良い子悪い子普通の子!みんなに等しくプレゼント!
さて、来週のぼざろも楽しみだなあ!(現実逃避)
Extra Edition 1 天海恭弥と伊地知星歌 クリスマス編
ミニツリーとちょっとした飾り付け。
チキンをメインにした食卓。付け合わせはクリームシチューとパン。
ナッツやレーズンの入ったパウンドケーキは自家製だ。
「料理はちょっと待ってて。今、サラダを仕上げるから。お皿のおつまみと、あとお酒はもう開けててもイイよ」
台所ではエプロン姿の恭弥が、ブロッコリーの温菜サラダに、温泉卵と粉チーズをトッピングしている。
「おー」
ぼーっとした頭のまま、言われるがままにソファに座っていた星歌は、テーブルに置かれたビールを手に取る。
良く冷えたビール缶がカシュッっと音を立てる。
口に運び、一口煽る。
「美味い」
ホップの苦みを旨味と感じるようになったのはいつの頃からだったか。
そんなことを思いながら、テーブルの上に置かれたおつまみの皿に手を伸ばす。
小皿にはリンゴとチーズのカナッペ(薄切りのパンに食材を乗せたおつまみ)。そこにはちみつが少しと粗びきのコショウがパラり。
もちろんこれも恭弥の手製。初見の時はこの組み合わせを、ゲテモノか何かと思っていたが
「美味い」
口に運ぶ。チーズとリンゴをはちみつの甘味とパンの風味が受け止め、粗びきコショウが噛み砕かれるたびにアクセントをつける。リンゴが甘すぎないのがいい。
その旨味を流し込むようにビールを煽る。
ぐっと一気に500㏄缶の半分を飲み干し。
「ふぅ……」
一息ついた星歌は
(って、ダメだろ私ぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいっ!)
顔を覆って、俯いた。
伊地知星歌。戸籍上の名前は天海星歌。
結婚1年目の誕生日にしてクリスマス。
すっかり、仕事に疲れて家事を何もしないお父さん状態であった。
28歳の夏。天海恭弥と伊地知星歌は籍を入れた。
恭弥とは子供の頃から一緒で、いろいろあって、ずっと一緒にいると決めた相手だ。別に結婚が嫌とかではないが、いざ改まってそういう風に関係を改めるとなるとなんだか照れ臭く、煩わしい感じがしてそのままにしていた。
それが入籍に踏み切った理由は、
「去年は私の受験で忙しいってのを言い訳にしてたけど、来年になったら今度はライブハウス言い訳にして結婚先延ばしにするでしょ?」
という虹夏の指摘と、
「俺は、星歌に合わせるよ」
と口では言いながら、全身からしょんぼりしたオーラを放つ恭弥に負けて、観念した。
書類の提出と、家族だけでちょっとしたパーティを開いただけの地味婚でも感極まって少し泣いてしまったわけだが、それは兎も角。
結婚してからも、生活はあまり変わらなかった。
ライブハウス、STARRYの開店予定は春先であり、準備すればするほど増える仕事に星歌は追われていた。
恭弥は恭弥で入社2年目で飛ばされた先の海外で妙にウケが良かったらしく、
「GOOD!GOODダヨ!ヨシュア!次はトロピカルな国、GOしてミヨーカ!」
と、海外業務マネージャーからの強烈な後押しで、2年の予定だった海外派遣を、派遣先を変えて2年追加された。
一応出世して、同期の中では出世頭とされているらしいが、送られてくる年賀状には同情と心配、そして応援の言葉ばかりが並んでいる。
夫の人徳を褒めるべきか、余計な苦労を背負いやがってと怒るべきか、微妙なところだ。
さて、そんな多忙な新婚夫婦であったが、
「新妻の誕生日で、最初のクリスマスなんです。せめて数日くらいは日本に帰してくれないなら、仕事辞めます」
と、言ったかどうかは不明だが、恭弥が年末に帰国できることとなった。
「ったく。今更誕生日って歳でもないつーのに」
唐突な恭弥の帰国予定に、星歌は迷惑に思いつつも、彼の気持ちに応えるべく、クリスマスを空けられるように頑張った。
