ぼっち・ざ・ろっく!はやっぱり名作
シュンは知っている。バンド、特にロックをするような奴らは、変人だと。
シュンは家の手伝いで色んなライブハウスに出入りする。その際に会うバンドマン達は、どいつもこいつも一筋縄ではいかない曲者ぞろいだ。
世間から外れているからこそ、そこに主張や反抗が生まれ、ロックとなる。
世間から外れているからこそ、そこに耳目が集まり、ライブとなる。
奇にして異なってなんぼ。それがバンド、それがロック。
とはいえ―――
「婚約者なんだ……。床とモップも、あの椅子と机も、ギターとピックも、空と海も、ゴミ箱と後藤さんも、みんな、みんな婚約者なんだ」
―――程度があるだろう。
うつろな目で意味の分からないことを呟く喜多をみて、シュンはそんなことを思った。
場所はSTARRY。閉店後。結束バンドの面々と、そして虹夏に呼ばれたシュンが、テーブルを囲んでいた。
「あの、喜多センパイ、どうしたんスか?」
「あ、シュンく―――っ!まさかシュン君も虹夏先輩か店長の婚約者!?」
これがもし『ひゅーひゅー付き合ってんのおまえらー』的なノリなら、シュンは中学生的なノリで『ち、ちげーし!』と真っ赤になって怒鳴り返していただろう。
だが喜多の表情は、ホラーかサイコサスペンス映画の犠牲者のそれである。
どうしたものかと周りを見渡す。
喜多の隣に座っていたピンクジャージは
「――――!?」
シュンの視線を感じた瞬間、俯き加減の顔をさらに背けて、逃げの構え。
喜多に関わりたくないのか、シュンが怖いのか、あるいはその両方か。
次に正面に座っているリョウは
「私は罪な女」
と、アンニュイな風を装ったポーズをとる。
相手にする価値なし。そう判断したシュンは本命の虹夏に目を向ける。
虹夏はため息をついて
「あー、大丈夫。ちょっとショッキングなことがあって、その後遺症でたまに発作出るだけだから」
「大丈夫な要素がねぇんだが、それ」
「おーい!喜多ちゃーん。喜多ちゃーん!!!」
「――――っは!?す、すみません先輩!バンドミーティングですよね!」
「うん、よろしい。
――――というわけで、結束バンドのバンドミーティングwith柊商店を始めます!
本日のお題は―――――こちら!」
と言って、虹夏はスケッチブックを開く。
そこに書かれていたのは
「ズバリ!より一層バンドらしくなるには!?」
『おー』
喜多とぼっちがまばらな拍手をする中で、シュンは
(ああ、そのためのこれか)
虹夏に言われて調達させられた、ビニール袋の中の結束バンドの意味に思い至り、ため息をついたのだ。
「なーんであそこまで駄目出しするかなあ」
「商売舐めすぎだからだバカ虹夏。つか、そのために俺呼んだんだろうがよ」
バンドミーティングを終え、他のメンバーが帰った後。虹夏とシュンがSTARRYに残っていた。
虹夏はテーブルに突っ伏し、シュンは同じテーブルに背中を預けて座っている。
「だって物販バンバンして、お金稼いで、活動資金増やしたいじゃん」
「まだ1回しかライブやってねぇバンドの物販が売れるわけねえだろ。
しばらくは数搾った上で、他のバンドの物販の横に間借りして、広告だと割り切って置かせてもらえ」
「だからってなんで10本セットしか買ってこないのさ。まとめ買いした方が安く済むんでしょ」
「誤差だ誤差。保管費の方が高くつくわ!
