ろっきんがーるに恋する男子   作:詞連

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イメージはGYARI(ココアシガレットP)さんのボカロセッション動画
あと、筆者は音楽に関してはずぶの素人です。
間違いに関して指摘される場合、優しく指摘していただけると嬉しいです。


Chapter8  石塚太吾と後藤ひとり その4

石塚のロインに、一本のメッセージが送られてきた。

 

『オーディションに受かる方法を教えてください!何でもしますから!』

 

 後藤ひとりこと、ぼっちからのものだ。

 金曜の夜、自宅の学生マンションで勉強をしていた石塚の脳内に、15歳の少年らしい妄想が駆け抜ける。

 

『知りたければ、分かってるよな?ひとり』

『わから、ないですよ……』

『カマトトぶりやがって。まずはその()()()()()()()()で……』

 

 ドガッ、とマンション全体に響き渡りそうな音がした。

 石塚が部屋の柱に頭を叩きつけた音だ。

 煩悩退散。

 石塚は深呼吸して、改めてスマホを見る。

 

「―――明日、オーディションなのか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、送ってしまった」

 

 同時刻、ぼっちは電車の中で、自分のスマホを握りながら震えていた。

 内容は、オーディションを突破するための必勝法について。

 宛先は、知り合いの有名バンドのキーボード、石塚太吾。

 

 今日はSTARRYでのオーディションの前日だ。

 休息第一と早めに練習を切り上げた結束バンドメンバー。ぼっちはその帰りに虹夏に呼び止められ、少し話をした。

 その時に 『本当の夢はその先にあるんだ』 と、彼女は言った。

 

 ぼっちには人に自慢できる夢や目標はない。

 ギターを始めた動機なんて『ちやほやされたい』なんて程度のものだ。それでも

 

「結束バンドの四人で、ちやほやされたい。虹夏ちゃんの夢をかなえてあげたい」

 

 くだらない承認欲求だとしても、他人の夢への便乗だとしても

 

「明日のオーディション、絶対に通りたい」

 

 その気持ちは本当だ。

 とはいえもう明日、時間はなく、できることもない。

 どうしようかと思っていたところで思い出したのが、石塚の――自分の先に進んでいる、同い年のバンドマンのことだ。

 

「なにか、裏技的なものがあるのかも……!」

 

 と思い、帰りの電車の中で、一縷の望みをかけてラインを送ったものの

 

「……冷静に考えると、教えてくれるわけないじゃん」

 

 送信するまでは妙なテンションに突き動かされていたが、送信後の賢者状態ぼっちは、次々とネガティブな想像を始める。

 

「そもそも、そんな親しいってわけでもないし」

 

『はあ?いきなり何図々しいこと言ってるわけ?』byぼっち脳内石塚

 

「っていうか、チケット貰ったライブ、すっぽかしちゃったし」

 

『せっかく誘ってやったライブをすっぽかしたくせにいい度胸してるじゃねえか!』byぼっち脳内石塚

 

「な、なんでもするなんて言っちゃったし、ひょっとしたらなんかエッチなことを……!?」

 

『知りたければ、分かってるよな?ひとり。まずは()()()()()()()()で……』byぼっち脳内石塚

 

「―――あっ、これはないな。うん。私なんかとエッチなこととかただの罰ゲームだし」

 

 実は一番あり得そうだった未来予想を否定していると、ロインに返信があった。

 石塚からで

 

『とりあえず、本来の後藤の腕前を知りたい。何か動画とかに、演奏をアップしてないか?』

 

 ぼっちは少し悩んだが、毒くわば皿まで、といった気持でguitarheroの動画のアドレスを送る。

 それから待つこと30分。乗り換えを挟み、家の近くまで来た頃だった。

 

『明日の朝、始発で品川駅に』

 

 石塚から返事が来た。

 

『必勝法というわけじゃないが、一種のおまじないみたいなのはある。それをするから、ギター持って来てくれ』

 

 

 

 

 

 

 

 初夏の朝。六時過ぎ。水気を含んだひんやりとした大気が、太陽によって蒸しあげられる直前。

 

「おはよ――時間が惜しいから、急ぐぞ」

「は、はい」

 

 足早に進むキーボードバックを抱えた石塚を、小走りに追うボッチ。

 駅を降りてすぐの繁華街、その路地にカラオケボックス。

 

「ここ、楽器持ち込み可で、朝から開いてるんだ」

 

