ろっきんがーるに恋する男子   作:詞連

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 書くにあたって原作、アニメを見直したところ、初バイト→風邪→喜多ちゃん勧誘の流れは

 原作   風邪復帰から数日後、バイトに慣れてきてからの勧誘
 アニメ  風邪復帰初日の登校で勧誘

 と微妙に経過が異なることが判明。
 ここでは原作よりの日程経過で書かせていただきました。


Chapter5  石塚太吾と後藤ひとり その3

 石塚は目黒の学生マンションに暮らしている。高校は大久保にある。

 なぜ微妙に離れた位置に居を構えることになったかといえば、条件が合う場所がそこしかなかったからだ。

 高校に進学しての一人暮らし自体は、母親はすんなりと許可した。仕事にかまけて放置していたという自覚もあったので、むしろちゃんとした学生寮なりに入ってもらった方が安心できる、という考えがあったからだ。

 が、ではどこでも好きな場所に、というわけにもいかなかった。

 石塚としてはバンド活動もあり、夜が遅くなる場合も多いので門限が緩い方がいい。母親としてはセキュリティがちゃんとしてて、どちらかといえば規則も固い所の方が安心できる。そして両者の認識として、食事が出るところが望ましい。等々。

 それらの要望でスクリーニングし、残ったのが中目黒の学生マンションだった。

 事前申請すれば門限免除。費用を払えば朝夕の食事サービスを受けられる。大久保までの通学には若干時間がかかるが、許容範囲と判断したのだ。

 

 

 

 その朝、石塚は普段と違うルートで登校していた。

 いつもなら副都心線で東新宿までいき、そこから徒歩。だが今日は、コンビニに寄る用事があった。ネット通販で買った譜面の受け取りだ。

 距離的には大差なかったが、信号待ちと気まぐれとが重なった結果、恵比寿駅から山手線に乗ることにした。

 混雑する電車の中、遭遇は偶然だった。

 ギターケースを担いだ、ピンクジャージの小柄な姿。

 

「後藤」

「へっ!?あ、はひ?」

 

 びくつきながらピンクジャージ、ぼっちは石塚の方を向く。

 見つめ合うこと数秒。

 

「……よ、元気してた?」

「ぁ、ぅ。はい、その、石塚、君?も、元気でしたか?」

「ああ」

 

 そこで会話が止まるぼっちとヘタレ。また数十秒のインターバルを挟んで

 

「その、ギター」

「は、はい!ギターです!」

「いい感じに、似合ってると思うぞ。様になってる」

「そ、そうですか?え、えへへ……。その、石塚君も、えっと……」

 

 と言って、ぼっちは石塚の立ち姿を見る。彼はコンビニで引き取った譜面入りの小包を小脇に抱えている。

 これだ!

 

「似合ってますよ!ダンボール箱!」

 

 言って1秒と経たず、ぼっちは思う。

 

(やらかしたあああっ!ダンボール箱似合ってるって何ぃっ!?)

 

 段ボールがお似合いなのは自分の方だろマンゴー仮面!などと内心で自分を罵倒するぼっちだったが

 

「そっか、ありがと」

 

 ヘタレもヘタレで若干浮つき気味であり、なんとこれをスルー。

 一方お礼を言われたぼっちは、とりあえず機嫌を損ねなかったことに安堵して

 

(うん、もう余計なことは言わないでおこう)

 

 完全に専守防衛の構えで、貝のように口を閉じて俯く。

 

 再び数十秒。

 

「その、後藤は今も神奈川から?」

「は、はい。2時間かけて」

「いつも、この電車?」

「はい、そうです」

「そっか」

 

 などと言っていると、電車が減速。渋谷だ。

 

「わ、私!ここで乗り換えなんで!」

 

 降りる人の流れに乗って、後藤もあわただしく、逃げるように動き出す。

 そのギターケースを負った背中に

 

「おつかれ。またな」

 

 ヘタレは声をかけたのだった。

 

 

 

 2分程のズタボロな会話を終え、ホームに降り、京王井の頭線のホームへと向かうぼっち。

 その胸中は――

 

(やったあああっ!話しかけられたし、すっごく喋れた!)

 

 ―――なぜか、自信と達成感に満ちていた。

 

(イケる!ギターを持ってって話しかけてもらおう作戦!今度こそイケる!

 学校につく前からこの効果なら、学校につけばもうみんなの中心間違いなし!

