ろっきんがーるに恋する男子   作:詞連

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区切りの関係でちょっと短め


Chapter26 ろっきんがーると文化祭ライブ その1

 秀華祭2日目の昼頃、個人ステージ会場の体育館は、静かな熱気に包まれていた。

 熱気の元は2、3年生だ。皆、口々に言う。

 

「イレナンのライブ、タダで見れるのか」

「去年の文化祭、イレナンのライブ、すごかったよね」

「私、未確認ライオット行ったよ!」

「イレナンが―――」

「イレナン―――」

 

 彼らの口に登るイレナン、Irrational/Numbersという名前に、1年生達が向ける感情は不審半分、期待半分。

 去年、秀華祭でライブをしたというインディーズバンド。

 ネットに検索をかければ、なるほど、確かに出てくる。

 なんでも未確認ライオットとかいうコンテスト?に出て優勝したらしい?

 とはいえ、それだけだ。

 Mステとかには出てないし、そもそもまだCDとかも売られてない。音楽はDL販売のみ。

 実は大したことないんじゃない?けど先輩達はしきりに押してるし……。

 

「おい、出てきたぞ!」

 

 

 予定の時間の少し前。ドラムとアンプだけが設置されていた舞台の上に、5人が姿を現した。

 自分達と同年代の5人の少年。まあ、やたら体格がよいのがいたり、派手なのがいたりしたが、それでも同じ程度の年齢の一団だ。

 そんな彼らの格好を見て、誰かが言った。

 

「……なんで執事服?」

 

 その言葉が示す通り、5人はなぜかそれぞれ執事風のスーツ姿だった。

 歓声と、ざわめきと、疑問。

 それに対して反応を介したのは1人だけだ。

 

『ちょっと待ってな~、今最後のセッティングするから~』

 

 坊主頭。リーダーの少年がマイクを使ってそれだけ言って、自分もギターを弄り始めた。

 たまに鳴る歪んだ弦の音や、さざめくようなドラムやシンバル。

 観客の大半は楽器というものに慣れておらず、その様子を物珍し気に眺める。

 

 調整が終わるのと、観客の注目の大半が集まったのは、ほぼ同時だった。

 

 時間も丁度。

 司会役の生徒が、マイクを手に取る

 

「それでは2日目、午後の個人ステージを開始します。まずは―――」

 

 と、言った時だ。

 

 1音。ベースの弦が弾かれた。

 

 大きく響いたそれに、司会の言葉が止まる。

 ステージ上を見れば頼光が司会に視線を送っていた。

 右手の人差し指を立てて、唇に沿えている。

 ジェスチャーの意味は明白だ。予定外のことにどうしていいかわからず、そしてステージ上の演者の要望を蹴るわけにもいかず、言葉を切る司会。

 小さくざわめく会場。

 その真正面に立つ頼光は、やおら首から下げていたギターをスタンドに戻すと、数歩前に、ステージの際ギリギリに立つ。そして

 

「 ――――― 」

 

 独唱を始めた。

 マイクもなく、伴奏もなく、歌い上げられるのはイレナンの代表曲、 Discrete setのサビの数フレーズ。

 通常よりローテンポで歌われたそれは、一瞬で会場である体育館を満たし、ざわめきをかき消し、観客はおろかスタッフも、袖で待機している次の演者たちも含め、全員の意識がステージに集まった。

 ゆったりと、4小節分歌い終えた頼光。

 その余韻が消える前―――

 

     ―――短いドラムソロが余韻と静寂を吹き飛ばし、イントロが始まった。

 

 力強い音圧と鮮烈なメロディは、頼光の独唱に意識をとられていた観客の横っ面を引っ叩き、半ば強制的にIrrational/Numbersの演奏に意識を向けさせた。

 イントロが終わりAメロが始める、かと思いきや始まったのはAメロをベースにループさせるだけのインストだった。そのタイミングで、ギターを持ち直した頼光が、

 

『どぉぉもっ!おおきにっ!Irrational/Numbers、リーダーでギターボーカルの大河内頼光でっす!』

 

 とインストを背景にMCを始めた。

 

『まずは皆もう知ってると思いますが、改めてご報告させていただきます。

 我らIrrational/Numbers!未確認ライオットにて!グランプリ!獲りましたああああああっ!』

『おおおおおおおおおおおおおっ!』

 

 巻き起こる拍手と歓声。それが少し収まるのを待ってから。

 

『これも皆の応援のお陰です。ホンマにありがとう!