 店内に入り、受付に

 

「連れが先に来てます」

 

 と告げて奥に。店員も慣れたものなのか何も言わず石塚を見送り、ぼっちは会釈してから石塚を追う。

 

 奥に進むにつれて、地響きのような、最近聞きなれてきた音がしてきた。

 

「……ドラム?」

「ああ、イレナンのバンド。今日、手伝ってくれる人」

 

 そういって、音の漏れる一番奥の扉を開く。

 

士則(あきのり)さん。着きました」

 

 石塚の声でドラムは止まり、演者が顔を向けた。

 

(あ、美人)

 

 その顔をみて、ぼっちはそんなことを思った。

 ドラマーは、男だった。

 白皙の美貌を通る秀麗な鼻梁と、玲瓏な眉目。それらは氷の彫像のように冷たく、整っている。

 均整の取れた、すらりとした肢体。腕まくりをした白いカッターシャツと、黒のスラックスという地味ないでたちだが、彼が着ているというだけ華やかに見える。

 喉仏や肩幅など、明らかに男性らしいパーツで構成されているのに、その様相は思わず“美男”ではなく美人という単語が先に出るような流麗なものだった。

 少女漫画から出てきたような容姿の彼―――士則と呼ばれた男は、側においてあった大判のPADを手にして、ぼっち達に向ける。

 そこには

 

『ポリポリ(○´∀`)ゞうーっす!おはよー。

 君がぼっちちゃんね~よろしくねぇヽ(〃´∀`〃)ノ

 オイラ(すえ)士則(あきのり)!キリッ!(`・ω・´) ノリさんでいいぜ~』

 

 イメージとは裏腹の、顔文字まみれのメッセージが表示され、人口音声で読み上げられた。

 

 リョウ以上の人形めいた美しさの無表情と、喜多を悪い意味でパワーアップしたような文体。その組み合わせに脳がバグって動きを止めるぼっち。

 一方、慣れている石塚は気にも留めずにキーボードをセットしながら

 

「時間がおしい。後藤も早くセッティングしてくれ―――今から1時間、セッションするぞ」

 

 

 

 

 

 石塚がぼっちに提案したおまじない。

 それは、本番前に石塚と、そしてもう一人、石塚が所属するバンド、『Irratianal/Numbers』のドラムの人と、簡単なセッションをするというものだった。

 セッションは、ぼっちも動画を見て知っている。

 

「ふらりと立ち寄ったミュージックバーでセッションに飛び入りして……!」

 

 などと妄想したことは数えきれないが、その度に『おしゃれなミュージックバーとか、陰キャの私には近くことすら無理』という音楽以前のハードルを前に、想像の段階で諦めつづけてきた。

 それをよく知らない人達となんて絶対無理!と思ったが、こちらからお願いした手前、ノーと言えないのが拗らせ陰キャ。

 

(オーディションに行く前に、死んでしまうかもしれない)

 

 そう覚悟を決めるぼっちに、石塚が譜面を差し出した。

 そこには―――

 

「―――え?コード、二つ?」

 

 そこには1行4小節にコード2つと、簡単なリズムが書かれただけの譜面があった。

 

「本格的なのはやらないよ。この2コード繰り返して、ちょっと遊ぶだけ。できそう?」

「あ、はい、これなら……」

 

 ギター初心者用の練習曲よりも、はるかに簡単な譜面だ。

 

(というか、こんなのどうやってアレンジするんだろう)

 

「じゃ、始めよう」

 

 そういって、何のタメもなく引き始める石塚と、

 

「b(`・ω・´)」

 

 と親指を立ててドラムを静かに叩き出す士則。

 唐突な始まりに慌てて追いつこうとするぼっちだが、すぐに追いついた――というか追いつく必要もなかった。

 なにせシンプルな4小節2コードの繰り返しだ。

 ドラムに合わせて、ギターとキーボードが同じリズムを流す。

 それが十周ほど続いた頃、

 

(あ、音が増えた)

 

 石塚がメロディにアレンジを入れてきた。単純だったメロディを少し複雑なフレーズを加え、何周かして、こちらが慣れてきたと思ったら、また変え、それを追うようにドラムもだんだんと勢いづく。

 それを追っていくうちに、ぼっちは石塚がこちらを見ていることに気付く。

 何かしてしまっただろうか?