 さっきも私にしては凄く会話できてたし、やっぱコミュ力も上がってる!

 もはや私はリア充!日の当たる世界の人間!)

 

 確たる自信と希望を胸に、ぼっちは学校に向かい――

 

「他力本願じゃだめだよね」

 

 登校してから数時間で、薄弱な自信と希望ごと、『中学の時同じことして失敗したのに今回だけ上手くいくわけないだろ』という現実に叩き潰されたのだった。

 

 

 

 

 一方同じ頃

 

 

 

 

「こんヘタレが!そんな絶好球貰っておいて見送り三振とかアホちゃうか!?」

 

 石塚もまた、バンドリーダー大河内によるダメだしで、浮ついていた気持ちを叩き潰されていた。

 昼休み、二つ上の先輩である大河内に誘われた昼飯で、珍しく石塚の方から振った話題。ぼっちと偶然に会った際の顛末を語った結果がこれである。

 

「何も進展しなかったわけじゃないです」

「あん?なんや?聞いた限りやとダンボール箱が似合う自分を見つけた以外、新しいことなんもあらへんのとちゃう?」

「―――後藤が渋谷で乗り換えだって情報を得ました。なんで俺明日から通学に山内線を使います。そうすればまた後藤と会えるかも―――」

「最近本で読んで知っとんで。守株待兎って奴やろそれ」

 

 大河内は大仰にため息をついて

 

「あんなあ、石やん。幸運の女神っちゅーんは、後頭部刈り上げのリーゼントなんやで」

「女性がするには相当ロックな髪型ですよね」

「そのロックな女の髪を正面からひっ掴むくらいの根性見せーや、ちゅうとんねん!ホレ!」

 

 といって、大河内が付きだしたのは自分達のバンド『Irrational/Numbers』のライブチケット。

 

「ヘタレの罰としてノルマ追加や!」

「―――わかりました。じゃあ今からSNSで……」

「アホか!口実に決まっとるやろ!これで後藤ちゃん誘えっちゅーんや!」

「……流石にまだろくに話せてない相手にチケット買えって言うのは……」

「ロハでくれたれや!」

「……学生の身分でいきなり2000円奢るのは重すぎて引かれる可能性も……」

「石やん、お前そんなキャラやったっけか?

 もっとこう、積極性とかはない代わりに、遠慮とも無縁の、ふてぶてしいのがお前んキャラやろ」

「……後藤相手だと、なんか調子が狂うんですよ」

 

 うつむき加減にいう石塚を見て、大河内はいよいよ思う。

 

(ホンマ、ガチ惚れしとんやなあ)

 

 石塚は受動的ではあるが物怖じするタイプではない。会話でも聞き手に回り、他人を優先しがちではあるが、同時に他人に何を言われてもあまり気にしない性格だ。

まず自分が自身をどう評しているかが重要で、他人が自身をどう批評してもせいぜい参考意見程度にしか思わないか、何なら最初から聞いていない。根っこの部分はワガママかつ、自己完結型のボッチ気質。

 

(それがここまで他人に、後藤ちゃんにどう思われるか気にするとはなあ)

 

 物静かでクールでかわいい!と彼を評する石塚推しのファン達に、今の石塚を見せたらさらにバズるか?いや、ガチ恋勢が炎上するか?どうだろう?

 

 などと、バンドの新たなマーケティング戦略について向きかけた意識を、大河内は、いかんいかんと修正。

 

「ともかく。なんでもええから誘って来いて。卵は割らなきゃオムレツは出来へんで」

「最近、妙に格言ぽいこと口にしますよね、リーダー」

「店長に言われて始めた読書の効果やろな。溢れる知性がつい言葉になってしまうねん。これからはインテリジェンス頼光で売り出すつもりやからな、ヨロシク!」

「わかりましたインテリジェンス先輩」

「いやそこは突っ込めや」

 

 

 

 

 

 

 と、そんな会話をした放課後

 

「後藤ちゃんだけ誘うんがハードル高いなら虹夏ちゃんらも誘えばええやろ!