 ――って言っても、1年の子らとかは知らんよね?

 ざっくりいうと、俺らイレナンが夏に賞とったんやけど、それが取れたのはここ、秀華高校のみんなの応援があってこそやったわけでして、今日はそのお礼のためのライブに来たちゅーことです。

 てなことで!俺らは噺家でのうて音楽家!無駄口ばっか叩いてても仕方ない!

 早速音楽で恩を返していこうと思います!

 では1曲目!Discrete set!」

 

 そして、演奏が始まった。

 

 

 

 

 そこから15分は、完全にイレナンの時間だった。

 

 

 

 

 1曲目はスピーディかつ軽快な正統派ロック 『Discrete set』

 2曲目は童話的な内容をハードロック調に落とし込んだ 『ツグミに焦れたカエルの歌』

 〆の3曲目はバラード調の『ラグランジュ』

 

『センキュー秀華高校!あと半日!最後まで楽しんでってな!

 ―――と、忘れるとこやった。宣伝!この執事服を提供してくれたんは1年2組の執事喫茶です!ライブに疲れた休みたいって人は、ぜひ行ったってください!よろしゅうお願いします!

 ということで、俺らの出番はこれまで!

 今日の演奏で俺らイレナンに興味が出たって人は、トゥウィッターやイソスタでフォロー、お願いします!

 ほな!』

 

 

 

 万雷の拍手と共に、秀華祭個人ステージ2日目午後は、大盛り上がりからのスタートを切ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後、1年2組の執事喫茶は大混雑をしていた。イレナンの宣伝の効果だ。

 観客たちの殆どは体育館に残ったが、一部が流れて来た。その後もライブに疲れた観客の一部が、休憩所代わりにやってくるのだ。

 次々とやってくる客、忙しく走り回る執事達。その中で、皆実彩人もまた執事として働いていたのだが、それが今、唐突に振って湧いた試練に直面していた。

 

「ふっ、ふわふわ、ぴゅあぴゅあ、みらくる……きゅん。オムライスちゃん、おいしくなれ~」

「ぶっ!だひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃッ!ヒーッ!ヒーッ!……もう一回!」

「……ふわふわ、ぴゅあぴゅ、あ……みらくる、きゅん……オムライス、ちゃん、おいしくなれぇ……」

「ぶはははははっ!げほっ、ごほっ……ぷっ、ぷひゃひはははははははっ!……も、もう一回!」

「!?―――ふわふわぴゅあぴゅあみらくるきゅん!おむらいすおいしくなれええええええええええっ!」

「だーっはははははっ!あーくんカワイイよ!もう一回!」

「いい加減にしろこの酔っ払い!」

 

 3回目のリテイクに、彩人もいよいよ堪忍袋の緒が切れた。迷惑な酔客、廣井きくりを怒鳴りつける。

 一方の廣井はどこ吹く風。

 

「え~、かわいいのに~」

「いや、流石にもうやめてやれよ、営業妨害だろ」

 

 廣井が連れてきた髪の長い女、SATARRYの店長、伊地知星歌がたしなめる。

 

「彩人、だっけ?災難だな」

「全くですよ」

 

 半分はこの厄介なアル中が原因だが、もう半分は過去の自分だ。

 なんだよ、この『オムライスがおいしくなる魔法の呪文:無料』って。

 どうして俺はこの案が出た時、賛成に票を入れたんだ?文化祭テンションってやつか?チクショウ!

 

「それで、星歌さんのご注文は決まりましたか?」

「ああ―――メイド服姿のぼっちちゃん、頼む」

「アンタも石塚(アレ)と同類か!?」

 

 

 

 

 

 

 彩人のシフトが終わり13時40分。結束バンドの出番は14時からだ。

 会場の体育館に、彩人は廣井達と共に向かっていた。

 

「で、どうだった?頼光君達のライブ」

「なんか……すごかった。って、これじゃあきくり姉ちゃんのライブの時とかわんないな……。

 なんていうか、そうだな。……プロって感じがした」

 

 廣井に聞かれた彩人は、ライブで自分が感じた事を、不慣れながらも言葉に変えていく。

 彩人は元バンド嫌い、というか今でもそこまで好きとは言い難く、見たことがあるライブは結束バンドの1回と、SICKHACKの1回、そしてイレナンとそして執事喫茶のシフトまでの間に見た、白米ベーカリー―――イレナンの次のバンドの最初の部分だけだ。