 緊張と不安に思わず演奏が狂う。

 普段ならそこから全体が崩れていくパターンだ。だが、今回はそうならなかった。

 石塚と士則がアレンジを戻し、ぼっちのギターを拾い上げる。

 少し落ち着いたぼっちは、改めて石塚をみる。すると石塚は、また同じようにぼっちを見て、しかし今度は、口に出して

 

「―――次、後藤の番」

 

 そう言って、演奏を続ける。

 

(番、って、アドリブのことかな?さっきの視線も、そういう意味だったんだ)

 

 批難しているわけじゃなかったのか。

 そう思いながら、ぼっちはおっかなびっくり、メロディにアレンジを加えていく。

 ちょっとずつちょっとずつ。

 形を変えていくメロディ。

 

(少し、大胆に変えてもいいかな?)

 

 ちらりと、ぼっちは石塚達の方を向く。

 石塚が頷く。

 

(あっ……)

 

 なんか嬉しくなり、ぼっちはギターをかき鳴らす。

 

「そろそろ俺の番でいいか?」

「あ、う、うん!」

 

 思わず全力疾走しそうになったところで石塚にバトンを渡す。

 少しローペース目に変わっていくメロディ。そうしているうちに、また石塚からの視線。

 

(こ、今度はこっちの番、ってことだよね)

 

 今度は、言葉なしでいけた。

 パスして、受けて、何週か続けて、またパス。

 時々意図を取り違えて、アレンジが衝突したり、どっちもせずに基本の旋律ばかりで1分以上お見合いしたり、そんなこともあったが、それでもセッションは続いていく

 

(あっ、なんか……楽しい)

 

 初めてのライブを思い出した。

 段ボールの中で、全然実力も出せなくて、惨めだっり情けなかったりと散々だったけど、

 

(誰かと音楽をするって、こんなに―――)

 

 と思った瞬間だった

 

「あっ」

 

 という石塚が何かに気付いた声と同時に

 

「――――――――――――――――っ!」

 

 ドラムが、爆発した。

 そうとしか言えない程の、烈火の如き高速ドラムソロ。

 士則の氷の美貌は、今や修羅の如し。

 

「っひぅっ!な、なに!?」

「士則さんのスーパードラムタイム(自称)だ。テンションが上がると発作的にこうなる。簡単には止まらない。

 ……タイミング併せて、一緒に入って修正するぞ」

「う、うん!」

 

 そうして、タイミングを見計らい、士則のドラムの勢いが止まった瞬間に

 

『―――――っ!』

 

二人は全力のフレーズを叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ」

「あ、ありがとう、ございます」

 

 セッションを始めてから一時間少し。8時の品川駅改札前。

 石塚はぼっちにジュースを手渡す。

 もう時間だ、ということで、ぼっちと石塚はカラオケボックスを辞した。士則は

 

『オイラはもうちょい叩いてから帰るわo(・д・´*)9

 ヾ(=´∀`=)ノ☆ぼっちちゃんまたねぇ~☆ヾ(=´∀`=)』

 

 とのことで、まだ残ってドラムをたたいていた。

 

「あの……」

 

 貰ったジュースをすすりながら、ぼっちは石塚に

 

「……結局、あれって、何だったんでしょうか?

 あんな感じのセッションを、店長の前でやってアピールしろとか、そういう……?」

「いや、課題曲っていうか、やる曲は決まってるんだろ?

 急に変えても落ちるだけじゃないか?」

「あうっ」

 

 ですよねー、と思うぼっち。

 そもそもさっきのセッションが上手くいったのは、相手方を務めてくれた石塚と、そして士則が上手かったからだ。

 では、あのセッションは何のためのものだったのか?

 

「散々練習してきたんだろ。なら今更付け焼刃したところで意味はない。

 最初に言ったろ。あれは、単なるおまじないというか、景気づけみたいなもんだ」

 

 要領を得ず、首をかしげるぼっちに、石塚は少し考えてから

 

「動画見たけど、後藤って、ギター、かなり上手いよ。プロで食ってけるレベルで」

「う、うへでへへ。そ、それほどでも……」

「けどライブや人と合わせるの、かなり下手だよな」

「グフッ!!!」

 

 持ち上げられた直後に、地面に叩きつけられるぼっち。

 

「それって経験不足、っていうか他人の演奏にリアルタイムに合わせるのができない。いや、その経験があまりないから、だよな」

「は、はい、1人で弾いてたので」

 