ちなみに、その頃虹夏は友人に
「お姉ちゃん、お兄ちゃんが帰ってくるって聞いてからやたら機嫌がよくってさあ」
と語っていたらしいが、あくまで虹夏の個人的な見解である。
さて、星歌は頑張ったとは言ったが、頑張りが必ずしも求めるべき結果につながるとは限らない。
いや、開店に向けての仕事や準備は確かに進んだ。しかしながら、新規開店、新規事業とは、準備をすればするほど新たな準備不足や問題点が見つかるものである。まさに仕事が仕事を呼ぶ状態だ。
結局、仕事を終えた、というか見切りをつけられたのは、恭弥が帰国する前日、12月22日だった。
疲労困憊で眠りこけ、再起動を果たしたのが23日。
まだ疲労が抜けきれず、クリスマスの準備ができてないどころか、やり残しの家事が詰みあがっている家に
「ただいま、星歌」
記憶より大分日焼けした恭弥が帰ってきた。
海外暮らしが長いせいか、妙にハグなどのスキンシップに抵抗がなくなった彼は、そのまま星歌を抱きしめて
「ありがとう。俺の為に頑張ってくれて」
その後のことは、よく覚えていない。
別にお前のために頑張ったわけじゃねえ、と悪態をついたのか、それとも泣きながら甘えたのか?
どちらだったかのような気もするし、全く別のことを言ったような気もする。
ただ気が付けば、星歌はベッドの上で、日付は12月24日の夕方。
起きてみれば、すっかりクリスマスの準備が整った見慣れた我が家、という塩梅である。
「虹夏は?」
「友達の家に泊まるって。
あ、クリスマスプレゼントは、ほら、ツリーの下にあるヌイグルミ」
「ったく。余計な気、使いやがって」
恭弥特性クリスマスディナーを終え、二人は少し高めのワインを傾けていた。
BGMは―――ロック。
「私は好きだからいいけど、もっとムードある奴じゃなくていいのか」
「俺もロックは好きだし、いいよ」
「けど、こんなちゃんと用意してくれたのに……」
恭弥とて、慣れない海外で、半ば強引に昇進させられ、忙しい日々を送っている中で、なんとか時間をやりくりして休暇をとったはずなのだ。その上で、こんなにもキッチリとクリスマスの準備をしてくれた。自分はぼさっと寝ていただけなのに。
そんな星歌の気持ちを察したのか、恭弥はちょっと困ったような笑顔で
「そんなこと気にしなくていいのに」
「そんなことじゃねえだろ。お前がせっかく準備したのに」
「そう思うなら、もっと楽しんで、というか、甘えて欲しいかな。星歌の世話を焼くのが、俺にとっては趣味みたいなもんだし」
「やめろ!甘やかすな!私が廣井みたいになったらどうすんだ!」
「ぶえっくしょん!うー、冷える冷える。おにころおにころ~」
「酒は血管を拡張するのでむしろ体を冷やすぞ。ほら、マフラーを貸すからこっちに寄れ」
「それはそれで、面倒を見る甲斐があって楽しそうだね」
「処置なしだな、お前」
肩を竦めてソファに身を沈める。
「改めて、お前には迷惑っていうか、世話になりっぱなしだったな」
「そうでもないよ。中学に上がるくらいまでは、星歌にずっと守ってもらって、引っ張ってもらってばかりだったし」
「そうだっけか?……そうだったな」
思い出すのは、小さい頃の記憶だ。
後ろに引っ付いてくる子分みたいに思っていた恭弥が、中学になり、音楽を初めてからは隣に立つ相棒になった。
それが一度喧嘩別れ―――いや、喧嘩したのは自分だけだが―――ともかく一度道を別れて、再会して、助けてもらって、分かり合って、想いを通わせて、そして……。
そんなことを思ってたら、ふと、こんなことを思った。
「もしさ、バンドやめてなかったら、どうなってたろうな」
「バンド、ってリナさん達との」
「そ。ライブハウスじゃなくて、ライブそのものを虹夏の居場所にしてやる、って感じでバンド続けてたら、今頃どんな感じだったかな、って」
「んー」
恭弥は少し考えて
「やっぱり、今日はライブしてたんじゃない?
