もし今後リョウの過去バナが出てきて設定が矛盾したら、その時修正するなりなんなり考える!
あと年齢的なバランスや今後の展開からIrratianal/Numders の大河内頼光の年齢を一つ上げて修正しました。
山田リョウは飢えていた。
バンド仲間の喜多郁代のベースを買い取ったからだ。
良いベースだったし、可愛い後輩の為でもあるし、悔いはない。悔いはないが食い物もない。
いつもの金欠の時のように野草を採って飢えをしのいでいるが、春も終わり、夏の前。縄張りの野草は葉境期(本来は畑に対して使う言葉であって野草に使うべき言葉ではない)で、食料供給がいよいよ危うい。
さらに言えば、野草生活の頼もしい味方、マヨネーズも底が付きそうだ。
マヨネーズ。それは頼もしき相棒。こいつがあればどんな野草も大体食えるし、こいつ自体がハイカロリー。野草で不足するカロリー分を補ってくれる。
だが、マヨネーズとてただではないし、奴が供給してくれるカロリーは脂質で構成されている。
糖質とタンパク質が、カーボとアミノが足りない!
リョウの若い肉体は、切実にそれらを求めていた。
まあ、家族に泣きつけばBBQくらいすぐしてくれるのだが、ロックではない。
一応は過保護な親への反抗という体裁で始めたロックである。ロックに関して小遣い以上に頼ることはなるべく避けたい。
「仕方がない。最終手段の一歩手前を使うか」
リョウはロインでメッセージを送った。
「―――というわけで、ちょっと男の人とデートしてご飯奢ってもらう仕事があるから、今日は早めに上がるね」
「リョウ先輩!早まらないで!ごはんなら私がいくらでも食べさせてあげるから!」
夕方、STARRYを出ようとするリョウに、喜多が縋りついた。
一緒にいたぼっちは
「援助でパパな交際活動……女子高生のお値段……闇のバイト……週刊誌……!」
と、恐れ慄いていた。内臓売るよりはまだ闇が浅いのに、基準が今一わからんものである。
そして結束バンド最後の一人、虹夏はというと
「まーた誤解させるような言い方して。大丈夫よ喜多ちゃん、そういうのじゃないから」
「じゃ、じゃあどういうのなんですか?」
「それは―――」
と、その時、STARRYの表口が開いた。
入ってきたのは、ライブハウスにふさわしからぬスーツ姿の男性だった。
20代半ばくらいの温和な印象の青年で、ぼっち達が見てもわかる程度に良い背広を着ている。
「失礼します。――リョウさん、迎えに来ましたよ。伊地知さんも、おひさしぶりです」
「お久しぶりです、
にこやかに会話する虹夏と青年。彼は戸惑ってる喜多とぼっちに
「はじめまして。
後藤さんと喜多さんですね、リョウさんからお話は伺っておりました。
いつもウチのリョウさんがお世話になっております」
「ど、どうも……」
「は、はい!喜多と申します。その―――」
先輩とはどういう、と喜多が聴く前に、ぐぎゅるごりゅるるううぅ、というデスメタル調の重低音がした。リョウの腹の虫だ
「アツシ。お腹空いたし、早く行こう」
「ハイハイ。―――すみません。リョウさんが限界みたいなんで、今日はもう失礼しますね」
「じゃ、また明日」
足早に去るリョウと、それに引っ張られるようにしてSTARRYから出て行く敦。
取り残されるのは、じゃあね、と見送る虹夏と、突然の展開にパニック状態の喜多とぼっち。
先に再起動を果たしたのは喜多で
「に、虹夏先輩!今の人、その一体?苗字違いますしお兄さんとかじゃないですよね!?まさか、本当に援助こ―――」
「あー、違う違う。そういう後ろ暗い奴じゃないって。婚約者なんだって」
「あ、そ、そうですか婚約―――」
女子高生の日常では見ないフレーズを飲み込むのに一秒
「――――――――――――婚約!?」
一秒後、喜多はSTARRYが揺れるような大声で叫んだ。
「ここっこここ婚約ってあの、将来を誓い合うあれですよね!?高校生、え?先輩高校生ですよね!?それで、なんで!?」
混乱する喜多に虹夏は「ぼっちちゃんみたいだなあ」などと思いながら
「なんか、家の都合?とかで中学の頃にお見合いしてって感じみたい?
あまり言いふらさないでね。リョウ、隠してるわけじゃないけど、面倒くさいからって公言はしてないから」
「い、家の都合!?押し付けられた結婚!?愛のない関係!ど、どうして!?た、助けなきゃ!?ギ、ギターで!ギターでぽむっと……!」
「喜多ちゃん!落ち着いて!」
メロドラマに出てきそうなフレーズを口走りながら、ギターのネック側を握って駆けだそうとする喜多を、虹夏は組み止めて
「大丈夫だから!リョウ的には不満じゃないみたいだから!嫌なのに強いられてとかじゃないから!
