あー、そう旨い話はなかったか」
裏切られた、という表情のリョウと、がっくりとする虹夏。
他方、秀華高校1年コンビは
「頑張りましょ、後藤さん」
「あっ、はい!これくらいの量なら丸暗記で何とか……」
と、早速チェックされた項目に向かっていった。
そんな結束バンドのメンバーや、隣で勉強しているイレナン、そして少し離れたところにいるSIDEROSや、他の勉強中の若きバンドマン達を見ながら、律志は言った。
「勉強し給え、音楽家諸君。教養は音楽に出る。
勿論、学校での勉学だけが教養ではないが、学校での勉強が教養の一種であるのは揺るがぬ事実であり、また、学生が一番得やすい教養は、学校での勉強なのだから」
結果として、ぼっちは見事に赤点を回避した。
律志のチェック項目はほぼほぼ当たり、一緒に勉強した喜多も、ぼっちに付き合ったために勉強時間が普段より短かったにもかかわらず、いつもと同じかそれ以上の点数が取れた。
一方の2年生組はと言うと
「東大受験するからベースなんかやってる場合じゃない!」
「意識高くなり過ぎた!」
学年でもトップに近い点数で試験を終えた代償として、リョウの学生としての意識が一時的に高まるというトラブルがあったものの
「―――で?なぜ東大に?」
「はい!学生の本分としてより偏差値の高い……」
「偏差値など必要な学力の目安に過ぎん。大学を選ぶ基準は学びたい研究分野の充実性や、将来の希望する企業などへの就職率だ。
その上で、東大へは何を目的としていくつもりかね?」
「―――さて、スラップの練習しよっと」
EXoutにテスト結果の報告に行った際、にわかの高い意識は、ガチ系の意識が高い言葉に粉砕され、リョウは元に戻った。
(よし、文化祭ライブ、がんばろう!)
胸中で意気込むぼっちに、石塚が話しかけてきた。
「後藤、文化祭でライブするんだって?」
「あっ、は、はい!」
「うん、俺もいくから、一緒にがんばろ」
「あ?え?み、見に来てくれるってことで……」
石塚の妙な物言いに、ぼっちは首をかしげる。石塚は首を振り
「いや、俺らも、Irrational/Numbersも秀華高校のステージにでることになってるから」
「―――へっ?」
つづく
SIDEROSの原作出番、もっと増えないかなあ
この作品で好きな組み合わせは?
-
後藤ひとり・石塚太吾
-
伊地知虹夏・柊俊太郎
-
山田リョウ・海野敦
-
喜多郁代・皆実彩人
-
廣井きくり・高清水律志
-
伊地知星歌・天海恭弥
-
大槻ヨヨコ・大河内頼光
-
PA・マスター