伊地知星歌、バースデーライブ!って感じで。で、その最前列に、俺と虹夏ちゃんが陣取って、団扇や横断幕掲げてると思う」
「ハハハ、ちょっと見たかったかもな!」
「フフフッ……じゃあさ、もし俺が、高校の頃、マネージャーやめないで頑張ってたら、どうなってたろ?」
「あん?そうだな……。きっと、バースデーライブの会場は、ニューヨークだったな」
「買い被りすぎじゃないかな」
「いやいや!行けたって!それじゃあさ―――」
二人は、いろんなIFを語り合った。
例えば、恭弥も音楽をやっていたら。
例えば、星歌が音楽を始めなかったら。
例えば、二人の性別が逆だったら。
例えば、二人とも同じ性別だったら。
例えば、虹夏の方が姉だったら
例えば―――
「―――例えばさ、私がお前と出会ってなかったら、どうなってたろ?」
「……案外、あんまり変わらないかもよ」
「そうか?」
「そうだよ。俺は確かに、星歌と一緒にいたけど、大切な所や大切なことは、全部星歌が自分の意志で選んで、自分の意志で成し遂げてきたんだし」
「そうか……そうかもな」
星歌は想像してみる。
恭弥が隣にいない自分。
なるほど。確かにあまり変わらなそうだ。
音楽やって、バンドして、仲間ができて、母さんを失って、虹夏と二人で生きていくと決めて、ライブハウスを作って―――
「それはそれで、気楽で楽しそうだな。
まあクリスマスは廣井あたりとヤケ酒のんでそうだけど」
「いや、きっと虹夏ちゃんがクリスマスパーティー開いてくれてると思うよ」
「そうか?」
不意にイメージが脳裏をよぎった。
虹夏と、彼女が集めたバンドメンバーが、いずれ作る星歌のライブハウスで、クリスマスパーティを開く。廣井も乱入してくるかもしれない。プレゼントは期限切れのスタンプカードとかだろう。
グダグダで、騒がしくて、温かいイメージ。
だが……
「それは、お前がいなかった世界の私に譲るさ」
「いいの?」
「ああ―――ここにいる私は、お前がいい」
「ありがとう、星歌」
そう言って恋人達は寄り添った。
ロックミュージックに包まれながら、聖なる夜は過ぎていった。
おしまい
二次創作世界も原作世界も、みんな幸せになればいい
天海恭弥のキャラは、割と概要は決まってましたが、輪郭が決定的になったのは単行本5巻、キララMAX1月号掲載の“星に手向けるあいの花”を読んでから。
素晴らしい過去エピソードに感動しつつも 『この完璧な姉妹の関係に男挟まなくちゃならねえのか、オラ、ワクワクしてきたぞ(強がり)』と思いつつ、構想、執筆した次第です。
アンケの結果を見る限り、読者の皆様にはおおむね受け入れていただけたようで安心しています。
なお名前の由来は、苗字の天海は、星歌に合わせて綺麗になるようにというチョイス。
名前の恭弥は、星歌の誕生日が12月25日のクリスマスであることから、
1.イエス→ヨシュア→よしや→恭弥 という連想
2.イエスの誕生日に対抗して仏陀の誕生日(花祭り)4月8日→48→よしや
というダブルミーニングだったりします。