やはりぼっちちゃんにはスター性がある。
STARRYにて、後藤ひとりことぼっちは調子に乗っていた。
理由は色々ある。イヤイヤながらも始めたバイトも(ぼっちの主観としては)慣れつつあること。客と目を合わせずに、しかし自然に見えるように対応する技術を会得しつつあること。バンドの練習で、他人に合わせる感覚がだんだんつかめてきたこと。
だが、今日の彼女を決定的に調子づかせた理由は別にあった。
「ふふ、ふふふ……て、照れるなあ。まさか有名人からナンパされるとか……」
不気味に笑いながら見るのは、スマホの電話帳画面と、そして本日配布されたフリーペーパー。
フリーペーパーは、ややアングラ寄りのバンドの情報誌だ。開かれたページは最近勢いをつけているインディーズバンド『Irrational/Numbers』の特集記事。
そしてスマホに表示されているのは、『石塚太吾』の文字。それは、特集記事の写真に乗ったキーボード担当の少年と同じ名前。
偶然の一致、ではない。
まさにそのスマホの登録情報は、イレナンのキーボード担当、石塚太吾のものである。
「はーい、すんませ~ん。バンドグループイレナンのリーダー、
うちのハリキリボーイが失礼しとります~」
最初のライブの後、唐突に駆け込んできた謎の少年が、これまた唐突に崩れ落ち、困惑していた時だった。
彼のツレらしい関西弁の男性が、どうもどうもとやってきた。
ぼっちの言葉で精神的な死を迎えたらしい少年――石塚太吾に変わって、その大河内という人物が言うには
「こいつ、そこの、えー後藤ちゃん?と、
けど連絡先もわからんで行方不明になってたの心配してたところで、後藤ちゃんのギター聞いて、つい駆け出したらしゅうて」
とのことらしい。
こいつの熱い“友情”に免じてなにとぞ堪忍、という大河内に対し
「けど、ぼっちは今日のステージ、完熟マンゴーだったから、顔とかわからなかったんじゃない?どうしてぼっちって気づいたの?」
と、リョウが疑義を呈すると
「―――後藤のギターで、俺は音楽をもう一回始めたんで、聞き間違えないです」
死んでた石塚少年が、うつむき加減にそう言った。
まあ、そんなこんなで、
「今後もバンド仲間としてよろしゅうな!ロイン交換しよか?―――ほら、石やん!」
「あ、はい。―――後藤、その、いいか?」
と、連絡先とSNSの交換をするに至った。
「バンドに入ってライブをしたら、男子の連絡先が……?え?ナニコレ?妄想?」
信じられない展開に、脳がその案件については強制フリーズ。さらにはバンドの活動資金稼ぎの為のバイトという極大の問題が降ってきたことにより、完全に脳の外に一時退去。
その後、バイトを休むための氷風呂から始まり、初バイト、初の風邪、そこからの復帰を経て、多少落ち着いてきた今日、
「ぼっちちゃん!ホラ!これ、この間の人達の記事だよ!」
STARRYの店内に配置する予定のフリーペーパーが、彼らの存在を思い出させた。
「『Irrational/Numbers』―――新宿中心に活躍する新進気鋭のインディーズバンド。
基本路線はロックだが、ポップス寄りの幅広いオリジナル曲と、それを歌いこなすリーダーヨリミツの歌唱力で、この1年で急速に伸びてきた―――だって」
「へ~。あの石塚君って子が作詞作曲なんだ。ってか去年からってことは中学から?すっご!
ぼっちちゃん、すごい人と知り合いだったんだねえ」
「え、えへへ……いや、それほどでも」
「けど、ぼっち、顔も名前も忘れてたよね。向こうは覚えてたのに」
「うぐうっ!」
「まだ中学卒業してから1か月くらいだよね。忘れるにしても早くない?」
「げばらぁっ!」
油断していたぼっちの精神に、リョウと虹夏のツープラトンが炸裂。
一気に瀕死までもっていかれたぼっちは、釈明する。
「わ、忘れてたわけじゃ、ないです。その、そもそも覚えてなかったから……」
『酷っ』
酷い、といわれても仕方がない。
話を聞くに、相手は文化祭のステージで、メインを張るような超リア充だ。
リア充達の放つ光は、拗らせ陰キャの生命活動に致命的な影響をもたらす。
近くで浴びれば体は灰となり、直視すれば目が焼ける。
「眩しすぎて直視できず、顔も名前も覚えてなかった、と」
「あー……ぼっちちゃんらしいといえばらしいね」
二人の認識に、悲しさと同時に居心地の良さも感じるぼっちだった。
などというやり取りを経て、現在バイトの間の小休止。
「ふふふっ……私は、魔性の女……セクシー後藤……」
ぼっちのちっぽけな自尊心メーターは、早くもオーバーフローを起こしていた。
初ライブ、ライブハウスでのバイト、そして同年代男子の連絡先。
これはリア充!圧倒的にリア充!もはや自分は石の裏にへばりついたナメクジではない!光の世界の住人だ!テキーラで満たされたナイトプールで、男を1000人侍らせてサーフィンする女!!