というか、そんなしっかりした関係じゃなくて、金欠の時にご飯集る親戚のお兄ちゃん的な立ち位置みたいだから!」
「そう、なんですか?」
喜多は落ち着いたのか、ギターを戻して椅子に座る。
虹夏もため息をついて座り
(ただ、リョウは兎も角、海野さんは本気でリョウのこと好きっぽいんだよなあ)
という情報を、口に出さないまま飲み込んだ。
喜多がその情報を耳にすれば、また暴走しかねないと思ったからだ。
どうしたものかと、虹夏が頭を悩ませていると
「おーい、お前ら。そろそろ仕事再開しろー。そろそろ客が入るんだからな」
バックヤードから星歌が声をかけてくる。
ナイスタイミングお姉ちゃん!と虹夏は思った。とりあえず、仕事を始めて頭をリセット。それからだ。
「ほら二人とも!今日はリョウがいない分、がんばんないと!」
二人に発破をかける虹夏。
「は、はい!」
と、先に答えたのは喜多ではなくぼっちの方だった。
一方、普段なら最初に反応するはずの喜多は、逆にいつものぼっちのような虚ろな表情で
「すみませんセンパイ。ちょっと、ショックが大きすぎたので、今日明日休みます」
「喜多ちゃああああああああああああああああああん!?」
産廃化した喜多を帰し、ぼっちと虹夏が通常の二倍の業務量に押しつぶされているころ、
「げふ~」
リョウは、腹いっぱい状態で、フローリングの上に転がっていた。
場所は敦の自宅。振る舞われたのは敦手製の手料理。
そのラインナップは肉肉米肉魚米肉!暴力的な糖質とタンパク質の宴!
なお、これは海野が男飯しか作れなかったというわけではなく、リョウのリクエストである。
「ヴィーガンとか、狂人の戯言だね」
「他人の信条に対してそういう物言いをするのは感心しませんよ。
ご満足いただけましたか?」
「ん、余は満足じゃぁ~」
エプロン姿で食器を片付ける敦に、転がったままに応えるリョウ。
敦は小さく笑うと、食器を水につけてから、紅茶を煎れる。
「ミルクと砂糖は……」
と聞くために、リョウを見ると、
「―――」
リョウは、静かに寝息を立てていた。
「風邪をひきますよ。せめてソファで寝ればいいのに」
そう言いながらも、敦は起こさないよう静かに、リョウの頭の下に二つ折りにした座布団を差し込み、体にはタオルケットをかけてやる。
そうして、寝ているリョウを見守るように、自分も床に座り、ソファに背中を預けた。
いつも大人びた表情のリョウも、寝ている時は年相応にあどけない。
「寝てる横顔は、あった頃のままだな」
敦がリョウと会ったのは4年前のことだ。
海野敦は、つまらない人間だ。
少なくとも、彼自身はそう考えている。
それなりにいい家柄に生まれ、それなりに交友関係に恵まれた。それなりに芸能や趣味を嗜み、それなりに良い学歴を積み重ねて、それなりに良い企業に就職する。
世間ではエリートと呼ばれる層にはいるが、本物のトップエリートたちがいるような、人生をかけて鎬を削るような領域にいるわけでもない。
特別はまり込むような趣味もなければ、願い、叶わなかった夢があったわけでもない。そのため、親が望んだ進路のままに進んだが、それに反感や後悔を抱くこともない。
その順風満帆だが詰まらない人生に、そこそこ満足しているところが、何よりも自分という人間のつまらない所だ。
敦は自身についてそう思い、しかし同時に、納得と諦観を以てそれを受け入れていた。
そんな人生に、山田リョウが現れた。
「こんにちは、ロックンローラーの山田リョウです」
それが、リョウの第一声だった。
場所は、庭園付きの邸宅だった。
お見合いのセッティングを趣味とするさる奥方様の趣味に、付き合わされることになったのが発端だった。
海野家と山田家、その両親にとって縁のある家からのお誘い。強制ではないが断るのもなんだし、まあ趣味にお付き合いする感じで、という流れで、当時22歳、就職したての海野敦と、同じく進学したての13歳のリョウのお見合いの席が設けられた。
適当に正装し、あいさつし、食事の一つでもしてお開き。そんな予定だったはずの所に、当時、過保護な親への犯行という名目でロックに嵌りだしていたリョウがやらかした。
制服姿に、ベースをひっさげ登場。
前述の口上を述べた後、ワンフレーズを演奏。
唖然とする仲人と海野の親、流石に苦笑いでどう謝ろうかと考える山田夫婦。
その中で敦は、やり切った表情のリョウに近づくと
「―――ロック、好きなんですか?」
手を取って、尋ねていた。
眩しかったのだ。
やりたい何かがあって、その為に自由に振舞う彼女の姿が。
特にやりたいこともないがために、自由を必要とすら思わない自分と、全く対照的な少女。