 それらを比べると、イレナン、SICKHACKと結束バンド、白米ベーカリーの間に明確な違いを感じた。

 

「なんっていうか、慣れてる?曲とか演奏とかじゃなくて、観客の反応とかを見れてる、って感じがした」

「へぇ、結構鋭いじゃん」

 

 反応したのは星歌だった。

 

「虹夏とかは、面白いMCをしたい、とか言ってるが、本来MCに必要なのはいかに曲や演奏や自分達に注目を集めるか、だ。曲の解説や自己紹介も間に挟む雑談も、全部はそこが目的だ」

「舞台演出とか曲の入り方とか、そこら辺が熟れてるかどうかでバンドの格っていうか、玄人か素人かがわかりますよね~。その点、頼光君は最初の頃からやたら上手かったなあ」

 

 そうこうしている内に体育館についた。

 まだ結束バンドの一つ前が演奏を続けていた。

 会場の熱気はイレナンの演奏の直後と比べれば大分落ち着いてはいるが、それでも十分温まっている。

 

「へえ、イイ感じじゃん」

「客も集まってるし……後はぼっちちゃんが大丈夫か、だな」

 

 星歌が少し心配そうに

 

「……なあ、ぼっちちゃん、どんな感じだった?」

「後藤ですか?最後に会ったのはここで一緒にイレナンのライブを見た後で、そん時は元気そうでしたよ、心臓だけは」

「心臓?」

「なんかやたらドラムの音が大きいなと思ったら、後藤の心臓の音なんですよね。びっくりしました」

「大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃないですか?虹夏さんに声かけられた後は落ち着いた様子で、虚空を見ながら『伝説に』とか『全米ツアー』とか言ってデヘデヘ笑ってましたし」

「……まあ、いつものぼっちちゃんか」

 

 むしろ人の(かたち)を保ち、ゴミ箱や段ボールに詰まってないだけ、普段よりしっかりしているとも言える。

 

「完熟マンゴーだった頃に比べれば、ずっと成長した、かな」

「完熟マンゴー?」

「最初のライブのステージ演出だな」

 

 割り込んできた声。それは石塚だった。

 

「今でも、完熟マンゴーのダンボールの中で演奏していた後藤の姿が目に浮かぶ」

「箱の中だから見えてないだろ、姿」

「むしろ忘れてやれよ」

 

 つっこむ彩人と星歌。

 

「後藤ちゃん見る時の石やんの目には、美化補正が1那由多%くらいかかっとるからなあ」

 

 と石塚と共に来ていた頼光が言う。

 さらにその背後には、イレナンのメンバーがそろっていた。

 

「ダンボール……それは僕もまだ体験したことのないファッションだ……!」

『(・ω・)ノ[GANDAM]』

「というか、箱に詰まりながらギター弾くとか、後藤殿、やはり相当上手いのではござらぬか?」

 

 そんな風に体育館前で駄弁っていると、体育館内から〆のMCが聞こえてくる。

 もしもぼっちが直接聞いたら、放たれる言葉の一つ一つにダメージを受け、格ゲーで無限コンボを喰らったかのような有様になること請け合いの、全力青春トーク。

 

「ぐぼほぉっ!リ、リア充の、イケメンリア充の波動が拙者を蝕む……っ!」

「ここにも同類がいたのか。ってか、さっきステージの上でギター弾いてたのと同一人物か?この人?」

 

 急に苦しみだした陰キャ―――ジョージを彩人が呆れた目で眺めていた。

 

「さーて!人の流れに乗って、ステージ前まで行くぞー!」

「……この酔っ払い、今から大一番を迎える後藤の前に連れていっていいものか……」

「あーくん、君は知らないな、ぼっちちゃんと私の間にある深い愛と関係を。

 ファースト路上ライブも、ファーストライブ鑑賞も、ぼっちちゃんの初めては私がもらったんだぞ!」

「石やん、通路の真ん中で膝から崩れ落ちるなや、邪魔になるで」

 

 

 

 

 

 後、10分少々で、結束バンドのライブが始まる。

 

 

 

 

 

 つづく




アニメ原作では結束バンドの出番は13:30でしたが、最初にイレナンの枠が入ったので14:00になりました。
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