「それに―――私のあの演奏、聞いててくれたんだ」
思い出すのは、中学の2年と3年の秋。
結局言い出せず、仲間も集められず、憧れていたステージを、遠目に見ることしかしなかった文化祭。それでもどうしても後ろ髪をひかれ、気分だけでもと文化祭の翌日に学校に行き、休日の学校で、全ての鬱屈を叩きつけるようにギターをかき鳴らした。
あの無言の叫びを乗せた旋律は、無人の校舎に誰にも受け止められることもなく、飲まれて消えたと思っていた。
けれど―――
「聞いて、くれてた人がいたんだ」
そしてその人は、それを切っ掛けに音楽を再開した。そして、そのメロディを覚えていて、あんなへたくそな演奏だったのに、それでもそれが私だと気付いてくれた。
「えへへ……」
投稿した動画に初めてイイネがついた時と似た、こそばゆさ、温かいさ。承認欲求もだが、それ以外にもなんか、心が温かく満たされるような、そんな気持ちがした。
頑張ろう。
もっとバイトして、練習して、ライブとかもバンバンやって、もっと自分に自信が持てたら
「デート、とか……さそってみたり?」
呟いてから我に返り、熱くなった頬を冷却するように顔を振る。
ないないない!いくら何でも調子に乗りすぎだぞ私!
確かに石塚君はなんかいい感じだし、私の事みててくれたし、ひょっとしたら万が一にもそういう感情をいだいてくれてる可能性もなくはないが!
けど、万が一、向こうが誘ってくれてるならちょっと考えなくはないことも!?
「ぼっちちゃーん?ヘドバンの練習?―――ぼっちちゃーん!!!」
「ひ、ひゃい!セクシーぼっちです!」
虹夏の声に、ぼっちは妄想の海から帰還する。
「あれ?プランクトンじゃなかったっけ?
ま、いいや。今日、仕入れの人来るから、荷物受け取って」
「し、仕入れの人、ですか?」
「そ。ジュースとか軽食とか。柊商店ってとこでまとめて卸してもらってるんだ。今後も頻繁に会うことになるから、顔合わせってことで」
「し、知らない、人……」
怖気づくぼっちに虹夏は笑いながら
「心配しないで!相手は中学生だから」
「ち、中学生?」
「そ!私の幼馴染で、柊さんちの一人息子。弟分って奴?
可愛い奴だから、ぼっちちゃんでも緊張しなくて大丈夫!」
「ち、中学生……」
言われてぼっちは考える。
相手は男子中学生らしい。
普段のぼっちなら、あるいはそれでも尻込みしたかもしれないが、だが、今日のぼっちは一味違う。
自尊心メーターは振り切れんばかり。中学男子などなにするものぞ。妹のふたりに毛が生えたようなもんである!
「わ、分かりました!セクシー後藤にお任せを……!」
「……大丈夫かなあ」
などと言っていると、搬入に使う勝手口側のインターホン。
「あ、ぼっちちゃん出て」
「は、はひっ!」
緊張しながらも、しかし躊躇わぬ足取りで対応に出るぼっち
大丈夫。私はリア充!私は陽キャ!むしろ初対面の中学生に安心感を与えるために、笑顔で対応!いけ、後藤ひとり!
「ど、どうも~」
と、愛想笑いと言えなくもない表情を作ることに、辛うじて成功しながら、ぼっちが裏口を開け―――ぼっちは静止した。
「ウッス」
そういう配達員は、確かに中学生なのだろう。身長はぼっちより低くはあった。
だが、まず髪。明らかに脱色され、整髪料で重力に反抗するかのように盛り上げたヘアースタイルでワンアウト。
つぎにアクセサリー。これでもかという風に耳につけられたシルバー系のピアスでツーアウト。
そして、目つき。威嚇するように睨みつける目線(に、感じたのはボッチの主観で、ただ見慣れない人が出てきてちょっと訝しんだだけなのだが)でスリーアウト。
チェンジ。ゲームセット。
「ぢ、調゛子゛に゛乗゛っ゛て゛申゛し゛訳゛あ゛り゛ま゛せ゛ん゛で し゛た゛」
顔面と精神を崩壊させながら、ぼっちはとりあえず謝った。
つづく
石塚太吾 15歳
身長173㎝。細身のマッシュルームカットで、大体丸首の無地モノトーンなロングTシャツ。アクセサリー類なし。いかにも陰キャ寄りのバンドマンって容姿。
という外見設定。アニメ5話の男装ぼっちとリョウを足して2で割った感じ
この作品で好きな組み合わせは?
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後藤ひとり・石塚太吾
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伊地知虹夏・柊俊太郎
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山田リョウ・海野敦
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喜多郁代・皆実彩人
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廣井きくり・高清水律志
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伊地知星歌・天海恭弥
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大槻ヨヨコ・大河内頼光
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PA・マスター