10歳近くも年下の少女に、彼は確かに一目惚れしたのだ。
二人は“婚約者同士の逢瀬”という名目で、いろいろなところに出歩くことになった。
リョウがそれを受け入れたのは、敦が『保護者同伴必須』のライブハウス等に出入りする際のチケット代わりになったからだ。
ライブという自分の趣味が丸わかりになる会場に、親同伴はなんか恥ずかしい。その点、この敦とかいう男はちゃんと話を聞いてくれるし、親を連れて行くよりは恥ずかしくない。
そんな13歳の少女の需要に、22歳の青年はちょうど合致したからだ。
ライブやフェスを巡ったり、楽器店やCDショップをはしごしたり。
なかなかに図々しいリョウは、あれやこれやとおねだりし、敦が買い与えた時期もあったが、割とすぐに親バレ。過保護ではあるが、同時に最低限度の厳しさは忘れていなかった山田両親から、消え物以外の買い与え禁止令が出された。
そうしているうちに3年。
リョウは高校に進み、念願のバンド活動を始め、そして――――
「―――おはようございます。リョウさん」
まどろみから覚めたリョウの耳に、聞きなれた声がした。
敦だった。
起き上がり、タオルケットと枕代わりの座布団に気付く。
(いつもながら気が利くな)
時計を見る。進んだ時間はほんの10分か少し。そんなに時間は経ってない。
もうすこしのんびりできるな、とリョウはまた横になる。
「お茶、いりますか」
「いい。―――ありがと」
「どうしたんですか?急に」
「―――側にいてくれて」
唐突な言葉に、敦は少し苦く笑う。
「いいですよ。私は、側にいることしかできませんし」
「―――」
がばりと、リョウは勢いをつけて起き上がり、敦を見た。
無表情な彼女には珍しい、険のある表情。睨んでいる、と言ってもいくらいだ。
何か悪いことでも言ったのか?
困惑する敦にリョウは
「正座」
「え?」
「ここに正座しなさい」
「はい」
よくわからず、とりあえず正座する敦。
そうするとリョウは
「えい」
三度横になる。ただし、今度枕にしたのは座布団ではなく、敦の膝だ。
膝枕の状態で、敦の顔を見上げるリョウは
「前のバンドの時の事、気にしてるの?」
「―――実際、部外者で、音楽のことも良く知らない私は、何もできませんでしたし。
リョウさんが今のバンドを始めたのも、伊地知さんのお陰で――本当に、私は側にいることしかできませんでしたから」
目を伏せる敦。
リョウが高校に上がって入ったバンドは、解散した。
憧れて始めたバンドは、迷走し、自分らしさを忘れ、売れない現実と乖離する方向性に揺らぎ、決して良いとは言えない形で解散した。
砂糖菓子のお城のように、無惨に消えついえた夢の形。
煌びやかであったからこそ、大切だったからこそ、ゆっくりと、ボロボロになって崩れていく過程は、リョウにとって辛いものだった。
そして、その傷ついたリョウを引っ張り上げたのは、敦ではない。虹夏だ。
また新しく夢を始め、仲間を得て、出会った頃と同じように、自由に羽ばたくリョウに戻った。
それは敦も嬉しかった。それは間違いない。だが――
「私は、何もできませんでした」
「―――いてくれた」
かけられた声で、敦はそらしていた目をリョウに向ける。
リョウの眼差しが向けられる。水鏡のような、覗き込むものの心を映すような、澄んだ瞳。
だがそれは、普段と違って、少し潤んでいるようにも見えた。
「辛い時とか側にいてくれた
愚痴を言いたい時も黙って聞いてくれた
泣きたい時、背中を貸してくれた
虹夏に誘われて迷ってた時も、何かあった時はまた話を聞いてくれる、って約束してくれた。
私を引っ張り上げてくれたのは虹夏だけど―――支えてくれたのはアツシだよ。
だから――何もできなかった、なんて言わないで欲しい」
そうか、悲しくて、怒ってたのか。
敦はリョウの表情の意味を知り、
「―――ありがとう、リョウさん」
膝枕をしているリョウ―――の額にキスをした。
「……ヘタレ」
「仕方ないじゃないですか。お義父さん達に、結婚するまでは指一本触れないって約束しているんですから。これでもギリギリですよ」
「周りの男子は、どいつもこいつもヘタレばかり」
「おやおや、聞き捨てなりませんね。婚約者がいるのに他の男性を侍らせるとか」
「私じゃなくて虹夏とぼっちに……」
門限までまだ余裕がある。
取り留めない会話を交わしながら、二人の時間は過ぎて行った。
つづく
リョウは『大切なもの・こと』の当たり判定が小さいだけで、そこに当たると結構簡単に傷ついたり凹むタイプと勝手に思ってる
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