 結束バンドご一行様~ってな感じで」

 

 と、さらに2枚、合計3枚のチケットを押し付けられ、石塚は下北沢までやってきた。

 まあ、ここまで来てしまえばもうじたばたすまい。

 STARRYに行って、チケット渡してさっと帰ろう。ライブは今週末。練習もしたい。

 

 と、STARRYに続く通りを歩く前方。今朝見たばかりの姿を見かけた。

 ぼっちだ。今朝と同じギターケースを背負ったピンクジャージ。

 が、今朝と違う点が一つある。連れがいた。

 女だ。白いギターケースを背負った、後藤と同じ制服――と思われるスカートを穿いた女。

 後藤は、彼女にしては珍しく、ふざけてじゃれているのだろうか、その女の肩に捕まり引きずられている。

 

「後藤?」

 

 友人連れでじゃれ合う、などというらしからぬ行動をするぼっちに、思わず疑問形のトーンで呼びかけてしまう石塚。

 ぼっちは、今朝と同じように一瞬全身を硬直させた後、おっかなびっくりという様子で石塚の方を向き

 

「あ、ど、どぅもぉ……」

 

 今朝より挙動不審な様子で返事をした。

 今のぼっちは今朝のぼっちとは違い、『自分はもはや陰キャでないのでは』という無根拠の自信はない、いわばノーマルぼっちである。

 つまり普段通りの挙動不審なわけだが、石塚には違って見えた。

 

(警戒されてる……?まさか、1日2回も偶然会ったせいで、ストーカーか何かと思われてる、か?)

 

 実のところ、朝に会う可能性を高めるために通学路を変えるあたり、すでにストーカーへの一歩を踏み出しているような気がしないでもないが、ともあれ、石塚はぼっちの行動に対してそんな懸念を抱いた。

 いかん、リーダーの口車に乗って攻め過ぎたか?とはいえ、ここで逃げたらストーカー疑惑が増す気がする。

 ここは、さっさと要件を済ませて撤退しよう。

 石塚はそう思い 「え?誰?後藤さんの知り合い?」 と困惑している連れ合いの少女を無視するように

 

「これ。うちのバンドのチケット。週末にやるから、良ければ来てほしい。結束バンドのみんなで」

「結束バンド!?」

 

 無視していた少女が、突然に大声を上げた。

 驚いた石塚とぼっちが少女の方を向けば、彼女は震えながら顔を青ざめさせていた。

 

「ご、後藤さんのバンドって……その、ごめんね、私、やっぱり帰る」

 

 早口に言う少女。石塚はもちろん、ぼっちにとってもそれは突然の事だったようだ。

 

「え、なんで」

 

 と聞くぼっちの顔を、少女は有無を言わさぬ迫力で両手で挟みこむように掴んで

 

「うぶぅ」

「ごめん、理由は言えないけどそこにはどうしてもいけない。ここに来たことは絶対その人達には―――」

「ぼっちちゃーん!」

 

 そこに、さらに新しい登場人物が現れた。

 伊地知虹夏。ぼっちが所属する結束バンドのリーダーだ。

 彼女はエナドリが詰め込まれたビニール袋を手に駆け寄ってきて

 

「ってああっ!逃げたギター!!!!」

 

 謎の少女を指さしてそう叫んだ。

 

 

 なるほど、厄介事か。と、妙に冷静になった頭で石塚は思った。

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん。で、なんやかんやでそこで喜多って子も復帰して4人でバンドを再開、ちゅーことになったんか」

 

 その日の夜、本拠地にしているライブハウス、EXoutのスタジオで、石塚は大河内に事の顛末を話していた。

 

 

 虹夏の逃げたギター発言の後、リョウの登場、唐突な土下座などのイベントはあったが、4人の少女たちは、これ以上往来で話すのは、と彼女達のホームであるSTARRYに向かった。

 当然ながら完全部外者の石塚はそこで離脱。

 

 

「まあ、チケット渡すのはできましたが」

「よし!上出来や!」

 

 その後、流石に経緯や顛末が気になり、ぼっちにロイン経由で事情を聴いた。

なんでもあの少女――喜多は元々結束バンドのギターボーカルだったらしい。憧れ優先でギターを弾けないことを隠したまま加入したがファーストライブの土壇場で失踪。その後、偶然にも同じ学校の同級生だったぼっちと知り合い―――

 

「――とまあ、いろいろあって大団円ってわけか。なんちゅーか、イベント事に事欠かん子達やな、あの子ら」

「大丈夫なんですかね?」

「うん?一度逃げた奴をもう一度仲間にすることがか?