あとアルバムもまだ論外だ。まずネットでのDL販売で、物販コーナーにはQRコードのポップ立てとけ。SNS経由にすれば後々の宣伝効果もあがる。実物は売り上げが予測できるようになってからにしろ」
「ぶぅ……」
カッコイイジャケットのアイデア、考えてたのに。とむくれる虹夏。
「あのなあ。遊びでやってるわけじゃないんだろ?だったらもうちょっと真面目に―――」
「真面目にやってるもん!」
続けようとするシュンの言葉を遮って、虹夏は床に置いておいた鞄を手に取って
「帰る!」
シュンに二の句を告げさせることもなく、店を出て、上階の自宅へと引っ込んでいった。
「―――っったく!ガキかよ」
口をへの字に曲げ、虹夏が出て行った扉を睨むシュン。その背後の机に、コーラの入ったグラスが置かれる。
「お疲れ。おごりだ」
「星歌」
「店長、もしくはお姉さんって呼べ」
「ババァ店長ゴぉっ!」
頭頂部に星歌の拳骨を喰らい、蹲るシュン。
「虹夏の遊びに付き合ってくれてありがとな」
「~~~っ!ありがとうって威力かよチクショウ。―――遊びじゃねえよ、アイツは本気だ」
「だからって、ろくにライブもしてないのにアルバム1000枚とか」
「調子に乗ってるのは確かだと思うぜ。だけど、アレはふざけて言ってたんじゃなくて、知らなくて言ってたんだ。本当に遊んでるなら、口先だけで嘯いても、俺を呼んだり、見積もとったりはしないだろ」
シュンの家、柊商店は飲食物卸だけではなく、少なからず物販関係も手掛けている。
最近虹夏はシュンに連絡を取ってた、物販で並べる品目の見積もりを聞いたり、試算したりを繰り返している。
「確かに計画は甘いし、甘く見てるせいか不真面目なところもあるかもだけどよ。
あいつはあいつなりに、バンドを成功させたいって思ってるぜ。
そこら辺は認めてやれよ、星歌。そうでなきゃ―――」
―――アイツが報われない。
と言いかけて、シュンは黙った。
「どうした?」
「なんでもねえ」
次いでもらったコーラに口をつけ、
「話は変わるけどよ。虹夏のバンド、ステージに上げんのか?」
「いや、出す気ないけど」
「へぇ。ちゃんとオーディションからするってことか」
「なんだ。まさか妹だからってホイホイ出してやると思ったのか」
「実はちょっと思ってた。星歌は虹夏に甘いからな。
ま、無条件でオーディション受けさせてやる時点で相当甘いけどよ」
世のバンド、特に駆け出しは、オーディションどころかデモテープを聴いてもらう機会一つを得るのにも苦労する。
それに比べれば彼女達は恵まれている。
「リョウの曲に、あのピンクジャージの歌詞。どんなことになんのかねえ」
不安と、そして少しの期待を込めて、シュンは呟いた。
それから、2週間ほど経った頃だった。
シュンは虹夏の買い物と、そして愚痴に付き合っていた。
「―――ってことでさあ!お姉ちゃん酷いんだよ!『一生仲間内で仲良しクラブやっとけ!』とかさ!」
「そーだな」
おざなりに返すシュン。虹夏はよほど腹に据えかねていたのか、同じ話題が3回目である。
「オーディションはばっちりキメて、お姉ちゃんをぎゃふんと言わせてやるんだから!」
「別に上手くヤれても、店長的には良いバンドを確保できることになるから、ぎゃふんとはいわねーんじゃねえの?
っていうか―――イケんのか、お前のバンド?」
「イケる!……って思う。喜多ちゃんも、ぼっちちゃんも、すごく上手くなってるし」
そういう虹夏の顔には、憂いと不安があった。
バンドメンバー、特に後輩二人には、絶対見せない不安の表情だ。
それを見たシュンは
「らしくねー……なっ!」
ばしっ、と、虹夏の背中を叩く
「きゃふん!?な、なにすんのよ!」
「似合わねえツラしてヘタれてるから気合入れてやったんだよ!
姉貴の分まで有名なバンドになんだろ!STARRYを有名にすんだろ!そこに出るためのオーディション程度で、オタついてどうすんだよ!」
シュンが投げつけてきた言葉に、虹夏は目を見開く。
数年前、一度だけ。その夢をシュンに言った。
星歌がバンドをやめ、ライブハウスを開くといった日。
「私がお姉ちゃんの分まで有名なバンドになる!
それで!お姉ちゃんのライブハウスを有名にする!」
「覚えてたんだ」
「忘れるわけないだろ。お前の大切なこと、なんだから」
言って、気恥ずかしくなったのか、そっぽを向くシュン。
その生意気な年下の幼馴染の仕草が、おかしいやら可愛らしいやらで
「―――そだね!こんなところでまごついてられない!とっととスターバンドへの階段駆け抜けないと!」
笑いながら気炎を上げる。
その顔を見てシュンは、
「それでいい。虹夏は笑ってるのがかわぃ、……いやキレ―――――っっ!笑ってる方がまだマシなツラに見えるぜ!」
「ああん?生意気だぞこいつぅ!」
「うわっ!てめっ!髪弄んなよっ!!」
虹夏はシュンの生意気なツンツンヘアをワシャワシャ乱すと、
「ありがと!シュン!ライブ、絶対に出るから見に来てね!」
満面の笑顔で言い残して、弾むように駆け出していった。
その背中を、睨むようにして見送るシュン。
「バカ虹夏、他の奴にもこんな風にしてんじゃないだろうな。
勘違いする奴が出たらどうすんだ」
勘違い気味の少年は、傾きかけた日に照らされて赤くなった顔で、そう吐き捨てたのだった。
つづく
シュンくんはガチでお店のことを仕込まれているので、お金勘定に関してはバンドマン共に比べてはるかに大人でしっかり者。
あと、虹夏にとってシュンは、1巻ラストにぼっちに語った秘密の夢を、当たり前に話す程度には特別な存在であり、シュンの完全な勘違いだというわけではない。
が、色恋的な意味はまだ秘密
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