 一緒に合わせる相手がいたとしても、打ち込み音源くらいだけだった。

 

「けどさ。今日、できたろ?」

 

 だが、今日はそれができた。

 途中失敗はあったが、相手の演奏を聞きそれに応えるという、音楽のキャッチボールができていた。

 それに――

 

「それに、士則さんのスーパードラムタイム止めるときなんて、完全にギターヒーローだったぞ」

 

 ――あの瞬間、僅か少しの間だけだが、士則のドラムに引っ張られる形で、ぼっちはギターヒーローとしての片鱗を見せていた。

 

「あ、あれは、石塚、くんや士則さんが上手かったから、たまたま……」

「音楽に、演奏に『たまたまできた』は、ない。

 あるのは、本来できることが緊張とか不安でできなくなることだけだ。

 『できた』ってことは、『できるだけの実力がある』ってことだ」

 

 だから―――

 

「自信、持ってもいいぞ、後藤。

 お前はギターが上手いし、苦手だった人に合わせることも、できるようになってきている。

 お前のお陰で音楽始めた俺が、保証する」

 

 言われたぼっちは、見た目変わらない。

 猫背で、俯き加減で、だが

 

「あの―――ありがとう、ございます」

 

 声が、少しだけ、はっきり聞こえるような気がした。

 

(おまじない程度には、役に立てたかな?)

 

 想いながら石塚は時計を見る。すでに八時を回っていた。

 少し、のんびりし過ぎたようだ。

 

「俺、もう行く。学校あるし」

「あ、はい……って、が、学校?あの、土曜じゃ……」

「久保高は、一応は進学校ってことになってるからな。土曜も午前に補講が入る」

 

 1コマ目は8時45分。品川から新宿まで電車で20分。駅から学校までの時間を合わせると割とギリギリの時間だ。

 

「じゃあな。オーディション、がんばれよ」

 

 やや急ぎ足で去ろうとした時だった。

 

「ま、待って!」

 

 手を、掴まれた。

 ぼっちだった。

 思わずどきりとして、声も出せずに立ちすくむ石塚。

 一方のぼっちは、中腰姿勢で石塚の手をつかんだまま、石塚を見上げるように

 

「あ、あ、あのっ!ライブ!来て、下さい!絶対でるから!」

「あ、ああ、行く。必ず。うん」

 

 顔を真っ赤にして見合わせる少年少女。

 先に動きを見せたのはぼっちの方だった。

 自分が石塚の、異性の手を握りしめていることに気付き

 

「すすすすみません!いきなり私なんかが手をつかんだりして!手汗とか!本当に申し訳ありません!」

「え、えと、いやその、……じ、時間がないから、もう行く!

 またな!」

 

 飛びのいて土下座を始めるぼっちをのこし、石塚は駆け出し改札に向かう。

 握りしめる手の中には、定期券と、先ほどまであったぼっちの手の感触。

 女性らしからぬギタリスト特有の硬い指先と、その演奏技術を支える、これまた女性にしては大きい手と長い指。その一方で、手全体の作りとしては繊細でほっそりとしていて、女性らしさを感じさせ、きめ細やかな肌は、石塚の手にしっとりとした感触を残していった。

 

(落ち着け、忘れろ、煩悩退散だ!)

 

 少年が走ったのは、何も授業に遅れるからだけではなかったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 補講が終わり、携帯を見た。

 通知を切っていたロインに、新着あり。

 内容は期待した通り

 

『石やん!グッドニュースや!結束バンドの子ら、オーディション受かったらしいで!』

「なんでリーダーの速報が後藤のより速いんだよ」

 

 喜多という、結束バンドの広報担当の子のイソスタ情報だろうか?

 ともあれ、後藤からも合格の報告があった。

 このくらいは当然だ。

 と後方なんちゃら面をしながら 「おめでとう」 と返信。

 そして今度はSTARRYのイソスタをチェック。

 

「もう発売になってるな」

 

 みれば結束バンドのでるライブの告知と、チケットの販売が始まっていた。ログを見れば、ほんの十数分前に開始。

 どうやらSTARRYの店長的には、結束バンドが出ることになるのは既定路線だったようだ。最後の一枠が正式に埋まったので、既に作っていたものを速攻でアップしたのだろう。

 

「ポチリ、と」

 

 と、迷わず購入。

 それから再びロインを起動。ぼっち相手にメッセージを入力。

 