 ―――ええんちゃうか。失敗も過ちも成長の糧にできるなら立派な経験や。

 一度逃げた奴、失敗した奴は信頼でけん、って意見もあるけど、一度失敗したり間違ったからこそ、次はもうせーへんやろ、って考え方もある。

 アメリカの偉い企業家も『失敗したことない奴と失敗の経験を積んだ奴と、どちらかを選ぶなら失敗した経験を積んだ方を選ぶ』みたいなこと言うてたし」

「それも、本からですか?」

「ふっふっふっ、インテリジェンス頼光と呼んでくれてかまへんで。

 ―――さって!休憩終わりや!もうちょい追い込むで!石やんも気張りや!後藤ちゃん、来るんやろ!?」

「――ハイ」

 

 そうして、石塚や、他のメンバーたちは楽器に向かう。

 

「さあ、キッチリ仕上げて、ライブばっちり決めるでぇっ!」

 

 リーダーの声に、バンドメンバー達が気炎を上げた。

 

 

 

 

 

 

 その週末、ライブハウスEXoutで開かれたライブは大成功を収めた。

 特にイレナンの演奏では、普段はリズム側に回る石塚が積極的に前に出てその技巧を存分に発揮。女性ファンの黄色い声援を浴びた。

 ライブを終えた後、全てを出し切ったという風に座り込んでいた石塚に、大河内が

 

「石や~ん、よーがんばったお前にご褒美タイムやで~

 ―――後藤ちゃん、来るで」

「!?」

「ロインで虹夏ちゃんに、後で楽屋裏に来ーへんか、って誘ったんよ。

 スタッフさんにも結束バンドご一行様ご招待、ちゅーことで話しつけとるから、もうじき来るで。

 ……今日の演奏、なかなか良かった。アピールチャンスやぞ」

 

 肩を叩く大河内。

 リーダーの世話焼きに、石塚は珍しく、心から感謝をする。

 汗をぬぐい、軽く髪を整え、いくつか会話パターンを脳内シミュレーションしていると

 

「おじゃましまーす!大河内先輩!石塚君!あそびにきたよー」

 

 虹夏に連れられて、結束バンドのメンバーが入ってきた。

 それを大河内が出迎える。

 

「おお!虹夏ちゃんようこそー!演奏どやった!?」

「サイコーでした!お姉ちゃんについてく以外でライブってあまり来たことなかったけど、やっぱいいですね!」

「そらよかった!リョウちゃんはどないやった?」

「ふむ。まあ悪くなかった。特に楽曲構成がバンド間でもちゃんと盛り上がりとコードを意識しているのが―――」

「あー、ちょ、ちょい待ってな。なんや語るの長くなりそうやからまず後で。

 で、そっちのが噂の喜多ちゃん?」

「は、はい!喜多って言います。結束バンドのギターボーカルを担当してます」

「よろしゅう。Irrational/Numdersのリーダー、大河内頼光いいます。

 同じギタボやから、なんか相談あったらいつでも言ってや!ロイン交換、ええ?

 それと――――」

 

 と言って、大河内は改めて周囲を見渡す。

 虹夏、リョウ、喜多。そこには3人の少女がいる。3人しか、いない。

 無言で立ち尽くしている石塚のプレッシャーを感じつつ、大河内は問う。

 

「―――後藤ちゃんは?」

「ぼっちちゃんは、そのー……」

 

 

 

 

 

 1時間前、銀座改札にて

 

「あっ今日のライブすごくよかった……です……。ありがとうございました」

 

 

 

 

 

「――って、人混みに負けて体調崩して、帰っちゃいました」

 

 ゴッ、っという鈍い音を、大河内は背後に聞いた。振り返れば、石塚が膝から崩れ落ちていた。

 

「い、石やあああああああああああん!」

「え、そ、その人、どうしちゃったんですか!?まるで後藤さんみたい!」

「あー……お似合いっちゃあお似合いなのかなあ、この二人」

「そんなことより、今日のライブについてもちょっと語りたいんだけど」

 

 そんな風に、癖の強いバンドマン達の夜は更けていくのだった。

 

 

 

 

つづく

 




 二次創作において原作で行われていた描写をどれだけ削りどらだけ描写するかは、二次における永遠の命題。
 特にオリキャラ多めだと、肝心の原作キャラの出番が……
 要精進要精進、と

この作品で好きな組み合わせは?

  • 後藤ひとり・石塚太吾
  • 伊地知虹夏・柊俊太郎
  • 山田リョウ・海野敦
  • 喜多郁代・皆実彩人
  • 廣井きくり・高清水律志
  • 伊地知星歌・天海恭弥
  • 大槻ヨヨコ・大河内頼光
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