「チケットをネットで購入しました。ライブ楽しみにしています」

 

 そう言って、送るのと、ほぼ同時だった。

 ピコンと、新しいメッセージが届く。

 後藤からだ。

 

「さっきのおめでとう、への返事か?」

 

 律儀だな、と思いながらメッセージを見ると――――

 

 

 

 

 

 

――――突然だが、話は数十秒前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 オーディションに合格したぼっちには、更なる壁が待ち受けていた。

 

「チケットノルマ、1人五枚ね!」

 

 虹夏に言われて、ぼっちは指折り数える。

 

 父・母・妹・犬!父・母・妹・犬!父・母・妹・犬!父・母・妹・犬!

 父・母・妹・犬!父・母・妹・犬!父・母・妹・犬!父・母・妹・犬!

 父・母・妹・犬!父・母・妹・犬!父・母・妹・犬!父・母・妹・犬!

 父・母・妹・犬!父・母・妹・犬!父・母・妹・犬!父・母・妹・犬!

 父・母・妹・犬!父・母・妹・犬!父・母・妹・犬!父・母・妹・犬!

 

 (一人足りないいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!)

 

 と、その時だった。

 スマホに着信音。見れば石塚の苗字

 

(石塚君!そうだ!石塚君がいる!見に来てくれるってことはチケット買ってくれるよね!)

 

 5人目!

 今朝、学校があるというのに付き合ってくれた(しかもよく考えればカラオケ代までおごってもらった)人物に、さらに集るのはどうかと、良心が訴えたが、背に腹は代えられない。

 

『すみません、大変厚かましいお願いであるとは重々承知しておりますが、チケットノルマにご協力いただけませんでしょうか?何卒よろしくお願いします』

 

 入力して、送信。

 それと同時に、石塚の方からもメッセージ。

 入れ替わりに同時に送られたその内容は

 

『チケットをネットで購入しました。ライブ楽しみにしています』

 

 

「ピぇがげがぎあががあ゛ああ゛あahあああああ゛あ゛あ゛あahあああ゛ああぁぁぁっっ!」

「後藤さん、どうしちゃったんでしょうか?」

「やっぱ、へんなもんでも食べたのかなあ。演奏なんかすごかったし、その後吐いたし」

「毒草だな。素人が手を出したら危ないというのに。―――いや、何食べたか特定して、それをライブ前にぼっちに摂取させれば、あの演奏を定期的に……」

「そこ!脱法的な話をしない!」

 

 背後でバンドメンバーが何やら好き勝手なことを言っているが、今ぼっちはそれどころではない。

 どうする?

 記念にもう一枚買ってくれとでもいうか?

 それともネット販売のチケットを返品かキャンセルしてもらうか?

 それとも―――

 

 しばしの逡巡の末、ぼっちはメッセージを書いて、送信した。

 

 

 

 

 

 一方同時刻。石塚も頭を抱えていた。

 チケットノルマ。知ってるし、自分も課されてはいるが意識からは抜けていた。

 バンドを組み始めた頃は中学生だったのでノルマ軽めだった上に、路上や動画上でのソロ活動で、既に知名度を得ていた。その後も順調に知名度を上げ続けてきた石塚は、チケットノルマに困った経験がほとんどなかったのだ。

 

 どうする?

 記念にもう一枚買うとでもいうか?

 それともネット販売のチケットをキャンセルするか?

 それとも―――

 

 

 などと思っていると、スマホに後藤からのメッセージが届いていた。

 

『チケットご購入ありがとうございます。

 ご期待に沿えるライブができるように頑張ります。

 チケットノルマの方は心配しないでください。何とかしますので。

 本当にありがとうございました』

 

 

 

 

 

 

「見栄なんか張って、私のアホ~っ!」

「先走り過ぎた俺のアホ~っ!」

 

 ほぼ同時に、一組のぼっちとヘタレが頭を抱えたのだった。

 

 

 

つづく

 




原作5巻も面白かった
これがアニメ化する日が、いつか来てくれればうれしいな

この作品で好きな組み合わせは?

  • 後藤ひとり・石塚太吾
  • 伊地知虹夏・柊俊太郎
  • 山田リョウ・海野敦
  • 喜多郁代・皆実彩人
  • 廣井きくり・高清水律志
  • 伊地知星歌・天海恭弥
  • 大槻ヨヨコ・大河内頼光
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